WRC2025/06/29

タナクがギリシャを独走、オジエが43秒差の2位

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 2025年世界ラリー選手権(WRC)第7戦アクロポリス・ラリー・ギリシャは土曜日を終えてヒョンデ・モータースポーツのオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がリードを拡大、2位につけるセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)に43.6秒差をつけており、今季初勝利を賭けて明日の最終日に向かう。

 28日土曜日は、ラミア南部へ向かい、SS8パヴリアーニ(24.25km)、SS9カロウテス(19.22km)、SS10イノホリ(17.47km)の3ステージが行われたあとラミアでミッドデイサービスが行われる。午後も同じ3ステージをループ、SS11パヴリアーニ、SS12カロウテス、SS13イノホリを走る。6SS/121.88kmという一日となる。
 
 サービスパークのあるラミアは朝8時ですでに気温は31度、日中では40度を超えると天気予報は伝えており、金曜日と同じく厳しい一日となりそうだ。オイル漏れで金曜日をリタイアとなったサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)は一番手でリスタートするものと見られていたが、朝のパルクフェルメからマシンを出したもののステージには向かわず、マシンをセーブして最終日にスタートする計画だと発表されている。

 ヒョンデが1−2態勢で金曜日を終えたが、ゴールした後もそのポジションがどうなるのか気になっていた人も多いだろう。パンクで遅れたマシンが巻き上げた砂埃の中でタイムロスしたと主張するアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)のタイムが救済されれば、順位の変更が行われる可能性もあった。金曜日に2つのステージでベストタイムを奪ったフールモーは、「今日は僕たちが勝者に値し、トップに立つべきだと思う」と臆することなく認め、「神様は見てくれているはず」と、タイムが救済されることを信じているようだった。だが、けっきょくリーダーボードへの変更は行われず、タナクが3秒差をつけてラリーリード、フールモーは3秒差の2位のままとなり、タナクのために路面をクリーニングするポジションで土曜日をスタートする。

 SS8パヴリアーニで素晴らしいペースを見せたのはタナクだ。彼はスタートから全開でじわじわとその差を広げ、最終的にオジエに6.4秒もの大差をつけるベストタイムを奪って発進することになった。2位のフールモーとの差を13秒へと拡大、3位につけるオジエとの差も16.9秒から23.3秒へと広げている。「こういうステージでは自分たちのリズムを掴むのが難しい。クリーンに走れるようベストを尽くした」

 フールモーはタナクとの差がかなり広がったことを意に返さず、慎重なスタートだったが満足できるタイムだとふりかえっている。「ステージは序盤が本当に荒れていてかなり慎重に走った。スローダウンしたところも多い。戦略としては昨日と同じだけど、グリップが本当に低くて砂が多くて本当に滑りやすかった。それでも思っていたよりタイムロスが少なくて、かなり満足している」

 オジエはタナクのスピードには及ばなかったものの、フールモーを3.6秒上回り、10.3秒差に近づいている。「昨日よりずっとグリップが良かったし、ステージを楽しめたよ。彼らの方がもっとソフトタイヤを多く持っていて、速いだろうけど、まだまだ先は長い」

 この日、チームのタイヤ戦略は大きく分かれている。ヒョンデはソフトを主体としており、タナクとフールモーはソフトを3本も搭載しているが、オジエはソフトはわずか2本のみであり、トヨタ勢はスーパーサンデーのためにソフトを温存する戦略なのだろうか。

 なかでもチームメイトのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)はハード6本で1本もソフトをもたない戦略でスタートしだが、4番手タイムは悪くない。後方の5位につけるグレゴワール・ミュンスター(フォード・プーマRally1)も50秒近く引き離れており、ソフトを温存するためには絶好の条件といえるだろう。

 それでも6位の勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)以降はホットな一日となりそうだ。勝田の3.8秒後方の7位にはカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)、さらに0.2秒後方の8位にはティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が続いている。勝田はオープニングステージでロヴァンペラを2.4秒引き離す5番手タイムで発進して、ライバルたちを引き離す強い意志をみせた。「かなり厳しいステージで、大きな石を避けながら、同時にペースも保たなければならなかった。トリッキーなステージだし、まだ一日は長い」

 ヌーヴィルは金曜日に2度のパンクで8位にとどまっていたが、またもやパンクに見舞われてしまった。ステージ中盤で右リヤタイヤのエア漏れの警告の表示されるも、彼は残り12kmをタイヤをリム落ちさせないよううまくマシンをコントロールしてフィニッシュ、0.2秒差だった7位のロヴァンペラとの差も幸いなことに4.3秒へ広がっただけで済んでいる。「シーズン中のパンク回数の自己記録を更新した。まだ7戦しか走っていないのに。こんなことは初めてだよ」とヌーヴィルはうんざりした様子だ。「12kmをスローパンクチャーの状態で走った。うまく対処しようとしたけど、フィニッシュまであと5kmというところで、本当にスピードを落とさざるを得なかった。左コーナーでは慎重に、右コーナーではプッシュするようにしていたよ」

 SS9カロウテスはふたたび素晴らしいペースをみせたタナクが連続してベストタイム、2位につけるフールモーとの差を19.7秒へと広げている。3位のオジエは33.3秒遅れとなった。「今日はセットアップがよりまともになったので、少しは楽しめるようになった。流れも確実に良くなっている。でもギリシャだからね、常に目を見開いていないといけない、サプライズの連続だからね」とタナクは気を引き締めるように語っている。

 フールモーはタナクの速さを称賛、サスペンションが柔らかすぎるため自身のペースは上がらないと告白する。「バンピーな路面に対して、クルマが少し柔らかすぎるんだ。ここは遅くてテクニカルな部分があったかと思えば、いきなり全開で攻めるようなハイスピードセクションもある。トラブルを避けることが大事だ。(勝利は諦めてない?)・・・もちろんだ。午後はトリッキーなるかもしれない」

 ヌーヴィルがペースの上がらないロヴァンペラを抜いて7位へ浮上、さらに6位につける勝田を攻略しようとしているが、勝田もポジションを守るために猛プッシュ、14.3秒差に広げるとともに、5位につけるミュンスターとの差を早くも18.1秒へと縮めてきた。

 一方、8位に後退したロヴァンペラはまったくグリップがないと首をかしげる。「超スリッピーだった、前を走るクルマも少ないからラインもない。もちろん、ティエリーにとっても同じだが、僕はスピードを保てなかった。少しでもプッシュしようとするとすぐにラインを外れてしまって、グリップがまったくない。かなりトリッキーだよ」

 12位で土曜日を迎えたジョシュ・マクアリーン(フォード・プーマRally1)はオープニングステージで右リヤサスペンション周りを破損、ロードセクションで修理を行い、TCに10分遅れ、1分40秒のペナルティを科されたため17位へ後退している。しかし、リヤのドライブシャフトは壊れてしまったため、フロント駆動のみで長いループを耐えてサービスへ戻らなければならない。

 SS10イノホリではそれまでトップ争いを演じていたフールモーに深刻なトラブルが襲いかかる。森林区間の狭いコーナーが連続するセクションで右リヤを土手にヒット、不運なことにそこには大きな岩が露出しており、サスペンションを壊してしまう。彼はタイヤがぐらぐらする状態でどうにかフィニッシュするも1分10秒あまりを失って3位へと後退してしまった。「木陰で見えにくいラインの外側に、メモには書いていなかった岩があり、タイヤがそれにぶつかってしまった」
 
 フールモーは45kmあまり離れたサービスに向かうためにロードセクションで完全に断裂したアームをスパナでつなぐ応急処置をしてどうにか走りだしている。

 ここではオジエがタナクを0.1秒上回るベストタイム、トップのタナクから33.2秒遅れの2位で朝のループを終えることになった。「ここはおそらくこのラリーでいちばん路面がスムーズなステージだ。最後はとても滑りやすかった。残念ながら、僕らのタイヤパッケージではオイットのペースに対抗できなかったが、僕たちにとってはまずまずのループだった」

 タナクはここではオジエにトップタイムを譲ったが、それでも圧倒的なリードは揺るがなかった。それでも彼は午後のループはかなり荒れそうだと警告した。「ここも厳しいステージだった。序盤はたくさんのルースロックがあって、後半は非常にツイスティでグリップがかなり低かった。全体的には問題はなかったが、午後のループはかなり路面も荒れるだろう。集中してトラブルを避けなければならない」

 エヴァンスは、ハードタイヤのみながら安定したパフォーマンスを続けて4位のポジションを維持している。その後ろでは、ハンドブレーキのトラブルに見舞われたミュンスターをかわして勝田が5位に浮上している。「午朝のループを無事に走り切れて良かったよ。この後はもっと荒れてくるだろう。引き続きこの調子で行くよ。2回目の走行ではパンクのリスクも高くなるだろうね」

 ミュンスターは勝田の8.5秒後方、さらに0.4秒後方にはヌーヴィルが迫っており、厳しい朝となったロヴァンペラはここでもやや遅れてしまい、ヌーヴィルとの差は17.8秒へと広がっている。

 ラミアでミッドデイサービスが行われ、ドライバーたちはマシンがリフレッシュされる作業を待ち受ける。気持ちも新たに午後のループへと向かうはずだが、ロヴァンペラは絶望の表情で沈んでいる。「ずっと厳しい戦いだった。できることはあまりなかった。(タイヤですか?)どのステージでも同じだ。とくに今日はかなり遅く、本来のペースには達していないし、これ以上速く走れるような感覚がない・・・」

 午後は朝と同じ3つのステージのリピートとなる。SS11パヴリアーニも路面も荒れ、信じられないほど滑りやすいコンディションとなっていた。いきなり不運に見舞われたのはロヴァンペラだ。彼は13.3km地点の下りの左コーナーで突然リヤをスライドする奇妙な挙動をみせたあと路肩にタイヤを落としてしまう。マシンはフロアがひっかかってしまいスタック、それでも観客の力を借りて、4分近くかかってやっとコースに復帰したがペースが上がらず18.1km地点でコース脇にマシンを止めることになった。

「ブレーキのどこかが壊れてしまい、そのせいで少しコースアウトしてしまった」と、コドライバーのヨンネ・ハルトゥネンはトヨタのスポーティングディレクター、カイ・リンドストロームに無線で報告していた。「マシンは引っ張る力も、正常なパワーもなく、トランスミッションに何らかの問題があるようだ。ドライブシャフトか何かのようだ」

 さらにトヨタ勢に不運が相次ぐ。5位につけていた勝田は素晴らしいペースを刻んでいたが、彼もフィニッシュを目前にした23.5km地点のスリッパリーな下りのタイトターンでオーバーシュート、コース脇のバンクに乗り上げてスタックしてしまう。観客たちがコースに戻そうとしたものの右半分が宙に浮いた状態のマシンはぴくりとも動かない。やっとマシンをコースに戻したときにはすでに30分以上が経過しており、彼はステージをなんとかゴールしたものの、次のステージに向かわず無念のリタイアとなってしまった。

 こうしたドラマはあったもののタナクは、この日3つ目となるベストタイムを奪って首位をキープし、オジエに35.7秒の差をつけることになった。「とにかく非常に過酷で困難なステージで、サプライズもたくさんあった。でも、クリーンに走ったので僕らには問題はなかった」とタナクは冷静な表情だ。オジエは「チームメイト2人がどちらも道端にいるのを見るのは本当に残念だ。かなり荒れているところもあったから、僕はただゆっくり走った」とコメントした。

 3位につけるフールモーは左フロントタイヤのリムが外してフィニッシュ、オジエからは1分13秒遅れとなった。「本当にクレイジーだ。多くのタイムを得られそうに見える反面、それでもどこから来たのかわからない大きな衝撃を受けた。このステージを終えることができてほっとしている」

 クリーンな走りを続けるエヴァンスが4位をキープ、トラブルで消えた勝田とミュンスターを抜き去ったヌーヴィルがしぶとく5位に浮上してきた。

 SS12カロウテス・ステージは、ミッドデイサービスの頃には雷が轟き、雨が落ちてきたとの情報がもたらされたが、ステージ上空に鈍い色の雲が覆っているものの、雨は降っておらず、序盤の森のなかに一部に湿り気が残ったセクションがあっただけであとはフルドライだ。

 オジエとエヴァンスはここでは4本ともハードタイヤだが、雨の可能性を疑ったヒョンデ勢はソフトを多めにチョイス、ヌーヴィルはソフト4本とハード2本、タナクとフールモーはソフト3本とハード3本という戦略でループをスタートしている。

 ここでのタイムを見るかぎり、ヒョンデ勢のタイヤチョイスは完全に裏目に出たとは言い難く、タナクはここではチームメイトのヌーヴィルに7秒もの大差をつけるベストタイムを奪ったが、明日のスーパーサンデーとパワーステージに向けてコンディションのいいソフトタイヤを温存する戦略という点ではやや失策だったといえるかもしれない。

「ハンネス(気象予報士)が雨の話をし始めると、たいてい何も起こらない。だからチームの他のクルーとは違ってハードタイヤを3本選んだんだけど、それは良い判断だった」とタナクはステージエンドで苦笑している。それでも、ここでタナクとオジエとの差は42.9秒へとさらに広がっている。
 
 タナクはこの日最後のSS13イノホリでもベストタイム、難しい一日をノーミスの走りでしめくくり、オジエに43.6秒差をつけて明日の最終日に臨む。

 タナクは前戦のポルトガルとサルディニアではいずれもオジエに敗れて2位に終わっており、この日行われた6ステージ中5つのベストタイムをみても彼の勝利への強い決意を読み取れる。「もちろん、素晴らしい結果だった。他に言うことはない」とタナクはコメントした。「朝から非常に過酷なステージだったが、路面コンディションも僕らにはよかったし、マシンも昨日より良くなった」

 オジエはこの日の午後は、タナクを追い詰めるために全力を尽くしたわけでなかったと認め、温存したソフトタイヤで最終日のスーパーサンデーで巻き返すプランをもっているようだ。「朝のループで30秒もの差がついたので無理してプッシュすることは愚かなことだった。彼らは僕らよりソフトタイヤを多くもっていたが、僕らには異なる戦略があり、ラフになった午後のループはペースをコントロールした。最終日にはスーパーサンデーもある。誰もリラックスはしないだろう。ギリシャは最後まで何が起きるかわからないし、ベストを尽くすという僕らのアプローチも変わりない」

 フールモーは開幕戦モンテカルロ以来の表彰台に向けて、オジエから1分24秒遅れの3位で土曜日を終えることになった。「あのトラブルのあとまだ3位以内にいることは良かった。午後にソフトタイヤを選んだのは、雨が降ると予想していたからだ。このステージではもうタイヤが残っていなくて、本当にスリッパリーだった」

 エヴァンスはフールモーから56.4秒遅れの4位で続いており、ロヴァンペラがリタイアとなっただけに彼の選手権にとってはプラスの結果をもたらすことになりそうだ。「まあまあだ。特別なことはない。順調だったが、大きな争いをしているわけでもない。明日どこまでやれるか見てみよう」と彼は明るい笑みをみせている。この日、ただの1本もソフトタイヤを使わなかったことも、明日のスーパーサンデーでは彼に有利に働くことになるかもしれない。

 ヌーヴィルはライバルが消えたことで5位までポジションを上げてきたが、選手権で大きな挽回を狙っていた彼にとってけっして満足できる展開にはなっていない。「5位で喜べるかどうかは正直わからない。今週末はすべてが揃っていたけれど、パンクが4回もあったら、いい結果を出すのは無理だ」

 明日の最終日は4SS/99.06kmという短い一日となるが、伝説のステージでもあるタルザン・ステージの2回の走行を含むため、けっして油断はできない一日となりそうだ。