WRC2021/06/26

ヌーヴィルが波乱サファリをリード、勝田が2位

(c)Hyundai

(c)Toyota

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 2021年世界ラリー選手権(WRC)第6戦サファリ・ラリー・ケニアは悪夢のような金曜日を終えて、ヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイi20クーペWRC)が首位へと浮上、ライバルたちがトラブルで消えるなか、勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)が最終ステージのベストタイムで18.8秒差の2位へとポジションを上げている。

 サファリは金曜日からいよいよサバンナに舞台を移して本格的な戦いがスタートする。ナイバシャ湖の南西にあるオセレンゴニ野生動物保護区内に設けられるチュイ・ロッジ(13.34km)からスタート、ケドン(32.68km)、オスアーリアン(18.87km)の3ステージをサービスを挟んで2回ループする6SS/129.78kmの1日となる。

 気温もまだ12度とそれほど高くなく、路面には「フェッシュ・フェッシュ」と呼ばれる非常にソフトなパウダー状のグラベルが覆っていることからほとんどのドライバーがグリップを求めてソフトタイヤ4本をメインにチョイス、これにハード2本を組み合わせるなか、ヌーヴィルのみがマシンの軽量化を狙ってソフト4本とハード1本をチョイスしてステージに向かう。

 オープニングステージのSS2チュイ・ロッジは、ナローでツイスティな道にはところどころ道端に岩が突き出してバンピーであり、このラリーの中でも最もスローなステージの一つとなっている。

 昨夜のオープニングSSでラリーをリードしたセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)は一番手スタートでダスティな路面のグリップに苦しみ、「信じられないほど滑りやすく、非常に砂っぽい路面だった」と首を横に振る。後続のマシンは次々に彼のタイムを更新し、ここではタイヤギャンブルを成功させたヌーヴィルがベストタイムで一気に首位へと浮上する。「コース上のわだちはレッキのときよりもずっと深かったので、アンダーステアに少し苦労した」とヌーヴィルは語った。「道幅が狭いので、ラインを最適化するのが難しく、簡単なステージではなかったよ」。

 3番手タイムのカッレ・ロヴァンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)が2位、2番手タイムのオイット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)が3位、エルフィン・エヴァンス(トヨタ・ヤリスWRC)が4位、オジエはここでは7.2秒もの遅れだったが、総合5位まで落ちた彼までが短いこのステージを終えてわずか2.2秒と僅差の展開だ。

 だが、まるでヨーロッパのWRCのような接戦になるかに見えたサファリは、いきなりその牙をむく。SS3ケドンはこのラリー最長であるだけでなく最高速度が200km/hに迫るバンピーな高速ストレートやパワーを消耗する蟻地獄のようなフェッシュ・フェッシュといったたくさんの罠が待ち伏せる。4位につけていたエヴァンスは右コーナーのイン側のブッシュに隠れていたヘルメットほどある岩にヒット、フロントサスペンションとステアリングを壊してしまう。タイヤの曲がったままのマシンを引きずり、エヴァンスはゴールを目指そうとするが、コントロール不能のままコース脇のディッチに滑り落ちてしまい、ワークス勢最初のリタイアとなってしまう。

 さらに6位につけていたダニエル・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)も28.8km地点で左リヤをコース脇の石にヒット、ハイスピードでコースオフしてディッチでマシンを止めることになった。ソルドはマシンを飛び降りてダメージを確認するや、前戦ラリー・イタリア・サルディニアに続いてのリタイアとなったことを悔しがった。

 このタフなステージでは、上位勢もトラブルとはけっして無縁ではなかった。ヌーヴィルが2連続でベストタイムを叩き出し、2位のロヴァンペラに対するリードを8.2秒へと広げることになったが、彼もまた8.5km地点のジャンクションをオーバーシュート、リバースしてから再び走りだしている。また、ロヴァンペラはコクピットに侵入するダストと戦い、最後にはパンクをしながらここでは2番手タイムでヌーヴィルに食らいついているが、表情は厳しい。「とんでもないステージだった。コンディションは最悪だし、ステージの最後にはパンクに見舞われ、クルマの中はダストでいっぱいで息も出来ない。これは間違いなくサファリだね」

 オジエもまた、ステージ開始直後のジャンクションでヌーヴィルと同じようにジャンクションをオーバーシュート、さらに左リヤダンパーに問題を抱えているらしく、跳ね上がるマシンと格闘して34秒もの遅れを喫し、首位ヌーヴィルとの差は一気に40秒へと広がってしまった。オジエはステージエンドのインタビューには応じず、ロードセクションで修理を試みたが、ダンパーのキャニスターが破損してオイルが失われており、完全な修理は不可能だ。

 続くSS4オスアーリアンではロヴァンペラがベストタイムで反撃、2本をスローパンクしたヌーヴィルとの差を縮めたものの、ヌーヴィルは5.1秒をリードして朝のループを終えることになった。

「懸命にプッシュしているという感じではなく、マシンのフィーリングがいいんだ」とヌーヴィルはステージエンドでここまでのステージには満足していると語ったが、サファリのペースに完全に自信をもっているわけではない。「非常にラフなセクションもあるので、クルマを守るために車高をかなり高くして走行している。マシンがロールしやすくなっているので、クリーンに走るようにしている」

 2位につけるロヴァンペラはここまでトヨタ勢がトラブルに見舞われるなか、ただ一人、気を吐いており、21.1秒差でタナクを抑えている。タナクは2戦連続でリタイアとなっているだけにここまではペースを抑えているが、それでもかなりリスクがあるペースだったと認めており、午後にはさらに冷静に行かなければならないと自らを戒めていた。「クルマにダメージを負わないようにすることが唯一の目標だった。ここでの20秒はカウントされない。あそこをあれほど速く走るのはあまり気が進まなかったが、2回目のループはさらに厳しいコンディションになると思う」

 多くのドライバーたちがトラブルに遭遇するなか、勝田は朝のループを40秒差の4位でフィニッシュ。そのスタートはけっして順調ではなく、SS2ではヘアピンでのエンジンストールにより10秒の遅れ、さらにSS3ではパンピーなセクションでラジエータを破損、水温のアラームに怯えながらもどうにかゴール、SS4のスタート前に応急修理を行い、自らのドリンクの水をタンクに補給して事無きを得ている。

「前のステージでラジエータにダメージを負っていたので、このステージは慎重にならざるを得なかったが、どうやら修理できていたようだ。言葉が見つからないくらい、朝のループはかなりタフだったが、うまく生き残ることができて良かったよ」と勝田はステージエンドで語っている。最初の試練をクリアしてこのステージでも3番手タイムだったせいか、サファリの厳しさを笑い飛ばす力強ささえその表情には見ることができた。

 いっぽう、ダンパートラブルのオジエはSS4でも1分38秒の遅れを喫し、首位のヌーヴィルからは1分44.9秒差の7位までポジションを落として朝のループを終えることになった。「まずまずのペースで走っていたが、2つめのステージの終盤でリヤのダンパーが効かなくなってきたんだ。完全な修理はできなかったので、ゆっくり走ってサービスに戻る以外にできることはなかったよ」

 ガス・グリーンスミス(フォード・フィエスタWRC)はオジエのトラブルで5位へと浮上したが、彼もパンクに加えてここではダンパーのトラブルに見舞われており、同じく6位に順位を上げたアドリアン・フールモー(フォード・フィエスタWRC)がここでは4番手タイムでチームメイトに8.5秒差に迫って見せた。

 また、ヒュンダイ2Cコンペティションのオリヴァー・ソルベルグ(ヒュンダイi20クーペWRC)はオープニングSS のクラッシュでサスペンションに問題を抱えてしまい、修理しながらサービスを目指していたが、SS4でマシンを止めている。

 ナイバシャ湖のデイサービスをはさみ、ラリーカーは午後のループへと向かう。チュイ・ロッジの2回目の走行となるSS5でベストタイムを奪ったのはロヴァンペラだ。なんとヌーヴィルを6.3秒も上回り、1.2秒差で首位に立ってみせる。相変わらずコクピットにはダストが侵入しているようだが、ヒュンダイ勢がソフト3本とハード3本を組み合わせているのに対して、トヨタ勢はソフト4本とハード2本を組み合わせたことも奏功したのか、自身のペースに満足したかのように彼は、「ダストで息苦しかったけど、悪くないと思うよ。わだちを避けながら慎重に走ったけど、トリッキーなセクションでもいいフィーリングだった!」と語っている。

 だが、続くSS6ではヌーヴィルが圧巻のスピードをみせる。ヌーヴィルは右リヤタイヤをスローパンクさせながらも11.2秒もの差をつけるベストタイム、リムを破損していたが、幸いにも完全にパンクすることなく10秒差でロヴァンペラから首位を奪いかえした。「プッシュしようとしたが、スローダウンしなくてはならない場所も多くあった。最後は本当に遅く感じて、奇妙な感じだった。完全にパンクにならなくてよかったよ」

 前ステージでヘアピンのたびにエンストする問題に悩まされたタナクは、ここでもタイヤが剥離しているような気がしてペースダウン、2位のロヴァンペラとの差は40.7秒へと広がっている。

 そして、迎えた金曜日の最終ステージ、オスアーリンに最大のドラマが待っていた。首位のヌーヴィルが左リヤタイヤをバースト、さらに右フロントタイヤをパンクさせて39.8秒をロス、これで逆転で首位に立つかに思われたロヴァンペラがスタートして0.9km地点のコース上に刻まれた深いわだちを埋め尽くしている「フェッシュ・フェッシュ」につかまって悪夢のようなスタックに見舞われてしまう。

 ロヴァンペラのマシンは、マーシャルのクルマに牽引されてコース脇に止めることになる。マシンが道を塞いだため、ステージも一時中断したが、サファリの補足規定では「スペシャルステージでスタックしたマシンは、後続のマシンに安全上の問題を引き起こす可能性のあるため、主催者が用意したリカバリーカーがコース外に牽引したあと、ペナルティなく再スタートしてスペシャルステージを続行することができる」と規定されているが、ロヴァンペラはスタックによるタイムロスを抱えて走り切るより、リタイアによるペナルティ10分を選んだほうがタイムロスは小さく、エンジンンなどにダメージがあった場合には被害を最小限に抑えられると解釈したようだ。

 ロヴァンペラのまさかのリタイアによってヌーヴィルは首位を守ることになり、彼はステージエンドでここでは最大の問題だったのはタイヤだったと語ったが、彼はエンジンにもなにか不安を感じており、言葉少なく走り去っている。「このステージでの最大の問題はタイヤだったが、それでも最後まで走りきることができた。気になることもあるので、これからサービスに戻って、チェックする必要がある」

 タイヤトラブルはヌーヴィルだけでなく、彼から40秒遅れでこのステージを迎えていたタナクにも襲いかかる。チームメイトの大きなタイムロスで、タナクはここで首位に躍り出すかとも見えたが、彼は左フロントタイヤをバーストさせて54.9秒をロス、首位から55.8秒遅れの3位でこの日を終えることになってしまった。

 ここでベストタイムを奪ったのは勝田だ。ダストに視界を阻まれて何度かマシンをストップしそうになりながらも、上位陣のトラブルによってサファリ初のベストタイムを奪った彼は18.8秒差の2位に浮上してきた。「驚いたよ。ステージ上では、ダストのために4回もストップしそうになったからね。ステージ序盤は地獄のようなものだったが、今日は無事に終えることができてよかったよ」

 勝田の37秒後方にはタナク、さらにここで勝田とベストタイムを分け合ったオジエが53秒差の4位へとポジションを上げてきた。「このステージは災難だった。フェッシュ・フェッシュだらけでラジエータが完全に詰まってオーバーヒートを起こしてしまった。最後はスピードを落とさざるを得なかったよ」

 オジエから6.7秒差の5位にグリーンスミス、フールモーはここで3番手タイムを刻んでチームメイトの23秒後方の6位で金曜日を終えている。

 土曜日はエレメンテイタ湖周辺で行われる6SS/132.08kmの一日となる。ドライバーたちはサービスを北上、グレイトリフトバレーの崖の上を走るナイロビ-ナクル・ロードから眼下に広がるエレメンテイタ湖の美しい景色を見下ろしながらステージへと向かう。オープニングSSのエレメンテイタは現地時間8時8分(日本時間14時08分)のスタートとなる。