WRC2018/05/19

サバイバル・ポルトガルをヌーヴィルがリード

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 FIA世界ラリー選手権(WRC)第6戦ラリー・デ・ポルトガルは、金曜日の6つのロングステージすべてで首位が入れ替わるというドラマが連続した一日となり、ヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が首位に立つことになり、Mスポーツ・フォードのエルフィン・エヴァンスが17.7秒差の2位で続く展開となっている。

 金曜日は波乱の一日を予感させるかのように、前戦で完璧な勝利を飾ったトヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームが朝の2つのステージを終えて2台を失うという悪夢ではじまることになった。

 木曜日のナイトステージを制してラリーリーダーとしてこの日のオープニングステージ、SS2ビアナ・ド・カシュテロをスタートしたオット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)は、左のロングコーナーで彼の直前に走ったヌーヴィルがインカットでかき出した大きな岩を避けきれずに激しく乗り上げてしまい、冷却系にダメージを負ってしまう。彼はそのまま1kmほど走ったものの、異常温度を知らせるアラームによってマシンをストップさせることになった。

 チームは冷却系の修理で土曜日にリスタートできることを期待していたが、残念なことにエンジンにダメージがあるため、タナクのラリーはここで終わることになり、無念のノーポイントとなってしまった。

 また、タナクのリタイアした状況が正確に判明しないうちに、続くSS3カミニャ(18.11km)で今度はチームメイトのヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)を悲劇が襲うことになった。前ステージで13秒あまりもの遅れを喫した彼は、セクター最速タイムを更新しながらSS3を快調なペースを刻んでいたかに見えたが、5km地点で穴を越えた際に右フロントサスペンションを壊してマシンをストップすることになってしまった。

 タナクがリタイアしたSS2を終えて首位に立ったのは、スウェーデン以来、久々の参戦となったヘイデン・パッドン(ヒュンダイi20クーペWRC)。11番手という後方のポジションでスタートしたパッドンに続き、エヴァンスが1.5秒差の2位で続き、後方からスタートしたドライバーがタイムを伸ばす展開となった。

 パッドンは、ラリーをリードしたにもかかわらず、「クルマに乗っているフィーリングは最悪だった! テストの時と同じように感じられなかった」と語り、不満そうな表情で語っていたが、すでに彼はタイヤを摩耗させすぎていたことにこの時すでに気づいていたはずだ。彼はSS3以降、ペースを落とさざるを得なくなり、朝のループを終えてトップから4.8秒差の3位につけることになった。

 SS3でタイヤに苦しんだパッドンを捕らえることに成功したのはシトロエンのクリス・ミーク(シトロエンC3 WRC)だ。彼は朝からC3の走りに満足していると笑顔をみせており、「このC3で初めて、本当にアットホームな感じがした。自分の思うように走れる」と自信をみせており、なんとSS3ではインターコムのトラブルを抱えながらもベストタイムを奪ってみせた。

 しかし、この時点ではトップ10がわずか10秒差にひしめく大混戦。SS4ポンテ・デ・リマではダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)がベストタイムを叩き出して逆転、デイ1の4人目のリーダーとして朝のループを終えることになった。「リズムがあまりよくなかった」と言葉少なくタイムを失った理由を説明したミークも4.6秒差の2位、さらに0.2秒差の3位にはパッドンが続き、この日一番手ポジションというもっとも厳しい条件でスタートしたセバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)が驚異的なペースをみせて4位につけることになった。

 オジエは、予想以上にダスティな路面となったオープニングSSで10.2秒差の8番手タイムと出遅れ、柔らかい砂で整備された金曜日のステージでは致命的なタイムロスを喫するかとも想像されたが、彼はSS4ポンテ・デ・リマで3番手のタイムを奪い、なんと首位から7.3秒遅れの4番手というまずまずのポジションまで浮上することになった。

 マトジニョスのサービスが始まった時点では気温も30度近くに上昇したが、夕方には雨の可能性もあるとの天気予報もあったため、午後のループにむけてトップグループのタイヤチョイスは大きく分かれることになった。なかでも一番手スタートのオジエは、予想以上に厳しい路面での戦いになることを予想したのだろうか、ラリーのスタート前から、「(コースの整備のために)大量の砂がしかれた今年はタイヤの摩耗は問題にならない。気温が高くなっても、誰もがソフトタイヤだけを望むと思う」と語っていただけにオールソフトを選ぶかに見えたが、彼はソフトハード3本とソフト2本という意外な選択をしてSS5ヴィアナ・ド・カシュテロに向かうことになる。

 オジエのこの賭けは、このステージでの致命的なミスさえなければ彼に成功をもたらしたかもしれないが、彼はステージエンドに辿り着くことなくラリーを終えることになってしまった。彼は17km地点でイン側に切り株にヒットしたあと続く左コーナーでステアリングが効かなかったかのようにアンダーステアを出してコースオフ、リタイアとなってしまった。土曜日をできるだけいい走行順でスタートするために無理をしすぎたのか、オジエは珍しくハンドルを叩いてミスを悔しがった。

 いっぽう、朝のループを首位で終えたソルドは5本のソフトタイヤを選択して午後のループに挑んだものの、タイヤの激しい摩耗に苦しみペースダウン、ハード5本を選択したミークに1.9秒差で首位を譲ることになった。ソルドの1.1秒後方の3位にはハードとソフトのミックスを選択したパッドンが続いており、ルースな石がまき散らされ、信じられないほどラフになったステージではハードが正解だったように見えた。

 だが、ハードを武器に首位に立ったにもかかわらず、ミークは続くSS6で左リヤタイヤをバーストさせてフィニッシュ、18.5秒をロスして5位までポジションダウンすることになった。さらにさらに首位浮上のチャンスもあったソルドもタイヤの摩耗に苦しんで3.2秒差の2位にとどまり、パッドンが首位に浮上することになった。

 だが、この日の最後のロングステージとなるSS7ポンテ・デ・リマではさらなる試練と混沌が待ち受けていた。なんと首位に浮上したパッドンが2.4km地点でクラッシュ、マシンがコースをふさいだためステージが中断、後続のマッズ・オストベルグ(シトロエンC3 WRC)以降にはノーショナルタイムが与えられてステージキャンセルとなった。

 2位につけていたソルドはダメージを受けたタイヤのためにさらに30秒近くを失って4位に後退、3位につけていたブリーンもスタートしてすぐにパンクに見舞われたためにタイヤ交換を行い、2分30秒近くを失ってポディウム圏内へと脱落することになってしまった。

 波乱が相次いだこのステージでベストタイムを奪ったのはヌーヴィル。すべてのタイヤが擦り切れてボロボロになった状態で、それまで4位につけていた彼はデイ1で5人目のラリーリーダーへと躍り出すことになった。「すべてのタイヤを使い切ったよ。危険なタイヤ選択だったし、おそらくベストではなかったが、うまく最後まで働いてくれたよ。オジエが消えたことは残念だが、僕らにとってはいい一日になった」と彼はステージをフィニッシュしたことに心底ホッとしたように語った。

 上位陣の大混乱で金曜日を2位でフィニッシュしたのは、8位で午後のループをスタートしたエヴァンス。大きなトラブルを回避した彼はヌーヴィルからは17.7秒差だ。また、24.3秒差の3位にはソルド、4位には午後のループで2つの3番手タイムを出したテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)が混乱の一日をゴールしてみれば十分に表彰台のチャンスを残した4位につけることになり、マシンのフィーリングに終日苦しんだオストベルグが5位で続いている。

 また、トヨタ勢ではただ一台となったエサペッカ・ラッピ(トヨタ・ヤリスWRC)はグリップがないマシンに苦しみながら我慢の朝を11位で終えたあと、彼自身もダンパーに問題を抱えながらも6位につけることになった。

 いっぽう、ハードタイヤを成功させたかに見えたミークは、SS6のパンクに見舞われたものの、まだ優勝争いのチャンスを残していたかに見えたが、なんとSS7でも左フロントタイヤをパンクしてフィニッシュすることになる。この時点で彼は首位からわずか11.6秒差の3位だが、もはやスペアタイヤはなく、彼はこのタイヤをリヤに移してロードセクションを走ることになる。

 完全にタイヤが脱落してホイールだけとなってしまい3輪となったマシンで彼はこの日、最後のわずか1.95kmのポルト・スーパーSSを2回走っただけで1分あまりを失い、完全に表彰台争いから脱落することになった。