WRC2020/01/26

トップ3が6秒の僅差、エヴァンス初制覇なるか

(c)Toyota

(c)Hyundai

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 2020年FIA世界ラリー選手権(WRC)開幕戦ラリー・モンテカルロは、土曜日のDAY3を終え、トヨタGAZOOレーシングWRTのエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)が首位を奪い返したが、チームメイトのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)が4.9秒差、ヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)も6.4秒差で続いており、勝負の行方は最終日まで分からない状況となっている。

 ラリー・モンテカルロのDAY3は、ギャップ北部のサン・レジェ・レ・メレーズ〜ラ・バティ・ヌーヴ(16.87km)と東部に位置するラ・ブレオル〜セロネ(20.73km)の2つのステージをサービスを挟んで2回ループする1日となる。レッキ時にはおよそ30%が凍結していると報告されていたオープニングSSのサン・レジェ・レ・メレーズ〜ラ・バティ・ヌーヴは、数日好天が続いたことでウェットになったセクションが続いているが、それでも標高1574mのモッシエール峠の頂上が近づくにつれて無数のブラックアイスとアイスパッチがドライバーたちを待ち受ける。

 ヒヤリとさせたのは7 位につけていた勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)だ。彼は8.9km地点のブラックアイスでスピン、スノーバンクにヒットしてラジエータグリルに詰まった雪を取り除くためにマシンを止めたため3分20秒あまりの遅れとなり、ポジションを一つ落とすことになった。また、4位につけるセバスチャン・ローブ(ヒュンダイi20クーペWRC)ですら大きくマシンをスライドさせてスノーバンクに乗り上げ、左フロントのダイビングプレーンと右リヤのフェンダーを壊すことになるも、彼は4番手タイムで難所を切り抜けた。

 このオープニングSSでベストタイムを奪ったのは3位につけていたヌーヴィル。首位のオジエに5.6秒差、2位のエヴァンスに2.8秒差に迫ることになった。ヌーヴィルは前日、首位を奪われてフラストレーションが溜まる1日となったが、それでも昨夜行ったセッティング変更によってより快適に感じられるマシンに一歩近づいたと満足した様子だ。「セットアップがうまくいったね。十分な自信を持っていいステージを走ることができた」

 いっぽう、このサン・レジェ・レ・メレーズで昨年、クラッシュでリタイアとなったエヴァンスは3番手タイムに留まるも、スタート前からここではライバルたちに数秒プレゼントするだろうと語っていた彼にとって、首位との差が2.8秒差に広がったことも想定内だったようだ。「ためらいもあったし、やや慎重だったかもしれないが、全体的にはまずまずだった」と安堵したように語っていた。ここでペースを落としたことは、次のステージにむけた計算ではなかっただろう。しかし、ふたたびアイスがウェットの難しいステージとなったSS10ラ・ブレオル〜セロネでエヴァンスは前ステージで温存したスタッドにも助けられることになる。

 エヴァンスは20.73kmのこのステージでオジエに7.6秒差、ヌーヴィルに対してはなんと13.8秒という差をつける圧巻のベストタイム、オジエに4.8秒差をつけて首位をとりもどしてギャップのデイサービスへと戻ってきた。「良い走りだったね。自分がスムーズにほとんどの場所でスピードに乗ることできると感じた。最初のパートではスタッドをダメにしないように心がけたんだ。グラベルクルーが通ってから明らかに氷が溶けていたからね」

 首位に近づいたはずが、16.5秒差をつけられたヌーヴィルも太陽が出てきたことでアイスノートクルーとの情報に誤差が生じ始め、ペースを迷わされたことを認めている。「このステージでもいいペースを維持できたと確信したが、そうではなかった。アイスノートクルーが走ったあと、かなりの時間があったのでコンディションはかなり変化した可能性がある」

 オジエもまたここでは限界を見つけるのは困難だったと語り、エヴァンスがみせたペースを称賛する。「エルフィンは素晴らしい走りだった。グラベルクルーの情報を信頼していくことをすごく悩んだよ。かなりコンディションも変わっていたので、限界を見極めるのは困難だったし、これ以上、危険なゾーンで走りたくなかった」

 ギャップの気温が10度近くまで上昇したことから、トップ3ドライバーはともにスーパーソフト5本をチョイスして午後のループにむかう。SS11サン・レジェ・レ・メレーズ〜ラ・バティ・ヌーヴの路面は暖かい日射しを受けて朝より明らかにドライになっていたが、峠の頂上付近やダウンヒルセクションは溶けた氷が川となって流れており、ところどころには危険なアイスが今も残り、オールドライタイヤのドライバーたちを悩ますことになる。

 このステージでは朝に行われた1回目の走行でも速さをみせたヌーヴィルがふたたびベストタイム、「できることはすべてやった」と1回目の走行で自身が記録した最速タイムを54.2秒も更新してみせた。オジエもまた、0.8秒差の2番手タイムで続き、またもここでペースを落としたエヴァンスを捉えて同タイムの首位で二人のトヨタ・ドライバーが並ぶことになった。「僕たちはプッシュし続ける必要がある。非常に接戦なので、これを継続するつもりだ」と決意を露わにしたオジエに対して、エヴァンスは「たぶん氷の上で少し慎重になったのだろう」と説明したものの、戸惑いを感じているような笑みを浮かべることになった。

 土曜日最後のSS12ラ・ブレオル〜セロネダウンも朝よりドライな路面となったが、中盤から終盤へと向かうダウンヒルには数100m以上にわたってアイスパッチとシャーベット状のアイスが覆うなど、ドライタイヤにはトリッキーなセクションが残っている。

 このけっして油断できないステージとなったにもかかわらず、自信に満ちた走りでヌーヴィルが連続ベストタイム、「僕たちは朝よりずっと自信を持てるようになった。必死にプッシュした。非常にスリッパリーなコンディションだったので、これ以上の走りはできなかったと思う」

 エヴァンスはゴールを目前にして路肩の雪を踏んでスライド、あわやディッチに落ちかけて4.6秒をロスすることになったが2番手タイム、オジエは危険な後半のセクションで驚くほど冷静にペースを選んで9.5秒差の3番手タイムでフィニッシュすることになった。この結果、エヴァンスが2日目を単独首位で終え、4.9秒差の2位にオジエ、ヌーヴィルも首位から6.4秒差、オジエからは1.5秒遅れという僅差で最終日を残すのみとなった。

 終盤の左コーナーでオフしてディッチにはまりそうになったエヴァンスは、幸運の女神が微笑むのを見たようだ。「何もなさそうだったのでスロットルに触れたら、アイスでマシンが滑り、ディッチを走ることになった。僕はラッキーカードを持っているようだ! チームオーダー? 僕はまだ聞いてないよ! そのことは考えず、明日のチュリニでベストを尽くすことだけ考えるよ」

 危険な場面で思い切って「引く」勇気をみせたオジエは、2位で最終日を迎えることになったが、7年連続の勝利を諦めたわけではない。

「氷の上で慎重になりすぎたかもしれない。しかし、とてもチャレンジングだったからね。ちょっとしたミスでディッチに落ちたくなかった。けど、僕らにはミスは無かった。それが重要だよ。ギャップも大きくないし、明日のためのリセットだよ」

 4位につけていたローブは、最終ステージでエヴァンスがオフしかかった場所でブラックアイスにのってスピン、5位につけるエサペッカ・ラッピ(フォード・フィエスタWRC)に14.1秒差に迫られることになってしまった。

 WRカーでモンテ初参戦のカッレ・ロヴァンペッラ(トヨタ・ヤリスWRC)はこの日は安定したペースを刻んで6位をキープ、オープニングSSでスピンを喫して8位に後退した勝田も試練の連続のなかでさまざまな試行錯誤を繰り返しながらもコンスタントなタイムを記録して最終ステージでは7位を取り戻している。

 ギャップで行われたこの週末の最後のサービス後、ドライバーたちはモナコへ向けて245kmを移動することになる。明日の最終日はノーサービスの1日となり、早朝にハーバー沿いの公園で行われるタイヤ交換のみで4SS/63.98 kmを走り切らなければならない。トップ3がわずか6.4秒差でスタートする最終日、どんなドラマが待っているだろうか。