2025年世界ラリー選手権(WRC)第6戦ラリー・イタリア・サルディニアは6月8日に最終日を迎え、トヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームのセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が最終ステージでコースオフする波乱のドラマに見舞われながらも今季3勝目を飾り、サルディニアの最多勝利記録となる5勝を達成することになった。また、これでトヨタは開幕から6連勝、WRC通算勝利回数でも99勝を達成、100勝目まであと1勝に迫ることになった。
サルディニアの日曜日は、以前にはガッルーラと呼ばれ、12年ぶりに復活するサン・ジャコモ〜プレビ(25.19km)から始まり、新しいスペクタクルなステージとして注目されるポルト・サンパオロ(13.70km)がそれに続く。この2ステージのあとサン・ジャコモ〜プレビの2回目の走行が行われ、オルビアのサービスパークにもどって15分間に限定されたミッドデイサービスのあとポルト・サンパオロがパワーステージとして行われる。4SS/77.78kmという決して短くない最終日となる。
オジエは金曜日の最終ステージでトップに立って以降、ほとんどミスらしいミスをしないままパーフェクトな走りでラリーの主導権を握っており、オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)に11.1秒差をつけて最終日を迎えている。その後方にはカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が続くが、タナクからは44.1秒遅れとなっており、ポジションを上げるというより、選手権のためにも最終日のスーパーサンデーとパワーステージのボーナスポイントを狙う戦略になりそうだ。
最終日のオープニングステージ、SS13サン・ジャコモ〜プレビで素晴らしいタイムを刻んだのはラリーリーダーのオジエだ。彼は誰にとっても初挑戦となるこの新しいグラベルステージで、タナクに4.5秒差をつけるベストタイムを奪い、総合リードを15.6秒に広げることになった。
「我々にとって、良いクリーンなステージだった。非常にテクニカルで道幅が狭く、ヘアピンでは少し苦労したが、満足できる結果だ」とオジエは語った。
タナクは総合2位を堅持しており、3位のロヴァンペラと差を51.3秒へとさらに広げてはいるものの、首位のオジエは少しずつ遠ざかりつつある。彼は、マシンのフィーリングはパーフェクトではないと不満そうな表情だ。「ステージは順調だった。同じマシンなのに、毎朝、初めて運転しているような気分だ。少しチャレンジングだったが、改善を目指すよ」
それでもタナクのタイムはけっして悪いわけではない。3番手タイムのロヴァンペラでさえオジエからは11.4秒遅れとなっており、スーパーサンデーでもオジエが早くも主導権を握りつつあるように見える。ロヴァンペラは、4位につけるチャンピオンシップリーダーのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)にここで12.7秒もの大差をつけることができたことを喜んだ。「正直に言うと、かなりひどいステージだった。とてもトリッキーなステージだった。リズムをうまくつかめれば、おそらく1分は速く走れるけど、いまはほど遠い。それでも少なくともエルフィンよりは速かったのはよかった」
エヴァンスは総合4位につけてはいるものの、初日の路面掃除と土曜日のタイヤ交換のためロヴァンペラからも3分50秒あまりも遅れており、上位陣にこれ以上追いつくことは絶望的な状況だ。それでも選手権のリードを守るためには最終日は攻撃に転じる必要もあるだろう。
上位勢なクリーンな走りでこのオープニングステージを終えるなか、5位につけていたサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)はルースな路面となった右コーナーでリヤをスライドさせてオフ、マシンをコースに戻すのに手間取り、1分あまりをロスしてしまった。これで16.9秒差の後方にチームメイトの(トヨタGRヤリスRally1)が迫ってきた。
続くSS14ポルト・サン・パオロは、東海岸のハイライトとしてアイテナリーに組まれた新しいステージであり、うねるような高速ダウンヒルの先にはエメラルドグリーンに輝く地中海の絶景が広がり、沖合に浮かぶタヴォラーラ島は勝者に与えられる王冠のようなシルエットをもっている。
まるで首位のオジエを歓迎するかのような風景だが、彼はステージ終盤のダウンヒルに待つクレストを超えた先のコーナーでラインを外してコースオフ、広告のバナーと茂みをなぎ倒す。
ヒヤリとした瞬間だったにもかかわらず、幸いにもそこにはマシンに致命的なダメージを与える岩などはなく、コースに戻った彼はベストタイムを奪ったロヴァンペラから0.2秒遅れの2番手タイムで走りきり、タナクに19.7秒差をつけて首位を堅持する。「すべて順調だ」とオジエは額の汗をふきながらも何ごともなかったかのように笑顔をみせる。「最後のヘアピン、クレストを越えるところ、道のサイドを走っていて、スローだったけど、間違ったラインをとってしまった」
それでもオジエは幸運だった。WRC2の首位を走っていたエミル・リンドホルム(シュコダ・ファビアRS Rally2)はダウンヒルの似たようなクレストの先のタイトターンを曲がりきれずにオフ、コース脇の木々に突っ込んでリタイアとなってしまった。柔らかくサンディーな路面は走行で深いわだちが刻まれており、2回目の走行が行われるパワーステージではさらに荒れることになりそうだ。
ベストタイムを奪ったロヴァンペラはパワーステージにむけてこれ以上ないウォームアップを行うことができたが、路面にはそれほどグリップが感じられなかったと訴える。「かなり良かったけど、グリップが本当に低くて、コンディションは難しかった。狭いセクションでは、どこにも行けないような感じだった。タイヤ戦略は最善とは言えなかったが、それでも長いステージを完走しなければいけない」。それでも彼はスーパーサンデーではタナクに2.2秒差に迫るとともにエヴァンスに18.4秒の差をつけ、最終日のプランを着々と実行しつつある。
パヤリはここでも56秒あまりをロスして5位を勝田に譲ることになった。彼は前のステージのオフで何かの問題があると感じており、安全策をとっていると説明した。「大きな問題にはならないはずだが、ロードセクションで状況をもう一度確認する必要がある。少し調子が悪いんだ」
サン・ジャコモ〜プレビの2回目の走行となるSS15ではタナクがこの日初となるベストタイム、オジエとの差は17.2秒という大差をつけられたまま残されたのは最終ステージのみだが、彼は諦めるつもりはない。「今は本当にタイトだ。パワーステージでは間違いなく全開で走る」と彼は宣言した。
オジエはサルディニアでこれまでに4勝を飾っており、このラリーでの最強のドライバーであることは間違いないが、昨年のサルディニアでは最終ステージでのスローパンクで0.2秒差で勝利をタナクに譲っている。どんなことも起こりうるのが、サルディニアの最終ステージだ。
そして迎えた最後のパワーステージ、首位のオジエがまさかのコースオフ! 正面から立木にヒットした彼は、リバースギヤを使ってコースに戻るという悪夢のような出来事に見舞われたものの、幸いにも冷却系にダメージはなくコースへと復帰する。彼は冷静にペースを取り戻して、最終的にタナクに7.9秒差をつけて今季3勝目、サルディニアでの新記録となる5勝目を飾ることになった。
あわやのシーンもあったが、オジエはステージエンドで目をうるまさせながらドラマのような勝利を喜んだ。「理想的ではなかったが、勝利には十分だった。ここは何度も勝っているステージもあり、このラリーは自分に合っている。チームに感謝している。ポルトガルより少し速さがあった。チームは素晴らしい仕事をしてくれたよ」
オジエにまさかのトラブルがあったとはいえ、タナクは3週間前のポルトガルでのバトルを再現するような結果となったサルディニアをふりかえり、週末を通してトヨタとオジエとの差をほとんど詰めることができなかったと悔しそうに語った。「いいステージだった。週末を通して少し苦しんだし、セブとトヨタはとても強かったし、ほとんど詰めることができなかった」
ロヴァンペラはタナクに続いて3位での表彰台を獲得したが、スーパーサンデーとパワーステージの両方を制して、最終日の猛攻を満足そうにふりかえった。「良いフィーリングだった。このステージはとても独特で、かなりアンダーステアが出ていた。それでも無理にプッシュすることなく、賢く走った。チームのおかげで今週末はマシンが好調だったのでいい走りができたよ」
サルディニアの金曜日を一番手で走ったエヴァンスにとってはより厳しい状況が待ち受けることも当初は予想されたが、選手権を争うチームメイトから4分あまりも遅れながらも彼の後方の4位でフィニッシュしたことは最高の結果だったといえるだろう。それでも彼はパフォーマンスにけっして満足しているわけではない。「週末全体としては満足できると思う。トラブルがあったにも関わらず、なんとか挽回することができたからね。でも、上位のマシンたちはとても速かった。僕らにはいくつかやるべきことがあるようだ」
勝田はタイヤ交換やスローコーナーでの横転などドラマに満ちた週末を5位でフィニッシュ、パヤリはコースオフによるダメージでオリヴァー・ソルベルグに6位を譲ることになり、パワーステージ前のサービスでダンパーやドライブシャフトを装着して、リフレッシュしたマシンで無事に7位でフィニッシュしている。
第6戦ラリー・イタリア・サルディニアを終えて、ドライバーズ選手権ではエヴァンスがリードをキープしたものの、ロヴァンペラが30ポイント差から20ポイント差へと近づいただけでなく、優勝を飾ったオジエが19ポイント差の2位へとジャンプアップを果たすことになった。また、タナクも34ポイント差から25ポイントまで接近してきたが、金曜日のリタイアが響いたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は総合19位に終わり、最終日の5ポイント獲得のみとなったため、そのポイントビハインドは40ポイントから50ポイントへと拡大してしまった。
また、マニュファクチャラー選手権では、開幕から6連勝のトヨタが首位をキープ、ヒョンデに対するリードを55ポイントから69ポイントへと大きく広げる結果になった。
次戦は6月26〜29日に行われる第7戦のアクロポリス・ラリー・ギリシャとなる。