WRC2022/06/26

ロヴァンペラ独走、トヨタが1-2-3-4で最終日へ

(c)Toyota

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 2022年世界ラリー選手権(WRC)第6戦サファリ・ラリー・ケニアは、土曜日を終えてトヨタGAZOOレーシングWRTのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が引き続き首位をキープ、2位のエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)に対して40.3秒のリードを築いている。また、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)も表彰台圏内の3位、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)も4位まで順位を上げており、トヨタが1-2-3-4態勢を築いている。

 25日土曜日は昨年と同様にエレメンテイタ湖の西部が舞台となり、ソイサンブ(29.32km)、エレメンテイタ(15.08km)、スリーピング・ウォリアー(31.04km)の3ステージをKWSナイバシャのサービスを挟んで2回ループする6SS/150.88kmのタフで長い1日となる。

 オープニングステージのSS8ソイサンブで素晴らしい走りをみせたのは初日からサファリの主導権を握ってきたトヨタ勢だ。ロヴァンペラは3番手タイムで首位をキープ、ベストタイムを奪って2位にポジションを上げたエヴァンスが16.1秒差で続く。

 勝田はエヴァンスから18.9秒遅れの4番手タイムにとどまったため3位へと後退、首位からも27.1秒遅れとなったが、すべて問題はないと語っている。「ステージは問題なかったが、ペースノートに混乱してしまいどこに向かっているのか分からなくなってしまった。でもすべて順調だよ」

 金曜日を終えてエヴァンスから2.9秒遅れの4位につけていたオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)もエヴァンスには14.6秒の差を付けられてしまったが、勝田の6.5秒差に迫ってきた。ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は、オープニングSSの高速コーナーで木の枝をひっかけてフロントガラスを破損し、視界に苦しみながらも2番手タイムと速さをみせており、タナクの21.2秒後方へと近づいてきた。

 上位陣がそろってクリーンな走りをみせたオープニングSSでは、前日に続いてふたたびMスポーツ・フォード勢が悪夢に見舞われることになった。駆動系トラブルからリスタートしたアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)が岩にぶつかってパンク、交換後にコース復帰を果たしたが、その直後に左リヤのサスペンションを破損し、スロー走行でステージを走りきるも、ドライブシャフトも脱落しており、ふたたびリタイアとなってしまった。

 さらに初日のパンクで12位と遅れていたガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)は、タイトターンでインカットした際にわだちのなかでステアリングをとられて横転、ダメージのあるマシンでどうにかこのステージを23分遅れで走りきることになった。

 グリーンスミスは割れてしまったフロントガラスを取り外し、ゴーグルを装着してSS9エレメンテイタ・ステージに挑んだが、当然ながらペースは上がらない。奮闘の努力もむなしく、彼はこのステージ後に冷却系にダメージがあることから続行を諦めている。

 後続の混乱を余所に、首位のロヴァンペラはリスクを冒さない走りを続けている。2位のエヴァンスとの差は15秒へとほんのわずかに縮まったが、「クルマを壊すわけにはいかないし、このようなコンディションなので、僕たちも気をつけていかなければならない」と気を引きしめる。3位につける勝田はエヴァンスとの差を10.1秒へと縮めてみせたが、気がかりなのは後方のヒョンデ勢だ。

 4位につけるタナクは3番手タイムを奪って勝田の4.9秒差に迫り、さらに 5位のヌーヴィルはヒビが入ったフロントガラスにもかかわらず、この週末初のベストタイム、タナクの19.5秒背後まで近づき、上位陣の差はここでもぐっと縮まってきた。

 だが、SS10スリーピング・ウォリアーでは、ここまでトップ3を堅持するトヨタ勢の一角を切り崩す勢いをみせていたタナクにまさかの事態が待っていた。彼は終盤スプリットまでトップタイムのペースを刻んでいたが、最終セクションでマシンからひどい異音が発生、たまらず一度マシンを止めてエンジンルームをチェックすることになる。

 タナクはリスタートしたが、ガラガラという騒音は止まず、さらにコクピットに何かが焼け焦げる臭いがしてきたことから、ふたたびマシンストップ、ヘリコプターのカメラはタナクとマルティン・ヤルヴェオヤがアンダーガードと右フロントタイヤを外して駆動系の修理を試みている様子を映し出しているが、無情にもマシンの横を何台ものマシンがすり抜けてゆく。

 タナクは昨年もスリーピング・ウォリアーの2回目の走行で、突然の豪雨のなかでワイパーが故障、優勝のチャンスを失う大きなタイムロスを喫したが、今年もまたゴールのメディアゾーンのテントがすぐそこに見えながらもさらに最悪の結果を受け入れるしかなかった。

 また、前ステージでタナクに僅差まで詰め寄られていた勝田も、右フロントタイヤをパンクしてフィニッシュ、さらに左フロントタイヤもカットしておりスローパンクしている。ここで17秒を失った彼は、2位のエヴァンスから20.5秒遅れ、首位のロヴァンペラからは39.9秒遅れの3位をキープしているとはいえ、そのポジションはけっして安泰ではない。連続してベストタイムを奪って4位に浮上したヌーヴィルが7.4秒の後方に迫ってきたからだ。

 ヌーヴィルは前ステージに続いてここでもリヤタイヤをパンクしたが、表彰台を諦めることなく気迫の走りを続けている。「まずまずのステージだったが、車内に入り込んでいるダストに苦労したよ。右リヤのパンクはラスト3kmだ。そこで少しタイムをロスしてしまったが、それでもこうしてここにいるのでよかったよ」

 2位につけるエヴァンスもパンクに見舞われたが、ヌーヴィルと同じくステージの終盤だったためそれほどタイムには大きな影響はなかったことは幸いだった。「ラフなところではとても注意深く走ったが、それでもパンクしてしまった。難しいね」

 ロヴァンペラは後続のこうしたドラマとは無縁な走りでトラブルフリーのラリーをつづけている。19.4秒をリードして朝のループを終えた彼は、予想したよりはるかに路面が荒れていたと告白した。「予想よりかなりタフだった。たくさんの岩が転がっており、とにかく気をつけるようにしたんだ。うしろのマシンも同じトヨタのマシンなので、簡単ではない。いいペースを続けなければならないが、ここまではタイムも悪くなかった」

 ミッドデイサービスのころから上空の雲はいちだんと暗くなり、いまにも雨が降り出しそうだ。ここではエヴァンスの速さが際立ち、彼はベストタイムを奪って首位のロヴァンペラとの差を3.6秒縮め、二人の差は15.8秒となった。ロヴァンペラはステージエンドで「かなり荒れたコンディションだけど、問題なく走れるように頑張った」と語りながらも、ミッドデイサービスで気分が悪くなり、今もあまり体調が良くないと不安な気持をのぞかせた。

 3位につける勝田の7.4秒後方に迫っていたヌーヴィルはフロントのエアロを失った状態でステージを終えており、勝田へのチャレンジは苦しくなった。「バンピーなセクションでボディワークを失ってしまった。最後はアンダーステアが強くなり、フロントがないためにマシンがずっと浮いていて、速く走れなかった」

 勝田もまたリヤにダメージを負っていたが、それほど大きなダメージはなく、ヌーヴィルに対して10.2秒のアドバンテージを築いた。

 このステージこそ雨は降らなかったが、続くSS12エレメンテイタの後半のエリアでは集中豪雨のために水びたしとなっている。ブラックコットンと呼ばれるバウダー状の土が覆っていたステージは、いまや真っ黒な泥の海へと生まれ変わり、グリップゼロの路面は「ケニアのアイススケートリンク」と呼ばれるほど危険な路面と化していた。

 誰もが少なからず苦しんだこのステージで速さをみせたのが、ロヴァンペラだ。ここまで慎重なペースで抑えてきた彼は15.08kmのこのステージでエヴァンスに対して1kmあたり0.74秒も上回る速さをみせて、ライバルを27.1秒差の彼方へと突き放した。「泥の上でかなりきれいに正確に走れたように感じた。悪くないね! なぜ僕たちがこんなに速いのかはわからないけれど、それ以外はすべて順調だ」

 そしてここでは、ヌーヴィルが2番手タイムを叩き出し、マディなセクションでヒヤリとした瞬間を経験した勝田を捕らえて3位へと浮上することになった。だが、彼は右フロントセクションを壊しており、せっぱつまった表情でタイムコントロールを急いで離れることになった。

 5.7秒差の4位へとポジションを落とした勝田は「あるコーナーが完全にマディで、僕はただ真っ直ぐ行ってしまった。それはとても驚きで、とても不思議なことだったけれど、僕たちはここにいる」とグリップのあまりの変化に戸惑ったことを告白する。

 土曜日の最後のステージは、スリーピング・ウォリアーの2回目の走行だ。ステージを囲む丘はマサイ族の眠れる戦士の姿に似ており、戦士が目を覚ますと世界の終わりが近いという言い伝えで恐れられてきたが、昨年も大雨で大混乱を引き起こしたこのステージはふたたびゲリラ豪雨によってドライバーたちを恐怖に陥れる。

 すでに雨は上がっているものの、ステージ中盤以降は泥だらけのスリッパリーなコンディションとなっており、ストレートでさえまっすぐ走るのが困難なほどだ。タイヤを落して一度マシンを止めたら脱出が困難なマッドホールがあちこちに黒々と口を開けて待ち構えている。

 金曜日にエンジンルームの火災のためにリタイアしたあとリスタートに回っていたセバスチャン・ローブ(フォード・プーマRally1)は一番手のポジションでこの悪夢のコースを最初に経験したが、左フロントタイヤは完全に吹き飛び、ステアリングとサスペンションにダメージを受けてどうにかステージエンドに辿り着いた。

 ローブに続くドライバーたちも多かれ少なかれ危ない瞬間を経験することになったが、このステージで完全にマシンを止めることになったのは3位につけていたヌーヴィルだ。

 問題が発生した前ステージのあとロードセクションでマシンを止めて断裂したオルタネーターベルトを交換、サスペンションを応急修理したヌーヴィルは、序盤のスプリットでトラブルが完全に解決したかのような速さをみせていた。だが、彼はマッドホールでスタック、どうにか脱出できたものの再びスライドして立ち木にフロントから激突、マシンを止めることになった。

 勝田は、ヌーヴィルの脱落により3位に浮上したが、ライバルのマシンが木に刺さったのを見て、「完全に慎重になった」と認めた。「非常にタフなステージだった!僕もここではパンクしてしまったよ」。首位からは1分15秒遅れとなったが、2年連続のサファリ表彰台に向けて、残されたのはあと一日だ。「ようやく今日が終わったので少しリラックスできるが、明日は大事な日なので頑張りたい」

 ラリーリーダーのロヴァンペラもここでは2度もオフしかかりながらも、見事なマシンコントロールをみせて2番手タイム、マシンを水たまりでスライドさせて立ち木にドアを激しくヒットさせたエヴァンスとの差を40.3秒まで広げて土曜日を終えている。「自分でも(どうしてゴールできたのか)わからない。マシンを直線上にキープできなかったし、ワイパーもうまく効かず何も見えなかった。でも、ここにいられてうれしいよ」とロヴァンペラは語っている。

 エヴァンスにとっては路面の急変はロヴァンペラに近づく絶好のチャンスだったはずだが、ウォッシャー液が尽きるなど運も彼の味方をしなかった。「酷かった。フロントウィンドウのウォッシャーに問題があって、前がよく見えなかったんだ。ここにいられるのは嬉しいけど、とても遅かった」

 このステージでベストタイムを奪ったのはオジエだ。金曜日のパンクで首位から6位まで後退した彼だが、4位まで浮上して土曜日を終えている。3位の勝田からは1分22秒という大きな遅れとなっているが、彼がこのポジションまで復活してきたことで、トヨタにとっては1993年以来となるサファリの表彰台独占だけではなく、1-2-3-4フィニッシュの再現という夢の達成も近づいたようにも見える。

 ヌーヴィルは土曜日のリタイアにもかかわらず、クルー間のギャップが大きいため、オジエから8分21秒遅れの総合5位のポジションで明日リスタートすることになる。

 ヌーヴィルの後方6位にはヒョンデ勢唯一の生き残りとなるオリヴァー・ソルベルグ(ヒョンデi20 N Rally1)が続いており、このステージでもトップタイムから2分近く遅れたものの、タイムよりサファリの試練を克服したことが重要だったかのように彼は笑顔を弾けさせた。「エンジンが2回ストップしてしまい、かなりタイムを失った。だがそんなことはどうでもいい。このステージをフィニッシュできたことは本当に幸運だ!僕の人生の中で達成した最高なことのひとつだよ!」

 クレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)は前日のステアリング破損によるリタイアのあとの安全第一のリスタートが「かなり退屈だ」と語っていたが、ゼロリスクの走りを徹底した彼は初挑戦のサファリでMスポーツ・フォード勢の最上位となる7位で続いている。

 明日の日曜日はふたたびナイバシャ湖の周辺のステージとなり、6SS/82.70kmという比較的長い最終日となる。オープニングステージは、昨年、ロヴァンペラがフェシュ・フェシュでスタックしたオスアーリン・ステージであり、まだまだ厳しい試練がサバンナに待ち受けている。ステージのスタートは現地時間7時5分(日本時間13時5分)が予定されている。