WRC2023/03/19

オジエ、7度目メキシコ勝利に向けて貫禄のリード

(c)Toyota

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 2023年世界ラリー選手権(WRC)第3戦ラリー・メキシコのレグ2は、前日に素晴らしい走りでラリーをリードしていたエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)がクラッシュする波乱の幕開けとなり、トヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が35.8秒という大きなリードを手にして7勝目に近づいている。

 ラリー・メキシコの土曜日は、イバリッヤ(14.82km)、エル・モスキート(22.56km)、デラマデロ(21.70km)のあと前日にも行われたラス・ドゥナス・スーパースペシャル(3.53km)の4ステージをレオンでのミッドデイサービスをはさんで午後もループし、前日と同じくディストリート・レオンMX ロック&ラリーSSS(1.30km)で締めくくる9SS/126.52kmという長い1日となる。

 2023年最初のグラベルラリーとなったメキシコの初日、ラッピがオジエとほとんど同じポジションで走って、まったく遜色のないどころか、8ステージ中5ステージを制し、オジエに5.3秒差をつけたことは驚きだった。だが、彼は前日とはうって変わって、土曜日のオープニングステージのSS11イバリッヤではやや印象が異なるドライブでスタートしていたようにも見えた。彼のマシンは侵入でややアンダーステアの症状を示し、コーナー出口でリヤのスライドが目立ち、最初のスプリットですでに2.3秒も遅れてしまう。

 ラッピは10km地点のクレスト状となった左コーナーで突然リヤをスライド、連続する狭い右コーナーでノーズを土手にヒット、跳ね返されてスピンするようにリヤから電信柱に衝突してしまった。

 この衝撃でラッピのマシンの後部は大きく破損、フロントからも出火、このステージで赤旗が提示されることになった。ラッピとコドライバーのヤンネ・フェルムに怪我はなかったが、首位で迎えた二日目の朝に同じようにクラッシュした一年前のサルディニアを思い起こさせる無念の結果となってしまった。

 ステージエンドでラッピのクラッシュを知らされたオジエは、しばらく言葉を失い、素晴らしいバトルが突然終わってしまったことを惜しんだ。

「残念だよ。僕はいつもメキシコでの戦いを楽しんでいるし、昨日の彼は本当に素晴らしいスピードを持っていたからね。だからとても残念だ」

 ラッピのクラッシュによって首位にはオジエが浮上、2位につけるエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)に27.3秒差をつけてリード、トヨタが1-2態勢を築くことになった。それでも、昨日までのエヴァンスとティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)の3位争いは、2位をめぐるバトルとして注目を集めることになった。

 ここではエヴァンスが2番手タイムを奪い、二人の差は11.6秒に拡大するも、SS12エル・モスキート、SS13デッラマデロではヌーヴィルが連続してベストタイムを奪ってみせる。だが、エヴァンスもぴたりと背後に寄り添うようにプッシュを続けており、その差は10.4秒へと縮まったにすぎない。

 ヌーヴィルにとっては、ライバルを追い詰めるためにはさらにペースを上げることが必要だが、速さをみせてはいるものの、なかなかその差は縮まらない。「目標はできるだけ速く走ることだが、それと同時に僕たちはクレバーでなければならない。マシンを道路上に留めて置く必要があるからね。グリップが常に変化しているから、簡単ではないよ」と彼は苛立ちをみせる。

 一方のエヴァンスは序盤のスプリットでヌーヴィルに2.1秒差をつけられたが、最終的にはその差を0.5秒に縮めみせ、「序盤は慎重になりすぎたが、すべて上手くいっている」

 SS14は前日にも行われたラス・ドゥナス・スーパースペシャルの2回目の走行となる。ここでもオジエは堅実なペースで首位をキープ、28.5秒という大きなリードを築いてレオンのミッドデイサービスに戻ってきた。彼はすでにセーフモードで行っていることを認めているが、あらゆる問題を避けるために集中していかなければならないと語っている。

「EPは残念だったが、このようなことが起きるのがラリー・メキシコだ。僕らにはこのままポジションをしっかりとキープすることが必要になる。28秒の差があってもメキシコはパンクのリスクもあるのでけっしてセーフなマージンだと言い切れない。この先はまだ長いよ」

 3位につけるヌーヴィルがここでも3連続でベストタイムを奪い、エヴァンスとの差を8.7秒へと縮めて朝のループを終えている。

 ポディウムに向けて猛プッシュすることも期待されたカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)は、オープニングSSの終盤にリヤを大きくスライド、ひやりとしたスタートを迎えたが、そのあとは静かな朝のステージとなっている。

 ラッピが消えたことでロヴァンペラも4位へとポジションを上げているが、ポディウム圏内には22.7秒、後方のダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)も33.5秒とやや離れてしまっている。最初のループに向けたタイヤチョイスは基本的には全ドライバーがソフトを主体としたチョイスをしたが、彼だけがハードを2本選んでおり、常に1本はハードを装着していることも、この日のグリップレベルが変化するステージでは少なからずペースにも影響を及ぼしたのだろう、トリッキーなコースで無理をしてプッシュするより堅実なペースをキープしたように見える。

 ミッドデイサービスを挟んで、午後のループの最初のステージとなるはずだったSS15イバリッヤのステージは、朝のループでクラッシュしたラッピが電柱を倒してしまい、マシンの排除する作業が遅れたことからキャンセルとなっている。

 残されたのは、ともに20kmを越えるSS16エル・モスキートとSS17デラマデロの2つのロングステージのみとなったが、SS15がキャンセルとなっただけに、ドライバーたちのタイヤのマネージメントに関するプレッシャーはかなり軽減されただろう。

 SS16エル・モスキートでベストタイムを奪ったのはオジエだ。セーフティモードで行っているはずの彼は、驚くことに1kmあたり0.36秒も引き離し、ヌーヴィルに8.1秒もの大差をつけるベストタイムを叩きだし、リードを36.8秒に拡大することになった。

 オジエはステージエンドで大差を築いたことを知らされて「信じられない」といった表情を浮かべることになったが、その理由をタイヤのマネージメントがライバルたちより良かったのだろうと説明した。「僕も終盤はタイヤが減っているのを感じたからね。僕はタイヤのマネージメントに関してはとてもスムーズだから、彼らの方が僕より苦しんだと思う」

 エヴァンスとヌーヴィルの2位をめぐるバトルはいっそうヒートしている。エヴァンスは最初のスプリットで1秒近く遅れたものの、最終的に0.2秒遅れまで挽回することになった。ヌーヴィルは大きく引き離したことへ手応えを感じてフィニッシュしたにもかかわらず、その差は8.7秒から8.5秒へと縮まったにすぎないことを知って怒りのような表情をみせることになった。「正直なところ、これよりはマシだと思っていた。このままでは週末を棒に振ってしまう」

 飽くなきチャレンジを続けるヌーヴィルはSS17デッラマデロではエヴァンスに2.6秒差を付けるベストタイム、その差を5.9秒へと大きく縮めることに成功、さらにSS18ラス・ドゥナス・スーパースペシャルではステージゴールとともにステアリングを叩き、マシンがパンクしたことを明らかにするなど、目に見えて不満げだったが、それでもここで4.8秒差へ迫ると、土曜日最後のSS19ディストリート・レオンで4.3秒差に迫ることになった。

「エルフィンに近づくために午後はもう少しだけ攻めたが、それはかなり上手くいった。今週末はずっとぎりぎりで頑張ってきたし、僕たちは絶対に(2位を)競うつもりだ」とヌーヴィルは鼻息荒く語っている。

 2位争いは土曜日を終えてまったくわからない状況まで接近したが、トップのオジエはリードを35.8秒まで拡大して日曜日に臨むことになった。「良いリードだと思うし、好調な一日で満足している。エサペッカがコースアウトした後は、少しアプローチを変えた。あまりリスクを冒す必要はなかったが、それでもいくつか良いタイムを記録し、リードを広げることができた。明日はまだ長いから、気を抜くことはできない」

 ロヴァンペラはヌーヴィルから53.9秒差の4位で続き、ソルドも47.2秒後方のため無理をする必要がないようにも見えるが、それでも滑りやすい路面においてペースが思ったほど上がらなかったことを認めている。「もう少しペースが上がることを期待していたが、他の選手と比較すると、今日は少しトリッキーだったようだね」

 金曜日にパンクして表彰台争いから脱落したソルドは、ロヴァンペラからも大きく遅れてしまい、「今はただ楽しんで、将来のためにいろいろなセットアップを試しているところだ」と明るく語ったが、「リヤは本当に滑りやすく、ずっと滑り続けていて、とても難しいんだ」と本音をもらしている。

 オイット・タナク(フォード・プーマRally1)は金曜日の朝にターボブローに見舞われたことで18位で土曜日をスタート、11位までポジションを戻し、このままいけばポイント圏内でフィニッシュできる可能性も出てきたように見える。

 タナクは、朝のループでは金曜日の午後にはターボ以外の別の問題があったと明かし、それが修理されたにもかかわらず、グリップがかなり低いためドライブがかなり難しく、まだ自信が持てないと首を横に振っていた。それでも、午後のループでは彼は改善に向けてやっと良いステップを踏み、SS18、19では連続してベストタイムを奪い、明るい表情をみせている。「昨日に比べれば、素晴らしい一日だった・・・。少なくとも昨日よりは少し(速いドライバーに)近づいたことは良かったと思うが、競争するにはまだ足りていない。僕にとって少し不自然なんだ。ただマシンの挙動にはまだ驚かされることがたくさんある。こういうときに自信を持つのは難しいんだ」

 金曜日にクラッシュした勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は無事にマシンの修理を終えて土曜日をリスタート、SS18ではスピンのためフロントを壊す場面もあったが、未知のラリーでの経験を最大限に積むことに集中することになった。「難しい一日だった。ステージは非常に厳しく、グリップもかなり低いので、あまり楽しめなかったが、いい経験になった」

 また、同じく初参戦で厳しい戦いを強いられているピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)は前日のサスペンション破損でのリタイアに続いて、土曜日もSS17でジャンクションの手前で石を巻き込んでリヤサスペンションを壊して2度目のリタイアを喫している。

 明日の最終日は4SS/61.53kmの1日となるが、ラリー最長となる35.63kmのオタテス・ステージなどが残っており、最後まで油断のできない戦いが待っている。オープニングSSのラス・ドゥナス・スーパースペシャルは現地時間8時5分(日本時間23時5分)のスタートが予定されている。