WRC2021/06/27

ヌーヴィルがサファリ首位堅持、勝田も2位キープ

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第6戦サファリ・ラリー・ケニアは土曜日にレグ2を迎え、ヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)がトップをキープ、首位から57.4秒差とややタイムは引き離されたものの勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)が2位を守りきっている。

 土曜日は、サービスのあるナイバシャ湖の北部に位置するエレメンテイタ湖の西部に広がるステージが舞台となる。エレメンテイタ(14.67km)、ソイサンブ(20.33km)、スリーピング・ウォリアー(31.04km)の3ステージをサービスを挟んで2回ループする6SS/132.08kmの1日となる。

 オープニングステージのSS8エレメンテイタは、前日のようなフェッシュ・フェッシュと木立に囲まれたテクニカルなステージでなく、広大なサバンナや火山性の溶岩の上を走るセクションもあり、クルマやタイヤにとっては厳しいステージとなっている。そのためドライバーたちはソフトコンパウンドのタイヤを主体としながらもハードを2-3本ずつチョイスして臨んでいる。

 ここでベストタイムを奪ったのは、ラリーリーダーのヌーヴィルだ。彼は目の前をゼブラが横切るトラブルに遭遇しながらも、2位につける勝田に7.5秒差をつけて、リードを26.3秒に拡大した。初日のダンパートラブルで4位に甘んじてるセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)も0.9秒差の2番手タイム、3位のオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)との差は51.3秒とまだまだ大きいものだが、追い上げ開始だ。

 オジエは続くSS9ソイサンブ、SS10スリーピング・ウォリアーで連続ベストタイムを奪って、タナクの37.6秒後方まで迫ってきた。SS10の最終セクションは連続するコーナーに信じられないほどの岩と危険がブッシュや土手に隠れて待ち受けており、オジエはペースノートにも不安を感じていたと明かしたが、「石が見えづらいところが少し気がかりだったが、快適に走ることができた。ペースもよくなったよ」とさらなる追撃への手応えを感じているようだった。

 朝の3つのステージを終えて、ヌーヴィルが首位をキープ。ここでは4番手タイムにとどまったが、2位の勝田との差を28.1秒に拡大している。「これまでのステージではゼブラを相手にしていたが、ここではキリンがいたのでスピードを緩める必要があった。最後のほうはちょっと慎重に走りすぎたかもしれないけど、すべて順調だよ」。

 勝田もまたSS9ではゼブラの群れに遭遇してアクセルを緩めることになったがSS10では3番手タイムを叩き出し、28.1秒後方にはタナクが迫ってきたため、ヒュンダイ勢にはさまれながらも2位にしがみついている。勝田は、「ステージは非常に難しく、要求も多い。後方の追い上げがあるのはわかっているが、自分の仕事を続けていくだけだ」と、トヨタ勢の最上位としてプレッシャーがかかる状況のなか、快適なペースを取りもどそうとしているようだった。

 4位のオジエからは1分近くやや引き離されたものの、Mスポーツ・フォードの二人が激しく5位を争っている。アドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)はSS9では2番手タイムを奪い、チームメイトのガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)に23.3秒差まで迫ってきたが、SS9ではルーフベンチレーターを失ってしまい、コクピットに侵入するダストに苦しめられてペースダウン、その差は39.4秒へと広がってしまった。

 気温が20度まで上昇してきた午後のループでも表彰台を巡るオジエとタナクのバトルは続く。オジエはエレメンテイタの2回目の走行となるSS11でもベストタイムを奪い、35.5秒の背後に迫ってきた。

 さらにSS12では今度はタナクがベストタイム、1秒差の2番手タイムで続いたオジエとの差をわずかに広げるとともに、2位の勝田に14.5秒差という不気味な位置にせまってきた。タナクは「一番の目標は今日を終えることだが、もちろんプレッシャーをかけ続けたいと思っているここでは荒れていないのでリズムを崩さずに走ることができた」

 首位のヌーヴィルからの遅れはここでもじわりと35秒へと広がり、勝田は後方から近づいてきた二人のワールドチャンピオンとの対決の時が迫っていることを認めつつも、プレッシャーはないと逃げ切る構えだ。「大丈夫、自分の仕事に集中するだけだ。タイトな接戦になりそうだが、何とかこなしたい。そのことへのプレッシャーはない、大丈夫だ」

 そして、この日、最後のステージとなるスリーピング・ウォリアーの2回目の走行となるSS13が始まるころ、ドライのまま終わるかに見えたサバンナの天気が急変する。マサイの戦士の横顔に似た遠くの丘のあたりには低く黒雲が立ちこめ始め、今にも雨が降り出しそうだ。

 前日のリタイアでこの日を一番手走行で路面掃除を続けてきたダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)がスタートしたころにはフロントガラスに水滴が当たる程度だったが、瞬く間に雨は激しさを増し、後続のマシンはすぐにワイパーが追いつかないほどの土砂降りに見舞われる。そのため、ここではソルドが結果的にベストタイムを奪うことになり、後続はタイムをガタッと落とすことになった。

 5番手でスタートしたグリーンスミスはワイドになってコースオフしかかり、6位のフールモーに12秒差に迫られることになったが、後続のトップグループはさらに信じられないほど滑りやすいブラックコットンの泥の海のなかで苦しむことになる。

 なかでも、勝田に14.5秒差まで迫っていたタナクは、ただでさえ真っ直ぐ走れないようなステージでフロントガラスの曇り止めの機能が働かず、ついに我慢できずにマシンを止めてガラスを拭くことに。そのため2分以上をロスしてしまい、オジエに3位を譲ることになってしまう。「本当にクレイジーだ。僕の側のスクリーンが機能しなかった。見えなかったんだ。びっくりだよ」

 タナクだけでなくほぼすべてのドライバーが午後のループに向けてオールハード6本を選ぶなか、まるで雨の可能性を予期していたかのようにオジエと勝田の二人だけがソフト1本を追加する戦略をとっており、その効果もあってか、オジエはここでの遅れを24.5秒にとどめ、タナクをパスして3位に浮上するとともに勝田の18.1秒差に迫ることになった。

 勝田もストレートエンドのジャンクションでコースオフしそうになりながら、マシンを必死にラインにとどめるために奮闘、左リヤのサスペンションにダメージを負って57.5秒をロスしたもののどうにか2位をキープすることになった。

「とても恐ろしかった!こんな気持ちは初めてだ。序盤は大丈夫だったが、突然、嵐が来て、雨で何も見えなくなってしまった。完全にマディになったところでは信じられないくらいに滑りやすく、ブレーキも200mくらい早く踏んでも止まらずにオフしかかったよ。だが、ゴールまで来ることができた!」。後方のオジエは僅差だが、4位のタナクはオジエの後方1分5秒差まで遅れており、勝田は初表彰台を賭けて明日の最終日に臨む。

 ワークス勢の最後方でステージをスタートしたヌーヴィルはライバルの誰よりも自身のコンディションが悪いことははっきりと認識しており、雨でタイムを失わないように必死の快走を続け、35.1秒遅れの6番手タイムにとどめて首位をキープ、勝田との差を57.4秒に広げている。

「オジエが僕たちより12分前に(ステージを)走っていることがわかっていたので、かなりのリスクを冒して走り続けた。彼の方がおそらく僕たちより乾いた道路だっただろうから、タイムを失いたくなかったんだ。今日を無事にフィニッシュできたことに本当に満足している」とヌーヴィルはステージエンドでほっとしたように深く息を吐いた。オジエはこの混乱のなかで表彰台圏内にポジションを戻しているが、首位からは1分15.5秒後方だ。

 明日の最終日は5SS/53.49kmというノーサービスの一日となる。はたしてヌーヴィルが逃げ切って伝説のサファリ・ウィナーの仲間入りを果たすのか、そして勝田の待望の表彰台がついに実現するのか! オープニング・ステージのSS14ロルディアは現地時間7時25分(日本時間13時25分)スタートとなる。