WRC2023/04/23

エヴァンス、1年半ぶり勝利に向けて25秒をリード

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 2023年世界ラリー選手権第4戦クロアチア・ラリーは、22日土曜日にレグ2が行われ、前日までラリーをリードしてきたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)がクラッシュでリタイアとなる波乱に見舞われるなか、トヨタGAZOOレーシングWRTのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が2021年のラリー・フィンランド以来、1年半ぶりの勝利に向けてリードを広げている。

 青空が眩しい朝を迎えたザグレブ。クロアチア・ラリーの土曜日は南部エリアへと向かい、コスタニェヴァツ〜ペトゥルシュ・ヴルフ(23.76km)、ヴィンスキ・ヴルフ〜ドゥガ・レサ(8.78km)、ラヴナゴーラ〜スクラド(10.13km)、プラタック(15.63km)の4ステージをザグレブフェアのミッドデイサービスを挟んで2回ループする8SS/116.60kmの一日となる。

 天気予報はこのまま晴れの一日になると伝えているものの、前日と同様に午後には雨となる可能性もある。例によってこの時期のクロアチアの天候は油断禁物だ。

 オープニングステージのSS9コスタニェヴァツ〜ペトゥルシュ・ヴルフでベストタイムを刻んでスタートしたのは、前日のタイヤ交換でRally1カー最後方の総合8位まで後退、土曜日を一番手のポジションでスタートしたカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)だ。

 ほぼドライコンディションの路面となったこのステージは、グリップの異なるさまざまな種類のターマックが組み合わされる難所の一つで、ラリーカーの走行によってかきだされた泥がコーナーを汚し、さらにグリップレベルを惑わせる。もっともクリーンな路面を走ったロヴァンペラは素晴らしいスタートを切ることができたことを喜んだ。「かなりいい感じだったかな。他のドライバーたちを見てみないとわからないが、コンディションはかなりいいよ」

 ラリーリーダーのヌーヴィルにとっては幸運なニュースがこの朝もたらされている。彼は前日のSS2でブレーキングが間に合わずにシケインを不通過しており、10秒のペナルティが課されて首位を失う可能性もあったが、スチュワードは、レッキで示された位置にシケインがなく、タイムアップを図る意図がなかったというクルーの主張を認めてタイムペナルティなどの措置を取らないことを決めている。

 懸念が消えて晴れ晴れとした気分でもあるだろう。ヌーヴィルは、Rally1カーの最後方でもっとも汚れた路面コンディションをものともしない走りをみせて、エヴァンスに4.8秒の差をつけ、その差を10.5秒へと広げて意気揚々とフィニッシュした。「非常に汚れていたけど、ステージは好きだよ。大きなリズムがあってとても速い。何度かいい感じにスライドしたけど、すべてコントロールできている」と笑顔をみせている。

 一方のエヴァンスは金曜日のステージを終えた時点で、ヌーヴィルとの差を5.7秒まで縮めていたが、土曜日の最初のステージではその差を維持することができなかった。ややグラベルのカットで少し慎重になりすぎたと語ったエヴァンスの後方には、2番手タイムを奪ったオイット・タナクが18.3秒の後方へと迫ってきた。

 タナクは前日のパワーステアリングの問題とタイヤチョイスのミスからトップ争いからはやや離れているが、追い上げるチャンスはまだ残されていると信じている。「かなりいいフィーリングだったよ。昨日までのクルマとは大違いだからね。確実に改善できるはずだ」

 SS12ヴィンスキ・ヴルフ〜ドゥガ・レサは8kmあまりの短いステージだったが、ヌーヴィルがエヴァンスとの差をさらに0.3秒広げ、リードを10.8秒としている。さらにトップ3でもっとも速いペースを刻んでいるタナクは3番手タイムで、エヴァンスの16.1秒後方で続いている。

 エヴァンスは「かなりいい感じでプッシュできたけど、最後はちょっとちぐはぐだったかもしれない」と認め、これまでのところヌーヴィルが土曜日のペースをつかんでさらなるリードを築こうとしているようにも見えた。

 しかし、SS11ラヴナゴーラ〜スクラドには盤石とも思われていたヌーヴィルに波乱が待っていた。今年初めて設定されたこのステージは、森のなかのセクションは路肩に水たまりも残り、そこらじゅうのセクションがかき出されたマッドやルースグラベルで逃げ場がないほど覆われ、この朝でもっとも危険なコンディションとなっている。

 スタートして5.2km地点の右コーナーはそれほど難易度が高くないようにも見えたが、ヌーヴィルはダストで滑りやすくなった進入でブレーキをミス、イン側のダートでスライドを引き起こし、コース脇に設置されていたコンクリート製の土管に左リヤをヒット、サスペンションを壊してリタイアとなった。この週末は亡きチームメイトのために勝利を持ち帰るという大事なミッションがあっただけに彼はがっくりと肩を落とした。

 これで首位にはエヴァンス、19.1秒差の2位にタナクが続くというオーダーとなった。これまでトップ3でもっとも速いペースを刻んできたタナクの後方にはエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)が続いているが、朝の時点で3.4秒あった二人の差はいまや23.7秒へと広がっている。

 前日とより明らかに汚れたコンディションで、ラッピはすっかり自信を失っていると語っている。「自信ゼロだよ。厳しい朝だったよ。何が悪いのか分からないけど、自信がないんだ」

 このステージでベストタイムを奪ったのは、一番手のポジションを味方にしたロヴァンペラだ。彼は朝から3連続ベストタイムで、6位につけるチームメイトのセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)に2.6秒差に迫ってきた。

 最後方で追い上げを図らなければならないのは、前日に2度のパンクに見舞われたオジエも同じことだ。彼は金曜日、一時17位まで後退したあと、猛プッシュを成功させて5位でフィニッシュしたが、その夜、前日のタイヤ交換のあと、コドライバーのヴァンサン・ランデが正しくセーフティハーネスを装着する前に走行したとして1分のペナルティを課され、7位で土曜日をスタートしている。

 エヴァンスはトヨタ勢の最上位としていまやラリーリーダーとなっているものの、トヨタはクロアチアでは2台体制のヒョンデに対してアドバンテージをもたないようマニュファクチャラー選手権のポイント獲得対象からエヴァンスを外すことを決めている。ロヴァンペラとオジエにはリタイアが許されない状況で追い上げなければならないという選手権のためのプレッシャーもあったはずだ。

 オジエにとって金曜日は散々な一日となったが、土曜日も朝、ステージに向かう前にマシンに不具合を発見し、ロードセクションで応急修理を行い、ステージのスタートに1分の遅着、10秒のペナルティを課されている。それでも彼は、最速タイムを刻み続けるロヴァンペラを追い掛けるように好タイムを連発、朝のループの最後のステージとなったSS12プラタックでこの日初のベストタイムを奪い、ペナルティのために前夜にポジションを譲ることになった勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)を捕らえて5位まで順位を上げてきた。

 オジエはこの滑りやすいコンディションでは、ヌーヴィルに起きたことは誰にでも起こりうると認めつつも、「僕たちにできることは、ポジションを上げるために全力で走ることだ」とさらなる追い上げを誓ったが、後方の勝田はまだ1.2秒差、さらにその後方2.1秒差にはロヴァンペラが近づいている。

 一方、トップ争いは二人の白熱の戦いとなっている。このステージではエヴァンスがゴール間際でマシンを大きくスライドさせてオフしそうになりながらも果敢な走りでタナクを5.1秒上回り、リードを22.6秒に広げて朝のループを終えている。「ステージ終盤の路面はグリップが低いことは分かっていたが、リヤでバリアをかすめてしまった、大事にならなくてラッキーだった」

 タナクはさらなるアドバンテージを築こうとしたが朝のステージでタイヤを1本ダメにしていたと告白、ここは耐えるしかなかったと明かした。「これはタイヤ1本を争うレースなんだ。残念ながら、最初のステージでタイヤを失ってしまったので、このステージでは良い選択肢がなかった。できることはすべてやったよ」

 ザグレブフェアのミッドデイサービスが行われるころには気温が22度まで上昇、雨の気配はなく、このまま晴れた午後になりそうだ。

 午後のループの最初のステージとなった、コスタニェヴァツ〜ペトゥルシュ・ヴルフの2回目の走行は、多くのセクションがかき出された土と小石によってさらに滑りやすく、危ないコンディションとなっている。

 もちろんステージは序盤にスタートしたドライバーにとってますます有利なコンディションになっていることは言うまでもない。オジエがベストタイムを奪って、ピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)を抜き、ついに4位までポジションをアップ、さらに快走をロヴァンペラも勝田を抜いてルーベの0.2秒差の6位につけ、5位進出を確実なものとすることになった。

 しかし、先頭ランナーのトヨタ勢と遜色のない2番手タイムで続いたのは驚くことに後方からスタートしたタナクだ。彼は、信じられないほどトリッキーなステージだったと認めながらも、ここでは「臆病になってしまった」と認めた首位のエヴァンスとの差を6.7秒も縮め、リーダーに15.9秒差に迫っている。

 タナクはステージエンドでしばらく口を閉ざしていたが、「まだ先は続いている。僕たちはこのまま進み続ける必要がある」と強い決意を示すように語った。彼は、続くSS14コスタニェヴァツ〜ペトゥルシュ・ヴルフではついにベストタイムを奪い、エヴァンスとの差を12.5秒に縮めることになった。

 エヴァンスは8.75kmのステージで3.4秒も失ったことに驚き、苦笑するしかない。「あのタイムだよ、彼は限界の走りができているに違いないね! これほどタイムを失ったことに驚いた。マシンのフィーリングは良くなったと思ったが、タイムのせいかあまり良く感じないよ!」

 続くSS14ラヴナゴーラ〜スクラドは、朝の1回目の走行でヌーヴィルがクラッシュしたときよりも、さらに汚れて未舗装のようなコンディションとなったセクションもあったほどだ。それまで好タイムを刻んでエヴァンスにプレッシャーをかけ続けてきたタナクがここでは勢いを落とし、エヴァンスがリードを16.8秒へと広げることになった。

 タナクはステージエンドでトップタイムから10秒も遅れたことを知らされて、包み隠すことなく技術的な問題があることを打ち明けた。「なんという災難だろうね。大丈夫・・・ハンドブレーキが効かないとか、そういう感じだ。こういうことがあると、厄介だね」

 前ステージでライバルの速さを思い知らされたエヴァンスは、ステージエンドでここでもさらにタイム差を縮まることを覚悟していたようだが、タイムを聞いて安堵した表情を浮かべている。「正直なところ、今回も十分とは思っていなかったんだ。それどころか、前のステージではもっとプッシュしていたような気がするよ・・・」

 エヴァンスもおそらくステージ後にタナクのトラブルを知ることになっただろう。この日の最後のステージとなったSS16プラタックでもタナクはタイムを上げられず、エヴァンスもプッシュを止めてペースをコントロールするような走りへと切り換えている。彼はタナクとのギャップをさらに8.6秒拡大、25.4秒をリードして土曜日を終えることになったが、けっしてこのような形でリードを築いたことに満足していない。「うれしいとは言えないね。自分のドライブに満足していないし、オイットに問題があったが、僕がそれを願うことはない。こういう形でギャップを拡大するのはいい気分ではないが、まだ先は長い」 
 
 タナクは今日の出来について聞かれ、「ハッピーだよ」と答えたが、それは嘘だろう。彼は悔しさをにじませながらトラブルの詳細を明かすことを拒んだ。「何が原因なのかわからないけど、ドライブするのが難しくなった。けれど、今日が終わってよかった」

 ラッピはややペースをつかんだかに見えた午後のループでもダートが出ているコーナーでスピンを喫するなど、汚れた路面に手こずり、クリーンな走りを続けることになった。タナクからは30秒遅れとなったが、それでもポディウムポジションをキープしている。「僕たちにとっては昨日の方が良い一日だったと思う。今日は路面が汚れていてかなり苦戦した一日だった」。ヌーヴィルがリタイアした以上、ヒョンデの選手権にとってラッピを失うわけにはいかない状況だが、後続のオジエとの差は54秒という大きなものとなっている。

 オジエはペナルティがなければ表彰台圏内までポジションを挽回していた計算だ。2秒後方の5位にはロヴァンペラが続くことになり、金曜日を終えて選手権ポイントを大きく失うことが確実と見られていたトヨタの状況は大きく好転することになった。

 勝田は、走行順に優れるチームメイトたちの勢いにはついていけなかったが、安定したペースを刻み続け、午後のループでただ一人、ハードタイヤ6本を選んでグリップに苦戦するルーベを抜いて6位で土曜日を終えている。「トリッキーな一日だったから、フィニッシュできてよかった。リズムは悪くなかったが、厳しいコンディションだった。改善すべき点を見つけ、明日のパワーステージでは良いフィーリングでプッシュできるようにしたい」

 明日の最終日は早朝5時半にサービスパークを最初のマシンが出発、ザグレブ北部の昨年とまったく同じく4SS/54.48kmという短い決戦の舞台へ向かう。オープニングステージのトラコスチャン〜ヴルブノは現地時間7時8分(日本時間14時8分)のスタートが予定されている。