WRC2022/06/25

ロヴァンペラがサファリをリード、勝田が2位

(c)Toyota

(c)Hyundai

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第6戦サファリ・ラリー・ケニアは試練の金曜日を終えて、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)がトップに立っており、14.4秒差の2位には勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)、22.4秒差の3位にエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が続き、トヨタが1-2-3態勢を築く展開となっている。

 サファリ・ラリーは木曜日の午後にナイロビで行われたスーパーSSカサラニで開幕したあと、金曜日からいよいよサバンナに舞台を移して本格的な戦いがスタートする。

 ケニアは赤道直下に位置する国であり、焼けるような強い日射しであることがよく知られるものの、それほど気温が高いわけではない。さらに金曜日以降の舞台となるナイバシャ湖周辺のルートは標高1900mを越える高地にあり、この日も早朝の気温は12度、日中でも23度と予想されており、これまでの数戦で懸念されてきたRally1カーのコクピットの高温問題はこの週末はそれほど心配なさそうだ。

 それでも、金曜日の早朝に小雨が降っているなど、このエリアの天候は不安定な週末になると見られており、チームやドライバーにとってはゲリラ豪雨など突然の天候急変が気になるところだ。

 金曜日はナイバシャ湖の周辺の一日となり、ロルディア(19.17km)、新しいジオサーマル(11.68km)、ケドン(31.25km)の3ステージをKWSナイバシャのサービスを挟んで2回ループする6SS/124.20kmの1日となる。全てのドライバーがソフトタイヤ6本をチョイスして朝のループへと向かって行った。

 ナイバシャ湖の北岸に位置するSS2ロルディア・ステージでは、選手権リーダーとして1番手でコースに向かったロヴァンペラが路面を覆うダストに苦しんで14.7秒を失うなか、木曜日のスーパーSSでトップタイムを奪ってラリーをリードするセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が9番手からの後方のポジションを味方に3番手タイムを奪い、首位をキープして始まることになった。彼は、試練に満ちた長い一日を予感しているかのように、「ここはそんなに悪くはない。最悪なのはこれからだ!」と言い残した。

 このステージでは6番手ポジションでスタートしたエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が2番手タイムでオジエの0.9秒後方の2位へと浮上したほか、ステージの上位タイムを後方からスタートするドライバーが占めることになり、20年ぶりにサファリ・ラリーに帰ってきたセバスチャン・ローブ(フォード・プーマRally1)がベストタイムを奪って発進することになった。

 7番手という後方から金曜日をスタートしたローブは、快調なペースを刻みながらも、ノートの修正をコドライバーのイサベル・ガルミッシュに指示しているときに、次の左コーナーのイン側にあった木の根にヒット、サイドシル後部を破損してしまったが、幸いもリヤタイヤやサスペンションにダメージはなく好タイムをマーク、首位のオジエから1.3秒差の3位へと浮上してきた。

 ローブのあとにはMスポーツ勢が追い掛けており、アドリアン・フールモーとガス・グリーンスミスの2台のフォード・プーマRally1が4-5位で続くなか、ヒョンデ勢は相次いでトラブルに見舞われてしまう。

 オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が走行中にシフトレバーが根元から破損して脱落するという信じられない問題に見舞われてしまう。彼はリンケージに手を伸ばしてシフトするも36秒のタイムロス、11位と出遅れてしまった。

 またチームメイトのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)も15.7秒をロスして6位へと後退、ステージエンドで彼はギヤシフトに何かの問題があることを示唆したが、走り去った後の路面にはオイル漏れがあることが確認されている。

 続くSS3のジオサーマルは、地中熱というステージ名が示すように、あちこちの地熱噴出孔から吐き出される蒸気のプルームが吹き出しており、壮大な景色が特徴だ。暗い雲が上空を覆い始め、雨が降り始めそうな空模様となるなか、ここでは一番手スタートのロヴァンペラが路面のクリーナーを担当しながらもこの週末初のベストタイムで8位に浮上することになった。「なかなかいい感じで走れた。でも最初に走行するのは最悪だ。ルースなグラベルが本当に多いし、ストレートでもクルマが動き回ってしまうんだ」

 ロヴァンペラに続く2番手タイムと速さをみせたのはオープニングSSでは慎重なスタートを選んだ勝田だ。「あまりいい走りができていると感じていなかったからタイムが良くてすごく驚いているよ。クルマが調子良いのでそれで良いタイムが出たんだと思う」と語った勝田は、「グリップがなく、思うように走らない」と不満をこぼすヌーヴィルをはじめ、フールモー、ブリーンを抜いて 一気に5位へと浮上してきた。

 後続のドライバーは路面にかきだされた無数の岩を避けるために慎重な走りをすることになる。オジエはどうにか4番手タイムで首位をキープ、エヴァンスがトップ3のなかでは最速タイムでオジエに0.8秒差に迫り、1.9秒差でローブという僅差のオーダーで続いている。

 朝のループの最後のステージは、31.25kmというサファリ最長のケドンだ。中盤から後半にかけてフェッシュ・フェッシュと呼ばれるパウダー状の土のセクションが連続しており、後続になるほど深いわだちが刻まれることになり、多くのドライバーたちがトラブルに見舞われることになった。

 4位につけていたグリーンスミスがフェッシュ・フェッシュのなかに隠れていた石を踏んで右リヤタイヤをパンク、彼はそのままステージを走り切ることを選んだが、タイヤが吹き飛んでボディにダメージを与えたため、やむなくストップしてホイール交換をすることになり、13分あまりの遅れてしまい、上位でフィニッシュしたいという夢はまたも吹き飛んでしまった。

 ドラマに遭遇したドライバーには首位のオジエも含まれていた。20秒もの遅れを喫した彼はステージエンドで「最後は全然パワーがなくてこのステージを走りきるのもすごく大変だった」と訴えることになり、チームメイトのエヴァンスが8.5秒差をつけてトップに立って朝のループを終えることになった。それでも、彼は正しいペースかどうかに迷いがあることを認めていた。「慎重になりすぎていたかもしれないと思ったが、正しいペースを理解するのは難しいよ」

 最大の波乱は3位につけていたローブだ。彼はフェッシュ・フェッシュのヘアピンでストップ、ダストのなかで方向を見失い26秒をロス、5位へと後退してしまったあと、ロードセクションでエンジンルームから小さな火災が発生する。彼は火を消し止めたものの、電気系統が焼けたためにエンジンが始動できなくなり、EVモードで走行するもサービスパークまではるか遠いロードセクションで続行を諦めることになった。

 後方のドライバーが災難に見舞われるなか、1番手スタートのロヴァンペラがここでもベストタイムを刻み、オジエの2.6秒後方の3位へと浮上する。勝田はロヴァンペラにポジションを譲ったものの、1.3秒差の4位で続いており、トヨタが1-2-3-4態勢を築いて朝のループを終えることになった。

 朝のループを終えて5位には初挑戦のサファリでペースに苦しみながらも慎重なペースを刻んでいるクレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)が続き、壊れてしまったシフトノブに変わり、タイヤ交換用のレンチで代用したギヤレバーを使用しながらも、タナクがこの長いステージでは2番手タイムでトップから29.6秒遅れの6位に踏みとどまっている。

 ヌーヴィルはグリップ不足とギヤシフトの不具合に悩みながらも18秒差の7位につけていたが、ここではエンジンの問題から1分あまりの遅れを喫して9位まで後退してしまった。ステージエンドで彼は「原因はわからないが、スタートからエンジンに問題があり、最後にはまったくパワーがなかった」と訴えることになった。サービスでチェックしたところ、エンジンのエアフィルターのボックスが外れて、ダストが入り込んでしまったことが原因であり、同じ問題はチームメイトのオリヴァー・ソルベルグ(ヒョンデi20 N Rally1)にも発生している。

 ケニア野生生物局(KWS)におかれるミッドデイサービスを挟んで、午後のループはロルディアの2回目の走行となるSS5で首位のエヴァンスのドラマとともに始まった。19.17kmの残り7km地点でエヴァンスは右リヤタイヤの空気を失い始め、どうにか最後までタイヤをもたせてフィニッシュしたが、18.7秒を失ってしまい、3位へと後退する。ベストタイムを奪ったオジエがふたたび首位に浮上、2番手タイムを奪った勝田がロヴァンペラを抜いて8.2秒差の2位へとポジションアップしてきた。「まだ初日なので表彰台については何も言えないが、楽しく走れているし、マシンのフィーリングは良いよ」と勝田は自信に満ちた笑みをみせている。

 トヨタは朝のループでルーフのベンチレーションからダストがコクピットに侵入する問題があったことから、直接、ドライバーの顔にエアを当たらないよう、コクピットの吹き出し口に接続したダクトを介してエアをドライバーの背後まで導く応急処置を行い、かつてサファリに君臨した王者は引き続き1-2-3-4を占めている。スローパンクのアラームに集中力を欠いたブリーンを0.1秒抜いてタナクが5位へと順位を上げてきた。

 まるで一年前のサファリの最終日を思わせるオジエと勝田のトップ争いは、SS6ジオサーマルでも続いた。オジエが連続してベストタイム、勝田は0.4秒差の2番手タイムで二人の差は8.6秒となっている。ロヴァンペラがエヴァンスを抜いて3位へ浮上、引き続きオジエが引っ張る形でトヨタが1-2-3-4を築いている。

 オジエはステージエンドでこの週末はまだ序盤にすぎないと自らを戒める。「長いラリーだし、次のステージが重要なことは分かっている。午前中に起きたことは見ているからね。大きな挑戦になることは間違いない」だが、これほどまでに警戒していたにもかかわらず、SS7ケドンで波乱が彼に襲い掛かる。

 オジエはスタート直後にパンク、31kmという長いステージのため迷わずタイヤ交換を決意するも、ここで2分21秒を失ってしまい、首位から6位へと転落してしまった。

 これで2位につけていた勝田が首位に躍り出すチャンスが訪れたかに見えたが、彼はマシントラブルでスロー走行をするブリーンに追いついてしまい、彼が巻き上げるダストに視界を阻まれてしまう。ブリーンはスタート付近で一度ストップし、その後再び走り出したが、その後、ステアリングの故障と見られる症状でまっすぐ路肩の岩場に乗り上げてマシンを止めることになった。

 勝田はストップしたブリーンのマシンの横をクルーたちの安全を確認するようにペースを落として走行、その結果、30秒あまりを失ってしまったため、首位に立つチャンスのはずが、26.6秒差の4位でこの日を終えることになってしまった。

「序盤からクレイグの埃がすごくて、森の中で何も見えないコーナーもあったし、ストレートでは大きな岩があり、クレイグがコースアウトしていたところで止まりそうになったこともあった。少しでもタイムを取り戻せるといいが、もし取り戻せなかったらフェアじゃないよ」と勝田は語っている。

 この日の夜、スチュワードはチームからの報告に基づいてトラッキングデータ、車載ビデオを調査、勝田がブリーンのアクシデントの現場に近づく際にペースを落としたことを認め、12秒を救済することを決定、彼は14.6秒差の2位で金曜日を終えることになった。

 トップ2台のドラマによって金曜日を終えてラリーリーダーになったのは、ここでこの週末3度目のベストタイムを奪ったロヴァンペラだ。彼はステージの序盤でパワーがないと感じたが、それはただの杞憂にすぎなかった。「エアフィルターがあれば大丈夫なはずだったのに、ステージ序盤でパワーが無いように感じた。ダストとフェシュ・フェシュの後はまったくパワーがなかったが、なぜそう感じたのか分からない」。ロヴァンペラは1番手スタートという試練の初日を終えて、2位の勝田に14.6秒差、3位のエヴァンスに22.4秒差をつけることになった。

 エヴァンスは「このステージはきっとマシンの墓場になると思っていたので、慎重に走った! そのためヘアピンでダストをかぶり、タイムをロスしてしまった」とややペースを落としすぎたと認めていたが、とにかく走りきるという最大の目標を達成したことに胸をなで下ろしている様子だった。

 エヴァンスの2.9秒後方の4位には、シフトレバーが壊れるという珍しいトラブルから復活してきたタナクが続き、32.2秒差でチームメイトのヌーヴィルが続いている。

 連続する試練と戦ってきたヌーヴィルは、このステージでもコクピットに侵入するダストと戦い、さらに最後の数kmで左フロントタイヤがリム落ちするという問題を抱えながらも、それでも2番手タイムを叩きだしている。

「ステージ半ばからマシンがダストだらけになってしまった。視界も悪く、ラスト5kmでパンクしてしまった。なんとか生き延びようとしたが、ダストがひどくて大変だった」とヌーヴィルはダストで真っ白な顔で咳き込みながら語っている。

 首位から2分遅れの6位にはオジエ、昨年のサファリではわずか4ステージを走っただけでリタイアとなったオリヴァー・ソルベルグ(ヒョンデi20 N Rally1)はマシンのフィーリングに悩まされ、終日イライラした様子だったが、最後のステージではサファリ自己ベストの6番手のタイムを更新し、7位で続いている。「絶対にいかれているよ! 正直なところ、ひどい一日だったから、終わって本当にうれしいよ」と、オリヴァーはやっと笑顔をみせている。

 Mスポーツ・フォード勢にとって序盤はよかったものの、厳しい結果の初日となってしまった。ローブは朝のループを走り切れずにマシンを止め、フールモーはSS5を走行中に駆動系の問題から激しいバイブレーションが発生したためステージ後に続行を断念、ここでブリーンがリタイアしたことで、マニュファクチャラーノミネートのドライバーは全滅、チームの生き残りは朝のループで13分遅れとなったグリーンスミスのみとなっている。彼は、プライベーターとして初めてプーマRally1でサファリに出場しているジョルダン・セルデリディスに続いて12位で金曜日を終えている。

 サファリ・ラリーの土曜日は、昨年、大雨による番狂わせが起きたスリーピング・ウォーリヤー・ステージをはじめとした、エレメンテイタ湖の西部が舞台となる。オープニングステージのソイサンブは現地時間8時6分(日本っ時間14時6分)のスタートが予定されている。そして、ふたたびサバンナに雨が降るかもしれないと天気予報は報じている!