WRC2021/12/31

【TOP10-第1位】セバスチャン・オジエ

「完全に燃え尽きたチャンピオン。」

■セバスチャン・オジエ

Sebastien Ogier
Toyota GAZOO Racing WRT

 セバスチャン・オジエは最終戦モンツァでシーズン5勝目、通算54勝目を飾り、まさしく最強の王者にふさわしい最高のやり方で8度目のタイトルでフル参戦最後のシーズンを締めくくった。

 引退を1年先延ばしにしたとはいえ、今季をもって引退を表明しているオジエは、まるでフォルクスワーゲンの全盛期を思い起こさせるような圧巻の強さをもって、前半戦にしてシーズンを掌握することになった。

 雪と氷のモンテカルロでパンクというドラマに見舞われながらも通算7度目、WRC未開催の一戦も含めると8度目となる勝利でシーズンをスタート。初開催のクロアチアでは一般道での交通事故に遭遇して少なからず集中力を乱されながらもチームメイトのエルフィン・エヴァンスとの接戦を0.8秒差で制し、サルディニアとサファリでの勝利はライバルであるヒュンダイのオイット・タナクとティエリー・ヌーヴィルの不運なリタイアに助けられたものだったが、開幕から6戦で4勝を挙げることになった。

 シーズン後半戦、オジエはエストニア以降はラリーに勝ちに行くのではなく、選手権の最大のライバルにポイントを縮められないように、リードを徹底的に守りに行く戦略にシフトする。それはここ数年のオジエの勝ちパターンでもあったが、そこからの5戦での表彰台はギリシャのわずか1回にすぎない。フィンランド前に44ポイントもあったリードは、わずか2戦で27ポイントも縮められ、エヴァンスが17ポイント差に迫ってきた。

 勢いに優るライバルに対して、守ったら、モンツァは同じ結果になった可能性があった。オジエは最終戦モンツァのスタート前、終盤戦では計算外にポイントを縮められ、少し疲れていたことを認めたが、スタートするや最強の王者としてエヴァンスの前に立ちはだかることになった。

 オジエのリードで始まったモンツァでの首位交代劇は3日間で7度、コンマ数秒という異常とも思えるレベルのステージが続くことになった。そこまでしなくてもオジエは十分にタイトルを守りきることができたが、0.5秒ビハインドで迎えた最終日の朝、コンクリートブロックでマグホイールを削りながらコンマ数秒を削りとろうとした、その勝利を求める決意のすさまじさには震えがくるほどだった。

 オジエは来季も限定的な参戦ながらキャリアを続けるのに対して、ジュリアン・イングラシアは今季をもってコドライバーからの引退を表明しており、8度目のタイトルがかかった最終戦モンツァはまさしく二人にとってのキャリアの集大成ともいえる一戦となった。

「最終ラインを越えたときに、花火のように一気に勝利の感動が押し寄せたが、少し疲れて空っぽの気持だ」とオジエはゴール地点で本当にめずらしく涙を流した。ワールドチャンピオンになるためには擦り切れて消耗する。それを毎年毎年、繰り返してすべてを尽くしてきた。その精神の強さこそがオジエの強さの秘密だったが、それを繰り返す気力を持続させることは想像もつかないほど厳しい戦いだったのだろう。いまや完全に燃え尽きた。それがフル参戦からの引退という意味だ。そのことに誰よりも彼が寂しさを感じているだろう。

生年月日:1983年12月17日(38歳)
選手権ランキング:1位
獲得ポイント:230点
ベストリザルト:1位
優勝回数:5回
2位の回数:0回
3位の回数:2回
表彰台回数:7回
出場回数:12回
ベストタイム回数:43回
リードしたステージの数:46SS
リタイア数:1回
リスタートの回数:1回
パワーステージ勝利数:2回
パワーステージ獲得ポイント:31点