WRC2019/05/11

タナク、困難なチリの初日をリード

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 2019年世界ラリー選手権(WRC)第6戦ラリー・チリが10日に開幕、トヨタGAZOOレーシングWRTのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)が序盤のミスをはねのける快走をみせて初日の6SS/125.27kmを終えてラリーをリード、2番手にはシトロエン・レーシングのセバスチャン・オジエ(シトロエンC3 WRC)が22.4秒差で続く展開となっている。

 木曜日の夜、コンセプシオン市の独立広場で行われたセレモニアル・スタートにはWRC初開催のラリー・チリのスタートを祝うおびただしい数のファンが押し寄せることになり、競技は金曜朝のSS1エル・ピナール(17.11km)のステージで始まることになった。

 数日前の雨で路面は湿り、スリッパリーなコンディションのなか、オープニングステージはヤリ-マティ・ラトバラとクリス・ミークがベストタイムを分け合い、2台のトヨタ・ヤリスWRCがリーダーボードの上位を占めてラリー・チリはスタートする。3位にはエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)が2.1秒差で続くことになった。

「霧のなかでのレッキだったので、このステージは(ペースノートが完璧ではなくて)簡単ではなかった」とラトバラは言いながらも、久しぶりのラリーリーダーでの発進に笑みをみせた。「このステージで最速の2人のうちの1人に入れて嬉しいよ。だが少しずつ取り組むつもりだ」

 選手権を争うオジエとタナクはスタート直後の板張りの橋を渡りきった直後の90度ターンでオーバーシュートしかかってエンジンをストップ、オジエは2.6秒差の4番手タイム、タナクは2.9秒をロスして5番手のスタートとなった。そして選手権リーダーとしてコースオープナーを担ったティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)はタナクから0.7秒差の6番手タイム。このタイムは後に大きな意味をもつことになる。

 続くSS2はラリー最長のステージであるラ・プーマ(30.72km)。ヌーヴィルが一番手でコースを走り始めた直後に主催者が安全上の理由でレッドフラッグを提示したためステージを一時中断することになった。彼の直後の2番手でコースを走るオジエ以降はおよそ15分後にステージは再開することになった。

 雲間から日射しが射し始め、林道を走るこのステージでは木々からのこぼれ陽がストロボのようにドライバーたちに襲い掛かる。路面はここでもウェット。走るたびに路面のぬれたグラベルはかき出されるが、固い路面の表面はタイヤで磨かれることになり、後方のドライバーたちがスリッパリーなコンディションに苦しむなか、ここでは選手権のリーディングドライバーたちがタイムを伸ばすことになる。

 タナクがベストタイムを奪って首位へと浮上、オジエが3.2秒差の2番手タイムで2位にポジションを上げ、前ステージでトップを分け合ったミークとラトバラはともに15秒近くを失ってそれぞれ4位と5位へと順位を落とすことになる。そして、このステージをレッドフラックのため走れなかったヌーヴィルには、このステージでベストタイムを奪ったタナクから6.6秒遅れの21分17.0秒がノーショナルタイムとして与えられることになった。これはSS1のタナクと彼のタイム差をもとにして計算されたものだと説明されたが、いきなりトップまで7.3秒差というハンデを負うことになってしまったヌーヴィルは納得がいかない。

 ヌーヴィルは続くSS3エスピガド(22.26km)では摩耗してないタイヤにも助けられてベストタイムを奪ってみせたが、わずかに首位のタナクとのタイムを0.7秒縮めただけで、6.6秒差の3位で朝のループを終えることになった。「非常に厳しいステージだったが全力で行った。このステージではオイットには0.7秒に勝ったにもかかわらず、僕にはSS2のノーショナルタイムとして彼より6.6秒も遅いタイムが与えられた。僕らはもっと良いタイムが出せたはずだし、納得できないよ」と彼は憤る。

 いっぽう、ラ・プーマでベストタイムを奪い、ここエスピガドでも0.7秒差の3番手を奪って首位でサービスへと戻ってきたタナクは、ヤリスWRCのセットアップ改善が効果があったことでいい流れをつかんだようだ。「まだ改善すべきことがあるが、これまでのところ順調に進んでいる。速かったり、遅かったり、グリップが絶えず変化して、光と影で視界も厳しかったが、初めてのチリだけどここまでは良い仕事ができているよ」

 タナクから6.1秒差の2位にはオジエ。これまでのところ前戦アルゼンチンよりC3のパフォーマンスが改善していることに満足している表情だ。3位のヌーヴィルから6.3秒差の4位にはラトバラ。いくつかのミスをしたにもかかわらず2番手を出した彼とは対照的に、オープニングSSでトップタイムを奪ったミークは、以降のステージはペースノートのペースやグリップのなさに苦しんでおり、ここでも16秒を失って5位で朝のループを終えることになった。

 タルカワノのデイサービスになると空には青空が広がり、気温も15度まで上昇。午後の最初とのステージとなったラ・プーマのステージは、日陰は湿っているものの、日当たりがいいオープンな道路は急速に乾き始めることになった。

 このコンディションの変化にふたたび素晴らしい速さをみせたのはタナクだった。彼はラリー最長ステージのラ・プーマで2位のオジエに11.2秒差をつけるベストタイム、一気にその差を17.3秒へと広げることになった。ヌーヴィルはこのステージでの速さをみせることができれば、朝のノーショナルタイムを見直してもらうための説得材料になったはずだが、乾きはじめたステージのルースグラベルに苦しんで17.6秒遅れの7番手タイム、ここで3番手タイムを奪ったラトバラに抜かれて彼は4位へとポジションを落としてしまう。

 勢いに乗ったタナクは、エスピガドの2回目の走行でもベストタイム、この日最後のステージとなった夕闇となった2.2kmのコンセプシオン・ストリートステージこそオジエが0.7秒を奪い返したものの、最終的に22.4秒差をつけて初日をリードして終えることになった。

「クルマは午前中よりもずっとフィーリングが良くなったし、おかげで全体的にもっと自信が持てるようになった。あと残り2日間も集中し続けるよ」とタナクは一日をふり返った。

 チャレンジングな一日を2位で終えたオジエだが、全開で攻めているにもかかわらず、タナクとの差が午後だけで16秒あまりも広がったことについて、「自分の持っているすべてを尽しているが、タナクは午後もまた非常に速かった。もちろん諦めているわけではないけどね」と失望したような表情を浮かべることになった。

 オジエから6.4秒差の3位で初日を終えたのはラトバラ。SS5では最後のセクターまでステージをリードしていたがゴール目前のジャンクションでエンジンをストールした自身をののしることになったが、それでもヌーヴィルを0.7秒差ながら押さえることに成功、ポディウム・ポジションをキープしている。

 明日のスタートポジションを有利にするためにも最後までラトバラをプッシュしたヌーヴィルだが、「死ぬほどプッシュしたよ。でもこんなに頑張っているのに、明日どのようなポジションでスタートすることになるのかが分からない状況はうれしくない」と語り、訂正されない朝のノーショナルタイムに苛立ちをみせていた。

 多くのドライバーたちが霧のなかでレッキしたペースノートに戸惑ったが、なかでもミークは自身のノートを信用できずにリズムを崩してしまい、ヌーヴィルから17秒差の5位にとどまっている。

 ヒュンダイでの初のグラベル・ラリーとなったセバスチャン・ローブ(ヒュンダイi20クーペWRC)は、ウェットコンディションとなった朝のループでは7位にとどまったが、SS4、SS5で連続して2番手タイムを奪い、スリッパリーなステージに苦しむエヴァンスを抜いて6位へと浮上、さらに最後のスーパーSSではベストタイムを奪ってミークに2.2秒差に迫っている。

 シェイクダウンでトップタイムを奪ったアンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイi20クーペWRC)にとっては誤算の初日となっている。グリップしないスリッパリーな路面に自信がもてず、「あちこちでスライドしてしまい、タイムを失った。雨のフィンランドを思い出すよ」とこぼすことになった。朝のループを8位で終えた彼だが、ドライになりだした午後のループでもリズムがもてずにSS5ではあわや横転の危機を迎え、テーム・スニネン(フォード・フィスタWRC)に抜かれて9位へと後退することになった。それでも、スニネンが最後のステージでドーナツターンに失敗したため、ミケルセンが1秒差ながら8位でこの日を終えている。

 2週間前のアルゼンチンでは大きなクラッシュでラリーを終えたエサペッカ・ラッピ(シトロエンC3 WRC)は、オープニングSSのウォータースプラッシュの後の長いコーナーでワイドになってオーバーシュート、20秒あまりを失ってスタートすることになった。そのあとも彼はグリップのないグラベルにペースを上げられずに10位にとどまることになった。C3で自信をもって攻めるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 明日の土曜日もふたたびコンセプシオンの南部エリアが舞台となり、リオ・リア(20.90km)から始まる6SS/121.16kmの1日となる。