WRC2018/11/01

シトロエン、奇跡のタイヤ戦略の舞台裏を明かす

(c)Citroen

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 ラリー・デ・エスパーニャにおいて最終日にタイヤチョイスのギャンブルを成功させて5年半ぶりの勝利を飾ることになったセバスチャン・ローブ。しかし、9度のワールドチャンピオンの天才的なドライビングだけが、この奇跡的な大逆転劇を生んだわけではない。本当の奇跡は、最終日の朝、彼の黄金期を支えたチームがまるで完全復活したかのように見事なチームワークをみせたことだ。

 ローブのレース・エンジニアをつとめたセドリック・マゼンクは、日曜日の朝、その後間もなく勝負の決め手となったあの大胆な選択が伝えられたその瞬間、まさにその中心にいた。彼はその時の様子を振り返った。

「あれはとても重要な瞬間だった! トップから8秒遅れ、その差を縮めていきたいのなら賭けに出るしかなかった。そして我々が何か仕掛けるのであればそれは朝のうちのやる必要があると考えた。朝はグリップの状態はまだちょっとどっちつかずであり、湿っていた部分はだんだん乾いてきていた。やがてドライになるだろう、その差は小さくなると予想があった」

 前日までの雨はすでに上がっていたが、路面には湿っているところが残っており、完全なドライではなかったことに加え、気温も10度を切るほどの肌寒いコンディションだった。そのためにほとんどのドライバーがソフトタイヤを選択することになった。

「テストの時にすでにこういうコンディションを経験していたから、ミシュランのハードスリックが最良の選択肢だということが、タイヤをしっかり温めることができればという前提ではあるが、我々には見えていた。少なくとも最初の数キロはドライであることは分かっていたので、それによってタイヤの温度を上げていけると考えていた」

 変わりやすい天候のなかで数時間先の雨を予測するのは困難な作業だ。土曜日の午後のループで雨が降らないというメテオの情報が外れ、最後のロングステージの途中から降らないはずの雨が降った。そのためにローブには最後まで迷いがあったようだ。

「こういったすべての要素は、セブに考える材料を与えうることを意味していた。ハードタイヤなら、ループを通して13秒ほど稼ぐことができるという計算もあった。徐々に彼もその考えに同感を示すようになっていたが、それでも依然として天気が変わりやすい状況の中で彼は雨が降ることを恐れていた」

「それで我々は、最初はクルマにソフトを装着しながら、とことん話し合いを続けていた。だが最後の最後で、2つ目のステージの終わりのところで待機していた天気情報担当ローラン・ポッジが、セブに道路が乾いてきていると伝えてきた。サービスアウトがすぐそこに迫っていた。彼は意を決した。我々がハードタイヤを装着したのはその時だった。そしてそれはまた我々がラリー勝利したポイントでもあった!」