2018年世界ラリー選手権(WRC)第7戦ラリー・イタリア・サルディニアは、最終ステージまでスリリングなバトルとなり、ヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィルが0.7秒差でセバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)を逆転して今季3勝目を飾ることになった。
雨のなかで始まったラリー・イタリア・サルディニアのラリー・ウィークだが、最終日は三日間でもっとも暑い一日となり、気温が30度に迫るなかでオジエとヌーヴィルの対決も熱を帯びることになった。
金曜日の午後からラリーリーダーに立ったオジエは、土曜日もヌーヴィルとの激しいバトルを制して首位を守ったが、その差はわずかに3.9秒にすぎない。今季もっとも僅差の優勝争いとなった最終日は、ヌーヴィルがオープニングステージのSS17カーラ・フルミーニ(14.06km)でオジエを0.8秒上回るベストタイムでその差3.1秒まで迫って始まることになった。
さらにヌーヴィルは続くSS18サッサリ〜アルジェンティエラ(6.96km)での連続してベストタイム、ついにオジエとの差を1.3秒へと縮めることになった。
ヌーヴィルはステージエンドでこのバトルを楽しむように笑顔をみせたが、今の気持ちを問われて、「分からない! コースオフとミスをしないように気をつけて限界までプッシュしただけだ。このレベルでは皆が激しくプッシュする。そしてオジエと競うことは最も難しい!」
オジエも、「接戦だ! このステージはとにかく努力したが、もっと積極的に行くことが出来た。次のステージでもさらにプッシュしなければならないだろう」とさらなるプッシュを誓っていた。
カーラ・フルミーニの2回目の走行となるSS19でも拮抗したバトルが続くことになる。終盤のコーナーでワイドになったヌーヴィルが石の壁にぎりぎりに迫ってひやりとさせたが、彼はここでもベストタイム。渾身のアタックを仕掛けたオジエはヌーヴィルからわずか0.5秒遅れの2番手タイムに終わったが、ぎりぎり0.8秒差をつけて首位をキープすることになった。
オジエはステージエンドでラリーをリードしていることを知って瞬笑顔をみせたかようにも見えたが、なにもコメントを残さず、なにかに急かされるようにタイムコントロールでチェックしたタイムカードを受け取らずに走り去ってしまう。
幸いにも彼の後方のタナクがカードを受け取り、次のリグループの前でジュリアン・イングラシアに渡したために事無きを得ているが、オジエはここでも差を縮められたことに心中穏やかではいられなかったのかもしれない。彼がこのまま逃げ切ってパワーステージを制することができれば、選手権でのヌーヴィルのリードは現在の19ポイントから11ポイントに減るが、逆転劇が起きればヌーヴィルのリードは27ポイントに広がることになる。
選手権の行方を左右する重大局面となったパワーステージで、先に走行したヌーヴィルはイン側のバンクに乗り上げて片輪走行になりながらもそれまで走ったタナクの暫定トップタイムを4秒も上回ってみせる。
しかし、ステージは朝の走行とは様相が違い、荒れて無数の石が転がっており、限界の走りで挑むにはすでにあまりにもリスキーになっている。オジエは最初のスプリットではヌーヴィルを0.7秒上回り、この時点でバーチャル的には1.5秒のリードをしたが、終盤の荒れたセクションではタイムをロス、ゴールを駆け抜けたときには1.5秒という致命的な遅れを喫し、0.7秒差で勝利を奪われることになった。
オジエは勝者のヌーヴィルを祝福したあと、最終ステージでいくつかミスがあったことを認めた。「最後まですべてを尽くしたが、最終ステージは非常にラフで、2つミスを犯してしまい、それがコンマ数秒を失うことに繋がってしまった。今日のバトルには負けたが、戦いにはまだ負けていない。まだあと6戦ある、焦るような段階ではない」
初日のロードオープナーというハンデを雨に助けられたヌーヴィルは、残りの2日間をかけてじわじわとチャンピオンにプレッシャーをかけ続けてきた。そして、昨年のラリー・アルゼンチンの最終ステージでの0.7秒差の逆転勝利に続いて、ふたたび歴史に残る0.7秒という僅差の勝利をもぎとることになり、選手権でも27ポイントという大きなリードでシーズンを折り返すこととなった。
ヌーヴィルは勝利が決まった瞬間、クルマに駆け上がって両手を突き上げた。「どうしてもトライする必要があった。そして僕らはすべてを出し尽くしたんだ。最後は本当に僅差だったが、素晴らしい勝利になった。チームにありがとうと言いたい」
トヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームのエサペッカ・ラッピ(トヨタ・ヤリスWRC)は、激しく3位争いを演じていたチームメイトのヤリ-マティ・ラトバラがオルタネーターのトラブルで土曜日の最終サービス前にストップ、さらに首位争いからは50秒以上も引き離されているため退屈な最終日になったが、それでも彼は初優勝を飾った昨年のラリー・フィンランド以来、11カ月ぶり3度目の表彰台に立つことになり、選手権でも今回欠場しているダニエル・ソルドを抜いて4位へと浮上することになった。
また、わずか2.1秒差で最終日を迎えたヘイデン・パッドン(ヒュンダイi20クーペWRC)とマッズ・オストベルグ(シトロエンC3 WRC)による激しい4位争いは、最終日にペースを上げたパッドンが15秒差にリードを広げてがっちりと4位をキープすることに成功することになった。
ヒュンダイはこの結果、ヌーヴィルの優勝とあわせ、マニュファクチャラー選手権におけるMスポーツ・フォードへのリードを28ポイント差へと広げ、初のチームタイトルにむけて大きなステップを踏み出すことになった。
WRC次戦は1カ月半のインターバルをおいて7月26〜29日に開催されるラリー・フィンランドだ!