WRC2023/04/22

クロアチア波乱の初日、ヌーヴィルがリード

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 2023年世界ラリー選手権(WRC)第4戦のクロアチア・ラリーは4月21日にレグ1が行われ、ヒョンデ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)がラリーをリード、エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)が5.7秒差の2位で続いている。

 ラリー初日の金曜日は、ザグレブ西南エリアの昨年のルートをなぞる。マリ・リポヴェツ〜グルダヌチ(19.20km)、ストイドラガ〜ハルティエ(25.67km)、クラシッチ〜ヴルシュコヴァツ(11.11km)、ペチュルコヴォ・ブルド〜ムレジュニチュキ・ノヴァキ(9.11km)の4ステージをザグレブ・フェアのミッドデイサービスを挟んで2回ループする8SS/130.18kmというラリー最長の一日となる。

 ザグレブは曇り空の朝を迎えており、日中の降水確率は10%と予想され、すぐに雨が降り出す可能性は低そうだが、そうした予想のなかで昨年は天気が急変したステージもあるなどクロアチアの天候は読みにくい。そのため各ドライバーが選んだハードとソフトのタイヤの本数はばらばらで、トヨタの全ドライバーがウェット1本を「保険」として搭載している。

 SS1のマリ・リポヴェツ〜グルダヌチは木陰にところどころ湿ったセクションはあるものの、路面はほぼドライ。しかし、2日前の雨の影響で泥だらけのインをカットしなければならないところも多く、走行によってかき出された土や小石で後続になるほどコーナーは汚れ、荒れたターマックはいっそうスリッパリーになっていく。

 このステージをベストタイムを奪ってスタートしたのは、選手権リーダーとして一番手のポジションで臨んだオジエだ。もっともクリーンなステージを走った彼は、後続に2.6秒差をつけてラリーをリードする。

 オジエはこのステージのグリップが予想より低かったことを訴えたが、計画どおりの好スタートができたことに満足そうに語っている。「グリップが低いので難しいが、雨の週の後なので、路面に汚れがあることは予想していた。今のところ順調だ」

 前日の記者会見でいまは亡きクレイグ・ブリーンの母に「笑顔を見せることを約束した」と語ったヌーヴィルは、ここでは2番手タイムで発進したが、ハンドリングには満足していないようだ。「大変だった。ステージの間ずっとマシンに苦戦していた。思った通りに動いてくれず、簡単ではなかった」

 シェイクダウンから速さをみせていたオイット・タナク(フォード・プーマRally1)は、最初のスプリットでは最速タイムを刻んだものの、左ヘアピンでブーストを失ってエンジンストール、そのあともタイムを落とし続けて、トップのオジエから10.5秒遅れ、リーダーボードの3番手となった。彼はステージエンドでステアリングの問題があったことを告白するもそのほかにもいくつかの不安要素を抱えているようだ。「ブーストが落ちて、エンストしてしまったんだ。その後、いろいろと苦労したよ。ロードセクションですでにステアリングに問題が出てしまっていた。一仕事だったよ!」

 タナクから0.8秒差の4番手にはグリップ不足を訴えるカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)、さらに1秒差の5番手にはターボ破損のためにシェイクダウンでの最終チェックの機会を棒に振ったエヴァンスが続いている。

 SS2ストイドラガ〜ハルティエは、前ステージよりつぎはぎだらけの荒れてスリッパリーな路面が特徴だ。スターティングオーダーに助けられるオジエがそのままリードを広げるかにも見えたが、なんと彼は11kmあたりの左コーナーでインカットした際に左フロントタイヤをパンク、タイヤ交換を強いられてしまう。彼とヴァンサン・ランデは巧みな連携作業でGPSデータの上では1分7秒という短時間のストップでコースに復帰してみせたが、最終的には悪夢とも思える1分32秒もの遅れを喫して、ヌーヴィルに首位を明けわたすことになった。

 オジエは十分にこのコースの危険性を把握しており、「深いインカットは避けていたはずだった」と首を横に振ったが、問題のコーナーはアスファルトが深く剥ぎ取られてえぐれた穴がレッキでは泥に隠れて見えなかったため、歴戦のオジエでさえ発見することができなかったのだ。

 だが、この罠にはまったのは彼だけでなく、なんと後続のロヴァンペラもまったく同じコーナーで大きな衝撃を受けて同じように左フロントのホイールを破損してしまう。彼も迷うことなくパンクしたタイヤを交換するもトップから2分17.4秒もの遅れを喫してしまった。これでトヨタのマニュファクチャラー選手権にノミネートしている2台が、一瞬のうちに表彰台圏内から完全に脱落してRally1カーの最後尾に転落してしまった。

 ヌーヴィルにとってもここはドラマのないステージではなかった。彼はフィニッシュ近くのシケインでブレーキをミス、ヘイベイルとの正面衝突を避けるために左側の草むらに逃げたが右フロントを接触して軽くスポイラーを破損している。ここでトップタイムを奪ってリーダーへと浮上したとはいえ、意図的にベイルの右側を通過する指示を守らなかったと判断された場合にはペナルティがつく可能性もある。リーダーに立ったとはいえ、彼はグリップが読めない路面に苦労していると認めた。

「シケインでベールにぶつかってしまった。多くのサプライズがあったよ。このまま進むしかないが、こんなふうにトリッキーでマシンが扱いづらいままなら、楽な週末にはならないだろう」

 2番手タイムで、13.9秒差の2位に浮上したエヴァンスも、「グリップが全然信用できない。ステージ上には、ルーズな小石がたくさんあるんだ」とグリップが変化するステージの難しさを訴える。

 タナクは上位陣がそろってトラブルにみまわれるなか、トップへ浮上する可能性もあるようにも見えたが、パワーステアリングに起因しているとみられる問題でペースを上げられず、トップからは20秒遅れの3位にとどまっている。「ミッドデイサービスまで戻って、もっと良いリズムを取り戻したい」と、タナクはいまはこのペースで耐えていくしかないと認めている。

 SS3クラシッチ〜ヴルシュコヴァツは朝の2つのステージとは異なり、比較的スムースな路面をもっている。カットは少なくダーティなセクションは少ないが、ターマックの路面そのものが磨かれてグリップが小さい。前ステージのパンクに見舞われたオジエは、この日2つめの最速タイムを記録したが、ピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマRally1)から36.8秒遅れの7番手にとどまっており、このあとの戦い方をやや見失ったと肩を落としている。

 オジエのパンクによりトップに立ったヌーヴィルは、ここでもマシンのフィーリングに満足できなかったため、後続のエヴァンスに詰め寄られる覚悟をしていたが、エヴァンスは終盤でスローパンクに見舞われて、二人の差は16.4秒へと広がっている。

 それでもエヴァンスは、朝のループの最後のステージ、SS4ペチュルコヴォ・ブルド〜ムレジュニチュキ・ノヴァキでは巻き返しを図り、ヌーヴィルとの差を0.3秒縮めてみせた。彼は16.1秒差の2位でミッドデイサービスを迎えることになったが、ライバルを気にせず、自身のペースに集中したいと語っている。

「今は1台ごとに路面がどんどん汚れてきている。クルマのフィーリングがいいところもあれば、リヤに少し苦労しているところもある。でも、誰かを見ているわけではなく、自分のことだけに集中していくよ」

 ヌーヴィルは朝のループをトップで終えたが、マシンのフィーリングは思いどおりにならないままだ。「難しいよ。常にいろいろなセットアップを試しているんだけど、どうしてもうまくいかない。シャシーが大きく動くので、クルマがとてもナーバスになるんだ」

 タナクは3位で朝のループを終えたが、エヴァンスから6.1秒しか離れておらず、サービスでトラブルが解消すればこの後2位争いに加わってくる可能性がある。

 エサペッカ・ラッピ(ヒョンデi20 N Rally1)はラリー最長ステージのSS2で3番手タイムを奪って4位につけているが、勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)をなかなか引き離すことができず二人の差は15.6秒だ。勝田はこのスムースなステージではいいペースをつかみつつあると認めたが、「最初の2つのステージはインサイドから大量の泥が流れてきて、ひどい状態だった。次のループはさらに難しくトリッキーになるだろう。そこに集中していかなければならない」と気を引きしめていた。

 7位につけるオジエは、朝のパンクのあと少しでもポジションを上げるべくさらにプッシュを続けており、SS4ではやや滑りやすくなったラインを外してコース脇の生け垣でリヤスポイラーを破損したものの、3つめのベストタイムでルーベに31秒差に迫っている。

 ザグレブのミッドデイサービスでの中心的な話題は午後のループのタイヤチョイスとなった。夕方から雨になる可能性がでてきたことからヒョンデとMスポーツ勢はハード2本+ソフト2本の組み合わせに加えてウェット2本をオプションとしてチョイス。だが、興味深いことにトヨタ勢は朝のループとは異なりウェットを選ばず、ハード3本+ソフト3本の戦略で午後のループに向う。

 午後のループの最初のステージとなったSS5マリ・リポヴェツ〜グルダヌチは、黒い雲が低くたれ込み始めているものの、スタートの時点ではまだ雨は落ちてこない。気温も20度まで上がっており、ハード3本を選んだオジエがベストタイムでスタートする。

 オジエはリピートステージのためかなり路面が汚れたことを認めつつも、やはり気になるのはこの後の天候だ。「もちろん、予想通り路面はさっきより汚れている。最大の問題は、このあとの天候がどうなるかということだ。僕にはウェットはないが、ソフトタイヤが残っている。どうなるか様子を見よう」

 オジエと同じく3本のハードを選んだエヴァンスが2番手タイムで追い上げを開始、首位のヌーヴィルに13.7秒差に迫ることになった。「すべて問題なかった」と自信をもって走ることができたエヴァンスに対して、ハードとソフトを2本ずつ装着したヌーヴィルはここではソフトタイヤのスライドが大きく攻めることができなかったと認めたが、マシンのフィーリングが向上しただけに勝負には楽観的だ。

「リヤにソフトを2本装着しているので、マシンはかなり動いたよ。午後は天候が不安定なので、様子を見なければならないが、できる限りのことはしたつもりだ。マシンのフィーリングは少し良くなってきた」

 ステアリングの問題が解消したタナクはエヴァンスから7.1秒差で続いている。「確実に良くなっている。一歩一歩だ!」と、ふたたびトップ争いへの野心をみせる。

 だが、彼らの後方では雨粒が落ち始め、このあとの展開はわからなくなった。

 ラリー最長のSS6ストイドラガ〜ハルティエをオジエがスタートした時点ですでにコースにはかなり雨が降り始め、多くのセクションでターマックが黒く濡れて光っている。しかし、ここではウェットが明確にパフォーマンスを発揮するまで濡れているわけではない。

 エヴァンスは3本のソフトを武器にして連続して2番手タイム、ウェットを選ばずハードとソフトを2本ずつ装着した首位のヌーヴィルに8秒差に迫ることになった。エヴァンスはトリッキーなコンディションでのグリップの判断は集中力を要したと語っている。「すこしは乾きつつあったと思うが、泥が与えるダメージのほうが大きい。グリップの判断が難しかったよ」

 上位勢でただ一人ウェットを選んだのは3位につけていたタナクだ。だが、このギャンブルは失敗に終わり、エヴァンスから16.3秒もの遅れを喫し、彼はこの週末初のベストタイムを奪ったラッピに2.2秒差で抜かれて4位に転落してしまう。「タイヤは仕方ない・・・。ほかはすべて順調だ、悪くはなかった」

 ラッピもウェットをもっていたものの、ここではチームの情報を信じてハードとソフトを2本組み合わせたことがうまくいったと明るい表情をみせている。「ベストなチョイスができたと確信している。ベストでないとしても、ウェットタイヤよりは良かった。チームの言うことを信じて、正しい判断だったね」

 ロードセクションでもかなり雨が降って、ドライバーたちの戦略を悩ませたが、SS7クラシッチ〜ヴルシュコヴァツが始まるころには雨雲は遠ざかりはじめ、空は明るくなってきた。路面もほとんどドライコンディションだ。

 タナクがこの週末初のベストタイム、1.5秒差でラッピをかわして3位にポジションを戻したが、前ステージのギャンブルによる遅れから2位のエヴァンスとは22.7秒という大きな差となっている。

 ヌーヴィルが2番手タイムで首位をキープ、エヴァンスとの差はわずかに広げて8.4秒となった。

 だが、雨上がりの最終ステージ、ペチュルコヴォ・ブルド〜ムレジュニチュキ・ノヴァキはやや湿って路面温度も下がり始めており、ソフト3本の助けを借りたエヴァンスがベストタイム、首位のヌーヴィルに5.7秒差まで迫ることになった。

 シェイクダウンでセットアップを熟成させることができなかった彼だが、一日をかけてマシンに手応えを感じているようだ。「スタートはあまり良くなかったけど、その後、何度も何度も積み重ねてきたからなんとかなった。簡単なラリーではないし、まだまだ先は長いよ」

 ラリーリーダーとして初日を終えたヌーヴィルは、朝よりかなりマシンのフィーリングが向上したことに満足している様子だ。「1日の終わりには、少し良くなって、午後にはもう少しクルマを楽しむことができたのは本当に嬉しい。最終的には1位でフィニッシュできるといいんだけどね。そうなれば、チームにとっても僕たちにとっても素晴らしいことだ」

 3位奪還を目指すラッピのチャージを退けて、最終ステージで3番手タイムを奪ったタナクが3.4秒差でポジションをキープして初日を終えている。2位のエヴァンスとは24.3秒の大差がついたが、明日は晴れるものの、今日よりさらにシャワーが降るチャンスがあると天気予報は伝えており、雨となったベルギーのテストイベントで走り込みを行ったタナクにとっては再浮上のチャンスもあるかもしれない。彼は、エヴァンスに近づくために明日もプッシュすると誓った。「(ウェットの)タイヤの判断はとても愚かなものだったが、とにかく、僕らは改善しようと努力してきた。まだ、もっと良くなれると思うから、一歩一歩進んでいこう。まだまだ先は長いんだ」

 4つのステージでトップタイムを奪う文句なしの速さをみせたオジエは、朝のパンクのあとも猛チャージを敢行して5位まで追い上げたが、最後のステージでもふたたびパンク、ポジションは落とさなかったがラッピからは50秒遅れ、首位から1分23.7秒遅れとなっている。

 勝田はSS5でスピンを喫し、さらにSS6でウェットタイヤの選択が失敗したことでオジエに抜かれたものの、最終ステージでハイブリッドの問題に見舞われたルーベを抜いて6位で初日を終えている。「ここは湿っていたが、正直そんなに悪くない。明日また大変な1日になりそうだ」と勝田は

 ロヴァンペラは朝のパンクのあとRally1カーの最後尾の8位に留まり続け、チャンピオンにとっては退屈で寂しい一日となったが、明日はフロントランナーとして大暴れを見せてくれるかもしれない。「クルマもセットアップもだいぶ理想に近づいたので、明日もドライビングを楽しみながら、ペースを上げることもできそうだ」

 土曜日はザグレブの南部エリアへと向かい、8SS/116.60kmの一日が予定されている。この週末で最もチャレンジングなステージとされるオープニングSSのコスタニェヴァツ〜ペトゥルシュ・ヴルフは現地時間7時54分(日本時間14時54分)のスタートが予定されている。