WRC2019/03/31

ヌーヴィル、波乱コルシカの首位に躍進

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 FIA世界ラリー選手権(WRC)第4戦ツール・ド・コルスは、ヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が逆転で首位に浮上することになったが、Mスポーツ・フォードWRTのエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)も4.5秒差で続いている。また、一時、首位を奪ったトヨタGAZOOレーシングWRTのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)はパンクのために6位にポジションを落としてしまった。

 快晴の朝を迎えたバスティア。雨が降る気配はまったくなく、気温は昼過ぎには16度に上がると天気予報は伝えている。レグ2は、キャップ・コルス(25.62km)から始まり、デザート・アグリアッツ(14.45km)、ラリー最長のカステニッシア(47.18km)の3ステージをバスティアのサービスを挟んで2回ループする1日となる。

 長いループの最後にタフなロングステージが待ちうけるだけに、最初のステージのSS7キャップ・コルスからタイヤマネージメントを重視した戦略で臨むかにも見えたが、3つのベストタイムで初日のリーダーを奪ったエヴァンス、そして4.5秒差で続くタナクはここでもいきなり火花を散らす走りをみせることになる。

 タナクは気迫に満ちた走りで、3位につけているティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)を3.2秒も上回るベストタイムで駆け抜けて、「良いバトルだ。今日はタイトになりそうだから、いい走りをしないとね」と自身のタイムに自身をみせたが、エヴァンスも20kmを超えた地点のスプリット4でもタナクとは0.1秒の差すらつかないまったく同タイムで並んでみせた。エヴァンスは最後のセクションで0.6秒を失い、リードを3.9秒に削られたものの、「いくつか消極的になってしまったエリアがあった。もっといけたはずだ」と自身に鞭を入れる。

 しかし、続くSS8デザート・アグリアッツでもタナクは連続してベストタイム。「限界ギリギリで、プッシュする必要がある。一歩も引くことはできない」と語った彼は、エヴァンスとの差を一気に0.2秒差まで詰めることに成功する。エヴァンスはここではタイヤを痛めないようにクリーンに走って次のSS9カステニッシアでの巻き返しを期すことになる。

 SS8がまるでサーキットのようなスムースな路面をもつのに対して、ラリー最長のSS9カステニッシアは、狭くナローなセクションや舗装が痛んでグラベルが露出したラフなセクションがあるなど、もっともクラシックなコルシカの雰囲気をもつステージだ。

 WRC2プロをリードするカッレ・ロヴァンペラ(シュコダ・ファビアR2)がクラッシュするなど数々のドラマが起こったこのステージで、エヴァンスもまたヒヤリとさせられる。彼は序盤のグラベルセクションでリヤをスライドさせて岩にヒット、幸いマシンには大きなダメージはなかったが、タナクに2.3秒差をつけられ、ついに首位を明けわたすことになってしまった。「リヤが何かに接触してしまいそこからハンドリングが微妙に変わってしまった。大したことではないが、少なくともいい影響はないよ」と彼は厳しい表情を浮かべた。

 マシンのスライドにやや苦しみながらも朝のループを3位で終えたのはヌーヴィル。SS8では2番手タイムを奪って少しずつ手応えを感じつつも、朝の時点で5.3秒差だったタナクからは17.2秒まで引き離されてしまった彼は、トヨタの速さについていけないと認めている。「走りはまあまあだが、首位から少し離れてしまった。トヨタとタナクにはついていけないという気持ちがある。僕らの目標はエルフィン(・エヴァンス)だが、彼も非常に速く走っている。僕らは同じリズムをキープして、ライバルが間違いを犯すかどうかを待つよ」

 ラリー最長ステージでベストタイムを奪ったダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が4位をキープも、クラッチが滑り始めたテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)を抜いたセバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)が16.4秒に迫ってきた。

 バスティアのサービスをはさんで午後のループを迎えたが、ステージの上には雲一つない青空が広がり、気温も16度まで上昇してきた。SS10キャップ・コルスではクリス・ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)がこの週末2つめのベストタイムで駆け抜けるなか、エヴァンスが2番手タイムで続き、首位のタナクにふたたび1.6秒差に肉薄、まだ集中力を失っていないことをアピールする。

 前戦メキシコでもエヴァンスは2位で迎えた最終日にタナクに抜かれて3位へと後退しているだけに、今度こそとの思いもあるだろう。しかも、今度は優勝争い、どちらが勝ってもコルシカ初優勝だ。

 
 だが、二人の熱いバトルがこのまま続くかに見えた矢先、SS11デザート・アグリアッツでまさかの出来事が待っていた。非常にスムースな路面のこのステージでタイヤ交換のために2分を失ってしまったヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)に続いて、なんとタナクもまさかのパンク! 8km地点でタイヤ交換のためにマシンを止めることになってしまった。

 2分を失い、7位へと順位を落とすことになったタナクは、ステージエンドで、「パンクだ。非常に奇妙なことにね。まぁいい」と、ショックさえ感じてないかのような無表情な様子で語ったが、モンテカルロでもホイールリムの破損によって優勝を失っているだけに、またしてもとの悔しい思いもあるだろう。

 この波乱でエヴァンスはふたたび首位を奪還することになったが、彼には一息入れる余裕はない。このステージでベストタイムを奪ったヌーヴィルが11.5秒後方に迫ってきたからだ。「オイットは不運だった。だが僕たちはまだ競わなければならない。後ろのドライバーとのギャップはさほど開いていないからね」

 そして迎えたのはラリー最長の47.18kmのカステニッシア。ここでさらなるドラマが起きることになる。なんと2位につけていたヌーヴィルがエヴァンスを16秒も引き離す快心の走りで逆転に成功する。ゴールして自身のタイムを知る前に彼はすでにその手応えを感じて、コクピットのなかで歓声を上げている。「頑張ったよ。僕たちのミッションは、絶対にミスしないことだったが、僕はマシンに良いフィーリングを持っていた。今朝から少しペースを上げ、ハンドリングがさらに向上したので、攻めることができたよ!」

 いっぽう、16秒を失い、総合タイムでもヌーヴィルに4.5秒抜かれて2位に転落したエヴァンスは、「何が起きたのか?」の問いにも、「分からないよ。良いステージだと感じていた。どうしてだろう。全力を尽くしたが、残念だ」と呆然とするしかなかった。

 オジエは午後のループでもじわじわとペースをアップ、最終ステージでアンチラグシステムに問題を抱えながらもソルドを抜いて3位へと浮上している。とはいえソルドもまだ5.1秒差で続いており、なにかの問題を抱えているらしく重い口ぶりのスニネンが5位、最終ステージでエサペッカ・ラッピ(シトロエンC3 WRC)を抜いたタナクが6位までポジションを戻している。

 また、初日のサスペンション破損によって8位で二日目を迎えたセバスチャン・ローブ(ヒュンダイi20クーペWRC)は、SS7では3番手タイムを出してさらにペースを上げるかに見えたが、SS9のタイトコーナーでスライドしてオフ、どうにかコースには戻ることができたが、終始、アンダーステアに苦悩して8位にとどまっている。

 最終日はバスティアの朝のサービスのあとノーサービスの一日となり、オウ・デ・ジリア(31.85km)のあとパワーステージとして行われるカルヴィ(19.34km)の2つのステージで争われる。ヌーヴィルが逃げ切ってコルシカ3勝目を挙げるのか、あるいはエヴァンスに逆転の勝機はあるのか。オープニングSSは現地9時45分(日本時間16時45分)のスタートが予定されている。