WRC2019/10/07

タナクがGBで今季6勝目、初王座に大きく前進

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 2019年世界ラリー選手権(WRC)第12戦のウェールズ・ラリーGBは全日程を終了し、初日の最終SSで首位に立ったトヨタGAZOOレーシングWRTのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)が、難しいコンディションの下、僅差バトルを制して今季6回目となる勝利を獲得した。これでタナクはドライバー選手権ポイントを240に伸ばし、28ポイントの差をつけてタイトル争いを大きくリードすることになった。

 ラリー最終日は、クロケイノグ・エリアのステージが闘いの舞台となる。10.41kmのアルウェン、6.43kmのブレニグのステージを走り、断崖沿いを行く美しいターマックステージ、4.74kmのグレート・オームをこなした後、サービスを受け、再びアルウェンとブレニグ(パワーステージとなる)を走る。用意されたステージは5カ所、38.42kmに過ぎないが、このラリーは過去数々のドラマを生んできたのだ。それを考えれば、タイム差はそれほど大きな意味を持たない。

 スタート順は前日のリザルトのリバースで2分間隔となる。1.エサペッカ・ラッピ(シトロエンC3WRC)、2.クレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20クーペWRC)、3.ポンタス・ティデマンド(フォード・フィエスタWRC)、4.エルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)、5.アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイi20クーペWRC)、6.クリス・ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)、7.セバスチャン・オジエ(シトロエンC3WRC)、8.ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20WRC)、9.タナクの順だ。土曜日に7位でフィニッシュしたテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)は、クラッシュした際のダメージが大きく、最終日のリスタートを断念している。

 スタートを待つスランディドノでは雨が上がったものの、気温は11度。予報ではこの日も雨が降るとされており、マディな一日になりそうだ。タイヤ選択はミーク、タナク、エヴァンス、ブリーンがミディアム5本。ヌーヴィルはミディアム4本+ソフト1本。ミケルセンがソフト4本+ミディアム1本。オジエはソフト3本+ミディアム2本。ラッピがソフト5本となっており、トップを争うドライバーたちが異なるアプローチを選択したのは興味深い。

 最終日のオープニングステージをなるアルウェンは、ラリーGBの他のステージとはやや異なったキャラクターを持つ。ジャンクションとジャンクションを繋いだ長いストレートが特徴的で、道幅はワイドで路面もスムーズな高速ステージだ。森林に整備が入ったことで木々が伐採されている分だけ視界はいいが、同時にコースを読むことは難しくなっている。

 ここでベストタイムを刻んだのはタナク。追うヌーヴィルも0.1秒差のセカンドベストで続いたがふたりの差はじわりと広がる。その差、11.1秒。「クルマは素晴らしい。本当にバランスが良くて僕は(ドライビングを)すごく楽しんでいるよ」とタナク。ヌーヴィルは「ともかくトライしなければ!」とまだ諦めていない。

 そのふたりを追うオジエはベストから4.2秒遅れの7番手タイムに終わった。「ラリーをフィニッシュすることに集中している」とコメント。「前のふたりを捕まえるチャンスはもうないだろうか」という質問に、彼はしばらく間をおいたあと「そうは思わない」と話したが、その顔には苦渋の表情が窺われる。

 5位のポジションを争うミケルセンとエヴァンスは、「最終コーナーで、一瞬、ヒヤリとした。ターンインした時にラインのちょうど真上に大きな石があったんだ。何とかなったけれど」と語るエヴァンスが、ミケルセンのタイムを1.5秒上回る3番手タイムを叩き出し、その差を3秒まで詰めてきた。とはいえミケルセンも「彼は本当に速い。僕たちは違ったタイヤを使用しているが、どちらが正解だったのかは最後に分かるだろう。僕はクリーンなステージを走ったし、もっと出せる自信もある」と譲らない。

 SS19のブレニグはスタートから数kmをオープンな湖沿いを走ることもあって、路面は乾いている。ここで気を吐いたのはミケルセンを捉えるべくギヤを一段上げたエヴァンス。2番時計を記録したヌーヴィルよりも2秒速いベストタイムを刻んでミケルセンを抜いて5位にポジションを上げた。首位タナクとヌーヴィルの差は10.9秒差だ。

 SS20のグレート・オームは安全上の問題でキャンセルとなり、各車はそのままサービスへと戻り、アルウェンとブレニグの再走に挑むことになった。崖っぷちのターマックを走るヘリからの壮観な映像を待っていたファンには残念な報せだが、海も荒れていたため致し方ない。

 SS21、2回目のアルウェンでベストタイムを刻んだのはエヴァンス。ミケルセンを引き離しに掛かる。ミケルセンはヘアピンコーナーでマシンをスムーズにターンすることができずにタイムロス。両者の差は3.5秒に広がった。


 最終ステージを前に首位のタナクとヌーヴィルの差は9.5秒。ヌーヴィルはセカンドベストを記録して追うが、タナクはペースをコントロールしている。「ステージは少し一定ではなくなっているが、非常にクリーンな走りができた。僕たちは今週末ずっと同じリズムを持っていたので、それを維持したい」とあくまでも冷静だ。13.8秒差の3位にオジエ。その9.4秒後方にミークがつけ、14.5秒差の5位にエヴァンス、6位ミケルセンというオーダーだ。

 最終ステージ、WRカー勢で最初に走ったラッピのタイム、3分59.6秒を後続のドライバーたちはなかなか破ることができない。トリッキーになったコンディションもあり、攻めあぐねている様子だ。そんな状況下で存在感を示したのはオジエ。ラッピのタイムを0.5秒上回ってみせた。今回は選手権を争うタナク、ヌーヴィルに対して安定したスピードで勝ることができなかったものの、一発勝負に出た形だ。

 だが圧巻は最後に走ったタナク。オジエのタイムよりもさらに0.5秒速いベストタイムを叩き出して、自らの今季6勝目を祝うボーナス5ポイントを獲得した。タナクは「長い週末だった。プレッシャーもあった。(2位とのタイム差は)10秒よりも大きくなることはなかった。すべてのステージで限界ギリギリの走りだった。大変だったけれど、今は気分がいいよ。まだシーズンは2つのラリーを残している。過去たくさんのドラマを見てきたからね。僕たちはまだ進み続ける必要がある」と、ラリーを振り返った。

 2位はヌーヴィル、3位にオジエが続き、4位には初日ラリーをリードしたミークが入った。5位は熾烈なバトルを制したエヴァンス。金曜日のサスペンショントラブルさえなければ、優勝争いを展開していただろう。だが、ケガからの復帰戦での5位は良いリザルトといえるのではないか。6位にミケルセン、7位ティデマンド、8位ブリーンという結果となった。

 ドライバー選手権では、首位タナクが240、オジエが212で続き、ヌーヴィルが199となり、タナクが初タイトルにむけて大きなリードを手にすることになった。また、マニュファクチュアラー選手権は、ヒュンダイ・シェル・モービスが340、トヨタGAZOOレーシングWRTが332とわずか8ポイント差に急接近、シトロエン・トタルが278ポイント、Mスポーツ・フォードが200ポイントで続いている。

 2019年シリーズも残すところ2戦。次戦ラリー・デ・エスパーニャは、10月24日にスタートとなる。