WRC2022/01/24

ローブが劇的な逆転勝利、WRC通算80勝を達成

(c)M-Sport

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 伝説のワールドチャンピオン、セバスチャン・ローブ(フォード・プーマRally1)が、世界ラリー選手権開幕戦ラリー・モンテカルロで逆転勝利を飾ることになり、Mスポーツ・フォードにハイブリッド新世代WRCの緒戦でのメモリアルウィンをもたらすことになった。ローブはこれでモンテでは通算8勝、WRC通算80勝を達成することになった。

 モンテカルロ最終日も前日の順位のリバースでの走行となる。1.勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)、2.オリヴァー・ソルベルグ(ヒュンダイi20 N Rally1)、3.エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)、4.ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20 N Rally1)、5.ガス・グリーンスミス(フォード・プーマRally1)、6.カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)、7.クレイグ・ブリーン(フォード・プーマRally1)、8.ローブ、9.オジエ。土曜日にリタイアしたオイット・タナクはエンジンにダメージがあることからリスタートを断念している。土曜日の最終ステージでスタックのために13分を失った勝田は、10分のペナルティで最終日を総合13位でリスタートすることを選んでおり、彼がコースオープナーを務めることになる。

 最終日はラ・ペンヌ〜コロンゲ(19.37km)のあと、デュ・ビュイ峠とヴァル・ド・シャルバーニュを駆け抜けるブリアンソネ〜アントルヴォー(14.26km)を連続してループする4SS/67.26kmの一日。朝のサービスでのタイヤチョイスは、ドライバーたちにとっても最後のタイヤチョイスの機会であり、このタイヤで最後まで走り切らなければならない。

 ラリーリーダーのオジエと21.1秒差の2位で続くローブはともにソフト6本を選択、優勝を争う二人に続いてブリーン、ロヴァンペラ、グリーンスミスらのほとんどのドライバーがソフト6本を選んでステージへと向かって行った。また、ヌーヴィルとソルベルグはソフト4本とスーパーソフト2本を選び、勝田はソフト5本で追い上げを図るほか、前日のコースオフで26 位まで後退しているエヴァンスはトップ10フィニッシュが絶望的となっているだけにソフト5本のギャンブルでパワーステージでの最大ポイントを狙いに行く。

 最終日も雨の気配はなく、晴れ渡った朝を迎えることになった。オープニングステージのSS14ラ・ペンヌ〜コロンゲはほとんどドライコンディションとなったが、グラベルクルーが夜明け前に標高の高いところではマイナス10度まで冷え込んだとレポートしたとおりに、コース上のいたるところにアイスパッチと霜が下りている。

 ここではローブがベストタイムも、首位のオジエは1.1秒差の2番手タイムで続き、引き続き20秒をリード、戦況に大きな変化をもたらすことはできなかった。「良いステージだったが、良いリズムを保とうとしたが難しいね」

 オジエは自身のタイムに満足したように、「いいスタートになった。僕にとってはクリーンなステージだった、あまりプッシュすることはなかったが、十分だ」とコメントした。

 3番手タイムはブリーン、4番手タイムにはロヴァンペラが続き、それぞれ3位と4位をキープしたが、二人の差も39.2秒と小さくはない。ロヴァンペラは「プレッシャーをかけ続ける必要があるが、ドライビングでは(ブリーンを捕らえることは)不可能だ」と語り、あとはチームの選手権のためにポジションを守りに行く。

 SS15はブライアンソネ〜アントルヴォーの1回目の走行。ドュ・ビュイ峠のダウンヒルにはアイシーなセクションがあるほか、崖っぷちのコースにはカットによってかなりのかき出された小石が転がっている。この荒れたコンディションでパワーステージのためにタイヤを温存する戦略だったエヴァンスが5.3km地点でタイヤ交換のためにストップすることになった。

「コーナーのイン側で何かをヒットして、大したことはないと思ったが、突然パンクのアラームが鳴った。失うものは何もないので交換することにしたんだ」とエヴァンスは説明する。それでもこれで彼は唯一のスペアを使い果たしてしまい、あとがない状況となった。

 このステージでベストタイムを奪ったのはヌーヴィル。コースオフによって土曜日を48位で終えていたチームメイトのソルベルグは、前のステージを7番手タイムでフィニッシュしたものの、初日から排気ガスがコクピットに充満し続けた影響で彼とエリオット・エドモンドソンの気分がすぐれないことからチームはリタイアされることを決定している。

 これでヒュンダイの生き残りは6位につけるヌーヴィルのみとなったが、彼はここでリヤデフが滑りだしていたにもかかわらず、渾身の走りでチームと自身にとって今季初のベストタイムをもたらすことになる。「デフがかなりスリップしている。リヤのデフに問題があって、フラットの時は大丈夫なんだけど、バンプがあるとホイールスピンを起こしてしまう。パワーステージは厳しいかもしれないが、それでも僕は最後まで全力を尽くすよ」

 首位オジエは1.9秒差の2番手タイムも、「ここは本当にパンクに気をつけた。クリーンなステージだったが、ところどころトリッキーなところもあり、グリップの変化も激しかったからね」と、タイヤには細心の注意をしているとコメントした。

 ローブはステージ前半の滑りやすいセクションのあとは慎重な走りに徹することになり、オジエから4.6秒遅れの5番手タイム。最初の2つのステージを終えて二人の差は24.6秒に広がった。残すところあと2ステージ。ローブが追いつくことはかなり状況となり、これでMスポーツがチームオーダーでブリーンを前に出すかもしれないという憶測が現実に近づいたかにも見えた。

 Mスポーツ・フォードのチーム代表を務めるリチャード・ミルナーは、最終日の朝、ローブが優勝する可能性が消えた時点でチームの選手権のことを考えてチーム代表ならオーダーを出ことを決めなければならないと語っていたが、一方で、スポーツマンシップを貫きたいという葛藤があることを認めていた。

「ローブは最初の2、3ステージが終わるまで簡単に勝利を譲るつもりはないだろうし、とのときのポジションがどうなるのかを見るだけだ。僕は速い人が勝つべきだと思うから、そういう話をするのは好きではない。けれど、選手権のことを考えれば難しい状況だ。どうするのか僕が決めなければならないが、とても迷っている」

 だが、ラ・ペンヌ〜コロンゲ・ステージの2回目の走行となったSS16でもローブは勝利を諦めてないかのようにアクセルを踏み続け、グリーンスミスを3.9秒上回る暫定トップタイムでステージを駆け抜ける。

 そして、その後方ではオジエのマシンに異変が発生していた。最初は右コーナーでの小さなアンダーステアの症状だったが、やがて彼の表情はこわばり、左フロントタイヤに大きな問題があることがはっきりとわかるほどまでにペースダウン、なんと34.1秒も遅れてフィニッシュする。先ほどのステージではパンクに気を付けていると語っていたオジエだが、「だから言ったじゃないか」と自身を叱責するかのような厳しい表情で首を横に振ることになった。最終ステージを前に、まさかのドラマによってローブが9.5秒差をつけてふたたび首位に立つことになった。

 そして迎えたパワーステージ、オジエはまだ逆転を諦めていない。だが、彼は勝利を奪い返したいという気が急いていたのか、まさかのジャンプスタート! 10秒のペナルティを課されるとは夢にも思わないままに、紙一重の走りで勝負に行く。オジエは暫定トップタイムだったロヴァンペラのタイムを2秒も上回ってフィニッシュも、ゴール地点で知らされたのは祝福の言葉ではなく、無情のペナルティだった。「スタート時にエンジンから変な音がして気が散り、少し早くリリースしてしまったかもしれない。でも胸を張ることができる。この週末は自分の仕事をしたし、それが現実だ。チームの皆も素晴らしい仕事をした。ハイブリッドでの初めての週末は、良い結果となった」

 ローブはこのステージの1回目の走行で5秒近くを失っており、ペナルティがなければ勝負はぎりぎりだという覚悟もあっただろう。だが、いくつもの運が味方し、ローブは最終的に10.5秒で逃げ切って勝利を飾ることになった。

 ローブはこれでモンテでオジエと並ぶ8勝を達成、自身がもつWRC通算勝利記録を80回へと更新し、47歳10カ月28日という史上最年長優勝記録を達成することになった。また、コドライバーのイザベル・ガルミッシュにとってはこれがWRC初優勝だ。女性のウィナーは1997年のモンテカルロで優勝したピエロ・リアッティのコドライバーのファビリツィア・ポンズ以来、実に25年ぶりに誕生したことになる。

 オジエのジャンプスタートがなければ二人の差はわずか0.5秒だった計算であり、2019年にオジエが勝利したときの2.2秒差というモンテ史上もっとも僅差の勝利記録の更新となったはずだったが、伝説の王者はいくつものレコードを打ち立て、まだ伝説が終わってないことをアピールすることになった。「本当に幸せだ!ここに来たときはあまり期待していなかったが、素晴らしい戦いになった。オジエは本当に速かったし、僕は昨日も今朝もちょっと苦戦した」とローブは終生のライバルを讃えることになった。

 3位でフィニッシュしたブリーンにとってはもちろんモンテでの初ポディウムだ。「これは特別な表彰台だ」と彼は語ったが、もちろんローブもオジエも選手権を争うライバルではなく、チャンピオン争いでは彼自身がもっともポディウムの高い位置に立ったからだ。

 4位にはロヴァンペラ。新しいマシンに自信がもてずに一時は12位まで後退するなどスタートは最悪だったが、最後のパワーステージを含めて3つのベストタイムを獲得、週末の進歩に満足したように「マシンを改善するのはそれほど難しくなかったと思う!」と語った。

 5位には初のベストタイムを獲得するなどポジティブなシーズン開幕戦となったグリーンスミス、6位にはさまざまなトラブルから生き残ったヌーヴィルが続くことになった。

 一時はロヴァンペラに続いて5位のポジションにつけていた勝田だが、土曜日にスノーバンクでスタックするなど厳しい週末となったが、それでも最終日には2度の3番手タイムを叩きだして追い上げ、アンドレアス・ミケルセン(シュコダ・ファビアRally2エボ)に続いて8位でフィニッシュすることになった。「自分自身と昨日のミスにとてもがっかりしているが、これも勉強のうちだ。この経験は自分の将来に役立つものばかりなので、こういう嫌な思いから学んでいこうと思う」と、勝田はうつむくことなく未来だけを向いている。

 また、チェコの新星エリック・ツアイス(フォード・フィエスタRally2)が初挑戦のモンテで見事に総合でトップ10フィニッシュを果たし、初のドライバーズポイントを獲得している。総合21位に終わったエヴァンスは、スペアを失いながらもパワーステージで2番手タイムによる4ポイントを獲得して最悪のラリーになることを避けている。

 開幕戦を終えて、ドライバーズ選手権ではローブが27ポイントでリード、オジエが19ポイント、パワーステージを制したロヴァンペラが17ポイント、ブリーンが15ポイントとなっている。

 また、マニュファクチャラー選手権では、ダブルポディウムを飾ったMスポーツ・フォードが42ポイントでリード、トヨタGAZOOレーシングが39ポイント、ヒュンダイ・モータースポーツが13ポイント、トヨタGAZOOレーシングWRT NGが8ポイントとなっている。

 WRC次戦は2月のラリー・スウェーデン。新たに北部のウーメオに拠点を移しており、白銀のステージがRally1カーを待っている。