2025年世界ラリー選手権(WRC)第2戦ラリー・スウェーデンの最終日、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が一時首位に立ち、キャリア初となるWRC優勝が期待されたが、最終ステージまで秒差のバトルを制したエルフィン・エヴァンスが(トヨタGRヤリスRally1)が今季初優勝を飾り、勝田は3.8秒差の2位となった。
ラリー・スウェーデン最終日の日曜日は、ラリー最長ステージとして行われるヴェステルヴィッケ(29.35km)をウーメオでの15分間のサービスを挟んでリピート、それに続いてウーメオ(8.62km)がパワーステージとして行われる。3SS/67.32kmの一日となる。
曇り空の寒い朝を迎えたウーメオ。朝7時の気温は−13度だ。オープニングステージのSS16ヴェステルヴィッケの路面にはうっすらと雪が積もっており、前日にコースオフでリタイアとなったアドリアン・フールモー(フォード・プーマRally1)は一番手スタートからスーパーサンデーのポイントを狙う計画だったが、凍結したクリーンな路面を望んでいた彼の期待は裏切られ、後続のために路面の雪をスイープする役割を強いられる。
8位につけていたジョシュ・マクアリーン(フォード・プーマRally1)が14.9km地点の滑りやすくなった右コーナーでワイドになってリヤをスノーバンクに接触、そのまま雪原に引き込まれてスタックするなど、波乱の幕開けとなった。
このステージで目が醒めるような素晴らしい速さをみせたのは勝田だ。彼は、ラリーリーダーのエヴァンスに7.5秒もの大差をつけるベストタイムを叩き出し、4.5秒差をつけて総合首位に躍り出した。
前夜の最終ステージのあと、勝田はWRCの勝利に「飢えている」と認めていたが、ここでは必死にプッシュをしたわけではなくクリーンに行くことに集中したと語っている。「良かったよ、とてもクリーンな走りだった。予想以上に滑りやすいところがいくつかあって、スノーバンクを使わなければならなかった。もっとプッシュできたかもしれないが、それが必要なのかどうかはわからない」
勝田に3秒差をつけて日曜日をスタートしたエヴァンスは、ステージエンドでチームメイトのタイムを知らされる前から、自身のタイムがけっしていいものではなかったこと覚悟していた様子だった。「フロントのグリップに自信が持てず、スピードを維持できなかった。なぜ今日はこんなにフィーリングが違うのかわからないけど、どうなるかみていこう」
一方、前夜のサービスでトヨタ勢にプレッシャーを掛けていきたいと自信をみせていたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)にとっても失望のスタートとなってしまった。勝田から3.3秒遅れの3位で最終日を迎えた彼は、ここでは5.6秒もタイムを失い、トップから8.9秒の遅れとなってしまった。「いい走りができなかった、マシンはずっとアンダーステアだった。今はこれ以上できない。昨日はグリップが高かったけど、このコンディションではそれも難しくなる」
オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)は前日に冷却水が漏れる問題があったほかに何かの技術的なトラブルによってチームメイトに3位を譲っていたが、ここでは勝田から0.2秒遅れの2番手タイムを奪い、ヌーヴィルまで1.8秒差と表彰台圏内に迫ってきた。
タナクはステージエンドで、前日に悩まされていたのはエンジンのマッピングに関する問題だったことを明かすとともに、トップを狙うには残り2ステージで10.7秒を削りとるのはきびしいことを理解していると認めた。「今日はマッピングを思い通りにできたから、ずっと正常に機能している。昨日は一日中きちんと走れなかっただけに残念だよ」
トヨタのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)は3番手タイムを奪ったものの、イベント前の期待を考えると非常に残念なことに表彰台圏内からは13.5秒遅れており、5位に甘んじる可能性が高まっている。「かなり多くの雪を掃除しければならなかった。本当にいいステージで、少なくとも最後の方はかなりクリーンになってくると思う。本当にプッシュしようとした、だいぶ速さが増した。(ポジションを上げられるよう)全力を尽くした」
ドライバーたちはこのステージのあと一度、ウーメオのサービスに戻り、15分間の整備をうけるとともに新しいタイヤを装着してステージへと向かう。このタイヤセットでヴェステルヴィッケの2回目の走行と最後のパワーステージを走らなければならないため、29.35kmというラリー最長のヴェステルヴィッケでのスタッドマネージメントが重要になりそうだ。
SS17ヴェステルヴィッケ・ステージは2回目の走行だけに、コーナーは後続のマシンがかき出したルーススノーで乱れ、深く刻まれたラインにはところどころ凍結したグラベルが顔を出して難しいコンディションとなっている。
ここで驚異的な速さをみせたのはエヴァンスだ。終盤のセクションでフロントノーズをスノーバンクに当てて失速した勝田に8.2秒差をつける驚異的なベストタイムを奪って、3.7秒差をつけて首位を奪いかえす。「正直どんな感じになったかわからなかったが良かったよ。フィーリングはもっと良くなった感じがした。大きなステップが必要だった」
スタートからややペースが上がらなかった勝田は終盤でリスクを負った走りに切り換えたのか、フロントノーズをスノーバンクに当ててひやりとさせシーンをみせることになったが、彼は逆転を諦めていない。。「とてもクリーンに走ることを心がけていた。とてもいい走りができているから、もう少し様子を見ていこう。パワーステージに集中することが必要だ。クリーンすぎたが、ここはもっとプッシュできるかもしれない」
前日も2回目のループで速さをみせたヌーヴィルが2番手タイムで3位をキープ、勝田の後方7.4秒差で続いており、4位のタナクとの差は3.3秒へとわずかに広がっている。
残されたのは最終ステージのウーメオのみだ。ウーメオはスタート地点が変更され、10.08kmから8.62kmへと短くされている。
トップ争いの行方はまったく分からない状況だが、トヨタとしてもチームメイト同士が僅差のバトルを繰り広げ、ともにミスして1-2態勢を崩すことは避けたいところだ。それでも、トヨタのチーム代表を務めるヤリ-マティ・ラトバラは、「チームオーダーを出すことはない」と語り、チームメイト同士の戦いの行方を辛抱強く見守る考えであることを明らかにしている。
「もちろんドライバーとチームの両方にとって多くのポイントがかかっていることを考えれば、勝利のためにリスクを冒したくないのはたしかだ。それに攻撃を開始したときにタイヤの限界をどこまで引き上げることができるか、ドライバーもまだわかってないだけにミスが起きる可能性がある。しかし、それらを頭に入れながら、あとはどう走るかはドライバーの選択だ。タカはいい走りを続けてきたが、最後まで過度にプッシュすることなく、自分の走りに集中するように伝えたよ」
ウーメオ・ステージの森林セクションの終盤はこの週末4回目の走行となるため、タイトコーナーのブレーキングゾーンはかなり深いわだちが刻まれ、昨夜のエヴァンスのスピンを思い出すまでもなく荒れて滑りやすく危険なコンディションとなっている。
エヴァンスは最終ステージでも0.1秒差で勝田に勝利してパワーステージを制するとともに、最終的にチームメイトに3.8秒差をつけて今季初勝利を達成、スーパーサンデーを制してパーフェクトな勝利を飾ることになった。「とても良い週末だった。今朝の最初のステージでは大変な思いをした!だがそのおかげで集中力が高まり、最後のほうのステージでは良い走りができて、良い戦いが出来た。ほんの小さなミスでもその代償は大きい。クリーンな走りでパワーステージも勝利できたことはとても嬉しい」
勝田は今季初表彰台の2位でフィニッシュ、パワーステージとスーパーサンデーでも2位のボーナスポイントを加えることに成功、これによってトヨタは2戦連続でこの週末の最大ポイントである60ポイントを獲得、ヒョンデに48ポイントもの大差をつけた。「昨晩はセブ(オジエ)や多くの人がメッセージを送ってくれた。僕たちはコース上に留まるよう努力し、実際かなりうまくいった。残念ながら今回は優勝を掴むことができなかった。エルフィンが前のステージで素晴らしいタイムを出したからね。エルフィンには脱帽だよ。勝てなかったことは残念だけど、今回はそれでいい」
勝利への野心をみせていたヌーヴィルだが、勝田から8.1秒遅れの3位にとどまり、最終日のコンディションではトヨタの二人に及ばなかったと素直に敗北を認めている。「週末を通して路面のコンディションが変化していたので、どの出走順がベストなのかはわからない。エルフィンとタカは今週末、とても良い仕事をした。素晴らしいバトルだったよ」
タナクは最後までヌーヴィルから3位を奪うべくプッシュをしたが、序盤でスノーバンクに接触、そのあとは4位を確実なものにすべくクリーンな走りに切り換えてフィニッシュした。「このステージは今回のラリー全体を象徴するようなステージだった。昨日は一日頑張ったのにすべてを失ってしまったので、本当に残念だった。大きく期待してこのような結果になると本当に受け入れ難い」
5位にはロヴァンペラ。今週末は、新しいタイヤやセットアップ、変化するコンディションに苦戦しつつ、試行錯誤の連続だった。「今週末は何も語れることはないと思う。とても残念だが、次へと進み、グラベルではもっと良いペースで走れることを願っている」
6位争いはマルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)とサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)の新世代ドライバー同士のバトルに注目が集まったが、セスクスがパヤリに17.6秒差をつけて6位を守っている。「本当にチャレンジングだった! ロングステージはコンディションの変化もあったが、走っていて最高だった。素晴らしいラリーだったし、今週末にはとても満足している」
速さをみせながらも金曜日のパンクで苦しい週末となったパヤリが7位、開幕戦モンテカルロでキャリア初のステージウィンを果たしたグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)にとっては最終日もハンドブレーキの問題などに悩まされてパフォーマンスを見せられずに8位に終わっている。
また、金曜日に2つのベストタイムで首位争いをしたフールモーにとっては土曜日のコースオフで残念な週末となってしまったが、SS17ではゆっくりと走ってスタッドを温存、不利な走行順ながらパワーステージでかろうじて5番手タイムで1ポイントを持ち帰っている。
第2戦スウェーデンを終えて、ドライバーズ選手権では完全勝利を飾ったエヴァンスが61ポイントで選手権リーダーとなり、ここをスキップしたセバスチャン・オジエが33ポイント、ロヴァンペラが31ポイントで続きトヨタのドライバーがトップ3を占めている。ヌーヴィルが29ポイント、タナクが26ポイント、今回惜しくも優勝を逃した勝田も25ポイントに伸ばして選手権6位につけている。
また、マニュファクチャラー選手権では、開幕から2戦連続で最大ポイントを獲得したトヨタが120ポイントを達成、ヒョンデに早くも48ポイント差をつけている。
次戦は3月20日〜23日に開催される第3戦サファリ・ラリー・ケニアだ。トヨタは2022年〜2023年に2連続して表彰台を独占したあと、昨年も1-2勝利を飾っているだけに、ふたたび選手権でのリードを広げる絶好のチャンスになるかもしれない。