WRC2023/04/24

エヴァンスが1年半ぶり優勝、選手権トップに並ぶ

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 2023年世界ラリー選手権(WRC)第4戦クロアチア・ラリーは4月23日に最終日を迎え、トヨタGAZOOレーシングWRT のエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が今季初優勝を飾ることになった。エヴァンスにとっては2021年のラリー・フィンランド以来、実に1年半ぶりの勝利となった。

 クレイグ・ブリーンのテスト中の事故死による悲しみのなかで始まったクロアチア・ラリーもいよいよ最終日となる。日曜日はザグレブ北部に設定された昨年と同じルートとなり、トラコスチャン〜ヴルブノ(13.15km)、ザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツ(14.09km)の2つのステージをノーサービスで2回ループする4SS/54.48kmという短い一日となる。

 ザグレブは最終日も晴れた朝を迎えており、ドライコンディションの中で決戦が行われることになりそうだ。オープニングステージのSS17トラコスチャン〜ヴルブノの1回目の走行は、全体的に高速で、道幅も広く、路面はクリーン、ターマックのコンディションも良好だ。中間地点を過ぎると、ナローでかき出された石がちらばる危険なコーナーが続くが、終盤は再び道幅が広がり、フィニッシュに向けてスピードが上がってゆく。

 25.4秒という大きなリードで最終日を迎えたエヴァンスは、このステージでオイット・タナク(フォード・プーマRally1)との差を30.5秒に広げてスタートを切ることになった。「まあまあ良かった。正直なところ、この速さで十分かどうかわからなかったが、ここまではすべて順調だ」

 前日にハンドブレーキの問題で追撃のチャンスを棒に振ったタナクだが、この開幕ステージでは6番手タイムにとどまっており、これ以上、リスクを負って攻めるつもりはない。「最後まで走りきることができれば、それだけでポジティブなことだと思う。最後まで頑張ろう」

 30秒差の3位で続くヒョンデ最上位のエサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)がポジションキープに専念するなか、彼の後方ではトヨタの二人による4位争いが激しくなっている

 金曜日のパンクで優勝争いから脱落したカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)は、土曜日に4つのベストタイムを奪って8位から5位へとポジションを上げており、4位につけるチームメイトのセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)に2秒差に迫って最終日をスタートしている。

 最終日の朝、ロヴァンペラはオジエに3.7秒差をつける最速タイムで逆転、1.7秒差で4位にポジションを上げてきた。「走りに満足していない。昨日とはドライビングスタイルを少し変えようとしているが、クリーンなステージではなかった。最終的にはもっと速く走れるはずだ」

 SS18ザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツはミスが許されない難しいステージだ。ハイスピードでありながらダスティで非常にナローなステージは、見通しの悪いクレストやダートがかきだされて滑りやすくなった狭いコースのすぐ脇にたくさんの木々があり、ラインを外れてスライドすると一瞬でラリーを終えることになる。とくにパワーステージとして行われる2回目の走行はこの週末で最大の難所となる可能性がある。

 このステージでベストタイムを奪ったのは、一番手の走行ポジションでもっともクリーンな路面を走ったティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)だ。

 土曜のクラッシュで戦線離脱しているヌーヴィルは、最終日にリスタートしたとはいえ、総合40位とポイント圏内には遠く及ばない。彼は、ほとんどのドライバーがハードを主体にソフトを組み合わせて6本のタイヤを搭載していたのに対して、なんとソフト4本のみのギャンブルだ。

 ヌーヴィルはここでパワーステージのためのハイスピードレッキを行い、ボーナスポイントに完全に集中している。「ステージの序盤はとてもクリーンで、終盤は少し埃っぽくなるけど、他のドライバーにとっては少し悪いだろうね。昨日とは違うセットアップを試しているので、様子を見ようと思う」

 もちろんボーナスポイントを狙っているのはヌーヴィルだけではない。しかし、走行のたびに路面は汚れてさらに難易度は上がるため、2回目の走行には細心の注意が必要になるだろう。6位につける勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)はこのステージの難しさを「時々氷の上を走っているような感じで、グリップがない」と表現、それでも「せっかくここまで来たんだからパワーステージに向けて何かもっといいものを見つけようと思う」とポジティブに前を見つめている。

 2位につけるタナクは、ここでエヴァンスとの差を1.3秒縮めたが、依然として29.2秒のビハインドだ。あとはパワーステージでのポイントを狙うだけだが、彼はあまりの難しいコンディションにもう一度ここを走る自信を失ったかのようだった。「本当に大変なステージだ。だが、残念ながらもう1回走らなければならない」

 エヴァンスにとっては、クロアチア・ラリーでの勝利を目指し、ミスなく最後まで走りきることが重要だ。「かなり汚れていて、序盤はダートに捕まるというサプライズもあったりしたから、無理せずに走ったんだ。バカなことはしないように気をつけていく」

 ロヴァンペラは、オジエから再びタイムを奪い、5.4秒差へとリードを広げて4位をキープ、オジエももはやこれ以上無理をしてポジションを取り返す考えはないだろう。「カッレはいい走りができている。僕はフロントがロックすることが多くて苦労していたから、あまりプッシュできなかった。4位になるためにこれ以上リスクを冒すのは意味がないからね」

 トラコスチャン〜ヴルブノの2回目の走行となったSS19は後半がかなりかき出されたグラベルで滑りやすくなっていたが、エヴァンスはクリーンな走りでトップをキープ、28.1秒差のマージンを築いて残すは最終ステージのみだ。

 それでもエヴァンスは「このゲームは分からない、特にトリッキーなステージが最後に残っているからね」と語り、最後のステージに向けて集中力を保っていくことを自身に言い聞かせていた。彼は2021年のクロアチアでは勝利目前で小さなミスをおかして3位に終わったが、それはまさにこのあとに残されたザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツのステージでの出来事だった。

 そして迎えた最終ステージのSS20ザゴルスカ・セラ〜クムロヴェツはただでさえ滑りやすいホワイトターマックの路面にはかなりのダートがでており、うねるようなワインディングはきわめてリスキーなコンディションとなっている。

 エヴァンスは着実な走りで1年半ぶりに優勝、キャリア6勝目は初のターマックラウンドでの勝利であるとともにRally1カーでの初勝利となった。しかし、彼には勝利のよろこびを感じる笑みはなく、ただ残念そうに目をうつむける。「僕たちは長い間、勝利に向けて取り組んできたけれど、今この瞬間はそれが驚くほど意味をなさない。週末は本当に集中していたが、今はまたすぐに大切な友がいなくて寂しい気持ちに戻っている。フィニッシュラインを通過した直後から、それしか考えられない・・・」

 コドライバーのスコット・マーティンはかつてブリーンとのコンビで2016年のフィンランドでは二人とも初表彰台を経験しており、悲願の勝利を目指したこともある。誰にとっても辛い週末となったが、彼もまた特別な思いがこみ上げてきたのだろう。目頭を押さえてゴールを迎えている。

 27秒差の2位にはタナク。彼はパワーステアリングやサイドブレーキの問題から優勝のチャンスを逃したが、それでも2位という結果には満足していると笑みをみせている。「一貫性とパフォーマンスが足りないのは確かだが、結果でみれば、これが大きいことは間違いない。これからスピードもついてくることを願うよ」

 ラッピは前後のドライバーとは大きなタイム差となったため3位を守ってフィニッシュ。彼はチームメイトを失ったことでクロアチアに来ることさえ困難だったとフィニッシュで感情を溢れさせ、コドライバーのヤンネ・フェルムも走りきったあと涙をぬぐっていた。「チームは悲しみのなかでこの週末を迎えた。僕らのほとんどがここに来ることも困難だったほどだ。今日はペースは落としてゴールを目指すだけだったが、表彰台は僕にとってもチームにとっても非常に重要なことだ」

 ともに優勝を狙えるペースをみせながらも、不運なパンクによってロヴァンペラは4位、オジエはチームメイトから9.7秒差の5位で続いている。

 難しいコンディションとなったクロアチアで、じょじょに自信をつかんだ勝田は昨年同様6位でフィニッシュした。「ラリーをフィニッシュできてよかった。過去の2つのイベントでは散々な走りだったので、完走できてよかった。マシンは素晴らしく、昨日も今日もとても良いフィーリングだった」

 Mスポーツ・フォード勢にとっては信頼性が課題となる週末となった。最終日にはピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)がステージモードが使用できないトラブルに見舞われ、さらにステアリングの問題を抱えたが、どうにか7位でフィニッシュしている。

 第4戦クロアチアを終えて、ドライバーズ選手権ではオジエが選手権リーダーを維持したものの、この週末の勝利でエヴァンスが69ポイントの同点で並び、ロヴァンペラが1ポイント差の68ポイントで続いている。さらにタナクも65ポイント、スペアなしというリスクを負って狙いどおりにパワーステージを制したヌーヴィルも58ポイントでつけており、いつになく大混戦となっている。

 トヨタは、ブリーンを失って2台体制でクロアチアに出場するヒョンデに配慮、対等の勝負をするためにオジエとロヴァンペラのみを選手権ポイントを獲得できるドライバーとしてノミネートしたため、今回のクロアチアは全チームが2台体制での争いとなった。トヨタは二人が金曜日にそろって表彰台圏外へと後退したため不利な戦いも予想されたが、最終的にはマニュファクチャラー選手権ではさらにリードを拡大、161ポイントに伸ばしている。ヒョンデ・モータースポーツが132ポイント、Mスポーツ・フォードが108ポイントで続いている。

 ポディウムでのセレモニーの前にはブリーンに捧げるアイルランド国歌が流れ、戦いを終えたドライバーたちは空を見上げて友人との別れを惜しんだ。WRC次戦は5月11〜14日のラリー・デ・ポルトガルとなり、ここからは9月末のラリー・チリまでグラベルラリーが7ラウンド連続して続くことになっている。