WRC2020/01/27

ヌーヴィル、逆転でモンテカルロ初優勝

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2020年世界ラリー選手権(WRC)開幕戦ラリー・モンテカルロは26日に最終日を迎え、この日の朝を3位でスタートしたヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が1-2態勢で築いて最終日を迎えたトヨタの二人を逆転、88回の開催を迎えた伝統の一戦で初優勝を飾ることになった。

 モンテカルロ最終日はモナコの北部におかれたおなじみのルートとなり、チュリニ峠を駆け抜けるラ・ボレーヌ・ヴェジュビー〜ペイラ・カヴァ(18.41km)と下りのタイトターンが連続するラ・カバネット〜コル・ド・ブロー(13.58km)の2つのステージを連続して2回ループし、2回目のラ・カバネット〜コル・ド・ブローがパワーステージとして行われる。最終日のサービスはなく、早朝にハーバー沿いの公園で行われるタイヤ交換のみで4SS/63.98kmを走り切ることになる。

 昨夜、モナコやチュリニ峠では昨夜、雨が降っているとの情報がもたらされ、標高が高いところでは早朝には雪に変わる可能性も囁かれたが、オープニングステージのSS13ラ・ボレーヌ・ヴェジュビー〜ペイラ・カヴァは標高1607mチュリニでさえ降雪はなく、峠付近とそれを越えた下りに一部凍結したセクションも残るが、基本的にはウェットのステージになった。

 DAY3を終えてエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)が首位、4.9秒差の2位でチームメイトのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)が続き、トヨタの22年ぶりのモンテ勝利に期待がかかるが、ヌーヴィルはオジエから1.9秒遅れの3位、首位からもわずか6.4秒差で続いており、勝負の行方はまだまったく見えない状況だ。

 このオープニングSSでベストタイム奪って発進したのはヌーヴィルだ。2番手タイムとなったエヴァンスに5秒差、3番手タイムのオジエには6.2秒差をつける素晴らしいベストタイムを奪い、首位まで1.4秒差に迫るとともにオジエを抜いて2位へと浮上することになる。

 思った以上にタイム差をつけられたトヨタ勢の二人は複雑な表情だ。オジエは、「僕たちにとってあまり良いステージではなかった。完全に快適とはいかなかった。前も言ったが、僕は自分のフィーリング以上には決してプッシュしない」と、昨日までと路面コンディションが変わったことで昨夜まであったいい感触と自信が失われてしまったことを示唆する。エヴァンスも「僕たちの走りは完璧ではないが、悪いものではなかった。ティエリーが良い走りだったということだ」と、このタイム差に首をかしげることになる。

 しかし、続くSS14で昨日までと流れが完全に変わったことをヌーヴィルもトヨタ勢もはっきりと認識することになる。南向きのタイトターンが連続するダウンヒルのあとコル・ド・ラブレへと駆け上り、ふたたびダウンヒルセクションでゴールを迎えるこのステージは基本的にはドライだが峠付近の湿ったコーナーはただ湿っているだけでは説明できないほどスライドを引き起こし、明らかにブラックアイスをもつ難しいコンディションとなっている。

 ヌーヴィルはステージエンドで「ここはヒュンダイ向きではないが、懸命にプッシュした」と語り、首位のエヴァンスにここでも少しだけ近づきたいと控え目に語ったが、なんと後続のエヴァンスはここでも5.4秒差をつけられ、4秒差でヌーヴィルに首位を明けわたすことになる。3位のオジエもここでも6.5秒を失い、首位から11.2秒という大きな遅れを喫してしまう。

 ヌーヴィルは、続くラ・ボレーヌ・ヴェジュビー〜ペイラ・カヴァの2回目の走行となるSS15でも3連続となるベストタイムを叩き出して、トヨタの二人を突き放しにかかる。2位のエヴァンスはさらに7.1秒遅れて首位からは11.1秒という致命的な遅れを喫してしまう。エヴァンスはまったくタイムが伸びない原因には思い至らず、ただ表情が険しくなるばかりだ。「そんなに悪い走りだとは感じなかったが、明らかにタイムが良くない。原因がなにか、僕には確信が持てない・・・」

 オジエもヌーヴィルからは12.6秒遅れとなり、7年連続のモンテ勝利は絶望的な状況となったが、セットアップを微修正したことでフィーリングが少し良くなったことでペースを改善、エヴァンスの1.5秒差に迫ることになった。

 そして残すのは最後のパワーステージ、ラ・カバネット〜コル・ド・ブローのみ。ステージをスタートしようとするヌーヴィルのマシンはホイールリムを破損しており、ここまで全開の鞭を入れてきたことを物語っていた。タイヤもけっしてベストなコンディションではなく、ホイールはもう一回なにかあれば致命的なトラブルになる恐れもあったが、ヌーヴィルは最後まで勢いを落とすことなく、悲願のモンテ初制覇を飾ることになった。また、それまで暫定トップタイムを叩きだしていたオジエを0.016秒突き放してパワーステージ勝利を獲得、フルポイントを達成してパーフェクトな勝利でシーズンをスタートすることになった。

「素晴らしいフィーリングだった。この勝利を長いことを追い求めてきたが、この週末は自分たちのパフォーマンスをしっかり披露することができた。シーズンを最高の形でスタートすることができたよ」と、ヌーヴィルはいつも以上に興奮した様子で語った。

 2位と3位は最終ステージで順位を入れ替えることになった。オジエはここでエヴァンスを逆転して12.6秒差の2位でフィニッシュ、首位で最終日を迎えたエヴァンスはオジエから1.7秒差の3位となった。

 一方、トップ3からは2分24秒遅れた4位で最終日をスタートしたセバスチャン・ローブ(ヒュンダイi20クーペWRC)にはドラマが待っていた。土曜日の最終ステージのスピンで後続のエサペッカ・ラッピ(フォード・フィエスタWRC)に14.1秒差の後方に迫られることになったローブは、すべてのドライバーが2本のスペアを搭載したのに対して1本のみで逃げ切る作戦を敢行する。

 しかし、ローブはSS14のヘアピンでマシンをスライドさせてディッチにオフ、観客の助けを借りてどうにかコースに復帰できたものの30秒近くをロス、ラッピの逆転を許すことになる。さらにローブはこのアクシデントでホイールを壊してしまい、スペアを使い果たした彼はペースを落とすことになり、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)に5位を譲って、総合6位でフィニッシュを迎えることになった。

 また、トヨタ・ヤリスWRCでの初めてのモンテカルロに挑んだ勝田貴元は、最終日も堅実なペースを守ってキャリア最上位となる総合7位でフィニッシュ、10位でフィニッシュした昨年のドイツに続いて2度目のドライバーズポイントを獲得することになった。

 開幕戦を終えて、ドライバーズ選手権ではヌーヴィルが30ポイントでリード、22ポイントのオジエ、17ポイントのエヴァンスが続いており、金曜日にリタイアしたワールドチャンピオンのオイット・タナクは0ポイントでシーズンをスタートすることになった。

 マニュファクチャラーズ選手権では、タナクのリタイアにもかかわらず、ヒュンダイ・モータースポーツが35ポイントでトップに立ち、2ポイント差の33ポイントでダブルポディウムを達成したトヨタGAZOOレーシングWRTが続き、Mスポーツ・フォードWRTが20ポイントとなっている。

 次戦は2月13-16日に予定される第2戦のラリー・スウェーデンだが、現地からは雪不足との情報がもたらされており、開催そのものが懸念されている。