WRC2018/12/31

【TOP10-第2位】オイット・タナク

(c)Toyota

 2018年、オイット・タナクは4勝をあげ、ポディウムに6度上がった。全251SS中70SSでベストタイムを刻んで、文字通り”最速の男”の称号を得たわけだが、それでもドライバーズ・タイトルを獲得することは叶わなかった。

「すべてのSSでベストタイムを狙うのではなく、その先にある勝利のために戦略的に走ることが必要だ」。多くの人はタナクにそうアドバイスするだろう。しかしチームを率いるトミ・マキネンほどその言葉に説得力を持たせることができる人間はいないはずだ。

 1996年から4年連続でドライバーズ・タイトルを獲得したマキネンは、”ラリーのスタートからゴールまで120%で走る”ことを信条としていた。いわゆる”フラット・アウト”スタイルのラリードライバーの典型だ。同じくSSベストを全部取りに行くタイプだったコリン・マクレーとの数々のバトルは今も語り草だ。そのマキネンが当時のインタビューで語ったコメントが実に含蓄に富んでいる。

「僕とコリンはよく似ている。お互いにラリーに勝つか、死ぬかという走り方をしている。そして僕の場合、ライバルたちに一気に差をつけるような運転が、突然、できることがあるんだ。自分では制御できない領域というか、あるレベルを超えたと感じることがある。どうしたらそうなるか、自分ではわからないけれど」

 我々はその後、何人かの”ある領域”に到達したドライバーを知ることになるのだが、2018年のタナクのパフォーマンスはそれを期待するに十分なスピードがあった。

 象徴的にだったのは、ラリー・オーストラリアの初日だ。タナクはウォーター・スプラッシュでバンパー、フェンダーを含めたフロントセクションのボディパーツを失いながらもライバルたちに遜色のないタイムで走りきった。そのままの状態で走らなければならなかったシェアウッドは26kmの距離があったため、相当なタイムロスを余儀なくされたが、時に暴れるマシンをねじ伏せてアタックするスピードは圧巻だった。マキネンの黄金時代、チーム監督の木全巌はその速さを評して「アイツはタイヤが1本くらいなくてもベストタイムを取ってくるような奴だ」と言ったそうだが、タナクはたしかにマキネンを思わせる速さをもっていた。

 すべてのギヤが噛み合った時、タナクのスピードは手のつけられないほどの完璧さを披露する。フィンランドでの圧勝、それに続くドイツ、トルコでのリザルトはその証明だろう。前半戦を折り返した時(サルディニア終了時点)で、タナクとポイントリーダーのヌーヴィルとは74ポイントの差があった。それを逆転可能なところまで挽回したのだ。

 一方で脆さもある。2位を走行しながらドライビングミスやトラブルですべてを失うという展開も目立った。

 ライバルたちの思惑とは関係なく、勝利だけを目指してプッシュしていくやり方は、かつてのマキネンそのままだ。しかし今やイベント自体が著しくスプリント化し、各チームの戦略、マシンの強み弱みも僅差になっている。最終的にスペシャルステージで成果を出すドライバーには、ミスを潰し、リスクを避けながら、最大限のスピードを絞り出すことが求められている。2018年、タナクはその領域を極める経験を十分に積んだはずだ。

■オイット・タナク
生年月日:1987年10月15日(31歳)
選手権ランキング:3位
獲得ポイント:181点
ベストリザルト:1位
優勝回数:4回
2位の回数:2回
3位の回数:0回
表彰台回数:6回
出場回数:13回
ベストタイム回数:70回
リードしたステージの数:87SS
リタイア数:2回
ラリー2の回数:3回
パワーステージ勝利数:3回
パワーステージ獲得ポイント:33点