WRC2017/10/29

エヴァンス、初優勝にむけて母国戦を独走

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 世界ラリー選手権第12戦ウェールズ・ラリーGBは、DMACKワールドラリーチームのエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)がこの日も6つのベストタイムを獲得、53.1秒という大きなリードを築いて明日の最終日に初勝利を賭けて挑むことになった。

 雨は降ってないものの、ウェールズは引き続きウェットコンディションの朝を迎えることになり、新しいDMACKのソフトコンパウンドタイヤを武器にしたエヴァンスの勢いはこの日も止まらない。24.6秒をリードして土曜日をスタートしたエヴァンスは、オープニングステージのSS8アベルヒナント(13.91km)でベストタイムを叩き出してリードを30秒へと拡大、さらに続くSS9ディフナント(17.91km)でも連続してベストタイムを奪い、ペースの上がらないオット・タナク(フォード・フィエスタWRC)に対してリードを36.1秒へと広げて見せた。

 さらにエヴァンスは彼の自宅があるドルゲッロウにもっとも近いSS10ガルセイニオグ(12.61km)でもこの日3つめのベストタイム、さらに軽い雨が降ったことで道路の表面をスライム状の薄い泥の層が覆うことになったSS11ダイフィ(25.86km)ではタイヤの摩耗を心配することなくなったことで猛攻を続けて4連続のベストタイムを奪い、リードは49.3秒となった。

 快調なペースを刻むエヴァンスに対して、じわじわと遅れ始めたタナクとともに3位につけるセバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)もペースが上がらない。今週末に5度目のワールドチャンピオンになる可能性のあるオジエは、森のなかの滑りやすいステージでギャンブルのような走りをするつもりはないと語ってきたが、SS9でライン上にあった岩を避けきれずに乗り上げてペースを乱すことになり、猛攻をかけてきたティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)にSS10で抜かれて3位を譲ることになる。初日から続いてきたMスポーツの1-2-3態勢がここで崩れることになった。

 ヌーヴィルは木曜日の夜にエンジンが掛からない問題によってタイムコントロールに遅れたほか、コースオフによって金曜日の朝に時点では12位と出遅れていたが、エヴァンスに続く好タイムを刻み続けている。その勢いは止まらず、SS11ではタナクを抜いてついに2位へと浮上することになった。

 ガルセイニオグ(12.61km)の2回目の走行となるSS12ではエヴァンスがこの日の朝から5連続となるベストタイムを獲得、リードを50.6秒へと拡大することになったが、すっかり首位追撃モードに入ったヌーヴィルはついに彼の快進撃を阻むことになる。ヌーヴィルはSS13ダイフィ(25.86km)でこの日初のベストタイムを奪取、さらにSS14チャムレー・キャッスル(1.80km)でも2つめのベストタイムを奪ってエヴァンスの46.3秒後方へと近づいてディーサイドのサービスパークへと帰ってきた。

 ヌーヴィルは、朝のステージで抜いたタナクにはすでに14.8秒差をつけており、「僕たちはまだチャンピオンシップのために戦い続ける必要があるからね」と語り、その照準をいまや完全にエヴァンスへと移している。

 いっぽう、エヴァンスは柔らかいDMACKタイヤがダイフィの終盤ではグリップが厳しかったと語り、朝からタイヤ交換なしで110.56kmに及ぶ6つのロングステージと1つのショートステージを連続して走らなければならなかったため、タイヤはぎりぎりの状況だったと明かしている。それでも大きなヤマ場を一つ超えたことに安堵しているかのように、彼は「かなり苦しかったが、タイヤをうまくマネージメントできてよかったよ」と笑顔をみせた。

 4位につけるオジエは、ヌーヴィルからは14.9秒も引き離されたが、一時8.8秒もの差をつけられていたタナクとの差をじわりと縮め、3.8秒差まで近づいてサービスを迎えることになった。

 30分間のサービスのあと、ラリーカーはナイトポッドを装着してこの日最後の2つのナイトステージへと向かう。だが、完全な暗闇となったステージにはところどころに霧がかかり、10メートル先も見えない状況となっており、乱反射するランプに多くのドライバーたちはさらに視界を失い、いくつものドラマがここで起きることになる。

 2位につけていたヌーヴィルは霧のなかで33.8秒を失って3位に転落、代わってマシンのフロントエンドにダメージを負ったオジエが、4番手タイムながらも堅実な走りを見せて2位に浮上することになった。

 また、3位につけていたタナクはナイトポッドの照射角に問題があったために31.4秒を失い、3位から6位に転落。これまでセッティングに苦しみながらも6位で続いてきたヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)が驚異的な速さをみせてステージ勝利を飾り4位に浮上することになった。

 エヴァンスもラトバラから27.3秒遅れのタイムだったものの、ライバルたちがタイムを落としたため、彼のリードは49.8秒に広がった。さらに2位に浮上したはずのオジエもロードセクションでマシンをストップ、左フロントタイヤを外してブレーキをチェックしたところディスクが破損していることが発覚、彼はそれを取り除き3つのブレーキのままこの日の最終ステージへ向かうことになる。

 最終ステージでは霧がないため大きな波乱は続かず、エヴァンスがベストタイムを奪って首位をキープ、「もっと悪くなることもあり得たので、正直に言って今夜を終えられることが嬉しいよ」と、試練を乗り越え、53.1秒をリードして最終日を迎えることになったエヴァンスは勝利を確信したかのような笑顔をみせた。

 オジエはブレーキディスクなしにもかかわらず、タイムロスを3.3秒にとどめ、0.5秒後方にヌーヴィルが迫ることになったものの、2位をキープすることに成功した。最終日もこのままのポジションなら、オジエの5年連続のワールドチャンピオンが決定する。ヌーヴィルは最終日に逆転で2位になっても、最終戦にタイトル争いを持ち込むためには、パワーステージで勝利することが最低の条件となるが、彼の4.1秒後方にはラトバラが迫っており、まだまだ予測がつかない状況となっている。

 アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイi20クーペWRC)は終日好調な走りをみせて7位から大きく順位を上げたが、霧のナイトステージでナイトポッドの照射角に問題を抱えてラトバラに抜かれて5位となった。

 タナクは表彰台争いから6位に転落、クリス・ミーク(シトロエンC3 WRC)はSS8のジャンクションのミスに続いてSS9でもジャンクションでオフしそうになりながらも5位へと順位を上げたが、ダイフィでブレーキングをミス、7位に沈んでいる。

 ユホ・ハンニネン(トヨタ・ヤリスWRC)は10位と低迷していたが、SS11では2番手のタイムを叩きだして、少しずつだがヤリスのハンドリングが改善しつつあるようも見えた。だが、彼はSS14のチャムレーキャッスルのヘイベイルに接触して姿勢を乱して立ち木にヒット、今年最後の一戦をマシンダメージで終えることになった。

 明日の日曜日は5SS/41.17kmという短い最終日だ。はたしてエヴァンスが母国戦での初勝利を飾り、そしてMスポーツがふたつのタイトルを決めて、スランディドノの美しい海岸沿いのポディウムでゴールを迎えることになるのだろうか。最終日のオープニングSSアルウェンは8時34分(日本時間17時34分)のスタートとなる。