WRC2020/09/06

タナクが初開催母国戦をリード、ヒュンダイが1-2

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 世界ラリー選手権第4戦のラリー・エストニアは土曜日を迎え、地元出身のオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)が母国ラウンドの勝利にむけてラリーをリード、チームメイトのクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20クーペWRC)が11.7秒差の2位に続いており、ヒュンダイ・モータースポーツが1-2態勢を築くことになった。

 土曜日の早朝6時にデイ1はリスタート、クルーたちはいよいよ本格的な舞台をめざしてタルトゥ南部にある、このラリーで最長ステージとなるSS2プランリ(20.93km)へ向かった。天気は曇りで、昨夜降った雨によって地面をわずかに湿った程度にすぎない。さらなる雨を期待していた一番手スタートのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)にとっては残念な朝となり、彼は路面を覆った柔らかなグラベルのなかをコースオープナーとして走り、4秒遅れの6番手タイムにとどまり、前夜のスーパーSSで奪った首位を譲りわたすことになる。

 このステージで衝撃的なタイムを奪って首位に立ったのはチームメイトのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)だ。前夜のSS1を1.5秒遅れの7番手タイムでスタートした彼は、記者会見では、今週末のダークホースになれるか聞かれ、「表彰台で満足だ」とやんわりと否定していたが、いきなり鮮やかなベストタイムを奪ってラリーをリード、その言葉が控え目な表現だったことが露わとなる。彼にとっては初めてのオーバーオールでのラリーリーダーだ。

 後続には2番手タイムを奪う速さをみせたクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20クーペWRC)が0.3秒差の2位、エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)が1.3秒差の3番手につけることになった。

 タナクは序盤のスプリットではロヴァンペラを上回る速さをみせていたが、ステージ終盤の長いターマックのセクションでリミッターが当たった状態でわずかにタイムを落とし、ロヴァンペラに2.8秒差を付けられることになる。タナクはトップから1.5秒差、エヴァンスからは0.2秒差の4位でこの日をスタートすることになった。

 だが、ロヴァンペラのリードは短時間で終わることになった。彼はSS3カネピ(16.88km)で右のリヤタイヤをパンク、走行しているうちにデラミネーションを起こしたトレッドがフェンダーを吹き飛ばしながらも、どうにかステージをフィニッシュ、27.7秒差の9位へと後退してしまう。「どこでパンクが起きたのか見当もつかない。間違いなく何もヒットしなかった。かろうじてリムが残ったが、多くのタイムを失ってしまった」

 ロヴァンペラが遅れたSS3でタナクが地元ラウンドでの初めてのベストタイムを奪い、難なく首位へと浮上する。連続して2番手タイムを奪ったブリーンが4.4秒差の2位で続き、ヒュンダイが1-2態勢を築くことになる。

 タナクはさらにSS4オテパー(9.30km)で連続してベストタイム、ブリーンもすっかり安定したペースをつかんで0.1秒差の2番手タイムを刻んで続き、さらにそれまでハンドリングに不満を持ってきたティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が3番手タイムを叩きだし、3位で続いていたエヴァンスと4位につけていたオジエを一気に抜いて3位へと浮上、ヒュンダイが1-2-3態勢を築くことになる。

 オジエはSS5メーキュラ(14.76km)でのベストタイムでエヴァンスをパスしてヌーヴィルに迫るも、ヌーヴィルもSS6エルヴァ(11.72km)でベストタイムを奪い返して譲らない。それもそのはず、土曜日は10SS/147kmというラリー全体の65%近くをカバーする1日となるため、FIAはエストニアに関してのみ土曜日の午後のスタートルールを変更、選手権リーダーのオジエがコースオープナーを務めるのは朝のループまでとなり、午後のループはSS6の順位のリバースで出走することになるため、この時点での順位が今後の展開を大きく左右することになるからだ。

 朝のループを終えて、これまで高速イベントのラリー・フィンランドで一度も表彰台を獲得したことがなかったヒュンダイがまさかの1-2-3を堅持。首位はタナク、6.8秒差の2位にブリーン、11.1秒差の3位にはヌーヴィルが続き、4位から7位までをトヨタ勢が占める。オジエはヌーヴィルから4.4秒差、エヴァンスはSS4のミスのあとウォームアップイベントのロウナ・エースティ・ラリーのクラッシュが脳裏をよぎったのか、リズムを崩してしまいオジエの後方7.6秒差の7位、一時8位まで転落したロヴァンペラが右リヤのエアロを失いながらも6位まで挽回、さらにMスポーツ・フォード勢を押さえる健闘をみせる勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)が7位で続いている。
 
 スタート序盤から全ステージでベストタイムを築くのではないかと予想されていたタナクは、ライバルたちは恐れていたほどの速さをみせずにブリーンと厳しい接戦を繰り広げているような印象だが、サービスに帰ってきた彼はこの日のオープニングSSでパンクをしていたためそのあとのステージでペースを上げられなかったと、ある意味では衝撃の告白をすることになる。

「僕たちは最初のステージでパンクしてしまい、なんとかそのままやり通した。非常に慎重に走って何とか戻って来られたが、サービスに帰るのを本当に心待ちにしていた。タイムを失ったのはその一つのステージだけだったが、それでもなかなか取り戻せなかった。なんとかここに戻ってきて、また新しいタイヤを履いて午後はクリーンなステージを走ることができるよ」とタナクはいつもの冷静な表情でコメントした。

 2位につけるブリーンは「最後の2つのステージは、今朝のようなリズムではなく、もう少し速く走りたかったが、僕たちは現実的でなければならない」と語り、選手権のためには禁欲的でなければならないと戒めているようだった。

 トヨタ勢を抜いたとはいえ、ヌーヴィルはまだマシンには100%満足しているわけではない。「特に高速ステージではまだ自信が足りていないが、ベストを尽くした。僕たちは現実的でなければならない。オイットはこのタイプの道に慣れているので、彼はすぐに我々よりも速く走ることができるが、僕たちは表彰台争いができているので、そのことが重要だ」

 ラーディのデイサービスのあとドライバーたちはリバース順に隊列を組みなおして午後のループへと向かうが、SS7プランリの柔らかいステージは想像以上に荒れてわだちが生まれている。ラリーカーが走るたびに無数の石が路面に広がり、トップドライバーの多くがタイヤトラブルを抱えることになる。

 5位に付けるエヴァンスは終盤のターマックセクションで突然左リヤタイヤがバースト、剥離したトレッドがフェンダーを壊して、朝のロヴァンペラのようにエアロにダメージを負うことになり、残りのステージに影響を及ぼすことになる。さらに路面クリーナーから解放されたオジエがヒュンダイ勢に迫るべく最速タイムを叩き出すも、彼もまた左リヤのタイヤがリムから外れた状態でフィニッシュすることになった。しかし、彼の後方ではさらに最悪な事態が発生していた。

 3位につけていたヌーヴィルが右リヤタイヤが外れてぶら下がった状態のまま1分30秒近く遅れてフィニッシュする。ヌーヴィルはロードセクションで修理を始めるが、リヤのサスペンションに致命的なダメージを受けており、彼はここでラリーを終えることになる。

「非常に高速な左コーナーで、ラインから押し出される形になり、そこからリカバーを試みたが、不運にも外側から何かに接触し、ホイールがダメージを負ってしまった。なんとかステージをフィニッシュすることはできたが、これで終わりだと分かっていた」とヌーヴィルは首をうなだれた。

 首位のタナクはSS8カネピでこそベストタイムを奪ったが、悪化している路面コンディションを前にしてややペースをコントロール、ブリーンがSS9オテパーとSS10メーキュラで連続してベストタイムを奪ってタナクの背後9.8秒差に迫り、スペアタイヤを失ってペースが上がらないオジエとの差を12.3秒差へと広げてみせた。

 タナクはSS11エルヴァではベストタイムを奪ったロヴァンペラより1.8秒遅れの2番手タイムも、ブリーンとの差を11.7秒差へと広げるとともに試練のラリーを支配してレグ1を終えたことに満足したような笑みをみせることになった。「いくつかのステージで差を開くためにプッシュしたが、今日の午後はラフだった。危険を冒すことはできないとわかっていたし、チャンピオンシップを戦うためには、絶対に走りきらなければならないことはわかっていた。それでも高速ステージで要求されることも多く、大変な一日だった」とタナクは語った。

 2位を守ってこの日を終えたブリーンは、2つのステージ勝利を奪い、今日が人生最良の日であるかのように目を輝かせた。「もちろん人生最良の日は、僕が表彰台のトップに立つ日だが、これまでのところ、素晴らしい一日となっている。マシンは最初のステージの最初の瞬間から、文字通り、喜びだ。僕たちは明日もこのリズムを維持して、表彰台が獲得できれば最高だ」

 オジエはSS11の3.5km地点でエンジンをストールし、ブリーンとの差は17秒へと広がってしまう。彼はスタートを目前にしてタイヤの1本にデラミネーションが発生していることに気づくも、もはやスペアがないためペースを落とすしかなかったと語った。「午後の最初のステージでタイヤがリムから外れ、もうスペアを持っていなかったが、このステージのスタートでタイヤが剥離しはじめていることに気づいたんだ。どうにか走りきったのでよかったよ」

 ペースダウンを余儀なくされたオジエの後方には、同じくスペアを早々に失ってタイヤのバイブレーションに悩まされているエヴァンスを抜いたロヴァンペラが6.2秒差の背後までぴたりと迫ることになった。エヴァンスは5位までポジションを落としたが、ロヴァンペラとの差は1.9秒にしかすぎない。

 エヴァンスの25秒後方の6位には勝田が続いている。勝田は厳しい路面コンディションのなかで大きなミスもなく、6番手という安定したタイムを刻みつづけてさらなる上位進出をめざして最終日に挑むことになる。「少しミスはあったが、大きなミスは無かった。土曜日を無事に終えられて嬉しい。非常に大きな一日だったが、かなり楽しかった。ここではスローパンクを喫したので、最高のフィーリングではなかった」

 金曜日のスーパースペシャルでオジエとトップタイムを分け合ってトップに立っていたエサペッカ・ラッピ(フォード・フィエスタWRC)は、事前のテストが十分に行えなかったことからライバルたちに追いつけないかもしれないというスタート前に語っていたが、残念ながらこの予想は的中することになり、1分40秒以上離れた7位に留まることになり、チームメイトのテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)もラッピの9.2秒後方の8位につけている。

 9位にはこれがWRカーデビューとなるヒュンダイ2Cコンペティションのピエール-ルイ・ルーベ(ヒュンダイi20クーペWRC)が続き、ガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)が10位となっている。

 明日のデイ2は6SS/84.94kmという短い最終日となるが、デイサービスが設けられていないためわずかなミスも許されない1日となる。オープニングステージのSS12アルーラは現地時間7時35分(日本時間13時35分)のスタートが予定されている。