WRC2022/08/07

フィンランドはタナクとロヴァンペラの一騎打ちへ

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第8戦ラリー・フィンランドは土曜日にレグ2が行われ、ヒョンデ・モータースポーツのオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がトップをキープしたものの、8ステージのうち6ステージでベストタイムを奪ったカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が8.4秒差の2位につけており、引き続きトヨタが2-3-4位を占めている。

 気温12度と少し肌寒い朝を迎えたユヴァスキュラ、昨夜の雨はいったん上がったものの、上空はいまにも降り始めそうに鈍い色の雲が広がっている。

 金曜日を終えて首位のタナクが3台のトヨタGRヤリスRally1を抑えこむ展開となっており、3.8秒差の2位にエサペッカ・ラッピ(トヨタGRヤリスRally1)、19.3秒差の3位にエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、そして4位にはカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が21秒遅れで続いている。

 土曜日はヤムサとその周辺の伝説的なステージが舞台となり、パイヤラー(20.19km)、ラプスーラ(20.56km)、パタヨキ(13.75km)、ヴェックラ(20.65km)の4ステージをミッドデイサービスを挟んで2回ループする8SS/150.31kmという正念場の一日となる。

 予想されていたとおりにSS11パイヤラーのスタートのころから雨が降り始め、次第に雨足が強くなってゆくなか、このステージでベストタイムを奪ったのは3位につけるエヴァンスだ。1.7秒後方にはロヴァンペラが続いているだけに、そうやすやすと牙城を渡すわけにはいかない状況だ、この週末初のベストタイムを奪った昨年のウイナーは、2位にラッピに8.4秒差まで迫ってみせた。

 首位のタナクのころにはヘビーレインとなったが、この悪天候にうまく対応した彼は4.3秒遅れの3番手タイムにまとめ、2位のラッピとの差を6.6秒へと拡大してみせる。それでも3位のエヴァンスは15秒差に、4位で続くロヴァンペラも17.4秒差へとぐっと迫ってきた。

 雨がいちだんと強く降ってきたSS12ラプスーラではラインには水たまりが生まれ、後続のトップグループはマディなコンディションに立ち向かうことになった。伝説的なオウニンポウヤのステージの一部を使う、ローラーコースターの象徴ともいえるステージで、それまで5位で健闘していたクレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)に波乱が襲いかかる。彼は表彰台を目指してプッシュするようチームから強い指示をうけていたが、11.4km地点の連続クレストの先でワイドになってしまいバンクの岩にクラッシュ、右リヤサスペンションを吹き飛ばして壮絶なリタイアとなってしまった。

 このトリッキーなコンディションで速さをみせたのは雨のロヴァンペラだ。ベストタイムを奪った彼は、0.7秒差ながらエヴァンスを抜いて3位へと浮上してきた。「雨は気にならなかった」というロヴァンペラに対して、エヴァンスは「クリーンなラインで走ることに集中し過ぎたのかもしれない。でもあのようなコンディションでは、どちらかに転んでもおかしくなかった」と弱気な攻めを悔やむような表情をみせた。

 タナクは2番手タイムで首位をキープ、この雨でリズムを崩したラッピはジャンクションの手前のブレーキをミスしてディッチにマシンを落としそうになってしまう。これでトップ2台の差は8.4秒へと広がっている。「簡単ではなかったよ。非常にスリッパリーで、何度もミスをしてしまった。このジャンクションはあまりにスリッパリーだった!」とラッピは落ち込んだ様子をみせていた。

 また、ラッピが苦労したジャンクションでは、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)もエンジンがストールする問題に見舞われてしまい、勝田をパスしたヌーヴィルが一気に5位へと浮上してきた。

 不安定な天候は続いており、SS13パタヨキは雨が上がっている状態でスタートしたが、後続になるとふたたび雨がフロントガラスを濡らし始めた。路面はフルウェットだ。ここでもふたたび速さをみせたのは3位につけるロヴァンペラだ。彼は連続してベストタイムを奪って、たったいま抜き去ったばかりのエヴァンスとの差を3.9秒差に拡大するとともに、首位のタナクに11.6秒差、2位のラッピには4.8秒差に近づいてきた。

 タナクはラッピに対して6.8秒のリードを築いているとはいえ、このようなコンディションでのペースは明らかに3位につけるロヴァンペラのほうが有利であるようだ。なにか問題があるのかと聞かれたタナクは、「僕らは間違いなく努力している、だから見てみよう。努力は続けているんだ」と反論した。

 SS14ヴェックラは過去70回の歴史をもつフィンランドでほぼ完全に新しいステージだ。雨も上がってコンディションも収まってきたこのステージで、それまで快調なペースを刻んできたロヴァンペラがコースを外れかかり、ひやりとした瞬間に見舞われることになる。「ノートが速すぎたんだ。完全にコースから外れてしまったんだ、だからここに今いるのはラッキーなんだ。ラリーは時にはそんな感じだ、ここにいられて本当に良かったよ」

 タナクはこの日初のベストタイムを奪い、2位のラッピとの差を9.5秒に、3位のロヴァンペラとの差を12.9秒に広げて朝のループを終えることになったが、まだ完全に満足していないマシンだと説明する。「僕にはひやりとする瞬間はなかったし、僕らができるすべてだった。思い通りのハンドリングができない時があり、リスクを冒して行くと必要なラインを取ることができないんだ」

 エヴァンスはロヴァンペラの5秒後方のトップ4に名を連ねるが、セットアップ改善の努力が報われないまま、昨年優勝を飾ったときのような完全なゾーンに彼をいざなってくれないようだ。「マシンはとてもうまくいっているけど、まだ完全に思い通りにはならないんだ。昨日からずっとセッティングを変え続けているが、正直なところ、ほんの少しだけ自信がもてない」

 ヌーヴィルは前ステージでタイヤをディッチに落としてオフしかかりながらも5位を維持、ここでも勝田を1.5秒引き離し、5.2秒のアドバンテージを築いている。「5位をキープできれば僕たちの居場所はある。秘密はない、前の連中とは戦えないし、もう目標でもない」

 勝田は朝のループでポジションを失ったが、ヌーヴィルと比べてもペースはそれほど見劣りしないものだ。「とてもトリッキーなステージだった自分の走りにはまったく満足していないが、コンディションが本当にトリッキーなんだ。コースをしっかりとキープした方がいい」

 ユヴァスキュラのサービスが行われるころ、すでに雨は上がり青空がひろがり、午後のループの最初のステージのSS15パイヤラーでは、路面は急速に乾き始めている。だが、雨のなかで刻まれたわだちがラインのように残ったまま乾き、荒れたコンディションとなった。

 すべてのドライバーが5本ともソフトタイヤを選ぶなか、ロヴァンペラ唯一人がハードタイヤを1本チョイスして右フロントに装着してこのステージに臨む。この奇策が奏功したのかロヴァンペラは、終盤のスプリットまでリードしていたタナクに最終的に0.2秒差をつけるベストタイムを奪い、2位のラッピに1.5秒差に迫ってみせた。だが、左リヤタイヤがリムから外れかかっており、彼は大きなハンデを抱え込むことになってしまった。

「わだちがかなり荒いので、その辺りで外れたのかもしれない。ハードにしたことで特別なことはなかった。ある部分は良くなったが、別の部分は良くなかったので、次のステージでどうするか考えよう」

 思ってもみなかったハンデを抱えたのはラッピも同じだ。ロヴァンペラに詰め寄られただけでなく、首位との差は11.2秒へと開いてしまったが、彼のフロントガラスにはひびが入っており、明らかにこのあとのドライビングに影響しそうだ。「ブレーキング中にフロントエンドが石を巻き上げ、それがフロントガラスに戻ってきたんだ。ラッキーとは言えないね」

 SS16ラプスーラでもロヴァンペラが連続してベストタイム、フロントガラスの破損のため視界に苦しむラッピを抜いて2位へと浮上してきた。ラッピが遅れたことで、タナクのリードはこの週末で最大となる11.5秒へと拡大することになったが、うかうかしていられないことは明らかだった。「ライバルが変わったからといって諦めるつもりはない。マシンは快適ではないけれど、僕はプッシュし続け、戦い続けるよ」とタナクはロヴァンペラとの真っ向勝負に挑む決意を明らかにした。

 続くSS17パタヨキでは、なんとロヴァンペラと並んでタナクもベストタイムで意地をみせる。ロヴァンペラは、石がコーナーに転がった荒れたコンディションのなかでこれだけペースを上げても、トップとのタイムを縮められなければ優勝できる自信はないと音を上げることになった。「オイットは速い。クルマには限界がある。彼が限界で来たら、僕はこれ以上のことはできない。たくさんのルースストンがあって、ひどい衝撃もあった」

 勢いはタナクにあるようにも見えたし、タイヤのスペアを失っているロヴァンペラが消極的になるかにも見えた。だが、最終ステージのヴェックラではタナクは終盤でリヤをスライドさせてあわやスピンしてバンクに激突しそうな瞬間に見舞われてしまう。

 ここでは午後のループで4連続のベストタイムを奪ったロヴァンペラが3.1秒を縮めることに成功、タナクのリードは8.4秒へと減ってしまったが、それでも彼はトップを守り切ったことに満足したように笑みをみせている。「今僕たちがトップにいることにちょっと驚いているよ。最後にミスしたが、間違いなくいい一日だった。このようなコンディションでは、もっと負けると思っていたよ」

 ロヴァンペラは、昨日はかなりタイムをロスしてしまったため、今日はそれを取り戻すためにベストを尽くしたと語るとともに、最後まで勝利を諦めるつもりはないと語っている。「ギャップは小さいが、このコースでは簡単には行かないものだ。今日はもう終わりだが、明日はこの仕事を終わらせなければならない」

 トヨタ勢の3位争いは終盤でドラマに見舞われることになった。フロントガラスを壊して十分な視界が得られないラッピは、夕方になって低い位置にある太陽によってクレストやジャンクションでは当てずっぽうで走っているといいながらもSS17では3番手タイム、エヴァンスに10秒差をつけて3位をキープした。だが、4位につけるエヴァンスはこのステージの終盤での衝撃によって左リヤホイールがおかしな角度に曲がった状態でストップコントロールに到着することになった。

 エヴァンスはロードセクションでマシンを止め、コドライバーのスコット・マーティンとともに破損したナックルをサスペンションストラットに固定するためにラチェットストラップと結束バンドを使用する緊急修理を施し、最終ステージを慎重に走行することになる。彼はここで52秒ほど遅れたものの、被害を最小限にくい止めて4位のポジションを守ることに成功している。「「ダンパーに何かあったんだ。もっと速く走れたと思うから残念だけど、もし壊れていたらもっと悪い結果になっていたよ」

 エヴァンスの45.8秒後方には、勝田との戦いに競り勝ったヌーヴィルが5位で続いている。

 勝田は午後のループの最初のステージで5番手タイムでヌーヴィルの4.3秒差まで詰め寄るなど最後まで追撃を諦めなかったが、マシンの底付きに悩まされてきた彼は、最終ステージではバンプの衝撃のあと4速の右コーナーでリヤのグリップを失ってスピンしてしまう。幸いマシンにダメージはなかったが、狭いコースをふさいでストップしたマシンをリバースを使って切り返すことになったために勝田は大きくタイムをロス、ヌーヴィルから42秒遅れの6位となっている。

 ピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)とガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)は一日を通してポジションを争ってきたが、グリーンスミスがチームメイトに4.2秒差をつけて7位で土曜日を終えている。

 明日の最終日は4SS/43.92kmという短い一日となるが、オープニングステージのオイッティラは2016年にタナクがクラッシュに見舞われたステージでもあり、最後まで一瞬のミスも許されない。オイッティラは現地時間の8時23分(日本時間14時23分)のスタートとなる。