WRC2019/06/03

タナクが今季3勝目、ミークは最終SSでクラッシュ

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 2019年世界ラリー選手権(WRC)第7戦のラリー・デ・ポルトガルは波乱の最終日を終えて、トヨタGAZOOレーシングWRTのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)が今季3勝目を飾ることになった。

 日曜日はモンティム(8.76km)、ファフェ(11.18km)、ルイアス(11.89km)のあとふたたびモンティムを走り、ファフェの2度目の走行がパワーステージとして行われる5SS/51.77kmと短い一日だが、タイヤ交換もなく、ノーサービスで走り切らなければならない。

 土曜日を終えてタナクがラリーをリード、4.3秒差の2位にクリス・ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)が続きトヨタが1-2態勢、さらに4.9秒差の3位にはティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が続き、トップ3が9.2秒という大接戦となっており、最終日のポディウムバトルは最後の瞬間までまったく分からないものとなった。

 オープニングのSS16モンティムではミークがベストタイムを奪って発進、首位のタナクに2.4秒差に迫ることになった。トヨタとしては選手権のためにも同士討ちを避けて確実に1-2でのフィニッシュを迎えたいところだが、ヌーヴィルが後方に迫っている以上、チームオーダーを出しようにも出せないという難しい状況だ。

 ミークは、この日の朝、トヨタGAZOOレーシングWRT代表のトミ・マキネンからオープニングSSでプッシュするよう指示があったと明かすとともに、「朝のステージでヌーヴィルに対してしっかりとギャップをもうけることが重要だ」と語り、このあともペースを緩めるつもりはないことを宣言した。

 ワンミスも許されない戦いの相手がチームメイトであることは、タナクも理解している。彼は「まあ、問題はない。ティエリーを上回っている限り大丈夫だ」と複雑な表情で語った。彼としてはヌーヴィルの前でフィニッシュすることが当面は目標となる。
 
 そのヌーヴィルのために、ヒュンダイ・モータースポーツはこの日の朝もスタートポジションをめぐる戦略を発動させてきた。ダニエル・ソルドとセバスチャン・ローブの二人はロードセクションでマシンを止め、セバスチャン・オジエ(シトロエンC3 WRC)を先行させて、SS16の前のタイムコントロール(TC)に大きく遅れてチェックインすることになった。

 オジエは本来の走行順は8番手で、ヌーヴィルは9番手の予定だったが、オジエは2つポジションが繰り上がって6番手でコースイン、ヌーヴィルから9.5秒遅れの平凡なタイムで二人の差は21.3秒へと拡大する。オジエはステージエンドで「ロードモードのようにドライブした」と語り、ヌーヴィルの追撃を事実上断念、パワーステージのためにタイヤをマネージメントする作戦だ。これに対して、3番手タイムのヌーヴィルはまだミークからも7.1秒遅れで続いており、さらなるポジションアップに野心をみせる。

 ヌーヴィルが戦闘モードである以上、トヨタ勢もペースを落とせない。続くSS17ファフェではタナクがベストタイム、2位のミークとの差は5.4秒、3位のヌーヴィルとは13.6秒差がついている。ミークはステージエンドで、チームメイトのタナクと最後まで息詰まる勝負を続けるのかを聞かれ、「最も重要なのはトヨタの1-2だ。そうなればOK。僕は自分の仕事を全うするだけだがティエリーとのギャップを保つことが重要なんだ。あとはどうしたいのかはオイット次第だ」と語り、目標はあくまでもトヨタの選手権であることを強調する。

 SS18ルイアスではタナクが連続してベストタイム、2位のミークとの差は8.1秒へと開き、3位のヌーヴィルとの差を安全圏ともいえる18.1秒へと広げることになった。

 しかし、2位のミークとヌーヴィルとの差はまだわずか10秒にしかすぎない。ヌーヴィルは追撃を諦めるつもりはなく、続くSS19モンティムでも猛然とアタックを敢行して、プレッシャーを掛け続け、それまでぎりぎりの走りを続けてきたミークのミスを誘うことになる。

 朝の1回目の走行で5位につけていたエサペッカ・ラッピ(シトロエンC3 WRC)が横転してしまった同じヘアピンでミークは魔が差したかのようにスナップオーバーステアの状態でスピン、ダストのなかで切り返す方向が見えなかったためおよそ17秒をロスしてしまう。これに対して、ヌーヴィルはこの日初のベストタイムを叩き出してミークを抜き去り、7.4秒差をつけて2位へと浮上することになる。

 そして迎えた最終ステージのSS20ファフェ。有名なラメイリーナ・ジャンプを含んだ終盤のセクションには数万の観客が陣取り、勝負の行方を見守っているなか、波乱の最終日を象徴するようにこのステージでもドラマが起きる。

 ラメイリーナでサスペンションを壊したまま跳躍したガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)が着地でクラッシュ、コースをふさいだために赤旗が出されて一時中断することになり、すでに走行を開始していたヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)がパワーステージへのチャレンジへの機会を奪われることになってしまう。土曜日のダンパートラブルでリタイアとなっていただけに、パワーステージのボーナスに賭けていた彼にとっては無情のエンディングとなってしまった。

 さらにトヨタの不運は続くことになる。ステージの走行が再開されたあと、なんと3位につけていたミークがスタートしてわずか500mの右コーナーでリヤをスライド、イン側のなにかにヒットしてサスペンションを破損してリタイアとなってしまう。

 幸いにもミークの後続のヌーヴィルとタナクは、ステージをスタートする前に赤旗が表示されることになり、ミークのヤリスがコースから撤去されるのをスタートラインで待つことになり、15分後のステージ再開とともにボーナスステージへと挑むことになる。

 多くのドライバーが朝のループにむけてミディアムタイヤを選ぶなか、ヌーヴィルのみが1本だけハードタイヤをチョイスしており、彼は長くスタートを待たされたパワーステージではすっかりタイヤが冷えてしまったが、うまくコントロールして2位のフィニッシュを迎えることになる。

 パワーステージの走行で残ったのはラリーリーダーのタナクのみ。この時点で彼の優勝はほぼ確実となっており、ミークの誤算とも言えるリタイアによってボーナスポイントを除いた彼の選手権ポイントはこの時点で計算上、選手権リーダーのオジエと137ポイントでまったく並んだことになる。

 選手権リーダーになると、次戦のラリー・イタリア・サルディニアでは一番手でのコースオープナーの役割が待つために、タナクはもはやボーナスポイントのトップを狙うつもりはない。パワーステージの暫定トップタイムを奪ってゴールラインで待ち受けているオジエの前で、タナクはまるで1秒のタイムの違いをわかっているかのようにペースをコントロール、オジエから1.6秒遅れの3番手タイムで今季3勝目のフィニッシュを迎えることになった。

「激しい争いだったし、トラブルもたくさんあり、間違いなくこれまでで最も厳しい勝利の一つだった。そして、セブがサルディニアで道路を開くことを確実にするために、僕たちはフィニッシュラインの直前でブレーキを引かなければならなかったよ!」と、タナクと完璧な勝利のゴールを喜んだ。

 選手権のリードは、思ってもみなかった形で3位のポディウムを獲得するととともにパワーステージで1番手タイムのオジエがキープすることになったが、彼はミークのストップは計算違いだったと語った。「ある意味、ミークのストップは僕にとって悪いニュースだ。僕はサルディニアで道を開く計画はしていなかったからね」

 ドライバーズ選手権では第7戦のポルトガルでシーズン前半戦が終了したことになり、オジエが142ポイント、タナクが140ポイント、ヌーヴィルが132ポイントという引き続き僅差の勝負となっている。

 マニュファクチャラー選手権では、金曜日の夜の時点で1-2-3態勢を築いていたトヨタにとってはまさしく悪夢のエンディングとなってしまった。タナクの勝利にもかかわらず、土曜日にリタイアしたラトバラは総合7位にとどまり、ミークの最終日のクラッシュによって、トヨタは選手権では引き続きヒュンダイにリードを許すことになり、20ポイント差の2位で前半戦を終えることになった。

 4位にはテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)、5位には初日の電気系のトラブルで遅れたエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)が続き、SS16のヘアピンでイン側のバンクに乗り上げて横転したラッピは、リヤウイングを失ってしまい、エアロに問題を抱えたマシンでSS17でスライドさせてしまいリヤをバンクにヒット、サスペンションを壊してステージを走りきったあとリタイアとなったため、WRC2プロ優勝のカッレ・ロヴァンペラ(シュコダ・ファビアR5エボ)がキャリア最上位となる6位でのゴールを迎えている。

 また、初日のフューエルシステムのトラブルのあと、ヌーヴィルのためのチームプレーに徹してきたローブは、最終ステージで左リヤサスペンションを壊してスローダウン、不運な週末を22位でフィニッシュしている。

 世界ラリー選手権はこのあと一週間のインターバルを経て次戦ラリー・イタリア・サルディニアのラリーウィークを迎えることになる。