2026年世界ラリー選手権(WRC)開幕戦のラリー・モンテカルロは、木曜日に行われた3つのナイトステージを終えて、トヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームのオリヴァー・ソルベルグ(トヨタGRヤリスRally1)がチームメイトのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)に44.2秒の差をつけてリードするセンセーショナルな展開となっている。
ラリー・モンテカルロは、木曜日の14時からモナコ湾のアルベール1世埠頭で行われるセレモニアルスタートで開幕、アルプ・マリティーム県とアルプ・ド・オート・プロヴァンス県で開催されるSS1トゥードン〜サン・タントゥナン(21.90 km)、SS2エスクランゴン〜セーヌ・レ・ザルプ(23.80 km)、SS3ヴォーメイユ〜クラレット(15.06 km)を走ってギャップへと至る3SS/60.76kmの一日となる。SS1は夕日が沈みかけている時間帯でのスタートとなるが、SS2とSS3は完全に日没後のスタートとなる。
セレモニアルスタートの時点ですでにオープニングステージにはかなり雨が降って雪が舞い始め、さらに北部へと向かって行われるSS2にはかなりの雪が降っているとの情報がチームにはもたらされており、すべてのドライバーがスタッド付きスノータイヤを4本選んでいる。ほとんどのドライバーがオプションとしてスタッドなしのスノータイヤを2本追加したが、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)とエヴァンはスーパーソフト2本をオプションとして選ぶという異なる戦略で最初のループに向かっている。
2026年シーズンの開幕ステージでもあるSS1トゥードン〜サン・タントゥナンは小雨ではあったが、情報どおりにすでにかなりの雨が降り、フルウェットのコンディションでところどころに大きな水たまりや川がある。路面には雪はまったくなく、スタッド付きスノータイヤ2本とスーパーソフト2本とをクロスに装着したドライバーにとって有利なコンディションとなり、なかでもエヴァンスは一番手でコースインしたオジエを12秒も上回る素晴らしいタイムでスタートすることになった。
「出来るだけスムーズに、良いリズムで走ろうとしたが、クロスタイヤで良いフィーリングを得るのは簡単ではなかったが、まだ始まったばかりなので、冷静にいきたい」とエヴァンスは語った。
オジエは「このコンディションでは限界がどこなのかを正確に把握するのは難しい。間違いなく安全策をとった」とコメント、川が流れているコースで慎重に走ったようにも見える。
二人の後方でスタッドなしのスノー2本をスタッドタイヤ2本とクロスさせてステージに臨んだドライバーたちは明らかにグリップに苦しむことになり、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は、なんと43.5秒遅れの9番手タイムと遅れてしまった。「かなり苦戦した。自信ゼロだ。グリップが頼りないんだ。自分の感覚に従うしかない。もっと自信を持てるようになるには、もっと努力する必要がある。それは確かだ。タイヤ選択についてはループ全体を見渡す必要がある」
次のステージはかなりの降雪となっているため、ここではスノータイヤのスタッドを脱落させないようマネージメントしなければならないことは言うまでもない。それでも後方からスタートしたソルベルグが印象的なペースでスタートを切り、エヴァンスから5.6秒遅れ、オジエを6.4秒差でパスして2位で発進しているが、はたしてスタッドは無事だろうか?
トップから19.9秒遅れの4番手でスタートしたアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)は「エルフィンがスリックをクロスさせて本当に良いステージを走ったのは分かるが、ループでどうなるか見ていきたい」と語り、27.1秒遅れの5番手タイムで続いた勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)も、ループ全体を考え、次のステージのためにスタッドを守ることを考えたステージだったと認めている。「このステージでは理想的なタイヤでなかったことは間違いない。かなり慎重に走ったのは確かだが、正直よく分からない。ターマックが多く、グリップもあった。次のステージのほうがより重要なので、ここで失ったタイムは気にしていない」
ジョン・アームストロング(フォード・プーマRally1)もオジエとエヴァンス同様にスーパーソフト2本を選んでおり、Rally1デビューステージでトップ6入りを果たし、うれしさで笑みがこぼれた。「ここではクロスタイヤのパッケージが上手く機能した。最適ではなかったが、まずまずのスタートだったと思う。初めてのRally1でのステージだったからね。これが始まりだし、ここにいられてうれしい」
7番手タイムは、ランチアのWRC復帰を祝うにふさわしい速さをみせたニコライ・グリアジン(ランチア・イプシロンRally2 HF インテグラーレ)がつけることになったが、チームメイトのヨアン・ロッセル(ランチア・イプシロンRally2 HF インテグラーレ)は狭いセクションで岩壁にフロントタイヤを接触させてしまい、早すぎるリタイアとなってしまった。
グレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)はトップタイムからは42.3秒も遅れの8番手タイム、プレイベントテストがなかったことを嘆いたが、同じタイヤパッケージのヌーヴィルを1.2秒差で上回ったことですこしは気分を良くした様子だった。
サミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)がヌーヴィルから1秒遅れ、さらに4.5秒差でWRC復帰戦のヘイデン・パッドン(ヒョンデi20 N Rally1)が続いているが、彼はここで1kmあたり2.24秒も引き離されて元気なく首をうなだれた。「雪も氷もないのに、非常にスリッパリーだった。グリップは全く感じられないし、マシンのフィーリングもない・・・」
前ステージではタイヤ戦略がステージタイムを大きく変えることになったが、SS2エスクランゴン〜セーヌ・レ・ザルプ(23.80 km)では全ドライバーがスタッド付きのスノータイヤを4本とも装着するというシンプルなタイヤチョイスだ。それでも5−6センチの降雪があるとの情報を知らされていたドライバーたちは想像もしていなかったコンディションに目を疑うことになった。
すでに日没となっており、完全な暗闇のなかですべてのラリーカーがナイトポッドランプを装着してステージをスタートしている。ステージ序盤は路面を覆っていたはずの雪が雨でかなり融けているが、だんだんと標高が高くなるにつれて雪解けの大量のスラッシュが路面を覆い、さらに日が沈んだことで気温が低下したため、19.9km地点の峠の頂上付近からゴールまでのダウンヒルは路面の凍結が進んで危険なコンディションとなっている。
一番手でコースインしたオジエはコース全域を覆ったスラッシュの雪かきに苦戦、上り坂ではホイールスピンしながら止まりそうになり、彼の後方からスタートしたエヴァンスからは38.1秒も遅れてしまった。
エヴァンスのオンボードカメラはオジエが残した黒いラインをはっきりと映し出しており、ラリーカーが走行するたびに路面はシャーベットがかき飛ばされてクリーンになり、グリップを助けるようになったことは明らかだ。それでもエヴァンスの後方のドライバーたちはなかなかペースを上げることができない。
3番手の走行順でスタートしたヌーヴィルは下りでオフして壁にヒットしたものの、エヴァンスから13秒遅れ。4番手からスタートした勝田もエヴァンスからは30秒近く秒遅れ、5番手からスタートしたフールモーも5.6km地点でスライドしてスピン、それでもエヴァンスからは20秒遅れで続いている。そしてその後方のサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)は8.3km地点でコースオフして身動きできなくなってしまった。
そのような混沌とした状況のなか、7番手の走行順でスタートしたソルベルグがエヴァンスに31.1秒もの大差をつける驚異的なベストタイムを叩き出し、エヴァンスに25.5秒差をつけてラリーリーダーとなった。
ソルベルグは前ステージでも素晴らしい速さをみせたあと、スタッドのマネージメントが心配されたが、そうした懸念など吹き飛ばすような快走をみせ、誰もが「経験したことがないほど困難だった」と口を揃えたこのステージですべてのドライバーに30秒以上の大差を築いてみせた。「なんてことだ!本当に信じられない。人生の中で最もクレイジーなステージだった。コースオフしたと何度も思ったほどだったからね!」とソルベルグは目を丸くして自身のタイムに感激していた。
Rally1最後尾の11番手からスタートしたアームストロングは、終盤の下りでオフして岩壁にヒット、左フロントをスローパンクさせながらも34.5秒遅れの3番手タイムで続き、3位に浮上することになった。
1分6秒遅れの4位には「まったくグリップがなかった」と嘆きながらもフールモーが続いている。モンテで10勝しているオジエでさえ、どうすることもできずに1分15.6秒遅れの5位へとポジションダウン、苛立ったように「こんなステージは人生で一度も見たことがない。信じられない。タイヤがひどくて、グリップがまったく効かなかった」と吐き捨てて走り去っている。
木曜日の最終ステージとなるSS3ヴォーメイユ〜クラレットには雪はまったくなく、ウェットコンディションだ。多くのカットが路面を汚して後方になるほどグリップが難しくなったが、それとともに終盤では霧が次第に濃くなり、LEDランプのナイトポッドランプの強力な光はただ霧で反射してフロントガラスの前に真っ白なスクリーンを映し出すだけで、路面がまったく見えないところもあったようだ。さらに観客たちが焚く発煙筒の煙もコーナーをわかりにくくしている。
首位のソルベルグは何度かコースオフしそうになりながらもリードを守って初日をフィニッシュ、2位のエヴァンスとの差を44.2秒へと広げている。「あまりに霧が凄かった。泥もめちゃくちゃ多くて、この霧の中で何回もコースアウトしかけたよ」
2位のエヴァンスもここでは安全のためにスローダウンしなければならなかったと訴えた。「コースさえ見えなかった。見えたのはマーシャルのジャケット(の反射テープ)だけだ」
ここでは一番手からコースに臨んだオジエがベストタイム、3位に浮上することになったが、首位のソルベルグからは1分8.6秒遅れだ。「ミラクルだ。こんな夜は終わってくれて本当に良かったって思う。さっきのステージは、今まで経験したことがないレベルだった。グリップが全くゼロだ。クルマでできることが何もなかった。とにかく、間違いなくキャリアの中でいちばん楽しくないステージだった」とオジエは嘆いている。
4位につけていたフールモーは濃霧が出ている14.9km地点でスピン、彼はスタックを覚悟してシートベルトを外しかけたが、どうにかリバースギヤでコースに復帰、45秒遅れでフィニッシュしている。「ステージはかなりの霧が出ていて、視界が悪かった。自分がどこにいるのか分からないままディッチに落ちてしまった」
ヌーヴィルはミスをして遅れたフールモーを抜いて4位へと1つポジションを上げてフィニッシュ、オジエの17.3秒後方で初日を終えている。
勝田はステージのコンディションに翻弄されながらもフールモーの39.2秒遅れの暫定6位で続いている。「ほとんど何も見えない状態だった。正直タイムには不満だが、ここに到着できたことを今は喜び、明日以降ベストを尽くしたいと思う」
視界が悪化し、あまりに危険なコンディションだったため、パッドンが走行している時点で安全上の理由から赤旗が出されてステージはキャンセル、パッドンとアームストロングにはノーショナルタイムが与えられることになった。アームストロングはSS2を終えてオジエに12.3秒差をつけて3位となっていたが、このステージではコーナーをオーバーシュートしたことを加味してノーショナルタイムが算出されて5位に後退した。これによりフールモーが6位、勝田が7位で初日を終えることとなった。
明日の金曜日はドローム県とオート・アルプ県で開催される6SS/128.88kmのラリー最長の一日となる。オープニングステージは現地時間9時04分、日本時間17時04分のスタートが予定されている。