2025年世界ラリー選手権(WRC)第6戦ラリー・イタリア・サルディニアの土曜日、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が首位をキープしているものの、オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が11.1秒差につけており、明日の最終日は前戦ラリー・デ・ポルトガルに続いて二人のスリリングな優勝争いが期待できそうだ。
サルディニアの土曜日はモンテ・アクート地域のコイルーナ〜ローレ(21.18km)とレルノ〜ス・フィリゴス(24.34km)のクラシックなルートのあとトゥーラ〜エルーラ(15.28km)を走ったあと、オルビアでミッドデイサービスが行われ、午後も同じ3ステージをループする6SS/121.60kmの一日となる。
金曜日を終えて、オジエがトップとなっているものの、ラリーの主導権を完全に握ったわけではない。2.1秒差の2位にはアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)、ダンパーの問題を抱えたタナクが首位から7.3秒遅れで続いている。
ソフトコンパウンドタイヤは週末全体で12本しか使えないため、最終日のスーパーサンデーに向けてできるだけコンディションの良いソフトを温存したいのは誰もが同じだろう。土曜日の朝のループに向けてオジエとフールモーはともにソフト4本とハード1本をチョイスしたが、タナクは5本ともソフトを選び、まさしく朝のループでの追い上げに勝負をかけた選択だ。また、前日にリタイアしたティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)はポイント圏内でのフィニッシュが絶望的なだけに、ソフト2本とハード3本の組み合わせでフレッシュなソフトを最終日のスーパーサンデーのために残すプランだ。
サルディニアの2日目は、オジエの最速タイムとともに始まることになった。21.18kmのオープニングステージのSS7コイルーナ〜ローレで、オジエは2位のフールモーとの差を7.4秒に広げ、3位のタナクとの差を11秒へと広げてみせた。
オジエはかなり路面が荒れていたため、けっしてむやみに飛ばしたわけではないと主張する。「すでに思っていたより路面が荒れていた。大きくプッシュしたわけではないけど、クリーンなステージだった」
オジエから3.1秒遅れの2番手タイムを奪ったのはカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)だ。金曜日の午後のループでマシンのセッティングがかなり改善したと彼は認めていたが、その好調なペースは土曜日の朝もそのまま続いた。彼はサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)を抜いて4位へとポジションアップに成功する。
「まずまずのフィーリングだった。マシンのセッティングもスタートポジションも、以前よりずっと良くなった」とロヴァンペラはコメントした。しかし、マシンにどのような変更を加えたのかと尋ねられても、彼はにやりと笑って詳細を明かさない。「それは秘密のやつだ」
パヤリはポジションを失ったとはいえ、上位勢のペースに驚きはなかったようだ。「一歩前に出たい気持ちはあるけど、まだ本格的にプッシュはしていない。そうするべきかどうかわからないし、いまはまだ安全を重視している」
パヤリの後方、およそ1分遅れでチャンピオンシップリーダーのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が6位で続いている。勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は6.28km地点のバンプでクルマが大きく跳ね上がり、もう少しでバンクに突っ込みそうになったがことなきを得ており、7位をキープしている。「あのバンプは本当にひどくなっている。前回はそんなに悪くなかったけど、今はどんでもない。クルマが完全に飛んで、前のめりに着地したんだ!」
SS8モンテ・レルノ〜ス・フィリゴスでは波乱が発生する。初勝利の期待がかかっていたフールモーが左フロントタイヤをパンク、彼は空気が抜けたタイヤでどうにかステージを走りきろうとしていたが、最終的に17.4km地点でタイヤ交換のためにストップしたため4分近い遅れを喫してしまう。そのためコースに復帰した彼の直後には迫ったラリーリーダーのオジエは森のなかのセクションなどでは巻き上げられたダストで視界を失い29.7秒のタイムロスを喫してしまった。
これでベストタイムを奪ったタナクが18.7秒差をつけて暫定ラリーリーダーとなったが、その後、オジエのタイムは23.2秒救済されることになり、ふたたびオジエがタナクに4.5秒差をつけて引き続きラリーをリードすることになった。
初優勝への夢がふたたび消えたフールモーはステージエンドで悔しさを抑えきれない表情をみせた。「ただパンクしただけだ。それだけだ。イン側の何かに当たった。レーシングライン上で、ノートには書いてあるわけない」
フールモーは7位へとポジションを落とし、3位にはロヴァンペラ、4位にはパヤリ、5位にはエヴァンス、6位には勝田がそれぞれポジションを上げている。ロヴァンペラは再び素晴らしい速さをみせてこのステージでタナクに次ぐ2番手タイムを記録、パヤリを13.8秒差に突き放している。
ヒョンデ勢の不運は続く。SS9トゥーラ〜エルーラで快調なペースを刻んでいたタナクが、残り5km地点で左リヤタイヤのサイドウォールをカットしてスローパンク、オジエからは10.5秒も遅れてしまった。「最初は少しスローパンクがあり、その後、ゴールの5km手前で完全にパンクしてしまった。なんとかリム落ちしないでゴールできたので、それほど大きなタイムロスはなかったはずだ」
それでもオジエはリードを15秒へと広げて朝のループを終えることとなった。「幸いにも、ほぼタイムを救済してもらうことができた。前のステージでアドリアンに起きた出来事で少し不安になったが、オイットとの戦いでは1秒1秒が命取りになるので、僕らは冷静さを保つようにした。彼が後ろにいる時は、いつもリラックスできないよ」
ロヴァンペラは序盤の高速のジャンプのあとマシンから何かノイズが聞こえて集中できなかったと語ったが、それでも2番手タイムを刻み、タナクの後方22.5秒差まで迫ってきた。パヤリはイン側のバンプではねたあと、リヤバンパーを立木にヒットしてあやうくオフしかかったが、そのタイムはエヴァンスよりも速く、彼は4位をキープしている。「ブレーキングでルースグラベルに乗ってしまってリヤが木に当たってしまった。そんな大きなドラマではなかったけど、何かにぶつかることは避けたいものだ」
一方、フールモーの状況はさらに悪化した。彼は連続するクレストのあとでラインを外してコースアウトし、その後もジャンクションで判断を誤り、大きくオーバーシュート。彼はこのステージでさらに55.1秒を失い、Rally2勢にも抜かれて9位へとポジションを落としてしまった。「コックピット内に大量のダストが入ってきて、それで気が散ってミスをしてしまった。僕らにとって本当に難しい朝だ」
サービスパークに戻ったタナクは、前戦ポルトガルに続いて、今回のサルディニアでも再びオジエとの激しいトップ争いになりそうかとRally.TVのレポーターに聞かれ、それより午後はタイヤに問題が起きることを警戒しなければならないと戒めた。
「今日の午後は昨日よりもずっと厳しいものになりそうだ。すでにパンクがかなり多く発生しており、タイヤに関してはまるで宝くじのような状況になりつつある」とタナクは厳しい表情で語った。「マシンにとっても明らかにトリッキーだ。アンダーステアがかなり強く、良い流れを見つけるのが難しい。でも、ベストを尽くしたい。彼は確かに良いペースだし、マシンのフィーリングも良さそうだ。しかし、それで全てが決まるわけではない」
ロヴァンペラも午後のループが荒れたものになると予想した。「昨日よりも間違いなく厳しくなるだろう。今朝も多くのセクションが金曜日よりも荒れていると感じた。重要なのは、午後を問題なく乗り切ることだ。パンクなどのトラブルは避けられない」とロヴァンペラは予想した。「プッシュは必要だが、最も荒れたセクションをクリーンに通過するように努める。路面には岩がたくさんある。最悪を避けるには幸運も必要だ」
オルビアでのミッドデイサービスではすべてのドライバーが午後のループに向けてオールハードタイヤを選択、ヌーヴィルのみが5本だが、あとのドライバーは6本を選んでスペアを2本としてステージに向かった。
SS10コイルーナ〜ローレではタナクがベストタイムを叩き出したものの、オジエが0.6秒差の2番手タイムで続いたため、その差は14.4秒と依然として大きなものだ。「ハードタイヤのグリップがすごく低い。すごく難しくて、石がたくさん落ちていた。その辺りを何とか避けようと全力を尽くした。この時点では信頼性が鍵になるので、非常に慎重に走った」とタナクは語った。
狭いところでワイドになったロヴァンペラはタナクから3秒遅れ、その差は25.5秒へとじわじわ広がりはじめているが、ステージはおびただしい数の石がかきだされており、「このままマシンを壊さずに走り切ることが大事だ」と、セーフティな走りで午後のループを乗り切るつもりでいるようだ。
ラフな路面でのパンクは運も大きく左右する。勝田が右フロントタイヤをパンク、11km地点でタイヤ交換のためにストップすることになり、10位へと後退することになったが、これはこの後続く波乱のほんの前触れにすぎなかった。
SS11モンテ・レルノ〜ス・フィリゴスでは信じられないドラマが連続する。エヴァンスがターマックセクションの荒れた岩だらけのイン側でパンクしたためにタイヤ交換、さらに4位につけるパヤリもスローパンクしてスローダウンをはじめるが、すぐ先にはフールモーが横転してマシンを止めている! パヤリはその直後にタイヤ交換に踏み切ったが、この判断の遅れのためにさらに大きなタイムロスを喫してしまい、ここでエヴァンスとパヤリは順位を入れ替え、エヴァンスが4位へと浮上することになった。
オジエがここでは慎重なペースを刻んで、タナクから3.7秒遅れの2番手タイム、リードは10.7秒となった。
土曜日の最終ステージのSS12トゥーラ〜エルーラも荒れたコンディションとなったが、トップを争う二人のタイムは信じられないことに瞬きをする時間もないほどの僅差だ。オジエはタナクに0.4秒上回るベストタイムを刻み、その差を11.1秒として土曜日を終えている。ステージエンドレポーターが誰もが苦しんだ一日となったことに同意を求めたものの、オジエは「イージーだった」と笑みをみせた。「長い一日だった!今のところすべて順調にコントロールできている。ラリーを上手くマネージメントできている」
タナクはひたいの汗をぬぐいながら、スリリングなバトルを繰り広げながらもオジエとのタイム差を縮められなかったことに少しがっかりしているようだった。「マシンに苦戦したんだ。特に狭い道では、走り抜けるにはしっかりとしたバランスが必要だし、僕にはまったくチャンスがなかった。しかし、もちろんまだ日曜日が残っているので終わってはいない」
ロヴァンペラは結局、タナクからは44.4秒差も引き離されたがパヤリを抜いたあとは3位をキープすることに専念したと認めた。「大きな轍がたくさんあり、コンディションは超ラフだった。目標はトラブルを避けて今日を走り切ることだった。今はギャップが大きいので、リスクを冒す必要はない」
エヴァンスは金曜日の路面掃除による絶望的な遅れとともにこの日のタイヤ交換で首位からは4分33秒もの遅れとなっているものの、4位というまずまずのポジションで続いている。同じくSS11でタイヤ交換を余儀なくされたパヤリは、エヴァンスから23秒遅れの5位でこの日を終えた。
勝田もSS10のパンクで6位から9位へとポジションを落としたが、ループ終了時には7位まで挽回し、RC2クラスのトップを走るニコライ・グリアジン(シュコダ・ファビアRS Rally2)に11.8秒差まで迫っている。SS12でも路面の衝撃ではねてオフしかかるシーンはあったものの、果敢な走りをみせて一日をしめくくった。「恐ろしかった。僕たちのマシンはダカール用のマシンではないのに、なぜこんな荒れたセクションを走っているのか分からない。でも、大丈夫だ。パンクについては残念だが、それ以外は比較的順調だった」
最終日は4SS/77.78kmというけっして短くない一日となるが、スーパーサンデーやパワーステージのポイントもかかっているため最後まで緊張した戦いが続くだろう。オープニングステージのサン・ジャコモ〜プレビは現地時間7時25分、日本時間14時25分のスタートが予定されている。