WRC2022/05/22

ロヴァンペラが逆転首位へ、勝田も3位浮上

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第4戦ラリー・デ・ポルトガルの土曜日、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)がチームメイトのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)を逆転、5.7秒差をつけてラリーをリードしている。

 30度を越えるまでに上昇した前日とはうってかわって曇り空の朝を迎えたポルト。気温は14度とやや肌寒く、日中でも24度までしか上昇しないと天気予報は伝えており、雨が降る可能性もありそうだ。

 土曜日はマトジニョスの北・東部に位置するカベイラ山脈のステージが舞台となり、ヴィエイラ・ド・ミーニョ(17.48km)、カベセイラス・デ・バスト(22.03km)、ラリー最長にして最も難しいステージと称されるアマランテ(37.24km)の3ステージをポルトのサービスを挟んで2回ループし、この日の締めくくりとなるポルトのストリートステージであるスーパーSSポルト-フォス(3.30km)を走る、7SS/156.80kmという長い一日となる。

 オープニングステージのSS10ヴィエイラ・ド・ミーニョでベストタイムを奪ったのは、初日のリーダーであるエヴァンスだ。チームメイトのロヴァンペラに13.6秒差をつけてこの日をスタートしたエヴァンスは、オープニングスプリットでライバルにタイムを奪われるかと思われたが、終盤にかけてペースを上げて1.3秒差をつけるベストタイム、14.9秒差へとリードを広げて2年連続勝利に向けてまずは好スタートを切ることになった。「ダスティで滑りやすい路面だったから、プッシュしすぎるか、プッシュしすぎないかの微妙なバランスが難しいんだ。でもかなりいいフィーリングだった」。

 3位につけるのはダニエル・ソルド(ヒョンデi20 N Rally1)だが、3番手タイムを奪った勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が4.1秒差まで迫ってきた。5位でこの日をスタートしたガス・グリーンスミスは右フロントタイヤをバーストさせて8位へと後退、ピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)が5位へと浮上することになったが、スピンで遅れた彼の9.7秒後方には前日のドライブシャフト破損で7位まで遅れたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が続いている。

 この週末は、開幕戦モンテカルロで世界を沸かした二人のワールドチャンピオン、セバスチャン・ローブ(フォード・プーマRally1)とセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)がポルトガルのグラベルで再び戦いを繰り広げることが期待されたが、残念ながらローブはコンクリートバリアにクラッシュし、オジエは相次ぐパンクによって二人ともに初日にリタイアとなっている。

 これによって土曜日のスターティングオーダーは、コースオープナーのローブを先頭に、同じくリスタートしたオジエ、そしてパンクで10位まで後退したオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が続き、まさかのチャンピオン3人が先導することになり、その後方から続くアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)を「チャンピオンたちの走行ラインを学ぶことは最高の経験、それをトレースすることは次のために役立つはずだ」と喜ばせることになった。だが、残念ながらこの夢のような時間は長くは続かない。

 SS11カベセイラス・デ・バストで、ローブはステージ中に突然エンジンパワーが上がらなくなってストップ、リセットしてリスタートするも症状はかわらず、ロードモードのようなスピードでどうにかゴールしたが、アマランテに向かうロードセクションでリタイアとなっている。

 オジエはステージ前からなにかの問題を抱えていたのかタイムコントロールに遅れ、ヌーヴィルの後方でスタートするも、左コーナーのイン側に乗り上げてハーフスピン、リヤをアウト側のディッチに落としてストップしてしまう。彼は上位陣が走り切ったあとコースに出された赤旗によってステージに復帰、30分遅れでフィニッシュ、次のステージも走りきってサービスへと戻ったが、マシンへのダメージが少なからずあるため明日のために完全に修理するためにリタイアを決めている。

 このステージではロヴァンペラが速さをみせた。彼は「リヤタイヤはユーズドのためかなり悪い。エルフィンはもっといいタイヤを持っていると思うし、僕は何度もスライドして、クリーンな走りをするのは簡単じゃなかった」と、トップのエヴァンスからまたも遅れることを心配したが、チームメイトのタイムは思ったほど良いものではない。ロヴァンペラは4.7秒差をつけるベストタイムで、その差を10.2秒まで縮めることになった。

 ここでも勝田は3番手タイム、3位のソルドまで1.7秒差まで迫っている。「もっとグリップがあると思っていたんだけど、ヒヤッとする瞬間が2度あった。危なかったよ」と勝田は語っている。

 しかし、勝田はラリー最長となるアマランテ・ステージでも果敢な走りをキープ、ソルドに5.2秒差をつけてついに3位へと浮上することになった。フロントにハードタイヤを履く勝田に対して4本ともにソフトを選んだソルドはグリップ不足に悩まされたとはいえ、ソルドはポジションを落としたことを残念がることなく、この長いステージでみせた勝田の健闘を称えている。「タカは本当によく走っているし、素晴らしいステージをこなしている。僕もベストで頑張ってみたが、グリップがあまりなかったよ」

 ロヴァンペラは金曜日に使用したユーズドタイヤが、朝のループに影響することを懸念していたが、その予感はこのタフなステージで的中した。前ステージでの慎重すぎた自身の走りを悔いていたエヴァンスがロヴァンペラに8.2秒差をつけるベストタイム、リードを18.4秒へと広げて首位の座を堅持した。

 エヴァンスは、ステージエンドでやっと笑顔をみせて、「簡単ではなかった。ところどころで砂が非常に厚くてトラクションを得るのが大変だった。自分がうまくやれているのかそうでないのかを判断するのが難しかったが、自分のリズムを信じるしかなかった」と語っている。

 前ステージでルーベを抜いて5位へと浮上したヌーヴィルは、ここでもハードとソフトをクロスさせてルーベに22.4秒差をつけ、その差を43.8秒へと突き放していてポジションを安泰なものとしているが、チームメイトのソルドからはまだまだ55.7秒遅れとなっている。

 雨の可能性が高まっていることから、午後のループにむけてほとんどのドライバーがハードを主体としながらもソフトをオプションとして残した選択をしてSS13ヴィエイラ・ド・ミーニョへと向かって行った。ヌーヴィルの走行のあたりから小雨が降り始め、乾いた路面が少しずつ湿り始め、上位陣が走るころにはステージ終盤はウェットコンディションとなってきた。

 このような突然の路面変化にもかかわらず、ロヴァンペラがベストタイム、首位のエヴァンスとの差を16.5秒へと縮めることになった。ロヴァンペラは「がむしゃらに攻めたわけではない」と語りながらも、「あまりクレイジーなことはしていない。踏んだのはスムーズな道があるとわかっているときだけだ」とプッシュしたことを公然と認めることになった。

 ロヴァンペラはSS14カベセイラス・デ・バストでも連続してベストタイムを奪ってトップまで9.9秒差まで迫るや、次第に激しい雨となったSS15アマランテでも雨足が強くなる前に走ったヌーヴィルに続く2番手タイムを奪ってエヴァンスを13.5秒も上回ることに成功、4秒の差をつけて首位に浮上することになった。

「いいフィーリングだった。ステージ中盤から雨になり、ハードタイヤではかなり厳しい状況だったが、今日も問題なく走れたので満足だよ」と選手権リーダーのロヴァンペラは語った。

 ロヴァンペラより4分遅れてステージを通過したことは、明らかにエヴァンスにとって不運だったと言えるだろう。「たしかにカッレは強いが、僕たちのときが一番雨がひどかったと思う。スタート直後、危うく木にヒットしそうだったので、それも良くなかったよ」

 勝田はここでも素晴らしい走りで3位をキープ、ソルドとの差は14.6秒に広がっている。ほぼドライとも言えるコンディションでロヴァンペラを16.9秒引き離し、ソルドには38.5秒も上回るベストタイムを奪ったヌーヴィルは、4位のソルドに15.2秒差まで詰め寄ってきた。

 土曜日の最終ステージは、ポルト〜フォズの3.30kmを走るストリートステージは雨上がりとなったが、潮風が運んだ海砂と濡れた石畳の路面は信じられないほど滑りやすくなっている。

 走行のたびに路面が乾いてクリーンになったことによって上位のタイムはRally2カー数台が占めることになったが、Rally1カーのトップタイムとなったロヴァンペラがここでもエヴァンスを1.7秒差で打ち破り、5.7秒差をつけてリーダーで二日目を終えている。

 エヴァンスには選手権のためにもロヴァンペラを上回ってフィニッシュする必要があるが、ミスによってこれ以上のダメージを受けることは避けなければならないという心理的な作用もあったのだろうか。「もう少しプッシュできたところもあると思うが、仕方ない。ロングステージは雨だったし、カッレは素晴らしいドライビングだった。プレッシャーをかけ続けて、僕たちに何が可能か見極めなければならない」と明日の反撃を誓っていた。

 勝田はチームメイトたちに続いて3位でつづき、明日の最終日、昨年のサファリ・ラリー以来となる表彰台に挑むことになる。「今日はかなりいい仕事ができた。当然ダニからのプレッシャーもあって、かなりプッシュしなければならなかったが、マシンとタイヤをうまくコントロールすることができた」

 しかし、この最終ステージではソルドが素晴らしいタイムを奪い、勝田の5.7秒後方の4位で続いている。ソルドは、トリッキーなこの短いステージで勝田との差を7秒縮めたことに驚き、「本当に1周少なくなかった?」とレポーターに問いかけてきた。「クリーンなドライビングを心がけ、ミス無く走れたのだろう。やはり初めてドライブするRally1マシンを理解するのに少し苦労している。タカは今日は良い走りを続けた。おめでとうと言いたい。走っても走っても彼のタイムの方が速かった。でも明日もがんばるよ」

 午後のループが雨になることに賭けてソフトタイヤを多めに選択したMスポーツ・フォード勢だが、摩耗の問題は避けらなかったようだ。さらに雨のSS15でルーベはワイパーを失って1分近くをロスして7位に後退、クレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)が6位へと挽回することになった。

 ヴィエイラ・ド・ミーニョは、ガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)にとって苦手なステージとなった。朝のループのSS10では右リヤのパンクで後退し、午後の2回目の走行でもバンクに衝突してホイールのリムを破損、サスペンションにもダメージが見つかったためにリタイアとなっている。

 明日の最終日に残されたのはわずか48.87km/5SS。土曜日より気温が下がり、天気も下り坂になると予報は伝えている。さらに難しくなることが予想されるステージではたしてリーダーとなったロヴァンペラが3戦連続の勝利を飾ることになるか、それともエヴァンスが2年連続の勝利のゴールを迎えるのか。オープニングステージのフェルゲイラスは現地の7時8分(日本時間の15時8分)スタートとなる。