WRC2021/12/27

【TOP10-第10位】ガス・グリーンスミス

(c)M-Sport

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「お客さまからの脱却」

Gus Greensmith
M Sport Ford World Rally Team

 ガス・グリーンスミスの2021年シーズンは、あまりにも自身のふがいなさに頭を抱えて始まることになった。金曜日の最初のステージのアスプルモン〜ラ・バティ・デ・フォンで彼はベストタイムを奪ったセバスチャン・オジエのタイムから1分29秒も遅く、いつものように不機嫌で話すことを拒んでステージエンドから走り去った。

 湿っていたり、乾いていたり、モンテカルロの複雑な路面は新人にとってはチャレンジだ。19.61kmのこのステージでグリーンスミスはオジエより1kmあたり4.5秒も遅れ、彼より速いペースをみせるRally2マシンも1台だけではなかったのだから、Mスポーツ・フォードのエースとしてのプライドもズタズタだ。

「良いと思ったら、次の瞬間は散々だったりした。僕はもっと良い走りをする必要があるが、自信をもつことができない。これでは悲惨だ、情けないよ」と、プライドの高い彼が珍しく弱音を吐いた。

 エサペッカ・ラッピが解雇され、テーム・スニネンもフル参戦の機会を失った今季、グリーンスミスがMスポーツでフル参戦のシートを獲得したのは完全な実力だけでこの世界のルールが決まっているわけではないことを示している。これまでのキャリアにおいてスポンサーに困ることもなかった「Mスポーツの大事なお客さま」は、思い通りにならない世界でいたたまれない様子にも見えた。

 グリーンスミスの転機のきっかけを作ったのが、ベテランコドライバーのクリス・パターソンだった。エリオット・エドモンドソンは有能なコドライバーだったが、明らかにグリーンスミスによっては経営者と部下の関係だった。しかし、このコクピットの変化は、不安定なリザルトが続いてきたグリーンスミスの調子が明らかに上向くきっかけとなり、飽きっぽい彼の性格を改善することになった。パターソンのサポートを得たグリーンスミスはポルトガルで5位、サファリでキャリア最上位の4位となったことで、Mスポーツ・フォードからの信頼と評価も高まった。

 Mスポーツのマルコム・ウィルソンは、最終戦モンツァのシェイクダウンの最中に、突然、チームのサービステントでみんなが見ている前でグリーンスミスとの来季の契約を結ぶというサプライズを演出した。そのときのグリーンスミスの輝くような瞳が印象的だった。

「今年のスタート時点では、僕にはWRカーに乗る資格は全くなかった」とグリーンは素直に認めている。グリーンスミスのファミリーが数年間彼のシートに資金を提供し、それがWRCのトップレベルでドライブするチャンスをもたらしたことは確かだが、いまやドライバーとしても人間としても成長して、シーズンを通して競争力のあるスピードを発揮できるようになった。

「プッシュして初のベストタイムを奪いたいんだ」とグリーンスミスはシーズン終盤戦でことあるごとに語っていた。その夢は叶わなかったが、一歩ずつ地道に努力すれば望んでいる結果に近づけることを彼はこのシーズンで確信したはずだ。

■ガス・グリーンスミス
生年月日:1996年12月26日(25歳)
選手権ランキング:9位
獲得ポイント:64点
ベストリザルト:4位
優勝回数:0回
2位の回数:0回
3位の回数:0回
表彰台回数:0回
出場回数:12回
ベストタイム回数:0回
リードしたステージの数:0SS
リタイア数:3回
リスタートの回数:3回
パワーステージ勝利数:0回
パワーステージ獲得ポイント:0点