WRC2019/01/28

モンテ史上新記録の僅差でオジエが6年連続優勝

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(c)Hyundai

 2019年世界ラリー選手権(WRC)開幕戦のラリー・モンテカルロは、ワールドチャンピオンのセバスチャン・オジエ(シトロエンC3 WRC)が最終ステージまでもつれたヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)との死闘を制して、わずか2.2秒差というモンテ史上もっとも僅差のタイムで逃げ切り、6年連続優勝を獲得することになった。また、シトロエンはこの勝利で史上初のWRC通算100勝を達成したマニュファクチャラーとなった。

 昨夜のうちに240kmあまりのリエゾンを経てギャップからモナコへと移動したラリーカーは、朝6時半にモナコのハーバー脇に設けられたタイヤフィッティングゾーンでタイヤ交換を受けた後、いよいよラリー最終日のバトルへと挑む。この日に用意されたステージは4つ。モナコの北側、山峡の美しい村として知られるラ・ボレーヌ・ヴェジュビーをスタートしてチュリニ峠へのヒルクライムをこなしてペイラ・カヴァへ至る18.41kmと、タイトターンが連続するラ・カバネット〜コル・ド・ブローの13.58kmをそれぞれ同方向で2回ずつ走る63.98kmで、2回目のラ・カバネット〜コル・ド・ブローがパワーステージとなる。

 最終日のステージはいくつかのコーナーはアイスがあるほかコース脇の雪が融けだして湿ったコーナーはあるがほぼドライのコンディション。そのため全ドライバーがソフトコンパウンドタイヤを5本選択してステージへとスタートしていった。

 SS13、ラ・ボレーヌ・ヴェジュビー〜ベイラ・カヴァは、ラリー・モンテカルロ伝説のステージのひとつだ。かつてこのステージは数多くの逆転ドラマを生んだ。わずか4.3秒差で首位を守って最終日を迎えたオジエとヌーヴィルのバトルは、さらに熱を帯びていく。ヌーヴィルはオジエの「見えない背中」を追って、スタートからハードにプッシュする。しかし「タイヤがかなり早い段階でオーバーヒートしてしまい、マシンのスライドが酷かった。いくつかのコーナーはもっと攻めることができたと思う」とオジエのタイムを1秒上回りながらも悔しさを滲ませる。その差を3.3秒とされたオジエは、「問題ない。僕らはまだプッシュできるはずだ」と自身に言い聞かせるように語った。

 3位争いも熾烈を極める。「ハードにプッシュした」というセバスチャン・ローブ(ヒュンダイi20クーペWRC)と「フィーリングが良くない。アンダーステアが出てドライビングに自信が持てない」と振り返ったヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)は同タイムでこのステージを上がった。

 驚くべきはオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)のスピードだ。ラトバラから15秒差、ローブからは17.3秒差の5位のポジションからスタートしたこの日をスタートした彼は、熾烈な首位争いを展開するオジエとヌーヴィルを上回る速さで伝説の峠を駆け上がった。それでも「3位に入るためにベストを尽くすが、クレージーな走りはしないよと」と冷静だ。

 続くSS14ラ・カバネット〜コル・ド・ブローは、1973年以来昨年久しぶりにWRCに復活したステージで、きついヘアピンコーナーが連続することで知られている。北斜面の日陰部分にアイス路面と湿った部分が残されていたが、ここも概ねドライ路面での戦いとなった。

 ここでもベストタイムを刻んだのはタナク。ラトバラを7.2秒、ローブを8.5秒上回り、一気に3位浮上を果たす。ローブは首を横に振りながら「僕たちは十分に良い走りをしたはずだ。これ以上は何もできない」と脱帽気味だ。

 ヌーヴィルはタナクに0.7秒遅れるセカンドベストを奪取。オジエもそれに続くが、ふたりの差は0.1秒縮まった。そしてふたりのスピードはさらにギヤを1段上げていく。

 2回目のチュリニ峠へのヒルクライムとなるSS15。2回目の走行ということもあり、路面に撒かれていた凍結防止剤が払われ、クリーンな状況。ヌーヴィルは宣言通りに全開アタックを敢行。オジエよりも2.8秒速いベストタイムを叩き出す。最終パワーステージを前に、ふたりの差は0.4秒だ。

 オジエは「スロットルに問題があるが、ベストを尽くすしかない」と決意を語れば、タイヤのオーバーヒートに悩んできたヌーヴィルも「タイヤが気がかりだけれど、勝利に向かってアタックするしかない」とコメント。すべては最終SSにかかった。

 このSS15ではタナクが3番手タイムを記録し、4位ローブとの差を8秒に広げた。僚友ラトバラとのタイム差は10.8秒だ。ラトバラは「オイットをつかまえるにはキビシイ。けれどローブをなんとかしたい」と最終ステージへの意気込みを語ったが、ここまでラトバラに押され気味だったローブも、SS15を前にスタビライザーを調整したことが功を奏し、2.8秒へとマージンを得ることになった。

 運命のSS16、ラ・カバネット〜コル・ド・ブロー。まずトラブルに翻弄されながらも、このパワーステージでのポイント獲得に照準を絞っていたクリス・ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)が9分37.3秒のスーパータイムを叩き出して最終舞台は幕を開けた。3位争いをする3人のうち最初にスタートしたラトバラはステージエンドで首を横に振り、「去年のようなフィーリングは持てなかった。すべて僕の責任だ」と語り、ローブに追いつけなかったことを悟っていた。

 そして注目のローブは、ラトバラに1.1秒遅れのタイムだったものの1.7秒差で4位をキープ、さらに続けて走ったタナクは、ミークから5.8秒遅れの好タイムで3年連続のポディウムを確定させることになった。

 首位争いは最後の最後まで刃の先を渡るような展開となった。ヌーヴィルは追撃の勢いを殺すことなく、ヒュンダイi20クーペWRCに鞭を入れた。その様子はライブカメラに余すところなく映し出されていた。だが、マシンはステージ終盤のコーナー出口ではスライドを起こし、それでも彼はギリギリでコントロールし続ける。渾身のタイムは9分43秒。一方のオジエも限界ギリギリまでのアタックで応える。ステージの最後の最後までに魂の走りを続けた彼は、フィニッシュラインを越えた直後のタイトコーナーでは勢い余ってハーフスピンしてエンジンをストールさせ、始動に手間取りヒヤリとさせることになったが、それでもヌーヴィルを1.8秒上回り、6年連続モンテカルロ勝利が決定した。シトロエン復帰後初の勝利は、同時にシトロエンのWRC通算100勝目というメモリアルウインでもあった。

「これは僕がシーズンの中で最も勝利したいラリーなので、本当にハッピーだよ。スロットルに問題を抱えていたので大変だった。とてもうれしいよ、6連覇、それも3つの異なるマシンでの勝利だからね!」とオジエは喜びを語った。

 ラリー・モンテカルロは、これまで戦略のラリーと言われてきた。路面の変化やタイヤ選択の妙がリザルトに影響するギャンブル性の高いイベントでドライバーやマシンの実力をストレートに測るには不確定要素が多過ぎるとされてきた。だが今シーズンはどうだ。序盤こそ、荒れた展開だったが、秒差の激しいバトルとなった。終わってみれば、勝利を掴んだオジエとヌーヴィルのタイム差はわずか2.2秒。ちなみにこれまでモンテカルロにおける僅差の勝利記録は、1979年。ランチア・ストラトスHFのベルナール・ダルニッシュとフォード・エスコートRS1800のビヨン・ワルデガルドの6秒差だった。

 超僅差のバトルとなった開幕戦は、早くも混迷のシーズンを予感させる躍動に満ちている。WRC第2戦は、2月14〜17日に開催されるスノーラリー、ラリー・スウェーデンへとバトンを渡す。