WRC2019/08/25

タナク首位堅持、トヨタが1-2-3で最終日へ

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 2019年世界ラリー選手権(WRC)第10戦ラリー・ドイッチュランドは、24日土曜日に行われたレグ2を終えて、トヨタ GAZOOレーシングWRTのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)が首位をキープ、2位にはチームメイトのクリス・ミーク、3位にはヤリ-マティ・ラトバラが浮上しており、トヨタが1-2-3態勢を築いている。

 素晴らしく晴れた朝を迎えたボスタールゼー。土曜日の舞台は、昨年まで朝と午後に2回の走行が行われていたフライゼン(14.78km)とルーマーシュトラッセ(12.28km)が朝のループにノーサービスで連続して2回ループする構成となり、ボスタールゼーの40分間のデイサービスを挟んだ午後のステージは、アリーナ・パンツァープラッテ(10.73km)とラリー最長のパンツァープラッテ(41.17km)の2つのステージを15分間という短いサービスを挟んで2回ループするという変則的な構成となっている。

 土曜日は前日までのリバースのスタートオーダーとなり、オープニング・ステージのSS8フライゼンのステージタイムの上位はクリーンな路面に恵まれた早いスタート順のドライバーが占め、前日の最終ステージで惜しくもギヤボックストラブルで表彰台バトルから8位まで後退することになったダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)がトップタイムを奪うことになった。

 走行のたびに泥や石がかきだされる状況のなかで初日をトップで終えたタナクは慎重なペースを選ぶことになり、2.8秒差の2位でこの日を迎えたヌーヴィルが3番手タイムを奪ってタナクに1.5秒差まで迫ることになった。

 ヌーヴィルはSS9ルーマーシュトラッセでもさらにプッシュ、一気にタナクに襲いかかる。だが、彼はグラベルがでていたジャンクションでオーバースピードのためにスピン、エンジンをストールさせてしまう。スターターボタンを何度押してもエンジンが始動しなかったため、ヒヤリとさせることになったが、ニコラ・ジルスールがセンターコンソールの切れていたヒューズのスイッチをクリックをしたことでエンジンの始動に成功、ふたたびコースに復帰することになる。このSS9ではタナクがベストタイム、トラブルで5.2秒ロスしたヌーヴィルは、この週末の最大の遅れとなる6.7秒のビハインドを抱えることになる。

 しかし、ヌーヴィルはプレッシャーを掛け続けることを諦めない。リグループをはさんでフライゼンの2回目の走行となるSS10で、彼は明らかに朝よりダーティになったステージをコース巾をぎりぎりまで使ってプッシュ、タナクとの差を0.2秒削りとる。さらに、このステージでフロントバンパーのダイビングプレーンを左右ともに破損した破損したタナクが次のSS11ルーマーシュトラッセで4番手タイムに終わるなか、ヌーヴィルが連続してベストタイムを叩き出し、5秒差へとふたたび迫ってきた。

 3位にはセバスチャン・オジエ(シトロエンC3 WRC)が必死に続いているが、残念ながらトップの2人を追うほどのペースはない。SS9ではジャンプの着地でコースオフしそうになるなど、ドライブしにくいマシンで奮闘している状態だ。3.7秒差の背後にはクリス・ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)、さらに7.9秒後方にはヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)が続いているが、二人は無理してポディウムを狙うというより、トヨタのマニュファクチャラー選手権のために堅実なペースを維持している。

 6位にはアンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイi20クーペWRC)がつけており、7位には前日のギヤボックストラブルの遅れから挽回すべく猛ペースで追い上げたソルドが、スピンでタイムを落としたエサペッカ・ラッピ(シトロエンC3 ERC)をSS10フライゼンで抜いて7位まで浮上してきた。

 午後のループは今年、特別な舞台が準備されることになった。バウムホルダーの軍用道路のステージ群は、ドライバーの夢を打ち砕くドラマが起きることでも有名だが、今回はさらに難易度を上げるために実質的にすべてのセクションがこの10年の歴史で初めて逆方向での走行となっている。

 バウムホルダーの難しさは路面の多様な表情だ。滑らかでフラットなターマックは、すぐに崩れた路面に転じ、でこぼこしたコンクリートや石畳、尖った石や砕けたコンクリートが転がる路面へと変化を繰り返す。そしてスリッパリーな路面でマシンを少しでも滑らせようなものなら、路肩には戦車の脱輪を防ぐためのコンクリート製の強靱なヒンケルシュタインが待ち受ける。

 SS12アリーナ・パンツァープラッテでは、バンピーなステージでブレーキがロックすると嘆きながらもタナクがベストタイムで発進。午後のループでもタナクに対してプッシュし続けると誓っていたヌーヴィルも0.6秒差の2番手タイムで食らいつく。「次は長いパンツァープラッテだ。タイム差もわずかだ。僕らはここにむけてセットアップを少し変えてみた。僕らはプッシュし続けるよ」

 だが、これまでほんの数秒差のスリリングな戦いを繰り広げてきたヌーヴィルにドラマが起きる。41.17kmというラリー最長のパンツァープラッテをスタートしてわずか4.5km地点で彼はパンクした左リヤタイヤを交換するためにマシンをストップ、1分24秒をロスして7位へと後退、勝利への期待はここで打ち砕かれてしまう。

「左リヤがパンクしてしまった。僕たちに運がなかったんだ。僕たちは道路の真ん中にいたから、それがどこからきてそうなったのかさっぱりだ。しかし、もちろん戦いはまだ終わったわけではない」

 タナクは「厳しいステージだった」と語りながらもここでもベストタイムを記録、ヌーヴィルの後退でリードを42.6秒へと広げることに成功する。そしてここで順位を失ったのはヌーヴィルだけではない。タイヤマネージメントの勝負でもある長いパンツァープラッテを得意中の得意としてきたオジエが、ここで6番手タイムに沈み、ミークとラトバラにポジションを譲り4位へと後退することになった。「残念だがこれはなんとなく予想がついていたよ・・・。僕のできることはすべて尽した」とオジエの言葉も少ない。上位陣に大きな動きがあったバウムホルダーの1回目のループを終えて、ついにトヨタが1-2-3態勢を築くことになった。

 ラリーカーはボスタールジーのサービスに戻り、15分のサービス後にふたたびバウムホルダーのループへと向かうことになる。ミークとラトバラは前ステージでオジエを抜いて2-3位になったとはいえ、その差はわずかだ。SS14アリーナ・パンツァープラッテではラトバラがベストタイム、オジエとの差を0.5 秒から2.7秒へと広げて、ミークに1.1秒差に迫ることになる。

 そして、三人がわずか3.8秒という僅差で迎えた最終ステージにさらなるドラマが待っていた。オジエがフロントタイヤをパンク、このステージで1分30秒以上を失った彼は表彰台のチャンスどころか8位へと転落してしまう。「フロントタイヤのパンクだ。ラリー全体の結果が残念なものになりそうだ。極めつけにこんな不運だよ」と彼はステージエンドで声を震わせた。

 タナクが大きくペースを落としてセーフティにフィニッシュしてがっちりと二日目の首位をキープ、32.4秒をリードして3年連続のドイツ勝利に王手を掛けた。ミークがラトバラの追撃から逃れるようにベストタイムで2位を堅持、ラトバラは「僕はとにかくミス無しで今日を終えたかった。このステージにおいては必ずしもパフォーマンスが重要ではなかった」と語り、選手権のためにも3位をがっちりと守ったことに満足したように笑顔をみせていた。

 ラトバラの29秒後方にはソルドが続き、トヨタと選手権を争うヒュンダイが4-5-6位を占めている。ヌーヴィルは最終ステージでミケルセンを抜いて5位に浮上、4位のソルドとは24.4秒差とやや開いている状況だが、明日の最終日、ことによればヌーヴィルのドライバーズ選手権のためにチームオーダーがあるかもしれない。

 また、トヨタ・ヤリスWRCのWRCデビュー戦に挑んでいる勝田貴元は、めまぐるしくグリップレベルが変化するバウムホルダーのステージでコースオフを喫しながらも着実に走り切るという目標を最大の試練となったこの日も見失っていない。彼はガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)に次いで、見事、ポイント圏内の総合10位でこの日を終えている。

 最終日は4SS/79.50kmと短いものの、その舞台はけっして最後まで侮れない難ステージだ。2014年にラトバラは勝利目前でドロンタル・ステージのブドウ畑でマシンを止め、代わって首位に立ったミークもグラーフシャフトでクラッシュして初優勝を逃しているだけに、まだまだ最後まで目が離せない戦いになるはずだ。