WRC2020/09/07

タナク、初開催のWRCエストニアで優勝

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 新型コロナウイルスの世界的な流行によってイベントのキャンセルが相次ぎ、約6ケ月のシーズンオフを挟んで再開された2020年世界ラリー選手権(WRC)第4戦ラリー・エストニアは、9月6日に最終日の行程を終え、地元出身のオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)が母国ラウンドでの勝利を飾り、同じヒュンダイ・モータースポーツのクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20クーペWRC)が2位に入り、1-2勝利を決めた。

 2DAY制のショートフォーマットで開催されたラリー・エストニアの最終日は、6SS/84.94kmという短いスケジュールとなるが、デイサービスが設けられていないため、僅かなミスさえ許されない厳しい一日となる。SS12アルーラ(6.97km)は、昨年エルフィン・エヴァンスがジャンプの着地に失敗して腰を痛めたステージでもある。またSS13のカーグヴェレ(15.46km)は典型的なエストニアのステージのひとつで、道幅の狭い道とワイドな道が混在し、後半部分は起伏が激しく気の抜けないステージだ。20.05kmの距離を持つSS14、カンビヤはテクニカルな狭い道と田園風景を駆け抜ける高速ルート、そして大ジャンプ、高速のダウンヒルと変化の激しいコース。ラリーカーはエルヴァでのリフューエルのみで、この3つのステージを再走。最終ステージのカンビアがパワーステージとしてライブ中継されることとなる。

 最終日の朝は雨。ステージのところどころには水溜りが出現し、雨はさらに強くなるという予報もある。前日にリタイアしたティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)を先頭に3分間隔でスタート。1.ヌーヴィル、2.ガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)、3.ピエール-ルイ・ルーベ(ヒュンダイi20クーペWRC)、4.テーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)、5.エサペッカ・ラッピ(フォード・フィエスタWRC)、6.勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)、7.エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)、8.カッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)、9.セバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)、10.ブリーン、11.タナクというオーダー。ノーサービスで6SS/84.96kmを走行するため、ほとんどのドライバーがミディアムタイヤ5本をチョイス。タナクとブリーンのみ安全性を取って6本を選択した。

 SS12でベストタイムを奪ったのは、このステージには苦い思い出のあるエヴァンス。「特にドラマはなかった。OKだ」と、首位グループを見据える。セカンドベストは前日1分のペナルティが課せられたことで6位スタートとなったロヴァンペラ。タナクは3番手タイムで首位をキープし、13.2秒差の2位でブリーンが続いている。勝田はフォード勢と変わらないタイムで健闘しているが、「昨日とはわずかにコンディションが変わっている。雨によってスリッパリーになっている。次のステージはかなりトリッキーなので、コースオフしないようにしたい」と語っていたが、予感は悪い方向に当たってしまう。

 SS13カーグヴェレの後半部分は起伏のある林道ステージで今大会で初めて使われる区間。このゴールまで2km少しの高速コーナーで勝田はリヤをスライドさせて横転。クルーに怪我はなかったが、リタイアとなった。ベストタイムはロヴァンペラ。しかしトヨタ勢はもう一歩先頭を行く2台のi20クーペを追いきれない。オジエはマシンを何度か大きくスライドさせる場面もあった。「まったくセーブしなかった。ベストを尽くしたが、フィーリングはここまでのところ、あまり良くない。朝の間に改善できることを願っている」とコメント。
勝田のアクシデントでペースダウンを余儀なくされたエヴァンスも「完璧なステージではなかった。非常にトリッキーで、ナローだった」と語る。

 20.05kmのロングステージSS14のカンビアではそのオジエが気を吐いた。ブリーンを4秒上回るベストタイムで両者のタイム差は14.5秒となる。「この週末の間、ずっとセッティングに格闘してきて、やっとクルマのフィーリングが良くなり始めているよ」と先程とは打って変ったコメントだが、一方のブリーンも「問題ない。マージンは大丈夫、あとは最後まで走りきることに集中するだけだ」と切り返す。

 ラリーはリフューエルを挟んで朝のステージの再走へ。首位のタナクと2位のブリーンのタイム差は12.5秒。3位は14.5秒差でオジエ。その後方10.6秒差に4位にエヴァンスという構図だ。

 オジエはSS15アルーラの再走でもベストタイムを刻み、ブリーンとの差を13.6秒とする。残るステージ距離を考えると逆転は厳しい差だが、「さまざまな修正を試みて、マシンの挙動はかなり改善された。非常にラフなラリーで、最初のループは楽しく走れるが、2回目の走行ではもっと違いを出すことができる」と語り、勝負の先を見据える。フロントスプリッターを破損してフィニッシュしたロヴァンペラはブリーンと並ぶ3番手タイム。すでに首位のタナクはペースをセーブしながらラリーをコントロールしており、1-2体制で続くブリーンも「今やるべきことをやっている。クルマに乗っていてすごくいいフィーリングだ、しっかりとゴールまで届けることが必要だ」と隙を見せないものの、トヨタ勢のペースは緩まない。「僕たちにできる限りのことをやっている。たしかに追いつくにもこのわずかな時間の中ではとても大きな差だ、それでもいいリズムを保つようにして、確実にそこにたどり着けるようにトライを続けるよ」というエヴァンスの言葉が状況をストレートに表現している。

 SS16、2回目のカーグヴェレの高速セクションで、タナクが轍から飛び出してワイドに膨らみ、草むらに押し出されるハプニングがあったが、タイムにそれほど大きな影響もなくコースに復帰した。 各車ともに最終のパワーステージに備えてタイヤを温存するためにペースを整える中、ロヴァンペラは明らかにプッシュしており、ここでもベストタイムを奪った。

 最終のパワーステージを前に異変があった。デイリタイアを喫し、パワーステージに賭けていたヌーヴィルだったが、スタートを前に電気系のトラブルに見舞われてしまう。WRカー勢の先頭でスタートした彼は明らかにペースが上がらない。「ステージ開始直前に技術的な問題が発生したんだ。明らかに僕たちの週末ではなかった。次はもっと良くなるだろう」と悔しさを露わにした。

 ベストタイムを刻んだのはロヴァンペラだ。初日にタイヤバーストで大きくタイムロスを喫しながらも、ハイペースでアタックし続けた。SS10のコントロールエリア内において、ロードセクションでのオーバークール防止のために装着されているブランキングプレートを取り外す作業をしたことで課せられたペナルティ1分が大きなハンディとなったが、彼にとっては実りのある週末となったのではないか。セカンドベストを刻んだエヴァンスも「彼は速かった! 僕たちとしては悪いステージではなかった。非常にラフで、容易に数秒を失ってしまうが、カッレは素晴らしい走りだったよ」と賞賛した。

 このパワーステージでもサードベストを刻み、安定したペースでラリーをコントロールしたタナクは母国イベントを制覇。「まずは空気を吸わないと!難しいラフなステージだった。ヒュンダイで初勝利をすることができてうれしい。僕たちはこれまで一生懸命仕事してきたからね。それはつまり、チームは本当にハードに仕事をしてきて、僕は家でソファに座っていたという意味だけど! 最高の気分だ。初めてのWRCラウンドのラリー・エストニアの勝利が、僕のものなんだ。ハッピーに決まっている!」と喜びを語った。

 2位にブリーン。ヒュンダーの1-2勝利に貢献した彼は、「信じられないくらい最高だ。ここではリラックスしてフィニッシュすることを考えた。今週末のチャンスを与えてくれた皆に感謝している。再び自分のキャリアをスタートさせたような気持ちだ!」と、自己ベストに並ぶリザルトを噛み締める。

 セットアップに悩みながらも、随所に侮れないスピードを見せたオジエは、「非常に荒れていて、完全に攻めるのは困難だった。チャンピオンシップにとっては良いポイントだ」と3位のリザルトを振り返った。4位にエヴァンス、5位ロヴァンペラとトヨタ勢が続き、6位はスニネン。スタート前からテスト不足を懸念していたラッピは、SS16でスピンを喫してスニネンにポジションを譲り7位でゴールすることになった。

 1-2フィニッシュを決めたことで、ヒュンダイ・モータースポーツはマニュファクチュアラー選手権で132ポイントとなり、137ポイントのトヨタGAZOOレーシングWRTに5ポイント差と迫った。またドライバー選手権では、オジエが79ポイント、エヴァンスが70ポイント、今季初勝利を母国で獲得したタナクが66ポイントで続く。ロヴァンペラが55ポイントで続き、2戦連続でノーポイントのヌーヴィルは42ポイントで足踏み状態だ。

 次戦は2週間後の第5戦ラリー・トルコ。9月18日スタートとなっている。