WRC2017/07/29

衝撃ラッピ、ラトバラを抑えて母国戦をリード

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 2017年世界ラリー選手権(WRC)第9戦ラリー・フィンランドは、TOYOTA GAZOO Racing WRTの新鋭エサペッカ・ラッピ(トヨタ・ヤリスWRC)が金曜日に行われた12ステージのうち8SSでベストタイムを奪うというセンセーショナルな速さをみせ、母国ラウンドのDAY1を首位で終えることになった。

 ラリー・フィンランドは木曜夜にユヴァスキラの市街地で行われたハルユ・ステージで開幕、金曜日は高速ステージとして有名なウッリアやユーコヤルビをふくむ12SS/145.71kmという、一瞬の隙も許されない長くタフな一日となる。

 昨日まで不安定な天候だったユヴァスキュラは青空が雲間からのぞいた朝を迎えたが、オープニングステージとなったSS2ハリネンは夜露によって硬くしまったコンディションとなっており、一番手スタートのセバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)にとっては有利な状況にも見えた。だが、なんとこのステージをトップタイムで駆け抜けたのは、これがWRカーでの参戦2戦目となるテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)という衝撃の幕開けとなる。

 スニネンは前夜の短いスーパーSSでは5.4秒あまりもロスしたためやっと9位に順位を上げることになり、金曜日のオープニングステージでは木曜日のリーダーであるオット・タナク(フォード・フィエスタWRC)が首位をキープ、オジエが2位へと順位を上げたオジエが続く展開で始まることになった。

 オジエにとっては、選手権を争うティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)がペースが上がらず10位まで後退したことから、幸先のいいスタートとなったかに見えたが、喜びはつかの間、彼はSS3ウッリアではスロットルが反応しない問題を抱えて6位に後退、さらに本当の失望は次のステージに待っていた。

 オジエはSS4ユコヤルビ・ステージのジャンプで激しく着地した際にダンパーを破損、そのまま異常を感じながらゴールに向かうも、残り700m地点でマシンをスライドさせてしまいコースオフ、右サイドから激しく立ち木に激突してリタイアとなってしまった。

 このユコヤルビでは、復調の兆しをみせていたヘイデン・パッドン(ヒュンダイi20クーペWRC)も1.9km地点で右のリヤサスペンションを壊してマシンストップ、さらにそれまでラリーをリードしてきたタナクも岩にヒットして右リヤタイヤをパンク、1分30秒あまりをロスして13位まで後退するというドラマが相次いで発生することになった。

 上位陣のトラブルによってこのステージを終えてトップに浮上することになったのはヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)。彼は4番手ポジションでこの日をスタート、SS3ではベストタイムを刻んで2位に浮上しており、いつものライバルたちが目の前から消えて首位に立ったいま、彼がこのまま4回目の勝利にむけて独走するかにも見えた。ところが、思ってもみなかった新しいライバルが彼の前に立ちはだかることになる。

 このSS4でベストタイムを刻んだのは、これがWRカーでの4戦目にすぎないラッピ。サルディニアではパワーステージを含む6回のベストタイムを奪ってみせた彼だが、その速さが偶然ではなかったことをこのベストタイムで早くも証明することになり、一気に11位から2位までジャンプアップを果たすことになった。

 11番手という走行順にもめぐまれているラッピは、クリーンになった路面コンディションのなかでSS5、6とベストタイムを刻んでラトバラに2.2秒差まで詰め寄ることに成功する。しかし、SS7ではトップグループが走り終えたあと突然の雨がステージを濡らすことになり、この快進撃に水を差されたかに見えたが、ラッピはこの日4度目となるベストタイムを叩き出して、ラトバラとの差を1.6秒にまで縮めてユヴァスキュラのデイサービスに戻ることになった。

 首位をキープしているとはいえ、もはやラトバラに余裕はない。「エサペッカがハードにプッシュしている。彼は素晴らしい走りをしているので大接戦になりそうだ」といまや彼の最大のライバルがチームメイトとなったことをはっきりと認識していた。

 だが、午後のループの最初のステージとなったSS8アーネコスキではなんとラトバラとラッピは同タイム、SS9ラウカーではベストタイムを奪ったラッピがラトバラの1.1秒背後にじわりと迫ってきた。これまで2番手という走行ポジションのハンデに苦しみながらも、まさにぎりぎりの走りで首位をキープしてきたラトバラは、SS10ランカマーではシケインのストローベイルにリヤをヒット、幸いにもフェンダーを壊しただけで済んだが、ここでベストタイムを奪ったラッピがついに逆転、0.3秒差ながらラリーをリードすることになった。

 ラッピは残されたステージでもラトバラに付け入る隙を与えず、SS11、12でも連続してベストタイムを奪い、ラトバラに4.4秒差をつけて堂々のラリーリーダーとしてDAY1を終えることになった。

「少年のころからフィンランドでWRカーをドライブすることが夢だった。それが現実となりラリーをリードしている。言うことない」とラッピはゴールで笑みをみせたが、クールな瞳は現実を冷静に見つめているようだ。

「明日は世界で最高のステージであるオウニンポウヤを僕らは走ることになる。なにができるだろうか。わからないよ。集中する必要がある。明日もヤリ-マティとの戦いを自分に強いるつもりはないよ。目標は表彰台だったし、いまもそうだからね」

 SS4でラリーをいったんリードしたあと、一度もロングステージでラッピを上回るタイムを出せなかったラトバラは、「これだけは言う必要があるが、できるだけのこと尽くして、それでもエサペッカは僕より一日中速かった」とただ首を横に振るしかなかった。

 初日のサプライズはラッピだけではない。首位から19秒差の3位につけたのは、オープニングSSでベストタイムを奪ったスニネンだ。

 スニネンは朝のループを5位で終えたあと、ライバルのラッピのペースに引っ張られるようにSS8アーネコスキでこの日2度目のベストタイムを奪取して3位に浮上、首位からはじわじわと引き離されることになり、最終的にラッピからは19秒差をつけられたものの、表彰台のポジションでこの日を終えることになり、なんとトップ3人がフィンランド出身ドライバーという異例の事態となっている。

 昨年ここで初の表彰台を獲得したシトロエンのクレイグ・ブリーン(シトロエンC3 WRC)はタイトな3位争いでふんばっていたものの、ペースノートの問題やブレーキのトラブルに苦しめられて4位でこの日を終えることになった。

 ユホ・ハンニネン(トヨタ・ヤリスWRC)はSS8の2番手など午後になってペースを掴んだかに見えた。しかし、SS10で4位に浮上するも、このとき岩にヒットしてサスペンションを破損、応急処置でステージを続行したためにペースを落とし、終盤にブリーンに抜かれて5位となった。

 大雨となったSS7では3番手タイムを出して3位に浮上したマッズ・オストベルグ(フォード・フィエスタWRC)は、午後のループではトラックコントロールアームのジョイントが緩むというトラブルでペースダウン、6位に順位を落とすことになった。

 シェイクダウンこそいい走りをみせたクリス・ミーク(シトロエンC3 WRC)は2年連続勝利も期待されたが、思ったとおりのフィーリングが得られないマシンに苦しむことになり、SS10ではストローベイルを結わえていたテープをマシンにひっかけてフィニッシュ、エルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)に抜かれて9位に順位を落とすことになった。

 また、選手権リーダーのオジエがリタイアしたあとコースオープナーを務めてきたヌーヴィルは、柔らかいグラベルがのった路面でリヤのグリップに苦しみ、8位にとどまることになった。彼は「もちろんオジエがいなくなった以上、不要なリスクは取らなかった。路面掃除がペースを上げることをさらに難しくさせたが、はっきり言って今日の僕にはスピードがなかった」と語り、選手権でオジエとの差を詰める絶好のチャンスとなったにもかかわらず、順位を上げることができなかったことに悔しさをにじませていた。
 
 土曜日は、名物のオウニンポウヤを含む8SS/132.34kmがヤムサ地方で待ち受ける。最終日が33.84kmと短いため、勝負の行方を決める一日になるはずだ。