WRC2018/09/15

ヌーヴィルがトルコの首位浮上もオジエが0.3秒差

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 世界ラリー選手権(WRC)第10戦ラリー・トルコ・マルマリスは、前夜の市街地で行われたスーパーSSでラリーをリードしたアンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイi20クーペWRC)が、金曜日もタイヤギャンブルを成功させるなど巧みにペースをコントロールしてラリーをリードしたが、この日の最終ステージで選手権リーダーのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が逆転で首位に浮上、Mスポーツ・フォードのセバスチャン・オジエ(フォード・フィエスタWRC)も0.3秒差の2位で続き、チャンピオンシップを争う2人による大接戦となっている。

 ラリー・トルコ・マルマリスは金曜日、その舞台をムーラ県の山岳地帯に移し、本格的なバトルが始まった。今回のラリー最長の38.1kmの距離を持つチェティベッリを含む3つのステージを午前と午後の2回走行する設定となっている。夜半に降雨があったため、ところどころ湿ったところを残すものの、ステージの路面は概ねドライコンディションとなり、先頭ランナーが路面掃除でタイムを落とすなか、後方のドライバーたちがラリーの主導権を握ることになった。

 SS2のチェティベッリは距離だけでなく、道幅が広くハイスピードな区間とツイスティでスローな区間が混在するタフなステージだ。ここでベストタイムを刻んだのは、ミケルセンに続いて2位でこの日を迎えたクレイグ・ブリーン(シトロエンC3WRC)だ。9番手のポジションで走行した彼は、「最後まで自分が速いのか遅いのかペースが分からなかった。まるでサバイバルゲームだね。道の真ん中をキープすることに徹して走ったよ」と語り、セカンドベストのヘイデン・パッドン(ヒュンダイi20クーペWRC)を4.8秒、3番手タイムのミケルセンを7.3秒上回り、首位に躍り出る。

 ブリーンはバンピーな路面となったSS3ウラ(21.75km)では「レッキの時に予想していたよりも路面が悪く、ペースをセーブした」と6番手に止まりながも首位をキープ。多くのドライバーがハードコンパウンドのみというタイヤ選択をする中、ミディアム4本とハード2本というタイヤを選んだミケルセンも「ここは次のステージに備えてタイヤを温存した」と4番手タイムに止まり、3.4秒差の2位で続くことになった。

 このステージでベストタイムを刻んだのはヌーヴィル。この日のオープニングSSでは路面掃除に苦しんで6位に沈んだ彼は、ここでも「最悪のコンディションだ。先頭ランナーでラインはないし、ホイールはスピンしっぱなしだ。膨大なダストを掃除しなくちゃならないからね」と不満を言いながらも、4位へとポジションをアップ、選手権リーダーは手応えを掴んだようだ。

 金曜日の朝のループ最後となるSS4チチェックリ(12.57km)は、ツイスティで平均速度も低いためエンジン温度の上昇やタイヤの摩耗に気を配らなければならない。このステージでは首位を行くブリーンに異変が起きた。スタートしてすぐに左フロントタイヤに衝撃を感じ、スローダウン。「パンクしたのかと思って焦ったけれど、問題はなかった」とすぐにペースを上げたが、「慎重になり過ぎた。”金曜日の呪い”みたいなものが気になってさ」と、平凡なタイムに終わり、首位陥落。代わって、前のステージでタイヤを温存する作戦に出たミケルセンが、まだ完全に乾ききってない路面にも助けられ、ミディアムタイヤ戦略を成功させて、まんまとベストタイムを奪って首位に返り咲いた。

 朝のループを終えて、ブリーンは6.3秒差の2位、11番手のポジションで走行しているマッズ・オストベルグ(シトロエンC3 WRC)が首位から8.2秒差の3位、ヌーヴィルはSS4でも3番手タイムでまとめ、首位から13.1秒差の4位で朝のループを終えることになった。

 一方、選手権でヌーヴィルを追うオジエにとって、朝からフラストレーションが溜まる展開となっている。

 ヌーヴィルに続いて2番手でコースに挑むため、オジエのほうがやや路面はクリーンになっているはずだが、フロントランナーが巻き上げたダストに視界を阻まれてペースが上がらない。

「とくに最初のステージはダストと斜めから差しこんでくる太陽の光で何も見えなかったよ。ダストがそれほどでもなかったSS3ではプッシュしたんだが、ティエリーに及ばなかった」と彼は天を仰ぐことに。朝のループを首位から23.6秒差、ヌーヴィルからは10.5秒差の7位につけることになった。

 サービスを挟んだ午後のループ、ラリーカーは再びラリー最長距離のチェティベッリに挑む。2回目の走行ということもあり、1回目の走行で問題となった路面を覆うダストは取り払われたが、低速セクションでは轍が生まれ、掘り起こされた大きな石がなどがあちこちに転がり、ラフでバンピーなコンディションとなった。

 この難しいコンディションとなったステージで勝負を賭けたのは、オジエだ。「ところどころバンピーな場所があったけれど、ダストがなくなったから攻めていけた」と、1回目の自身のタイムを1分以上縮めるスーパータイムで7位から一気に2位へと浮上、首位のミケルセンの12.7秒後方まで迫ることになった。

 だが、1回目のチェティベッリでベストタイムを記録したブリーンは一転、不運に見舞われることになった。ステージの中ほどで左リヤタイヤがスローパンク、何とかステージをフィニッシュしたものの、完全にブローしてホイールだけの状態で45秒あまりをロス、2位から8位まで転落してしまう。またも運命に見放された彼は、「まったく信じられない。25kmくらいをパンクしたまま祈るような気持ちで走った」と、ステージエンドで感情を迸らせた。

 オジエが2位へと順位を上げたことで、それまでミスをしない走りを重視ししていたヌーヴィルに少なからず火を点けることになったのかもしれない。SS6ウラでは「オジエは予想を上回ってプッシュしてきたので、僕たちもそれに応えなければならなかった」と語ったヌーヴィルがベストタイム、オジエを1.1秒差で逆転して2位へと浮上し、さらに右リヤタイヤをスローパンクしてタイムロスした首位のミケルセンに1.9秒差にまで迫ることになった。

 ミケルセンから3位のオジエまで3台がわずか3秒差という僅差で迎えた最終ステージでも波乱が起きることになった。さらにペースを上げてアタックを仕掛けたヌーヴィルが、タイトターンでワイドになってしまいリバースギヤを使うことになって6〜7秒をロス、これで彼が首位に浮上するチャンスはなくなったかに見えたが、後方のミケルセンもまたワイドになってしまってコース脇の石をヒット、ステージ終盤でタイヤのグリップに問題を抱えてペースが上がらず11秒あまりをロスすることになった。

 ドラマチックな最終ステージを終えて、逆転で首位に立ったのはヌーヴィル、無数の石が転がっている後半のセクションでペースを抑えたオジエが0.3秒で続き、ミケルセンは2.6秒差の3位でこの日を終えることになった。

 フィンランド、ドイツの2連勝で波に乗ったかに見えたトヨタGAZOOレーシング・ワールドラリーチームだが、ここではその勢いをダストの壁に阻まれることになってしまった。

 朝のループを6位で終え、不調の理由を訊ねられたヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ・ヤリスWRC)は「分からない。けっこういい走りができたと思ってもタイムはそれほどでもない。ノーチャンスだ」と首を横に振っていたが、それでも午後のループではSS5で3番手を出すなど、トラクションが改善したマシンで首位から16.3秒差の4位まで順位を上げてきた。

 チームメイトのオイット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)はグリップのないマシンに苦しみペースが上がらず、不満の残る一日となったが、思いきって車高を下げて臨んだ最終ステージで彼はこのラリーで初のベストタイムを獲得、パッドンを抜いて5位で金曜日を終えることになった。

 また、グリップ不足を訴えてきたエサペッカ・ラッピ(トヨタ・ヤリスWRC)は一時10位まで順位を落としたが、終盤の2つのステージで連続して2番手タイムを奪って7位でフィニッシュ、6位のパッドンに1.2秒差に迫っている。

 8位にはまたも金曜日の悪夢に泣いたブリーン、9位にはMスポーツ・フォードのテーム・スニネン(フォード・フィエスタWRC)が続き、久々にイルカ・ミノアとのコンビで出場してきたヘニング・ソルベルグ(シュコダ・ファビアR5)がシュコダ・ワークス勢を抑える恰好で総合10位につけることになった。

 また、朝のループで表彰台圏内につけていたオストベルグは、SS6ウラでサスペンションを壊してリタイア、同じステージでメカニカルトラブル続きのラリーに苦しんでいたエルフィン・エヴァンス(フォード・フィエスタWRC)もサスペンションを壊してマシンを止めている。

 明日の土曜日は、海岸沿いを西へと向かい、ダッチャ半島のステージなどで争われる6SS/130.62kmの一日となる。オープニングSSのイェシルベルデ(34.24km)は現地時間8時35分(日本時間14時35分)のスタートが予定されている。