WRC2022/06/27

ロヴァンペラがサファリ優勝、トヨタが1-2-3-4

(c)Toyota

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第6戦サファリ・ラリー・ケニアは、トヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が優勝。2位にエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、3位には昨年に続きポディウムを獲得することになった勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)、そして4位にセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が続き、トヨタは1993年のサファリ・ラリーにおいてST185セリカで記録した1-2-3-4フィニッシュの再演を披露することになった。エリザベス女王の即位を記念して1953年に誕生したサファリ・ラリーは、戴冠70周年の「プラチナ・ジュビリー」を迎えた記念すべき今年、かつてサファリでの成功によってキングオブアフリカと呼ばれるようになったトヨタが、10度目のサファリ優勝を表彰台独占で達成した。

 誰もが試練とは無縁でいられない。時代を経ても、それがサファリ・ラリーの変わらぬ真実であり、トラブルをいかに躱すか、ダメージを最小限に止めるか。スピードだけではない戦略や、あるいは天運を味方につける周到さが求められる。今年のサファリ・ラリーは、まさにそうした展開となったと言えるだろう。

 信じられないマシントラブルや天候急変に遮られるライバルを尻目に、1位から4位までをトヨタ勢が占めて最終日をスタートする。加えて各車のタイム差は、首位のロヴァンペラとエヴァンスが40.3秒、勝田はさらに45.3秒、4位のオジエも1分12.7秒と間隔があり、5位のティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は、土曜日にリタイアしての再スタートで、8分21秒後方だ。

 最終日に用意されたステージは6SS/82.7km。通常ならば、パレードランとなるところだが、そこはサファリ・ラリー。最後の1kmまで何が起こるか分からない。事実、昨年、ロヴァンペラがスタックを喫した難コース、オーセリアンが最終日のオープニングに用意されている。17.52kmのオーセリアンに続き、新しく設定された13.30kmのナラシャ、そしてアフリカらしい壮大な風景の中を走るヘルズゲート(10.53km)の3つのステージを、KWS(ケニア・ワイルドライフ・サービス)ナイバシャでの15分間のミッドデイサービスを経て再走するスケジュールが組まれている。昨年と同様にヘルズゲートの2回目の走行がパワーステージとして行われる。

 最終日の出走順は、土曜日の順位のリバースで3分間隔となる。アドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)、ガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)、オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)、セバスチャン・ローブ(フォード・プーマRally1)、クレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)、ヌーヴィル、ジョルダン・セルデリディス(フォード・プーマRally1)、オリヴァー・ソルベルグ(ヒョンデi20 N Rally1)、オジエ、勝田、エヴァンス、ロヴァンペラの順番だ。

 ナイバシャ湖南西に位置するオーズレンゴーニ自然保護区の中を走るオーセリアンは、現代サファリのステージの中でもっともエキサイティングかつ困難なステージだろう。長いストレートとタイトなセクションが混在し、アップダウンに富み、絶えず路面が変化する。さらにステージ序盤には、昨年、ロヴァンペラがマシンを止めた、蟻地獄のようにダスティな『フェシュ・フェシュ』が待ち構える。

 今年も6位につけていたソルベルグが2.1km地点で『フェシュ・フェシュ』に捕まり、ダストをエアフィルターに詰まらせてエンジンストップ。コースを塞いでマシンを止めたため、赤旗が出されてステージは一時ストップ。その後、キャンセルになった(ソルベルグはコドライバーのエリオット・エドモンドソンとともにフィルターの交換作業を行い、エンジンを始動することに成功してコースを走り切っている)。

 赤旗によるスロー走行でステージをフィニッシュしたオジエと勝田、ステージキャンセルによって走行できなかったエヴァンスとロヴァンペラには、ヌーヴィルのタイムがノーショナルタイムとして与えられ、キャンセルの原因をつくったソルベルグにはこのタイムに14分1秒を加算したノーショナルタイムが与えられ、彼は6位をブリーンに明けわたして7位へ後退することになった。

 新設されたSS15ナラシャは、ヘルズゲート国立公園内のオル・カリア地区を走るステージで、リフトバレーに向かって下っていき。最後の5kmはヒルクライム。前ステージでエアフィルターの問題でエンジンを止めたソルベルグが、ロードセクションでマシンの修理を行い、13分遅れでこのステージのTCにチェックイン。2分10秒のペナルティを科され、セルデリディスに抜かれて8位までポジションを落とす。 ロヴァンペラがベストタイムを刻み、エヴァンスが7.3秒遅れのセカンドベストを記録した。

 SS16ヘルズゲートは、ルーズで急勾配な登りヘアピンに始まり、その後、緩やかに下ってフィニッシュに向かう。ラリーで最も道幅の広いステージで、トップギヤでコーナーに入っていく流れるようなクレストが多くある。2回目の走行がパワーステージとなるため、高速リハーサルを行ったタナクがベストタイム。6.3秒差の2番手タイムもヒョンデのヌーヴィルが記録した。トヨタは1-2-3-4の鉄壁のフォーメーションで上位独占フィニッシュを目指し、ここでは大きなリスクを冒すことなくペースをコントロールしている。
 
 首位のロヴァンペラは6番手タイム、リードは56.6秒となった。「(路面は)もうすでにかなり荒れた状態だ。僕はとにかく石を避けるようにしていたが、パワーステージはクルマにもタイヤにもタフになると思う」と語る。エヴァンスも9番手タイム。「無理をせず、全体をケアするようにしている。ステージはかなりラフな状態だが、すべて順調だ」とコメントしている。

 勝田はこのステージ前にギヤボックスからオイルが漏れるという小さなアクシデントに見舞われたが、ロードセクションでの迅速な修理で問題は解決し、トラブルの兆候もなく8番手タイムでポディウムポジションをキープしている。 4位につけるオジエが3番手タイムを記録した。勝田とは1分差あるが、もしチームメイトの誰かに何か問題が発生しても、表彰台独占を狙うトヨタのために、その一角を拾いに行ける盤石の体制を守っている。

 今年のサファリの最終日は例外的に長い一日となるため、2回ループの間に15分のミッドデイサービスが設けられている。ラリーカーは新しいタイヤを装着、短いサービスではあるがリフレッシュして最後のループへ向かう。

 SS17、オーセリアンの2回目の走行は、1回目の走行の際、スタックなどの多くの問題が発生した後キャンセルとなっており、問題となった地点では深い穴が掘られてしまったため、ドライバーたちは2回目の走行ではさらなる波乱が起きることを懸念していた。そこで主催者は2回目の走行では問題となった『フェシュ・フェッシュ』の森のオープニングセクションの3.1kmをカット、スタート位置を移動して14.83kmに短縮している。

 土曜日にプロペラシャフトの破損によりリタイアしたタナクは、再スタートして総合11位からパワーステージのポイントをできるだけ多く獲得するために、この最終ループにスペアタイヤ1本で挑むという大胆な選択をした。だが、ステージ終盤でパワーステアリングに問題を抱え、ステージフィニッシュ後、次のステージに向かうことなく、サービスへと戻ってリタイアを決めている。

 また1回目の走行でストップしたソルベルグが再びスタック。フロントガラスが土を被って視界を失くすが、運悪くワイパー破損が重なった。彼は観客の助けを借りてフロントガラスをクリーンにしてもらった後、ステージに復帰している。「常に除雪作業をしているようだ! ワイパーが作動せず、止まらなければならない時もあった。幸いにもそこに2人の男たちがいて、僕のフロントガラスをクリアにしてくれたんだ」と振り返った。

 SS18はナラシャの2回目の走行。ドライバーたちは、スタート前には最もタフなステージとしてこのステージの名前を上げていたが、暗い雲に覆われつつある空の下、どうにか雨が降ることなく首位グループは走り切った。 ロヴァンペラが57.6秒のリードを保ち、2位エヴァンス、3位に勝田、4位にオジエが続き、トヨタは1-2-3-4を維持したまま、ヘルズゲートの最終ステージを迎える。

 あれほど荒れたラリーは、最終ステージ、生き残った者を祝福するかのように穏やかとなり、ロヴァンペラが52.8秒という大差をつけて今季4勝目を獲得した。「最高の気分だ。正直言って、今までで一番過酷なラリーだった。心からチームに感謝している。明らかに最強で最速のマシンだ。このように4台のマシンを問題なく走らせることができるなんて、チームは素晴らしい仕事をした」とコメント。若き選手権リーダーは、すでに次代のエースの貫禄を身につけている。

 2位は待望のポディウムを獲得したエヴァンス「今日は何が起こっているのかが明らかだったが、土曜日はいくつかの点でうまくいかなかった。素晴らしい週末だったし、この結果は正直なところ、チームのおかげだ。彼らに脱帽だ。他のチームが苦労する中で、僕たちは乗り越えた」と感謝を口にした。

 昨年に続く3位ポディウムを獲得した勝田は「チームに感謝したい。ポルトガルとサルディニアの後、皆が素晴らしい仕事をしてくれたおかげで、マシンをここまで強くすることができた。とても過酷な週末だった。問題もあったが、マシンは強かった。そして(コドライバーの)アーロンにとって初めての表彰台だ。僕は彼の助けに感謝している」とその感触を言葉にした。

 オジエにとっては首位を失った金曜日のパンクがすべてとなったが、しっかりと4位でフィニッシュを迎え、トヨタは歴史的な1-2-3-4フォーメーションをサポートすることになった。

「パンクがなければ違った展開になっていただろうが、それもゲームの一部だ。トヨタGAZOOレーシングは、今シーズンで最も過酷な3日間のために、驚くほど強いマシンを提供してくれた。彼らにおめでとうと伝えたい」
 
 トヨタにとっては1986年のコート・ジボアール・ラリー、1993年サファリ・ラリー(ユハ・カンクネン、マルク・アレン、イアン・ダンカン、日本の岩瀬晏弘)に続く史上3度目の1-2-3-4フィニッシュ。WRCの1-2-3-4は2010年のシトロエン以来12年ぶり、WRC50年の歴史ではこれが13回目となる。
 
 パワーステージのベストタイムは文字通りサファリに翻弄されたヌーヴィルが獲得、5位でフィニッシュすることになった。「言うことはそれほどない。 状況は非常に明白なので、本当に失望している。メカニックも一生懸命働いたのに、何の見返りもなかった。残念だよ」

 第6戦サファリ・ラリーを終えて、ドライバーズ選手権では今季4勝目のロヴァンペラが145ポイントを獲得してリードを拡大、パワーステージでボーナス5ポイントを重ねたヌーヴィルが80ポイントで続くが、二人の差は55ポイントから65ポイントへと広がっている。ノーポイントに終わったタナクは62ポイントのまま、3位フィニッシュの勝田が同ポイントで選手権4位で続いている。

 また、マニュファクチャラー選手権では、トヨタGAZOOレーシングWRTが圧巻の勝利によって246ポイントを獲得、前戦サルディニアの勝利で39ポイント差まで迫っていたヒョンデ・モータースポーツに62ポイント差をつけることになった。

 次戦ラリー・エストニアは7月14日にスタートする。