WRC2020/09/20

ヌーヴィルがトルコを独走、二人のセブが2位タイ

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2020年世界ラリー選手権第5戦マルマリス・ラリー・トルコは、数々のドラマが起こった土曜日のレグ2を終えてヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が33.2秒をリード、トヨタGAZOOレーシングWRTのセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)と前日首位のセバスチャン・ローブ(ヒュンダイi20クーペWRC)が同タイムで並んで2位となっている。

 土曜日は、例年幾多のドラマの舞台となっているダッチャ半島のラフな路面コンディションをもつステージを走る一日となる。イェシルベルデ(31.79km)からスタート、西方に延びる半島の先端に位置するダッチャ(8.75km)とクズラン(13.15km)の3ステージをアスパランのサービスを挟んで午後もループする6SS/107.38kmの一日となる。

 オープニングステージとなったSS3イェシルベルデは風光明媚な風景で知られるが、その美しさとは裏腹に残酷な出来事がオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)を待っていた。金曜日に発生したダストの問題は、この日、スタートのギャップが3分間から4分間に広げられたことで解消されたが、視界を失って7位まで順位を落としてしまったタナクは、4番手という不利な走行順から猛プッシュするしかない。彼は中間スプリットまで素晴らしいタイムを刻んでいたが、25.9km地点でステアリングアームのトラブルからコースオフ、美しいエーゲ海を眺めながら走る最終セクションを前にリタイアとなってしまった。

 このステージで素晴らしい走りをみせたのはオジエだ。初日を3位で終えた彼は路面掃除から解放されて一気にスパート、ここでベストタイムを刻んで一気に首位へと浮上することになった。「僕たちはプッシュしなければならない。今のところそこまでラフではない、まだ非常にスリッパリーだが、僕にとっては悪くないステージだった」

 オジエより1.8秒遅れの2番手タイムを刻んだヌーヴィルは、「すごくラフなコンディションで自信が持てなかった。クルマに作業が必要だ」と語り、まだまだマシンには満足していない様子だが、選手権のライバルを1.7秒差でピタリとマークしている。

 いっぽう、首位で土曜日を迎えたローブはハードタイヤとミディアムタイヤをクロスに装着したが、この選択はうまくいかなかったようだ。「追い上げようとしすぎたのかもしれないが、ステージではまったくグリップがなく、とても難しかった」。彼の左リヤのミディアムは無惨にも擦り切れており、18秒もの遅れを喫した彼はエルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)からも7.8秒遅れた4位へと転落してしまう。

 SS4ダッチャではオジエがふたたびベストタイムを奪ってヌーヴィルとの差を3秒へと拡大。昨年、このステージでステアリングアームを壊したが、今年はクリーンな走りに満足したようだ。「ここはいつも難しいステージで、砂が多くて路面がルースなんだが、今回はクリーンな走りができた」

 上位陣ではただひとりだけ5本すべてにハードタイヤをチョイスして朝のループに臨んだヌーヴィルは、ミディアム1本をハードに加えたオジエの選択がこのステージでは合っていたとふり返った。「このようなコンディションでは僕らのリヤのグリップは悪い。よりソフトなタイヤを選んだ彼のほうが正解だ」

 しかし、SS5クズランではこの日初めてヌーヴィルがベストタイムで反撃、首位のオジエとの差を1.6秒差に縮めて朝のループを終えることになったが、彼はまだあいかわらずマシンには満足していないと貪欲さをみせる。「クルマに関しては正直、満足していない。もっと速く走りたいけど、クルマがそれに対応できていないような気がするんだ。テストではもっといいフィーリングがあったのでもっと競争力があると期待していたが、もう少しだ。でも、もっといいバランスを見つけて、2回目のループに向かう必要がある」

 首位でアスパランのサービスに戻ったオジエは、「良いループになったね。ここまでは問題ない」と語っているが、彼のタイヤセットはオールハードのヌーヴィルより明らかにタイヤの摩耗が進んでおり、まさしくギリギリの走りでここまでのリードを守っていることが窺えた。

 エヴァンスは朝のループを3位で終えたが、首位のオジエとは12.3秒差へと広がっており、トヨタの選手権のためにも9.4秒差の後方に続くローブの進撃からポディウム・ポジションを守りきりたいところだ。

 4位で朝のループを終えたローブは、朝のタイヤチョイスのミスを悔やむことになった。「プッシュしようとしたが、朝のタイヤチョイスでミスをしてしまった。スペア2本もミスだった。これ以上のことはできなかったよ」。彼の後方には27歳も年下のカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)が3.7秒差に近づいているが、「ラリーはまだ長いので、残りがどうなるかはわからない」と落ち着きをみせている。

 ほとんどのドライバーが朝のループではハードタイヤとミディアムをミックスして使用していたが、ほとんどが擦り切れたような状態でアスパランのデイサービスへと帰ってきた。すでに気温は31度まで上昇、午後のループはいっそうタイヤにとって厳しくなることは明らかであり、すべてのマニュファクチャラーチームのドライバーはオールハードを6本選択、サスペンションを調整して車高を上げ、深いわだちが刻まれて、掘り返された石が無数に転がっていることが予想されるステージへと向かうことになった。

 だが、1回目の走行でタナクをリタイアに追い込んだ31kmのイェシルベルデ・ステージは午後のループでいちだんと牙をむくことになる。多くのドライバーがタイヤのデラミネーションやパンクのトラブルに見舞われるなか、首位のオジエが左フロントタイヤがリム落ちしたマシンで31秒あまりも遅れてフィニッシュ、首位をヌーヴィルに譲り、3位へと後退することになった。彼はコメントをせずにステージのストップラインを離れたが、トラブルはそれだけではなくパドルシフトがスタックする問題も発生しているようだ。

 これまで3秒以上の差がつかなかった白熱した首位争いは、オジエのトラブルによってヌーヴィルが21.8秒をリードする展開となったが、彼もまたタイヤはぎりぎりだ。「僕にとっては良いステージだったが、タイヤの消耗は激しかった。ステージ終盤は非常にスライドしたからね」

 2位に浮上したとはいえエヴァンスのリヤタイヤも擦り切れてボロボロであり、さらに厳しい状態だ。「とても難しかった。タイヤの摩耗が高く、非常にラフだった」と残りのステージへの不安を隠せない。

 エヴァンスの8.1秒後方に3位のオジエ、さらに0.3秒後方にはイェシルベルデで2番手タイムを叩き出した4位のローブが迫ってきた。ロヴァンペラは5位をキープも、彼もまた右フロントをパンクしており、そぐそこにいたはずのローブからは30秒近くも離され、表彰台は遠のいてしまった。

 大きなリードを得てクールダウンしたはずのヌーヴィルはSS7ダッチャでベストタイム、SS8クズランでもセカンドベストにまとめ、リードを33.2秒へと拡大、首位でサービスへと帰ってきた。「午前中よりも午後の方が良かったのは明らかだ。特に午後のラフなセクションにおいてマシンは素晴らしくなった。明日はこのラリーの中で最もラフなステージだ。パンクやダメージは避けなければならない」とヌーヴィルは満足したように語っている。

 そして彼の後方の2位争いは終盤で思ってもみなかった様相をみせる。前ステージでパンクに見舞われたオジエはSS7でも相変わらずパドルシフトの問題を抱えながらも2番手タイムを刻み、タイヤの摩耗に苦しむエヴァンスを抜いて2位へと上がって土曜日を終えることになった。「残念な午後になったことは間違いない。何が起きたのかまだ分からない。どのステージでも、ステージを走り出して数分でシフトの問題が起きるんだ。今日は良い仕事をしたと思うので悔しいが、それがラリーだ」

 さらにSS8でローブが意地をみせるようにベストタイムを刻み、ペースが上がらないエヴァンスを抜くとともに同タイムでオジエと並んで2位でこの日を終えることになる。タナクのリタイアによってチームの選手権のためにもローブへのプレッシャーは計り知れないほど大きなものへとなったはずだが、ここ一番で底力を発揮してみせた。「上手くいったよ。午後は大丈夫だった。タイヤは限界だったので、2回目のステージは少し抑えなければならなかったが、それほど悪くない!」とローブはアップダウンの激しい一日を笑顔でふりかえった。

 スペアを失ったエヴァンスはパンクしたタイヤを応急修理して臨んだ最終ステージでも19.9秒を失い、首位からは1分遅れ、2位の二人からは27.6秒遅れとなっている。18秒差の5位にはパンクに泣いたロヴァンペラ、6位にはクリーンな走りを続けるテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)、エサペッカ・ラッピ(フォード・フィエスタWRC)はペースが上がらないまま7位で続いている。

 明日の最終日は、昨年より50kmあまりも延長されて4SS/88.86kmというタフな一日となる。オープニングステージのラリー最長ステージのチェティベッリ(38.15km)は現地時間7時30分(日本時間13時30分)のスタートが予定されている。チェティベッリは昨年、タナクが1分を失うなど難しいコンディションをもっており、二人のセブによる2位争いだけでなく、まだまだ戦いは最後まで何が起きるかわからないだろう。