WRC2022/08/06

タナクがフィンランドをリード、トヨタ勢が2-3-4

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第8戦ラリー・フィンランドのレグ1は、ヒョンデ・モータースポーツのオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がラリーをリードしているが、その後方には終盤の3連続ベストタイムで3.8秒差の2位に迫ってきたエサペッカ・ラッピを筆頭に3台のトヨタGRヤリスRally1が追撃態勢を築いている。

 前日の夜に行われたハルユのストリートステージで開幕したラリー・フィンランドは金曜日から高速のフォレストステージへと舞台を移して本格的な戦いを開始する。ラウカー(11.75km)、ランカマー(21.69km)の2ステージをミッドデイサービスを挟んで2回ループ、木曜日に行われたハルユのショートバージョンステージ(2.01km)を走る。さらに2度目のミッドデイサービスを挟んで午後はアッサマキ(12.31 km)、サーロイネン〜モクシ(15.70 km)の2ステージを連続して2回ループする、9SS/124.91kmという長い一日となる。

 オープニングステージのSS2ラウカーは木々に囲まれたツイスティでナローなセクションから始まり、200km/hに迫るハイスピードのローラーコースターが待ち受ける。小さなミスも許されないステージは、路面に残っているかなりのルースグラベルがさらにやっかいなコンディションとしていたが、早くも大きな波乱が発生することになった。

 オリヴァー・ソルベルグ(ヒョンデi20 N Rally1)が最初のコーナーで大きく膨らんでクラッシュ、マシンは岩にヒットしたあと宙を舞い、道路を横切ってスタートからわずか300m地点で止まることになった。ソルベルグは悔しさをにじませたが、ダメージが大きすぎたため彼のラリーは早くもここで終わってしまうことになった。

 だが、ヒョンデにとっては悪いニュースばかりではない。ここで目が覚めるようなベストタイムを奪って、高速ステージでのペースをみせたのはタナクだ。しかし、彼はマシンのフィーリングにはけっしてコミットしているわけではなく、フロントランナーが道路掃除に苦しむ間に全力で攻める作戦だと明かした。「道路掃除が大変なのは間違いないから、今のうちにアドバンテージを稼がないとね。マシンは快適ではないが、今はこの状態でやり過ごさなければならない」

 8番手の走行ポジションを味方にしたラッピが2番手タイムで5.3秒差の2位へと浮上、3位にはエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が続き、フィンランドの歴代勝者がトップ3を占めるスタートを切るなか、選手権リーダーとして一番手で走行したロヴァンペラは6.3秒遅れの6番手タイム、6位にポジションを落とすことになった。

「思っていた以上に道路掃除が必要だった。ルースグラベルが多く、簡単ではなかった」とロヴァンペラは語ったが、優勝争いに加わるためにはトップ争いからあまり離されることなくこの日を乗り切らなければならない。

 オープニングステージではタナクだけが抜きんでた速さをみせたが、SS3ランカマーではラッピが反撃を開始、タナクを0.3秒差ながら上回るベストタイムで5秒差に迫ることになった。4度の世界チャンピオンであるユハ・カンクネンが生まれた家の裏庭を通過することでもよく知られているこのステージは、いつもの方向とは逆走となるため、誰にとってもチャレンジとなったが、ラッピはそれゆえに最初からこのステージを奪うつもりだったと語った。「新しいステージでは常にチャンスがあるものだが、それは誰もが知っている。どちらにせよギャップは小さい」とラッピはいつものように静かにコメントした。

 ユヴァスキュラのサービスを挟んでラウカーの2回目の走行となるSS4ではまたもタナクがベストタイム、ラッピも0.4秒差の2番手タイムで続いたが、リードは5.4秒差へ拡大した。だが、タナクはステージエンドで決してすべてのフィーリングが完璧ではないと相変わらず不安を覗かせている。「こんな風に走った後は、ちょっと手が震えてしまっている」と彼はうめくように語っている。「ちょっとトリッキーだったからね。本当に楽しめてはいないんだ」

 ラッピはクリーンな走りをしているにもかかわらず、タナクとのタイムが僅差だったことに驚くことになった。「彼は本当にいい仕事をしている。僕は本当にクリーンな走りだった。いくつかの場所は遅すぎたけど、すべてのコーナーを完璧にこなすことはできないからね」

 SS5ランカマーは、一番手のロヴァンペラがスタートした直後、観客が安全でないエリアにいたことから赤旗が出されたあとキャンセルされ、朝のループの最後のステージのSS6ハルユ・ステージを迎える。

 ここでベストタイムを奪ったのは勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)だ。木曜の夜に行われた2周の走行ではなくここでは1周だけの走行となったが、勝田は昨年に続いてベストタイムを奪い、ユヴァスキュラのストリートステージとの相性のよさをみせている。勝田はこの日の朝のジャンクションでのスピンのため10位でのスタートとなったが、昨日彼を悩ませたハイブリッドのブーストの問題は解決しており、6位までポジションを上げてきた彼は午後の追い上げに期待する。「今日の朝は1つめのステージはスピンしてしまったが、全体的にはフィーリングもいいし、クルマの動きもいいよ」

 タナクは勝田に続く2番手タイムで、ラッピとの差をわずかに広げ、6.2秒をリードしてミッドデイサービスを迎えることになった。ラッピの4.9秒後方には3位のエヴァンスが続くが、わずか2.4秒差の4位にはプレイベントテストなしでフィンランドに参戦したにもかかわらず、クレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)が健闘した走りで続いている。

 ロヴァンペラは路面がクリーンになったはずの2回目のループでも予想以上のルースグラベルに阻まれ、ブリーンの1.8秒後方、首位のタナクから15.3秒遅れの5位でサービスへと戻ってきた。1ステージのキャンセルがあったにもかかわらず、予想より大きく差がついたことについて聞かれたロヴァンペラは、自分のペースを低く評価するタナクの言葉にだまされてはいけないと語った。

「彼はいつもここで速かったし、彼らは自分たちのマシンが良くないと言ってきたが、それは違う。彼らはとにかくかなり速いんだ。かなりの本気モードに見えるよ」とロヴァンペラは語った。

 たしかに、タナクはシェイクダウンから「トヨタに勝てない」と悲観的に語ってきたが、ここまでのペースからその言葉がライバルを油断させるための一芝居だったようにも見える。しかし、チームメイトのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は首位から25.7秒遅れの7位にとどまっており、けっしてヒョンデ勢すべてのパフォーマンスがいいわけではないことは明らかだ。

 初日のリーダーとして金曜日をスタートしたヌーヴィルは2番手の走行ポジションに苦しんだことは確かだが、タナクがスピードのために大きなリスクを負っていると指摘、自身は2秒前を走る6位の勝田に集中しなければならないと語っている。「確かにオイットは速かったが、リスクのレベルは非常に高いと思う。僕のペースノートにはフラットアウトするコーナーがたくさん書かれているが、僕らは今のマシンでこのような道路でそのようなリスクを冒すことはできない。でも、今は目の前の戦いに集中しなければならない」

 午後はユヴァスキュラ西部に舞台を移して、アッサマキ(12.31 km)、サーロイネン〜モクシ(15.70 km)の2ステージを連続して2回ループする。最後のステージは午後20時スタートというまさしく長い一日だ。

 SS7アッサマキがスタートするころから小雨がステージを濡らし始めるなか、タナクはラッピに2.1秒差をつけるこの日3つめとなるベストタイムを叩きだし、一気にその差を8.3秒へと拡大する。だが、ステージエンドの彼はこの走りが完全にリスクを負ったものだと認めている。「明らかにリスクを負っているよ。ルースグラベルの多い1回目のステージで(トヨタ勢を)引き離したいんだ。でも、あるところでは大丈夫だと感じるが、他のところでは驚かされ、自分が遅いと感じてしまう。今のところ、それがすべてで、それ以外のものではない」

 小雨が断続的に降り続くSS8サーロイネン〜モクシで猛チャージをみせたのはラッピだ。彼は、前ステージで遅れた2.1秒をここで取り返すベストタイム、タナクとの差を6.2秒として振り出しに戻している。

 ラッピはSS9アッサマキでもタナクに0.9秒差をつけるベストタイム、それでも彼は限界で攻めているのではなく、「いい走りをしているだけだ」とおどけてみせる。「(露出した)岩盤を避けて走ったので、ラインをキープできていればもっと速く走れたはずだよ」

 ラッピはこの日最後となるSS11サーロイネン〜モクシも3連続ベストタイムでしめくくり、首位のタナクに3.8秒差に迫ってレグ1を終えることになった。「今日は本当にいい一日だった。マシンも素晴らしいし、午後はスピードが改善できた。明日に向けて良い戦いができた」とラッピは笑顔で一日をふり返った。

 首位のタナクは午後のループでは雨でやや柔らかくルースになった路面にも手こずったが、素晴らしく安定したペースでラッピからの猛攻をしのぎきったが、ステージエンドの彼はすべてを出し尽くした一日だったと語っている。「このステージでは、もう少し速く走ろうと思っていたが、ミスが続いてしまった。今日は大変な一日で、僕のバッテリーもかなり消耗している。ベッドが僕を待っているよ!」

 二人の後方ではエヴァンスとロヴァンペラによる激しい3位争いが最後まで繰り広げられた。

 ロヴァンペラは、SS7でライン上に突き出した岩盤で激しい衝撃を受けて失速したブリーンを抜いて4位へと浮上、SS8でもコースをめいっぱい使ったアグレッシブな走りで、2.2秒差の3番手タイム、3位につけるエヴァンスの1秒後方に迫っている。「1号車だから、それ以上のことはできない。フルにプッシュして、どこもかしこもフルに限界だった」

 だが、「これ以上は無理だ」と語ったにもかかわらず、ロヴァンペラは最後のステージで猛烈なプッシュを敢行、166km/hの高速からハードブレーキングで進入する左コーナーでワイドになってディッチにタイヤを落としてしまう。まるで朝のソルベルグのようにコースオフする危機に見舞われるが、どうにか姿勢を立て直すことに成功する。

 このすべてを失うかとも思われたヒヤリとした瞬間でも、インカーカメラはロヴァンペラがこのスペクタクルなシーンをまるで楽しんでいるかのように大笑いしている様子を映し出していた。「幸運に感謝しないといけないね。ずっとハードにプッシュしていたが、これ以上は無理だった。このステージは今回もかなりスリッパリーだったからね」。選手権リーダーは、首位のタナクからは21秒差、3位のエヴァンスから1.7秒差の4位でレグ1を終えることになった。

 ブリーンは午後のステージでは原因不明の問題でペースを落としてしまったが、SS7で路面からの衝撃を受けたことによる影響かもしれない。彼はトップから32.5秒差、ロヴァンペラからは11.5秒差の5位で続いているが、その後方には勝田が3秒差に迫っている。勝田はこのステージでブリーンを抜き去ろうとプッシュしたが、間違ってハイブリッドブーストを失ってしまったことを悔しがった。「大きくスライドする瞬間があり、誤ってボタンを押してしまったんだ。短いセクションのためにハイブリッドが無くなってしまったんだ。愚かなミスだった」

 7位で続くヌーヴィルは勝田に近づきたいと語っていたが、14.8秒差へと逆にその差は広がってしまっており、ピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)が危ない瞬間に見舞われながらも8位、ガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)が9位で続いている。

 チームメイトのアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)はSS3の高速右コーナーでイン側をカットした際に草むらのなかの岩にステアリングをヒットしてストップ、応急修理のあと16分遅れでどうにかステージをフィニッシュしたが、そのあともパワーステアリングを失ってしまい36位と低迷している。

 Rally1カーのデビュー戦となるヤリ・フットゥネン(フォード・プーマRally1)は堅実な走りで8位につけていたが、SS8で燃料プレッシャー問題に見舞われて何度かエンジンを止める不運によって21位で金曜日を終えている。

 明日の土曜日はヤムサとその周辺の伝説的なジェットコースターステージを駆け抜けるさらにタフな一日となる。天気予報は早朝から雨になると伝えており、とくに2回目のループに向けていっそう激しく降ることが予想されており、困難な一日になりそうだ。オープニングステージのパイヤラーは現地時間8時8分(日本時間14時8分)のスタートだ。