WRC2020/10/10

ソルドがサルディニア初日をリード、スニネン2位

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 2020年世界ラリー選手権(WRC)第6戦ラリー・イタリア・サルディニアの初日、2年連続勝利を目指すヒュンダイ・モータースポーツのダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が金曜日の6ステージ中4ステージを制してラリーをリードしている。

 初夏から秋へと延期になったことでラリーのフォーマットを大きく変更したサルディニア、その初日は15年ぶりに復活したテンピオ・パウザーニア(12.08km)とエールラ・トゥーラ(21.78km)の2ステージをサービスなしで連続して2回ループし、アルゲーロのサービスのあとセーディニ〜カステルサルド(14.72km)とテルグ〜オジーロ(12.81km)の2ステージが行われる6SS/95.25kmの1日となる。

 SS1テンピオ・パウザーニアは全体的にナローで、速さはないもののルースグラベルのたまったコーナーや路面から石が露出したラフなセクションも多く、多くのドライバーがスタート前に要注意のステージになると警戒していた。

 選手権リーダーとして1番手でこのステージを走り終えたエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)は「難しかった。かなりスリッパリーで、非常にナローで、簡単ではなかった」と語り、2番手で走行したチームメイトのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)もチームメイトに同意するように「難しかった。ゆっくりゆっくり、かなり慎重に走るしかなかった。非常にナローな場所が難しかった」と語る。二人は10分13.2秒という同タイムでリーダーボードの暫定トップに並ぶことになったが、それでも彼らの後方から走った多くのドライバーたちはクリーンな路面を走ったにもかかわらず、二人のタイムを抜くことができない。

 思った以上にグリップレベルが低く滑りやすかったこのステージで多くのドライバーが慎重になったのは、2005年以来、初めてルートに復活したため、誰にとっても新しいチャレンジとなったともいえるが、ここで速さをみせたのは、意外にもMスポーツ・フォード勢だった。

 エヴァンスとオジエがそのまま同タイムでトップタイムをわけあってラリーをリードするかにも見えたが、なんと6番手のポジションでコースに挑んだエサペッカ・ラッピ(フォード・フィエスタWRC)が二人を1秒上回って暫定トップに立ったのもつかの間、なんと7番手で走行したテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)がラッピを12.4秒も上回る驚異的なタイムで首位に立つ。

「夢中だった!最高だ。素晴らしいステージだったよ」とスニネンはステージエンドで珍しく笑顔をみせる。Mスポーツ・フォードは予算の問題からこのサルディニアのためのプレイベントテストをキャンセルしており、スニネンは昨年のセッティングのままステージに挑んでいただけに彼にとっても予想外のスタートになっただろう。

 さらにここで好スタートを切ることになったのは、ラリー・メキシコ以来の参戦となり、ワークス勢最後方から走るダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)だ。ラッピから0.1秒差の3番手タイムを出したソルドは、「非常にタフだ。ラリーのスタートとしては、悪くない。非常に久しぶりのラリーだが、フィーリングもいいよ」と上機嫌だ。

 しかし、マニュファクチャラー選手権争いの観点から見ると出走順のハンデにもかかわらずトヨタ勢がヒュンダイ勢を上回るスタートを切っており、ソルドから0.9秒差の4番手にエヴァンスとオジエが続き、シェイクダウンでマシンを横転させたカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)もさらに1.2秒差の6番手タイムで無事にラリーをスタートすることになった。

 ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)は首位から18.3秒遅れ、WRC3トップで総合7位の速さをみせたオリヴァー・ソルベルグ(シュコダ・ファビアRally2エボ)に続いて8位のスタートだ。さらにオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)は「クリーンに走ったステージだったので問題ない」とコメントしたが、27.9秒遅れの11番手タイムにとどまった。

 ヌーヴィルは、トヨタより長いヒュンダイのホイールベースの違いが低速コースのサルディニアでは速さに影響するかもしれないとスタート前に疑っていたが、ステージエンドでは「このコンディションではマシンが不安定で、いつもスライドしてしまっていた」と浮かない表情だ。また、多くのドライバーがミディアムを主体として5本のタイヤを装着したが、タナクとヌーヴィルのみが安全性を考えてミディアム6本をチョイスしており、この戦略が2つのループを連続して走る朝のステージでどう変化をもたらすのか。

 スニネンとラッピはSS1で1-2体制を築いてライバルたちを驚かせたが、Mスポーツ・フォードの歓喜は長く続かない。SS2エールラ・トゥーラでは2位につけていたラッピは水温のアラームがダッシュボードに点灯するや突然、エンジンルームから蒸気が上がったためにマシンをストップ、リタイアに追い込まれることになった。

 一方、リーダーのスニネンは好調な走りを維持、ソルドにベストタイムを許したものの2番手タイムで続き、5.4秒差をつけて首位をキープした。それでも彼の表情はオープニングステージでみせたような喜びはなく、より慎重な表情となっている。「この調子で走れて嬉しいけど、まだまだ先は長い」

 ラッピのリタイアでソルドは2位へと浮上、「マシンのフィーリングはとても良くて、すべてがうまくいっている。もう少しプッシュできると思うけど、5本のタイヤでは限界がどこにあるのかわからない。僕にはタイヤは5本しかないからね」とコメントした。ヒュンダイ勢では彼のみがスペア1本という戦略だ。

 エヴァンスを4.2秒突き放したオジエが単独3位に、タイトコーナーでオフするミスをおかしたロヴァンペラを抜いてヌーヴィルが5番手にポジションを上げたが、2本のスペアはマシンバランスに影響して思ったほどタイムは伸びないようだ。「2つのスペアタイヤによってマシンが非常にスライドした。安全に走ったが、本来できるはずのプッシュはできなかった」

 リグループをはさんで、クルーたちはノーサービスで2回目のループへと向かう。SS3テンピオ・パウザーニアでは1回目の走行と同様にトヨタ勢が速さをみせて、エヴァンスがベストタイム、2番手タイムのオジエが続き、3番手タイムのソルドがここでもじわりとスニネンとの差を縮め、5秒差の背後に迫ることになった。

 ソルドはSS4エールラ・トゥーラの2回目の走行ではセンセーショナルなベストタイムを奪ってスニネンを逆転、7.5秒をリードしてアルゲーロのサービスへと帰ってきた。「良かったよ!クルマのフィーリングは本当にいい、僕たちはセッティングに取り組んできて、チームは休みの間にクルマに力強い作業を施してくれたのを実感できるよ!」

 スニネンはオープニングSSのようなペースを見せるべく、フィエスタのフロントスプリッターにダメージを負ってぎりぎりまで攻めたが、ソルドのペースには及ばずに2位。11.1秒差の3位にはオジエ、6.1秒差の4位でエヴァンスが辛抱強く続いており、4.6秒後方にはヌーヴィルが迫ってきた。トヨタ勢が路面掃除でここまで健闘するなか、ヌーヴィルは「もっと速く走れるはずだった。マシンバランスが悪く、明らかに望んでいたポジションではない」と不満そうにタイヤ選択のミスを認めることになった。

 だが、まだ上位への望みがある彼に対して、タナクのタイトル防衛への希望は一気にしぼむことになった。オープニングステージでの不可解な失速はSS2以降も続き、ステージごとに25秒あまりも失い、サービスに戻ったときには9位までポジションダウン、首位から1分49.6秒という致命的な遅れを抱えこむことになった。それまでステージエンドでノーコメントを続けてきた彼はサスペンションに問題があったと明かし、「それでも前に進むしかない」と気持を奮い立たせるようにコメントした。

 アルゲーロのサービスのあとSS5セーディニ〜カステルサルドとSS6テルグ〜オジーロというこの日初めて走るステージのため、先頭グループはふたたび路面に積もるルースグラベルのクリーニングのためにペースダウンを余儀なくされるなか、スピードが復活したタナクが素晴らしいタイムを奪ってみせたが、それをソルドが0.9秒上回るベストタイムで塗り替える。

「タイヤが少し柔らかすぎて、いつも少し滑りすぎていて、あまり満足していない」と、ソルドはオールミディアムのタイヤ選択に首を傾げたが、ハード2本を組み合わせたスニネンはここで2秒を失い、さらに続くSS6では3連続ベストタイムを奪ったソルドから7.9秒もの遅れを喫し、瞬く間に首位から17.4秒遅れとなってしまった。

 ソルドはステージエンドで自身のタイムに目を輝かせるが、もちろん彼はまだ仕事が終わっていないことを知っている。「素晴らしいよ。けれど、まだ初日だからね。最後までこの調子で続けなくてはならない」

 スニネンは総合2位をキープしたものの、2本搭載したハードのスペアタイヤを使う機会がなくただ運んだだけだった嘆くことになった。「路面温度が30度を超えると思っていたので、かなりがっかりだよ。2本のハードタイヤを使えなかったんだ」

 スニネンは、ソルドからはさらに後退したものの、3位に浮上してきたヌーヴィルには17.8秒の差をつけている。

 スニネンに迫るはずだったオジエもエヴァンスもふたたびコースオープナーを強いられた午後のループでは失速が待っていた。「愚かなルールが戻ってきたから、それに対処しなければならない」とオジエは不満そうに述べ、エヴァンスも「(ポジションキープは)単純に不可能だった」と諦め顔でコメントするなか、ヌーヴィルはSS5でエヴァンスを抜いて4位へ浮上、さらにSS6ではわずか0.8秒差でオジエを抜いて3位へとポジションを上げることになった。

 金曜日の朝のハンドリングの問題やエンストにイラついてきたヌーヴィルだが、0.8秒差とはいえ土曜日のスタートをライバルより一つ上の条件で走ることは重要だと語っている。「このような接戦の中で貴重なタイムである12秒ほどロスをしてしまった。良いセットアップが見つかったので、明日はもっと良いペースで走れると確信しているよ」

 大仕事となった初日を終えて、エヴァンスはオジエから15.9秒差の5位、さらに15.2秒差でガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)、6位にピエール-ルイ・ルーベ(ヒュンダイi20クーペWRC)が続いている。

 オーバーシュートはあったものの、6位で最終ループを迎えたロヴァンペラはSS5でステアリングトラブルのため1分あまりをロスして8位へと後退、問題を直すことができないまま臨んだSS6ではタナクに抜かれて9位までポジションを落としている。

 また、TGR WRCチャレンジプログラムの勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)はSS2で2度のエンジンストールでペースを落としたものの、9位につけてルーベにプレッシャーをかけていたが、SS3でコースオフ、ディッチでマシンを止めることになった。

「僕のミスだよ。ナローでトリッキーなセクションで、最初の右コーナーのインで石かなにかにマシンが跳ねてワイドになってしまい、次の左コーナーにむかうルースグラベルに乗ってしまいリカバリーできずにオフしてしまった。ダメージは大きいわけではないので、明日走れることを願っている。試練のときだが、強くなるためにここでなにかをつかみたい」と勝田は語っている。

 サルディニアの2日目は、アルゲーロ東部のモンテ・アクート・エリアの有名なモンテ・レルノ・ステージで現地時間7時37分(日本時間14時37分)からスタートする。