WRC2019/06/17

タナクまさかのドラマ、ソルドが逆転6年ぶり勝利

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 2019年世界ラリー選手権(WRC)第8戦、ラリー・イタリア・サルディニアは、最後の最後にドラマが待ち受けていた。大荒れのラリーを冷静にコントロールし、首位を堅持していたオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)に異変。最終SSでパワーステアリングを失って大きくタイムロス。ヒュンダイ・モータースポーツのダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)が2013年のドイツ以来自身WRC2勝目となる今季初勝利をあげることになった。

 ラリー最終日となる日曜日は朝7時にアルゲーロのサービスを出発し、14.06kmのカーラ・フルミーニ、8.89kmのサッサリ〜アルジェンティエラの2つのステージをノーサービス、タイヤ交換なしで2回走る設定だ。残されたSSの距離は41.90kmと短いものの、路面はルーズかつトリッキー。各ドライバーにはタイヤを上手にマネージメントすることが求められる。

 出走順は前日までの成績のリバース。3分間隔で1.セバスチャン・オジエ(シトロエンC3WRC)、2.ヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)、3.ユホ・ハンニネン(トヨタ・ヤリスWRC)、4.クリス・ミーク(トヨタ・ヤリスWRC)、5.エサペッカ・ラッピ(シトロエンC3WRC)、6.ティエリー・ヌーヴィルヒュンダイi20クーペWRC)、7.アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイi20クーペWRC)、8.エルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)、9.テームスニネン(フォード・フィエスタWRC)、10.ダニ・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)、11.オイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)の順で走る。全ドライバーがミディアムタイヤ5本を選択してスタートしていった。

 1回目のカーラ・フルミーニではミケルセンがベストタイムを刻んだ。首位を走るタナクはタイヤを労わりつつ、タイムをコントロールし3番時計を記録する。「このステージはあまり好きではない。それで少し慎重に走った」というソルドとの差は31.2秒に広がった。

 先頭ランナーのオジエは、ミケルセンから遅れること1分36秒余のタイム。「パワーステージでロードオープナーとなるのは厳しい。少なくともタイヤを温存しておきたい」と、この後のロードセクションでもマシンを止め、あえてTCに1分40秒遅れて入り、10分のペナルティを受け、出走順をミークの後ろに下げた。

 続くSS17、サッサリ〜アルジェンティエラは、全体的にダスティで、終盤は海沿いの砂地を走るコースだ。

 このステージがスタートする目前で、サルディニア競技委員は前日のSS15でミークのダストで視界を失ったエヴァンスのタイムを7秒救済することを発表。SS16を終えた時点で4位エヴァンスと5位ミケルセンの差は7.7秒だったが、14.7秒へと拡大することになった。

 しかし、拡大したタイム差にもかかわらず、ミケルセンが連続ベストを奪い、スニネンが続く。タナクはタイムをコントロールしてソルドとの差を28.7秒に保っているが、2位以下は少しづつタイム差が縮まってきた。2位のソルドとスニネンの差は13.9秒。28.9秒差の4位にいるエヴァンスの背後には9.2秒差で連続ベストのミケルセンが迫ってきた。

 2回目のSS18カーラ・フルミーニ。ミケルセンは3連続ベストタイムを刻んで、4位のエヴァンスに5.9秒差まで迫った。だが、エヴァンスもセカンドベストできっちりとタイムをコントロールしている。「ミケルセンがハードに攻めているけれど、僕らも十分な走りができた。だから何のドラマもないさ」と自信を覗かせる。

 最終のパワーステージを前にタナクは首位を堅持。「まず優先すべきは最後まで走りきることだ」と余裕を見せる。26.7秒遅れの2位にソルド。3位のスニネンはSS18でオーバーシュートしてタイムを失い、22.3秒遅れとその差が広がった。スニネンに20.4秒遅れの4位はエヴァンス。5位のミケルセンが5.9秒差で続く。さらに6位にヌーヴィル、7位ラッピ、8位ミークというオーダー。1年半ぶりのWRC復帰戦を辛抱強く走っていたハンニネンが最終ステージを前にリタイアしている。

 注目の最終ステージ。4台のWRC2勢の後に走ったオジエは4分56.1秒の好タイムで走り切る。ここでポイントを獲得するしかチャンスはないだけに、王者はまさしく全身全霊の走りでゴールに駆け込んだ。続くラトバラ、ミーク、ラッピ、ヌーヴィルはこのタイムを破ることができなかった。最初にタイムを更新したのは1回目のサッサリ〜アルジェンティエラでベストタイムを奪ったミケルセンだ。彼は渾身の走りで5.9秒差あったエヴァンスを0.9秒差でかわすことに成功。最後の最後でドラマを起こすことになった。

 だがドラマはこれだけに止まらなかった。スニネン、ソルドがステージをフィニッシュする。しかし勝利に向かって走っていたはずのタナクが来ない。彼はヘアピンでワイドになりスタック。何とかコースに戻ることはできたがステアリングのパワーアシストを失っており大きくペースダウン。1分半あまり遅れてステージをゴール。5位にポジションを落としてしまった。

 2013年のドイツ以来となるWRC2勝目をあげることになったソルドは、「信じられない。表現する言葉が見つからないよ。タナクのミスのおかげだとしても、勝利できたことは最高だ。オイットのことは気の毒に思うよ」とコメント。2位はベテラン・コドライバーのヤルモ・レウティネンを迎えての初ラリーとなったスニネン。「良いラリーだった。僕たちのコンビネーションはとてもうまくいった」と笑顔を見せる。3位ミケルセン、4位エヴァンス、5位タナク、6位ヌーヴィル、7位ラッピ、8位にミークという結果となった。

 ドライバー選手権で、タナクは150ポイントとなりオジエを上回って選手権リーダーとなったが、あまりの結末にフィニッシュ後もコメントできる状況になかった。

 マニュファクチュアラー選手権でもWポディウムを獲得したヒュンダイは、トヨタとのポイント差を44ポイントへと開けることとなった。この後、WRCは1ケ月半の長いインターバルを経て、ラリーの聖地フィンランドで再開される。果たしてトヨタGAZOOレーシングのホームイベントで巻き返しは成るだろうか。