WRC2021/06/13

トヨタ、未来を見据えてファクトリーを統合

(c)Toyota

 トヨタGAZOOレーシングWRTのプロジェクトディレクターを務める春名雄一郎は、ラリーメディアのDirtFishの取材に対して、エストニアのファクトリーを閉鎖してその機能をフィンランドに戻すことは難しい決断だったが、2022年以降もチームの競争力を最大限に高めるための重要な決定だったと語っている。

 そもそもトヨタがユヴァスキュラ以外にエストニアのタリンに第二の拠点を設けた目的は、南ヨーロッパでのラリーを終えたヤリスWRCのリビルト作業にかかる時間を短縮することだった。例えば、今年のようにポルトガルとサルディニアの間でベースに戻る必要があった場合、地理的に考えるとユヴァスキュラよりエストニアにマシンを送った方が早く、作業が効率的だからだ。さらに経済的にも、チームの半数をエストニアに置く方が、税金が安いため経営面では合理的だったのだろう。

 もちろんチームのヘッドクオーターがフィンランドを離れることは論外だった。フィンランドの森のなかにハイスピードのパーマネント・テストサイトをもつことは、どのチームにも真似ができないトヨタの大きなメリットになっていたからだ。

 ユヴァスキュラに新設されたトヨタGAZOOレーシング・ヨーロッパGmbHのフィンランド・ブランチの現地責任者であるとともにチームのプロジェクトディレクターを務める春名は、2022年からスタートする新しいRally1カーによる新時代を前に、トヨタはユヴァスキュラの一つ屋根の下でより効率的なファクトリーに生まれ変わる必要があったと述べている。

「これは本当に難しい決断だ。2022年のハイブリッドRally1カーには、ただえさえ多額の投資が必要となる。それはマシンそのものだけでなく、マシンを開発・製造するための環境や施設にも言えることであり、それらを2つの拠点で揃えることは効率的ではない」と春名は語っている。

「予算を最も効率的に使うには、両方の施設をフィンランドの一つ屋根の下に置くことだった。これは簡単な決断ではないが、我々はそうしなければならなかった」

 エストニアに第二の拠点を設けることは、フィンランドにベースをもつトヨタにとってロジスティック面では助けになっていたが、Rally1カーの開発を率いるテクニカルディレクターのトム・ファウラーは、すぐそばに指示を出せるスタッフがいることの方が将来に向けてずっとメリットが大きいと述べている。

「現在、ユヴァスキュラで作業している施設は、プーポラにあった施設の5倍の広さがある」とファウラーは語った。「そして、それはエストニアの施設よりも大きい。これまでフィンランドではこのような規模の拡大は不可能だったが、ひとつ屋根の下にすべてを集約することは、これまで以上に意味のあることだと思う」

「ラリーの合間にクルマをリビルトするという意味では、エストニアはうまくいっていたが、これからはRally1の設計段階から製造工程に移行する必要がある。それを2つの場所で行うことは、部品、工具、機材についても2つのロケーション分、ストックしなければならないのでとても大変だ。メリットとデメリットを考えてみると、例えばロジスティクスよりもチームのコミュニケーションを重視した方がメリットが大きいこともはっきりしている」

 また、春名は、エストニアのスタッフにバルト海を渡ってユヴァスキュラで働く機会を提供することを強調した。

「我々は2017年に復帰して以来、過去4年間で(ドライバーズ選手権とマニュファクチャラーズ選手権合わせて)3つのタイトルを獲得した。そのことをとても誇りに思っている。そして、エストニアの同僚にフィンランドで働いてもらい、WRCでの好調な記録を維持し、さらに発展させていくのを手助けしてほしいと考えている」