WRC2018/10/29

ローブが逆転で5年半ぶり優勝、通算79勝を達成

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 2018年世界ラリー選手権(WRC)第12戦ラリー・デ・エスパーニャにおいてシトロエン・レーシングからスポットで参戦したセバスチャン・ローブ(シトロエンC3 WRC)が最終日に逆転優勝を飾り、2013年のラリー・アルゼンチン以来、およそ5年半ぶりとなる通算79回目の勝利を獲得した。

 最終日はリウデカニエス(16.35km)とサンタ・マリーナ(14.50km)の2つのステージをサービスをはさんで2回ループする4SS/61.70kmという短い一日だ。前日までの雨はすでに止んでおり、グラベルクルーからはステージの路面は湿っているところもあるが、ほぼドライコンディションだとの情報がもたらせれている。気温も10度を切っていることからほとんどのドライバーたちはすべてソフトコンパウンドタイヤをチョイスすることになったが、ローブだけはすべてハードを選ぶことになった。

 この選択はギャンブルにも見えたが、首位のヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)から8秒差の3位で最終日をスタートしたローブは、オープニングSSのリウデカニエスでベストタイム! 2位につけていたセバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)とともにラトバラさえも一気に抜き去って首位に浮上することになった!

 今季3度目のスポット参戦としてスペインをスタートしたローブは、木曜日にバルセロナ近郊で行われたストリートステージではエンジンをストールさせて27番手タイムで発進、金曜日のグラベルステージでは走行順にも恵まれて4位までポジションを上げ、雨によってさまざまな波乱が起きた土曜日のターマックステージでも3位まで順位を上げていた。彼にとっては雨のターマックは、引退を決意したあとの最後の母国ラウンドとなった2013年のラリー・ド・フランスだったが、このときは地元アルザスのファンの声援も空しくクラッシュしてリタイアに終わっていた。

 9度のワールドチャンピオンとはいえ、すでに引退してから5年がすぎたローブがこの週末にラリーをリードするとは誰が想像しただろうか。彼は、続くSS16サンタ・マリーナでも連続してベストタイムを並べ、ラトバラとの差を7.1秒差まで広げて昼のサービスへと戻ってきた。

 ローブは朝のループで誰もハードをチョイスしなかったことに驚いていると語った。

「朝の時点でこの選択をするのは困難だったかもしれないが、僕らのグラベルクルーの情報はドライで、どんどん乾いているとのことだった。その情報と、昨日まで経験したことから、ハードが正しい選択となるだろうと僕らは考えていた。誰もこの選択をしなかったのは驚きだった。それは最高のものだったからね!」

 オープニングSSのステージエンドでローブから10.6秒も遅れたことを報されたラトバラは愕然とした表情となったが、続くSS16ではなんとか後れを取り戻すべく攻め込んだが、終盤のツイスティでバンピーなセクションで跳ねてしまいあわやコースオフ寸前となってしまい、7.1秒差をつけられて最初のループを終えることになった。「ハードでいくことは考えもしなかった。最初のステージでも、なぜこれほどアンダーステアが出るのか首をひねっていたくらいだった。僕らには雨が降るとの情報もあったからそうなることを期待した選択だった。だが、セブのほうが正しいチョイスだったというわけだ。オジエもすぐ背後にいるし、このあともプッシュする必要がある」

 オジエは、「ハードタイヤは選手権を争う僕らにはギャンブルすぎた。セブはリスクを冒し、僕らはこのバンピーなステージでそれは不可能だった」と語り、あくまでターゲットはティエリー・ヌーヴィルとの選手権の勝負だと気持ちを立て直す。

 5位で最終日を迎えた選手権リーダーのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)もソフトを選んでいたためベストな走りではなかったが、彼はSS16でエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)を抜いて4位へ浮上、オジエの3.8秒後方まで迫ってきた。

 朝のループでのローブのタイムに影響されたようにすべてのドライバーがハードを中心とした選択を行って2回目のループに臨むことになった。

 ローブは2回目のリウデカニエスも強烈なスピードでスタート、最初のスプリットではラトバラやオジエを5秒近くも引き離してみせたが、ラウンドアバウトのドーナツターンで出口を見失ってスピン、10秒近くをロスしてしまう。これでラトバラが首位に迫るチャンスがあるかに思われたが、なんと彼は左コーナーのイン側にガードレールに近づきすぎて左フロントホイールをヒットしてパンク、48秒を失って6位へと後退してしまった。

 ローブはどうにか首位をキープしたものの、このステージでベストタイムを奪ったオジエが3.6秒差に迫ることになった。

 オジエは、選手権の戦略よりローブとの勝負しか眼中にないかのように、「セブと勝負だ。僕は勝ちたいんだ」と言い放ち、最後のステージに決戦を挑む。

 セブ対セブの一騎打ちにヒートアップした最終ステージ、ローブは摩耗したフロントタイヤで激しいアンダーステアと戦いながらも気迫の走りでオジエから2.9秒差で逃げ切り、シトロエンに今季初勝利をもたらすことになった。

 ローブとダニエル・エレナは5年半ぶりにラリーカーのルーフに立ち上がって79回目の勝利を喜ぶとともに、2位に敗れたオジエをルーフに招いて健闘を讃え合った。「本当に信じられない! 本当に毎日ベストを尽くしてきたんだ。リスムを掴むのに毎朝本当に苦労してきた、今朝以外はね。なんとかクルマのフィーリングを取り戻すことができるようになって、プッシュすることができた。素晴らしい気持ちだよ。またラリーに勝利できるなんて信じていなかったよ!」とローブは目にうっすらと涙をうかべた。

 3位につけるヌーヴィルもパワーステージでオジエと遜色のないスプリットタイムで駆け抜け、ボーナスポイントを狙ったが、エヴァンスがかきだした石を避けられずに右リヤホイールにダメージを負ってしまう。彼はパンクしたマシンでリヤを激しく振り回してどうにかフィニッシュするも2.5秒をロス、0.5秒差でエヴァンスに3位を明け渡すことになり、Mスポーツ・フォードがダブルポディウムを獲得することになった。

 4位に順位を落としたヌーヴィルは、パワーステージでも6番手タイムに終わり、ボーナスポイント獲得ならず。オジエが3ポイントをリードして、最終戦ラリー・オーストラリアを迎えることになった。

 ダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)は、エヴァンスからわずか0.6秒遅れで最終ステージを迎えたが、アンダーステアに苦しんでペースを上げられず、ヌーヴィルの1.6秒後方の5位でフィニッシュすることになった。

 ラトバラは、土曜日のパンクで大きく遅れたオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)のドライバーズ選手権でのチャンスを広げるために最終ステージで41.2秒遅れてフィニッシュし、タナクとエサペッカ・ラッピ(トヨタ・ヤリスWRC)の後方に順位を下げて8位でフィニッシュすることになった。「自分のミスでチームに本当に申し訳なかった、0.1秒をかけて戦っている時にこうなってしまうんだ。だが、あのポジションにいる時、必ず戦い続けていかなければならないんだ!」

 6位でのゴールを迎えたタナクは狙いどおりにパワーステージでトップタイムを獲得、ボーナス5ポイントを加えて選手権では23ポイントのビハインドで辛くも最終戦に逆転チャンピオンの可能性を残すことになった。「僕たちは非常に失望している。もうほぼ不可能に近いとは思うが、あきらめてはいない、僕たちは最後までプッシュし続けるよ」

 マニュファクチャラー選手権は、トヨタが引き続きトップを維持したが、波乱の一戦を終えて、ヒュンダイ・モータースポーツが12ポイント差に迫ることになった。二つの選手権のタイトルがかかった最終戦ラリー・オーストラリアは11月15〜18日に開催される。