WRC2021/11/22

オジエがモンツァ優勝で8度目の王座に輝く

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 2021年世界ラリー選手権最終戦となるACIラリー・モンツァは11月21日に最終日を迎え、トヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)が優勝。今シーズンを最後にフルシーズンへの参戦を退くことを発表しているオジエは、モンツァを最後に現役を引退するジュリアン・イングラシアとともに有終の美を飾る8回目のチャンピオンを獲得するとともに、トヨタはマニュファクチュアラー選手権のタイトルも獲得することになり、1994年以来となる3冠を達成することとなった。

 シーズンを締めくくるラリー・モンツァの最終日は3つのSS、金曜日の最終SS7で走ったグランプリ(10.29km)を再走し、さらに14.62kmのセッラーリオを2回走行することとなり、2回目のセッラーリオがパワーステージとなる。スターティングオーダーは前日のリバースで3分間隔。アドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)、がす・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)、テーム・スニネン(ヒュンダイi20クーペWRC)、勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)、オリバー・ソルベルグ(ヒュンダイi20クーペWRC)、ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)、ダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)、エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)、オジエの順となる。

 最終日の朝の気温は8度。昨年とほぼ同じだが、寒く、霧雨で路面が湿った朝となったため、ハードコンパウンドを主体としたそれまでの2日間とは異なるタイヤ戦略が見られることになった。

 モンツァ・サーキットの最終日はステージ毎に15分のサービスが許されており、オープニングとなるSS14の前のタイヤ選択は、ヌーヴィルがソフト4本、エヴァンスとオジエはハード2本+ソフト2本をクロスに装着。ソルドの他、多くのドライバーはハード4本を選択し、ソルベルグはフロントにソフト2本+リヤにハード2本を履いた。

 SS14の2回目のグランプリ・ステージは、ヌーヴィルがベストタイムを刻む。「最後の方で少しアンダーステアになってタイムロスしている」と言いながら、3位のチームメイトのソルドにジリジリをプレッシャーを掛ける。とはいえ、ソルドは巧みにタイムをコントロールしており、「問題はない。リスクを負いたくなかった。このステージにはソフトタイヤの方が合っていたかもしれないが、僕のクルマはかなりいい状態だった」と話す。

 0.5秒差で最終日を迎えたオジエとエヴァンスは、ここでも同タイムで並んで差がつかない。「自分たちにできることをトライしている。僕にとっては初めてのクロス(タイヤ)で、場所によってちょっと変な感だったが、正しい選択だったと思う」とエヴァンスが語れば、オジエもオーバルコースのバンクに設置されたコンクリートのシケインに右ホイールを激しくヒット。マシンの状態が心配されたが、どうにかパンクもなくステージを走り切る。「(とてもラッキーだ)。予想していなかった。ここはすぐに何かにぶつかってしまう」と、薄氷を踏む思いで首位をキープする。

 4番手タイムを刻んだのは、勝田だ。ラリー前に、F1ドライバーでもある友人、角田裕毅からアドバイスをもらったという彼は、1kmあたり0.12秒遅れというこの週末もっとも速いタイムを叩き出すことになった。「予想以上だ。この数日はトラックで愚かなミスをしてしまっていたから少し慎重になっていた。ここではクリーンな走りができて良かった」と成果を噛み締める。

 続くSS15セッラーリオは、距離こそ14.62kmと短いものの、目まぐるしく路面のコンディションが変化する難関コース。コンマ数秒を凌ぎ合う接近戦においては寸分の気も許せないステージだ。果たして、その緊張にエヴァンスが嵌った。2.1km地点でオーバーシュートさせてしまいマシンストップ。さらに不可解な2回のエンジンストールを喫した彼は、連続ベストタイムを刻んだヌーヴィルよりも16.8秒遅れ、首位のオジエとの差は7.6秒に開いてしまう。「ブレーキをロックさせてしまい、クルマをターンさせることができずにベイルに突っ込み、エンジンをストールしてしまった、その後また別の場所でストールすることになった」。勝利の望みが薄れ、選手権タイトルの可能性が遠ざかる、悪夢のステージとなってしまった。

 14秒手前の5位につけるソルベルグをつかまえるべく、勝田はプッシュをみせたが、シケイン手前の濡れた路面でのブレーキングで突然スピン、コンクリート製バリアとストローベイルを吹き飛ばしてマシンを止めることになる。彼はすぐにコースに復帰するも、次第にバイブレーションが大きくなり、左フロントサスペンションが破損し、ホイールが外れたままのヤリスを引きずるように運び、最終ステージに向けてサービスへ満身創痍で辿り着く。

 シーズン最後のステージを前に、首位オジエに7.6秒差でエヴァンス。14秒遅れて3位のソルド。さらに14.3秒差にヌーヴィル、5位にはシケインでスピンしながらもしぶとく走ったソルベルグ。6位にスニネン、7位に勝田というオーダー。各々のタイム差は開いており、一発逆転は想像し難い状況ではあるが、最後まで何が起こるか分からないのもラリーの怖さであり、おもしろさでもある。

 SS15でマシンに深刻なダメージを負った勝田は、チームの懸命なサービスにより15分で応急修理を終え、パワーステージでセカンドベストを刻む。「チームには感謝の言葉しかない。シーズンの最後のステージをドライブすることができたんだ。愚かなミスをとても残念に思っている。メカニック、チームのみんなの助けなしにはここにいることはできなかった」とシーズンを振り返った。

 最終日の3つのステージですべてベストタイムを叩き出したヌーヴィルは、4位でゴール。「最後のステージを楽しみたかったし、実際に楽しめた。このマシンとヒュンダイと素晴らしい年月を過ごしてきた。新しいマシンとの新しい冒険も楽しみにしている」と話した。

 3位を獲得して存在感を示したソルドは、「表彰台を獲得できて本当に嬉しい。今日はとてもリラックスした一日だった。ティエリーとはかなりのタイム差もあったし、ミスをしたくはなかったからステディに走った。来シーズンはもっと楽しくなると思う」とコメントした。

 2位にはエヴァンス。逆転タイトルはならなかったが、表情は明るい。「今シーズンは良かったと思う。たしかにタイルトを獲得できなかったことには少しがっかりしているけどね。いつももう少し良いポジションを探してきたんだけれど。ともあれ、チームには特別な感謝を述べなければならない。さらにカッレ(・ロヴァンペラ)にも。彼は自分の週末を犠牲にして(トヨタのマニュファクチャラータイトル獲得のために)、僕とセブが勝負できるようにしてくれたんだから」。そのロヴァンペラはファンのために、そしてずっとペースを抑えてきたフラストレーションを吐き出すようにステージでドーナツターンを披露。彼の完走によって、トヨタGAZOOレーシングWRTは、2021年のマニュファクチャラーズタイトルを獲得した。

 そして有終の美を飾ったオジエ。「僕たちはこのラリーには勝ったのかな?感動が押し寄せて、カイがラジオで言っていたことを聞いていなかった。何と言っていいのかわからない。最高だよ。彼(ジュリアン・イングラシア)も本当のレジェンドだ」と、WRCでのフルタイムのキャリアを最高の方法で締めくくった。8度目のタイトルは、引退するイングラシアにとっても最高の餞別だろう。2人はヤリスのルーフの上に上がり、この瞬間を記念して、特別な金色のヘルメットを被って祝った。
 
 昨季から続くコロナ禍によって曲折余儀なくされた2021年WRCシーズンも幕が下りた。来季からは新しいハイブリッドRally1レギュレーション下で新しい舞台が始まる。開幕戦ラリー・モンテカルロは1月20日スタート。すでに新しい時代のカウントダウンは始まっている。