WRC2023/05/16

ドーナツのタイムペナルティは是か非か

(c)Rally de Portugal

 オリヴァー・ソルベルグは、ラリー・デ・ポルトガルの土曜日、ロウサダ・スーパーSSのステージを埋め尽くした数千人のファンの声援に応えるためにドーナツターンを披露したため1分間のタイムペナルティを課されることになった。たしかにエキビション走行の禁止はルールで決められているが、はたしてWRC2の優勝を剥奪しなければならないほどの「危険な行為」だったのだろうか? 

 ドーナツターンにタイムペナルティが課せられるようになったのは、昨年のラリー・デ・エスパーニャで優勝を飾ったセバスチャン・オジエが表彰台の前の広場でドーナツターンを行ったことがきっかけとなった。FIA WRCスポーティングレギュレーションは、ドーナツターンについて、各イベントの補足規定で「エキシビション走行」ゾーンとして認められているエリア以外では行ってはならないと規定されている。オジエが観客のすぐそばで行ったドーナツターンについてスチュワードはこれを「危険な行為」と判断して罰金1500ユーロと戒告処分を科している。

 しかし、その後、FIAをはじめとした関係者によって観客に与える危険性の高さから罰金は適切なペナルティではないことについての合意が行われ、昨年12月のワールドモータースポーツカウンシルにおいて投票によりルール変更が行われ、「エキシビション走行には最低5分間のペナルティ」が課されることになっている。

 ラリー・デ・ポルトガルのスチュワードは、幸いにも寛大な措置をしたため、ソルベルグはわずか1分(!)のペナルティだけで済んだが、最終的に優勝したガス・グリーンスミスに1.2秒及ばず、WRC2優勝を逃すことになった。

 スチュワードは、ソルベルグに5分間のフルタイムのペナルティを適用しなかったのは、ドーナツが行なわれた場所がフライングフィニッシュとストップコントロールの間の競技区間であり、コースはコンクリートのバリアで遮られており、観客がいるスタンドとは非常に離れていたためだったと説明している。しかし、それならば、このドーナツターンは「危険な行為」には当たらないのではないだろうか?

 Mスポーツ・フォードのオイット・タナクは、1分間のペナルティは明らかな矛盾だと指摘する。

「明らかに多くのことが矛盾している」とタナクは語っている。

「まず、FIAが安全でないと言っている場所でドーナツをしたのが、その10秒前には同じ道で全開で走っていたものが、突然、安全でなくなったんだ」

「でも、レギュレーションにはドーナツターンをしたら最低5分のペナルティと書かれている。それが今回は1分のペナルティとなってしまった。誰も守らないレギュレーションをなぜ作るのか?」

 誰もいないスペシャルステージのなかのドーナツターンさえもタイムペナルティが課せられることになるのだろうか?

 エサペッカ・ラッピは、このレギュレーションが導入された理由を理解しているが、ドーナツがファンから離れた安全な環境で行われたことを考えると、ペナルティは、ファンを喜ばせるためにこのスポーツを向上させようとしている努力と相反するものだと感じている。

「5,000人、6,000人の観客が見ていて、これが彼らのためのショーであることははっきりしている」とラッピは言った。

「安全上の問題はないし、コンクリートの壁があるし、観客は後ろにいる。フィニッシュランプの手前でドーナツをすると、隣にたくさんの人がいて何か変なことが起こるのはわかるけど、あのような安全な場所でのペナルティはちょっとおかしいよ」

 最終ステージを終えて、わずか1.2秒差で勝利に届かなかったソルベルグは、フェンダーを叩いてクルマの上で泣き崩れたが、それでもペナルティを非難することを望まず、最終日の自身の走りを「誇りに思う」と述べるにとどまった。

「朝起きてこのペナルティを知らされ、モチベーションをもって最終日に向かうことはそれほど簡単なことではなかった」とソルベルグは語った。

「僕は4本しか新しいタイヤを持っていなかったし、他のドライバーは6本持っていた。パワーステージでも限界までプッシュしたが、本当に少しだけ届かなかった。それでも、今こうしていられることを、本当に誇りに思っているんだ」

 ソルベルグはペナルティを受け入れたが、将来的にレギュレーションが変更され、安全な環境であればドライバーがファンにもっとエンターテインメントを提供できるようになることを望んでいる。

「ルールを見れば間違いだったが、このスポーツがどうあるべきか、どうあるべきかを考えれば間違いではないと思う」

「このスポーツは、ファンにとってもっともっと大きな存在になれるし、それが僕の信念だ。僕はただ、人生で楽しいと思うことをし、他の人たちに喜びを与えようとしている。そのインスピレーションはケン(ブロック)から得たものだし、自分のしたことに後悔はしていない。けれど、明らかにルールでは間違いだった」

 ソルベルグは、将来的にルールが変わる可能性はあるのかと聞かれ、「そう願っている。ドーナツをやって、ロウサダに来た人たちを楽しませることができたら最高だよ」と付け加えている。