2025年世界ラリー選手権(WRC)第10戦ラリー・デル・パラグアイは雨によるドラマチックな最終日となったが、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が鉄壁の走りで通算65勝、今季4勝目を飾ることになった。またオジエの勝利によってトヨタはシトロエンが持つ通算102勝というマニュファクチャラー最多勝記録に並ぶ金字塔を達成している。
オジエは、ラリー・デル・パラグアイの土曜日を終えて、ヒョンデのアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)に対して10.3秒をリード、このままトップを守ってさらに日曜日のボーナスポイントを重ねればタイトルの最有力候補となるという状況で最終日を迎えた。「(SS2のパンクで)40秒遅れからスタートし、トップで最終日をスタートするのは予想外だが、このポジションを守らなければならない。それでも雨が降ればどのようなことも起こりうる。集中していくよ」と、彼は言い残してサービスをあとにした。
オジエとフールモーというラリーをリードしている二人がともに金曜日にパンクしたあと上位にポジションを戻してきたのは興味深いところだ。フールモーは金曜日に首位に立ったものの、2度のパンクでその座を逃した。しかし、土曜日のトリッキーなグラベルをクリーンに走り切ったことで2位へとポジションを上げることに成功した。そして、彼は最終日のスタートを前に、けっして優勝を諦めたわけではないと認めた。「プッシュして運に頼るか、それともトラブルなく良い結果を得るために全力を尽くすか、その妥協が必要なことは分かっている。金曜日にすでに2回パンクしたので、土曜日はそれを避けたかった。しかし、今やトップとは10秒差だ。とにかくプッシュするつもりだ」
ラリー・デル・パラグアイの最終日は、ベラ・ヴィスタ(21.86km)とミシオン・ヘズィティカ・トリニダード(18.15km)の2ステージをノーサービスで2回走行する4SS/79.50kmの一日となる。パラナ河沿いのエルカンナシオンのサービスパークは美しい朝焼けの一日のはじまりとなったが、これは雨雲が近づきつつある証拠なのだろうか。ステージでは小雨がぱらつき始めているとの情報ももたらされているなか、ドライバーたちはサービスをあとにしている。
しかし、スタートを前に思っても見ないトラブルに見舞われたのはティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)だ。リフューエルゾーンで冷却系からの水漏れがあることが発覚、彼とコドライバーのマルテイン・ウィダーゲはエンジンフードを開けて作業を行い、無事にステージへと向かっている。
オープニングステージのSS12ベラ・ヴィスタは、雨が降り始めたばかりのようにも見えたが、信じられないほどコースは滑りやすくなっており、コースコンディションをチームから知らされる前にスタートしたジョシュ・マクアリーン(フォード・プーマRally1)や勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)は1km地点の左コーナーで相次いでブレーキで止まることができずに草むらにコースオフする波乱のスタートとなった。
雨はすぐに止んだものの川のようになっているところもあるなど、ドライバーたちはグリップの変化に苦しめられる。勝利を狙ってプッシュすると語っていたフールモーはオジエを上回るペースでスタートしたが、17.24km地点のジャンクションでオフ、エンジンをストールしてしまい18.9秒ロス、ベストタイムを奪ったマークしたオジエからは29.2秒遅れとなってしまった。
オジエはステージエンドでフールモーとのタイム差を知らされ、ライバルの失速を残念そうに語った。「このコンディションを恐れていたが、その通りになってしまった。グリップを信用できないところが多く、ところどころで少し慎重になりすぎた部分もあったが、それが良いアプローチだったと思う」
3位につけていたエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)は4.9km地点の左コーナーでイン側のバンクに軽く接触した反動でアウト側の草むらにオフ、幸いにもコースに復帰することができたものの、2.2秒差でオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)に逆転されることになった。「左コーナーで止まりきれなくて、コースアウトしてストール、リバースで戻らなければならなかった。あまり良いフィーリングではなかったよ」
タナクはここでは2番手タイムを奪い、2位につけるフールモーとのタイム差はわずか10.1秒に縮まった。「正直言ってかなり遅いと感じたよ。予測不能だ。コンディションがランダムに変化するので、ジャンクションをうまく攻略するのは非常に難しく、慎重なアプローチだった」とタナクはコメントした。
水漏れという問題にひやりとさせられた朝となったヌーヴィルだが、オープニングステージでは3番手タイムを記録し、4位にポジションを落としたエヴァンスをさらに撃ち落とすべく6.7秒の背後に迫ってきた。
SS17ミシオン・ヘズィティカ・トリニダードは前ステージとはうってかわって青空が広がっているが、路面は湿り気を含んで赤土がきわだっている。ここではヌーヴィルがこの週末初となるベストタイムを奪い、2回目の走行として行われるパワーステージに向けてやっとマシンへの手応えをつかんだようだ。
「グリップはかなり高く、予想以上だった。ようやく少しメカニカルグリップがあって、マシンをより信頼できるようになった。クレイジーなことはしていない。ただ走りを最適化して、この週末ずっと不足していたグリップを最大限に活かそうとしている」とヌーヴィルは語った。
ヌーヴィルはここで4位のエヴァンスに4.6秒差に迫り、さらにエヴァンスと3位のタナクとの差も1.8秒へと近づいており、3人のバトルは終盤までもつれそうだ。
バンピーでアンジュレーションのある高速セクションも多かったこのステージで、オジエはやや慎重だったと認めた。「グリップは良くなったが、石やバンプでリスクの高い箇所が多いんだ」とオジエは語った。彼はここでペースを落とし、スーパーサンデーのリードをヌーヴィルに譲ることになったが、これはエヴァンスから選手権リードを奪うことはしないで、次戦のラリー・チリに有利なポジションで向かうための戦略だろうか。いずれにしても、フールモーに対するリードは27.1秒という安全圏となっている。
SS18ベラ・ヴィスタでベストタイムを奪ったのはカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)だ。土曜日のパンクにより首位から6位へと転落した彼は日曜日のポイント獲得に向けて最終日に力強い走りを見せたいと語っていたが、やっとペースをつかんでスーパーサンデー3位へと浮上することになった。「もっと速く走れたはずだったが、この日の朝はマシンのフィーリングもそれほど自信に満ちているとは言えなかった。ここでも速く走ろうとしたが、ブレーキのフィーリングも悪くなってしまった」
2位のフールモーは朝の雨で水かさが増えたウォータースプラッシュのあとエンジンが回らなくなってしまい12.3秒をロスしてしまっており、彼はタナクに抜かれたことを覚悟する。だが、タナクもまたウォータースプラッシュのあとエンジンがしばらく吹け上がらない問題に見舞われ、さらに終盤に右リヤタイヤをリム落ちさせてしまい11秒をロスしてしまった。これで表彰台のポジションを失って5位に後退してしまった。
「ハンコックだから、こういうことは起こり得るよ」とタナクは皮肉な笑みで顔をひきつらせた。「このステージでは色々なことが起きた。水しぶきでエンジンに水が入り、一瞬エンジンが回らなくなったんだ。良いステージにはならなかったよ」
タナクのトラブルでエヴァンスが3位に、ヌーヴィルが4位にポジションをアップした。この週末ただ一人だけパンクというリスクを避けて安定したパフォーマンスを維持してきたエヴァンスは、ライバルがトラブルに見舞われた理由が見えているだろう。「あちこちに大きな石が転がっていて、まるで宝くじみたいだった。だから、僕はできるだけマシンを路面の真ん中に保とうとした」
それでも無事是名馬とはこのことだ。エヴァンスはヌーヴィルに4.7秒差をつけて3位をキープしているが、ウォータースプラッシュで貴重なタイムを失った2位のフールモーともわずか3.3秒という僅差で最終ステージに向かう。
フールモーのトラブルでオジエのリードは39.1秒へと拡大することになったが、彼はまるで選手権のライバルであるエヴァンスがポジションを上げることを見越したかのように、ここでは完全勝利を目指すかのようにペースをアップ、スーパーサンデーのランキングでもトップに躍り出した。
「できる限りポイントを獲得しようと努力している。ドライコンディションで最終ステージを楽しめることを願っているが、もし雨なら何が起こるか分からない」とオジエは不安そうな顔をみせた。パワーステージでは雷が鳴って雨が降り始めたとの情報がもたらされている。
あくまで暫定ながら、この時点でオジエはエヴァンスと193ポイントという同ポイントで選手権タイに並んだ計算であり、このままでは勝利数にまさるオジエが次戦のラリー・チリ・ビオビオを一番手でスタートすることになる。はたしてオジエとエヴァンスはパワーステージにどのような戦略で臨むのか、ポイントの行方も含めて注目されることになった。
ミシオン・ヘズィティカ・トリニダードの雨は止み、パワーステージは朝に行われた1回目の走行と同じようなコンディションのなかでスタートとなったが、トップ4がスタートする頃から雨がふたたびフロントガラスを濡らし始める。
Rally1最後尾で走るオジエはステージ中盤以降にさしかかったところで雨の盛大なシャワーを浴びることになり、ターマックセクションはフルウェットに、グラベルのラインに水たまりが生まれるなど危険なコンディションとなった。彼は大きくペースを落としてトップタイムから19.9秒も遅れる10番手タイムでフィニッシュ、パワーステージではノーポイント、スーパーサンデーでもわずか1ポイントの獲得に終わったが、通算65勝、今季4勝目を飾ることになった。
「こんなに雨を受けたのは僕だけだ。でも、僕たちは前進し続けて、このチャンピオンシップで勝つつもりだ」とオジエは9度目のワールドチャンピオン獲得に向けて強い決意を示した。
2位で最終ステージを迎えたフールモーも雨の直撃を受けて9.3秒も遅れてしまい、なんとエヴァンスとヌーヴィルに抜かれて4位へとポジションを落としてしまった。「僕たちは3位かな? 違うのか・・・」と彼は首を横に降った。「ステージで雨で水びたしになったんだ。本当に頑張ったんだけど残念だよ」
エヴァンスがヌーヴィルとのポディウム争いを1秒差で制して3位でフィニッシュしたかに見えたが、フールモーの失速によって二人とも表彰台に立つというドラマでラリーはエンディングを迎えることになった。
ヌーヴィルは路面のコンプレッションでダンパーに問題を抱えながらも3位表彰台を達成するとともにパワーステージとスーパーサンデーを制することになった。
フールモーはパワーステージを終えた時点では、チームメイトのタナクに2.1秒差の4位でフィニッシュしていたが、チームは最終のコントロールでフールモーのリタイアを決めている。チームによればフールモーはギヤボックスに問題を抱えていたため、このリタイアによって次戦のラリー・チリ・ビオビオではペナルティなしで新しいギヤボックスへの交換が可能となるが、それとともにタナクの選手権を助ける戦略でもあったと見られている。
フールモーがリタイアしたことで以降のドライバーは順位がひとつずつ繰り上がることになり、4位にはタナク、5位にはロヴァンペラ、6位にはサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)が続いている。また、金曜日のパンクとリタイアで厳しい週末となった勝田はパワーステージでも1ポイントを奪う果敢な走りをみせて16位まで挽回してフィニッシュを迎えている。
第10戦ラリー・デル・パラグアイを終え、ドライバーズ選手権ではトップが入れ替わる可能性もあったが、最終ステージで雨がもたらしたドラマによって198ポイントへと伸ばしたエヴァンスが引き続きトップをキープ、ロヴァンペラが7ポイント差の2位、オジエが9ポイント差の3位となり、チーム戦略に助けられたタナクは20ポイント差から18ポイント差へと縮め、ヌーヴィルが48ポイント差で続いている。
シトロエンが持つ通算102勝というマニュファクチャラー最多勝記録に並んだトヨタは、マニュファクチャラー選手権でもヒョンデに対するリードを87ポイントから100ポイントへと拡大している。
WRCは2週間後のラリー・チリ・ビオビオへと続く。