WRC2025/06/30

タナクがギリシャで優勝、トヨタの連勝止める

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2025年世界ラリー選手権(WRC)第7戦アクロポリス・ラリー・ギリシャは最終日を迎え、ヒョンデ・モータースポーツのオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)が最終ステージでギヤボックス・トラブルに見舞われながらも今季初優勝を飾り、開幕戦モンテカルロから続いていたトヨタの連勝記録を「6」で断ち切っている。

 アクロポリス・ラリーの最終日は、新しいSS13スモコヴォ(24.59km)、伝説のステージでもあるSS14タルザン(23.37km)の2ステージのあと、15分の限られた時間のミッドデイサービスがラミアで行われ、朝と同じ2ステージをリピートする。SS15スモコヴォのあと最終ステージとなるSS16タルザンがパワーステージとなる。
 
 最終日も暑い朝となったラミア。朝8時の気温は28度、昼過ぎには35度を超えるとの情報だ。土曜日までを終えて、すでにトップのタナクと2位のセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)のギャップは43.6秒へと広がってはいるものの、ギリシャは最後まで何が起きるかわからない。オジエはオールソフトタイヤでスペア1本という軽量マシンで最後までタナクに揺さぶりをかける。タナクはソフト5本にハード1本を組み合わせている。

 また、最終日にはスーパーサンデーとともにパワーステージにかけられた最大で10ポイントのボーナスポイントがかかっており、前日までにいかにコンディションのいいソフトタイヤを日曜日に向けて温存しているかどうかも最終日のポイント争いの鍵を握ることになる。
 
 オープニングステージのSS13スモコヴォ・ステージで素晴らしい速さをみせたのはラリーリーダーのタナクだ。彼は、オジエに1.8秒差をつけるベストタイムを記録し、ライバルとの差を45.4秒へ広げてみせた。「今日のプランは、いいリズムを保ち、自分とチームのためにできる限り多くのポイントを獲得することだ」とオジエは平然とした表情をみせたが、タイヤ1本軽いマシンだったにもかかわらず、タナクの速さに歯止めをかけることができなかったことに心中は穏やかではなかったはずだ。

 二人のペースの異常ぶりは3番手タイムのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)がトップタイムから17.6秒、エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)も18.3秒も引き離されたことを見てもよくわかる。4度のパンクで総合5位に甘んじているヌーヴィルとしては、選手権のためにもスーパーサンデーを狙っていく計画だ。「もちろんポイントを追加しにいくつもりだ。今日は長くて非常にテクニカルなステージが続く厳しい一日になるだろうけど、リズムが見つかれば大丈夫だ」

 土曜日の午後にブレーキをミスしてリタイアになった勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)もスーパーサンデーのポイントを狙ってアグレッシブな走りをみせていたが、22.8km地点の左コーナーでイン側のバンクにノーズをタッチしてスピン、1分遅れとなってしまい、失望のスタートとなってしまった。「走りながらペースノートを修正している。だいじょうぶ、重要なのは次のステージだ」

 次のタルザン・ステージは2回目の走行がパワーステージとして行われるため、誰にとっても重要なステージとなりそうだ。アクロポリスを象徴する過酷なステージとして知られるタルザンは、中間地点には鋭い石が転がり、巨大な石が石畳のようにびっしりと埋まった危険なセクションが待ち構えており、早くも犠牲者が現れる。

 土曜日にリタイアを喫したカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)は、2番手という不利なスタートポジションからスーパーサンデーを狙いに行くのは困難だと現実的な分析をしていたが、このステージの11.1km地点でタイヤ交換のためにマシンを止めてしまう。「荒れたセクションにいくつか石があったけれど、何もヒットしていない。なぜパンクしたのか正直よくわからない。簡単なパワーステージにはならないだろうけど、出来る限りのことをするつもりだ」。彼にとっては、いよいよパワーステージでボーナスを狙うしかない、あとがない状況となった。

 しかし、このような危険なコンディションにもかかわらず、別次元の走りを続けているのがオジエとタナクだ。先にステージをフィニッシュしたオジエは、後方のタナクが自身より速いタイムで走行しているとレポーターから告げられてもそれを予見していたかのように苦笑する。「いつも言っていることだが、オイットには一つのモードしかない。それは全開モードだ!」と、皮肉とも称賛ともとれるコメントをした。「ステージは石が非常に多かったので、慎重に走ったところもあった。フィニッシュの瞬間まではラリーはまだ終わっていないよ」

 タナクは朝から猛烈なアタックを続けており、ここでもオジエを4.5秒上回る最速タイムを記録、総合では49.9秒をリード、スーパーサンデーでも6.3秒差をつけてトップを快走することになった。彼は、ステージエンドでライバルの言葉を伝えられるや、彼も負けずに応戦した。「彼はまだ(僕の)全開モードを見ていないよ! 僕たちはコントロールしながら走っている。セブというドライバーをよく知っているので、今朝は慎重に走る必要があった。ここは攻めどころのステージだったけど、僕たちにとってラッキーなことに彼は攻めなかったようだ!」

 3位につけるアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)はタナクから30秒以上遅れをとったものの総合3位を維持しており、着実にポディウムをもちかえるためにペースを落としている。「カッレがパンクしたことは知っていたので、そのリスクは冒したくなかった。グリップもかなり低かったので、スピードを緩めて走った」

 4位につける選手権リーダーのエヴァンスは朝のループをオジエと同様にスペア1本の軽量マシンでスタートしており、ここでも3番手タイムを奪い、スーパーサンデーでも暫定3位につけている。「このステージはかなり砂っぽかった。僕たちにとってはすべて順調だ。中盤のヘアピンカーブはかなり荒かったので、慎重に走った」

 オープニングステージで3番手タイムを奪ったヌーヴィルは、ここでもステージ中盤までオジエを上回るペースを刻んでいたが荒れたセクションでダンパーを破損、総合順位には変化はなかったが、スーパーサンデーの争いには大きな痛手となった。「ダンパーが壊れた。大幅にスピードを落とさなきゃいけなかった。最悪だ。だんだん動きが大きくなっていくのを感じて、それでそのうち壊れてしまった」
 
 アクロポリス・ラリーはこのあとラミアに戻り、15分のミッドデイサービスでは最後のループに向けてマシンをリフレッシュする作業が行われた。最後のループに向けたタイヤチョイスは、タナクがハード5本とソフト1本、オジエはハード1本とソフト5本という真反対のきわめて興味深いものとなった。

 スモコヴォ・ステージの2回目の走行となるSS16では、またも波乱のドラマが発生した。総合5位につけるヌーヴィルはエンジンのパワーが出ない問題に見舞われてしまい、5.3km地点でマシンを止めて、システムをリセットした後にリスタートしている。彼はここで1分以上も遅れてしまったものの後続は大きく遅れているため5位はキープした。しかし、スーパーサンデーのポイント獲得は絶望的だ。「エンジンにトラブルがある。パワーがどんどん失われている。終盤は少し回復したが、次のステージまでに修正できればと思う」とヌーヴィルは嘆いた。

 勝田はこのステージには4分早着、4分のペナルティを科されたが、これはチームメイトのロヴァンペラがパワーステージでよりクリーンなコンディションで走れるための戦略だろう。むろん勝田のラリーもまだ終わったわけでない。彼はここで2分30秒あまりもペースダウン、パワーステージでのポイント獲得のためにしっかりとタイヤを温存している。「ゆっくり走るのはちょっと残念だけど、パワーステージでポイントを取るのが目的だ。ルースで、尖った石がたくさんあって、パンクやダメージのリスクは避けたかった。パワーステージの出走順は良くないけど、挑戦はする」

 このステージではオジエがベストタイム、タナクは1.1秒遅れの2番手タイムも引き続き48.8秒をリード、スーパーサンデーでも5.2秒差をつけて暫定トップを維持している。
 
 それでもオジエはリヤのトランクにはほぼ新品のソフトタイヤを2本積んでいると明かし、パワーステージには完璧なパッケージを準備できたと自信をみせる。「最後まで同じことを続けるよ。落ち着いていく」

 タナクもリヤトランクに新品タイヤがあると語ったがそれはオジエとは異なりハードタイヤだ。この違いがパワーステージのタイムにどう影響するだろうか?

 厳しいサバイバルの週末となったアクロポリス・ラリーも、ついに23.37kmという長い距離をもつ最終ステージのタルザンを迎える。パワーステージの距離が20kmを超えるのは、2021年のアークティック・ラップランド・ラリー以来となる。
 
 なんと、このステージでもドラマが発生、タナクがギヤボックスの問題からペースが上がらず、ひやりとさせることになったが、最終的にオジエに32.8秒の差をつけて今季初優勝を飾っている。「タフな週末だった。正直本当に長い週末だった。今回はなんとか最善を尽くし、なんとかトラブルを回避することができた。それと同時に、しっかりといいパフォーマンスができたことは嬉しい。ラリーでは、今後がどうなるかなんて予測できない、だから今日あったことはそのまましっかり受け止めて、またこれからのイベント次第でどう展開していくかだ。けど、とりあえずは、今日のこの勝利をしっかりと祝いたい」

 オジエはラリーではタナクに敗れたものの、スーパーサンデーでタナクを逆転、10.8秒差をつけて勝利するとともにパワーステージも制して最終日に獲得できる最大の10ポイントを獲得している。それでも彼は、この週末はタナクのものだったと絶賛した。「僕たちは本当に素晴らしい週末を過ごせたと思う。オイットに対してはもうほとんどお手上げだったよ、彼は本当に絶好調だったからね。それでも自分たちのレースには誇りを持てると思う、これ以上にできることはなかった」

 フールモーが、モンテカルロ以来、5か月ぶりの3位を獲得、コドライバーのアレクサンドル・コリアと手をにぎりあい、暗いトンネルから抜け出せたかのように笑顔で喜んだ。エヴァンスは最終日はトラブルを避ける走りで無事に4位でフィニッシュしている。「厳しい週末だった。自分たちが望んでいたようなペースが得られなかった。何かを得るために最後まで走りきることが必要だった」
 
 パワーステージに向けてエンジントラブルをどうにか解決したヌーヴィルは擦り切れたタイヤで意地の3番手タイムを叩き出して5位でフィニッシュしている。「残念な週末だった。正直これ以上他に言えることはない。今回は4回のパンク、ダンパーの故障、その他の問題が次々と起こったよ」とヌーヴィルはくやしさをにじませていた。

 ロヴァンペラは総合27位にとどまったが、勝田に走行ポジションを譲ってもらったことにも助けられてパワーステージで2番手タイム、からくもノーポイントを避けることになった。一方、勝田は11.6km地点でパンクした左フロントタイヤを交換するためにストップ、ポイント獲得はならないままギリシャを去ることになった。

 シーズン前半戦最後となる第7戦アクロポリス・ラリー・ギリシャを終えて、ドライバーズ選手権ではエヴァンスが150ポイントでリードをキープ、オジエも9ポイント差で2位をキープしてみせた。タナクは最終ステージのトラブルによってスーパーサンデーでは2位にとどまり、パワーステージでも5番手タイムにとどまったが、素晴らしい勝利によってトップから12ポイント差の3位へとポジションを上げることに成功している。ロヴァンペラは前戦でリーダーまで20ポイント差に近づいたものの、ふたたびその差は33ポイントに広がってしまい、ヌーヴィルの遅れはさらに広がってしまい54ポイント差となってしまった。

 マニュファクチャラー選手権では、開幕から7連勝はならなかったもののトヨタが首位をキープ、ヒョンデに対するリードは69ポイントから65ポイントとここではすこしだけ縮まってしまっている。それでも強力なリードでシーズンを折り返すことになった。
 
 次戦は7月17〜20日に行われる第8戦のラリー・エストニアとなる。