WRC2025/02/16

エヴァンスと勝田が白熱のトップ争い

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 2025年世界ラリー選手権(WRC)第2戦ラリー・スウェーデンの土曜日も前日に引き続いてエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)と勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が息詰まるトップ争いを演じることになり、エヴァンスが3秒をリードして明日の最終日を迎えることになったが、この日を5位でスタートしたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)も3位へと追い上げ、トップから6.3秒差に迫っている。

 ラリー・スウェーデンの土曜日はウーメオの南西エリアに向かい、おなじみのヴェンネス(15.65km)とサールシェーリーデン(14.23km)、そして新しいコルクセレ(16.06km)を走ったあと、ウーメオのミッドデイサービスを挟んで午後も同じ3ステージをループしたあとウーメオ・スプリント(5.16km)で締めくくる7SS/97.04kmの一日となる。当初、この日の最終ステージはウーメオ・スプリントのロングバージョンであるウーメオ(10.08km)が予定されていたが、安全上の理由から変更されている。

 土曜日は、前夜に最終ステージとして行われたスーパーSSの前の順位のリバースで3分間隔でスタートとなる。そのため金曜日をトップでフィニッシュしたエヴァンスは後ろから3番目ポジションのスタートとなり、勝田を間にはさんで、スーパーSSの前の時点でトップだったオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が最後尾でのスタートとなる。このスタートポジションの違いが土曜日の結果をどう左右するのかも注目されることになった。

 昨夜はマイナス16度まで冷え込み、朝9時の気温も−11度と寒い。オープニングステージのSS9ヴェンネスは昨夜も新雪が降らず、路面も硬く凍結、コースサイドには1メートルを超える美しいスノーバンクが壁のように続いている。

 このステージで速さをみせたのはカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)だ。ハンコックタイヤでのドライビングに苦しんで6位に低迷している彼は、この週末初のベストタイムを奪い、5位につけるヌーヴィルとの差を16.4秒から9.1秒へと縮めてみせた。「マシンにはいろいろ調整したよ。巻き返せるかどうかは分からないが、少なくとも今日はマシンを少し信頼できるし、何かやってみるつもりだ」

 前日を首位のエヴァンスからわずか0.6秒差で終えた勝田が2番手タイム、トップに0.1秒差に迫った。「とても奇妙なステージだった。ところどころグリップがあると予想していたが、場所によってはトラクションが非常に悪かったよ」

 一方、エヴァンスは1日のスタートとしてはよかったと語り、勝田との勝負に集中していかなければならないと語っている。「まずまずだった。雪が緩んでいた。いくつかの場所ではスピードを十分に維持できなかったかもしれない。このまま続けよう」

 3位のタナクも勝田から2.7秒差で続いており、上位勢は依然として拮抗したバトルを続けている。

 SS10サールシェーリーデンは長いストレートとジャンクションを組み合わせた高速ステージだ。首位のエヴァンスがベストタイム、勝田との差を2秒に広げている。彼はステージエンドで笑顔をみせ、チームメイトとの接戦を楽しんでいるとコメントした。「ここは高速ステージで、場所によってはかなり集中した走りでスピードを維持することができた。プレッシャーがかかるバトルは素晴らしい。常に楽しいよ」

 勝田は1.9秒遅れの3番手タイム、「このステージは本当に最悪だった。ドライブするのにとても苦労した」と勝田はアンダーステアがあったと認めている。

 タナクは最速タイムから5秒近く遅れ、「すべて順調だ」と主張したが、後方にはチームメイトたちが迫っている。アドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)が5.2秒差、ヌーヴィルも8.6秒差だ。

 フールモーは表彰台のバトルにふたたび戻ることに強い意思をみせ、「マシンは高速な場所でうまく機能しているようだ。僕は小さなミスをいくつか犯したが、このあと取り戻してみんなを喜ばせる必要がある」と語ったが、続くSS11コルクセレでは、スタート直後に未装着だったヘルメットのストラップを装着するためにマシンをストップ、20秒あまりをロスしてしまい4位から6位へと後退することになった。

 エヴァンスはトップを守っているとはいえ、2位で続く勝田とは2.8秒という僅差のままだ。さらにヒョンデのヌーヴィルとタナクも10秒差で続いている。

「非常に接戦だ。そして、明らかに、僕らが持っているマージンでは、ミスを許す余地はない。ほんの少しのミスでも大きな代償を払うことになる」とエヴァンスは語った。「だから、頭を下げて頑張り続けるしかない」

 昨年のスウェーデンでクラッシュのため優勝を逃した勝田は、当然ながら今度こそ勝利を狙っているだろう。しかし、勝利について聞かれた彼は、いまはそのことを頭の隅に追いやって冷静な走りを続ける必要があると語った。

「ここではフィーリングが良くなかったので修正しなければならない。いまは自分の運転のことだけを考えている。もちろん、どこかの時点では、プッシュしてリスクを負う必要があるが、まだそうではない」と勝田は語った。

「いまは僕とエルフィンの間で非常に激しい戦いが繰り広げられているが、ティエリーとオットもまだそれほど遅れてはいない。だから午後も集中し続ける」

 勝田が指摘するように、ここでベストタイムを奪ったヌーヴィルがタナクを抜いて3位へと浮上、勝田の後方8.4秒差に近づいている。「頑張らなければならない。僕にできることはそれほど多くなかったが、スピードを上げるためにいろいろ試している。2回目の走行でどうなるか見てみよう。1回目の走行とはコンディションが異なるだろうからね」

 タナクはこのステージではヌーヴィルより7.9秒遅れてしまったが、前のステージからフロントガラスにオイルのような液体が断続的に吹き付けられ、ステージエンドでエンジンルームから白煙が上がるなど何かのトラブルが心配されたが、彼はこの件についてのコメントを拒否している。

 ロヴァンペラもフールモーを抜いて5位に浮上したが、首位から21.6秒遅れ、6位のタナクからは10.1秒遅れとなっている。彼はオープニングで最速タイムを記録、その後SS10とSS11で連続して2番手タイムでペースをつかみかけているようにも見える。それでも彼はまだタイムを縮める余地はあると語っている。「高速なセクションやこういう場所ではマシンがあまり快適ではないので、十分ではない。テクニカルなセクションではいい感じだ」

 ウーメオのミッドデイサービスでは太陽が顔を出しており、ヒストリックカーもステージを走行したため、午後のループはルーススノーでかなり荒れることが予想されている。ほとんどのドライバーがスペアタイヤを 2 本搭載するなか、ヘルメットの装着ミスでタイムを失ったフールモーのみがスペア1本の軽量マシンで挽回を狙う。

 午後のループの最初のステージとなったSS12ヴェンネス、朝とは明らかに異なるコンディションでひやりとさせるシーンが続く。勝田がスタートして600m地点のタイトターンでオーバーシュート、一時マシンをストップして5秒ほどのロスを喫している。これで首位のエヴァンスとの差は6秒に広がってしまった。

「オーバーシュートしてバックすることになった。バカなミスだった」と勝田はステージエンドで、首をふりながら悔しさを見せる。「けど、この週末の中でミスをしたのはこれが初めてだから大丈夫だ。このまま続けていきたい。タイムを取り戻せる自信はあるし、またミスしないように徹底していく」

 タナクが2番手タイムでヌーヴィルを抜いてふたたび3位に浮上した。二人の差はわずか1.4秒だ。

 ここでベストタイムを奪ったのはスペア1本作戦のフールモーだ。彼は果敢な走りを見せてベストタイム、狭いセクションでバンクにヒットしてひやりとさせたが、振り切るようにスタックすることなく逃れている。

 だが、彼は次のSS13サールシェーリーデンをスタートして800mの高速左コーナーでワイドになってスノーバンクに接触、そのまま雪原に引き込まれてスタックしてしまった。

 ここでは首位のエヴァンスがベストタイム、勝田との差を8.6秒に広げている。「かなり難しいコンディションだった。グリップは朝ほど寛容ではなく、ラインをキープするのは難しかった。とにかくいい走りをすること、それだけを考えている」

 ヒョンデのチームメイト同士のバトルは続いており、1.6秒差でタナクを抜いたヌーヴィルが3位へとポジションを上げている。ハンコックの鍵をつかみ始めたのか、ヌーヴィルの表情も明るい。彼は夕闇が迫るなかで行われたSS14コルクセレではベストタイムを奪い、タナクに4秒差をつけるとともに2位の勝田に5.5秒差に迫った。「やっといいステージだったね、(ウィダーゲと)と話したところだ。楽しめたよ。少し暗くなってきて、ブレーキングポイントを見つけるのが簡単じゃなかったが、全体的には悪くないフィーリングだった」

 勝田もここでは2番手タイムで追撃、首位のエヴァンスの差を6秒へと縮めることに成功した。エヴァンスはステージ終盤、クルマをスノーバンクに突っ込んだが、前ステージのフールモーのような悪夢を回避している。「バンクには、そんなに大きくヒットしたわけではなかった。フロントのグリップを失ってしまった。スピードは問題なかったけど、クルマの角度が悪かった。でも、どうにか大丈夫だった」

 このドラマで首位のエヴァンスから3位のヌーヴィルまで11.5秒へと縮まることになったが、この日最後のウーメオ・スプリント・ステージでまたもあわやの瞬間が待っていた。「タイトターンのブレーキングでリヤのグリップを失ってエンジンをストールさせてしまったんだ。理想的ではなかったよ」とエヴァンスは首を横に振る。彼はここで数秒を失いながらもどうにか首位をキープしたものの、2位の勝田との差はわずか3秒に、3位のヌーヴィルとの差も6.3秒へと縮まってしまった。

 優勝争いはこれでまったくわからなくなったが、勝田は自身が優勝を望んでいることを認めつつも、完走することに集中するだけだと語った。「明日はとにかく完走することだけを目指すよ。確かに、僕は多くのことにとてもどん欲だけど、何度もどん欲にしぎてクレイジーなことをしてしまった。今回は賢くならないといけない」

 2連続のベストタイムで土曜日を締めくくったヌーヴィルは、最終日はさらなるポジションアップを誓った。「今日には正直、満足しているよ。でも(プレッシャーをかけるために)今夜はしっかりと準備しなければならない。やるべきことをこなし、良いリズムでラリーをマネージメントしてきた。タイヤについてもできるかぎりのことはやったし、ステージごとにペースを上げることができた」

 タナクはヌーヴィルから6.5秒遅れの4位でフィニッシュ、トラブルに見舞われて表彰台争いから外れたことにフラストレーションを感じているはずだが、いかなる問題についても沈黙を守った。「エンジニアに聞く必要がある。彼らなら(問題について)もっと詳しく教えてくれるはずだ。僕らはできる限りのことをしようとしている。様子を見よう」

 タナクの10.1秒後方の5位にはロヴァンペラ。かなりペースは改善してきたが、表彰台を狙うには遅すぎることを彼は認めている。「まだ完全には程遠いが、明らかに昨日よりは良い一日だった。かなりいいバトルがあったし、明日もベストを尽くして速く走らなければならないが、表彰台はおそらく遠すぎる」

 Mスポーツ・フォードのマルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)が若手のライバルでもあるトヨタのサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)の追撃から6位を守りきり、ジョシュ・マクアリーン(フォード・プーマRally1)が8位で続いている。

 明日の最終日は3SS/68.78kmの短い一日となる。はたしてエヴァンスがトップを守るか、それとも勝田が悲願の初勝利をつかむか、それともヌーヴィルが逆転劇をみせるか。オープニングステージのヴェステルヴィッケは現地時間7時27分、日本時間15時27分のスタートが予定されている。