2025年世界ラリー選手権(WRC)最終戦のラリー・サウジアラビアの最終日、トップでスタートしたマルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)が相次ぐパンクのために9位へとポジションを落とすも波乱の一日となり、ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)が今季初優勝、前夜のペナルティで優勝を逃した形となったアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)が54.7秒差の2位で続き、ヒョンデが1-2でシーズンを締めくくった。また、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が3位でフィニッシュ、セバスチャン・ローブに並ぶ9度目のワールドチャンピオンを獲得した。
最終日の土曜日は、タバン(16.39km)でスタート、ラリー最長のアスファン(33.28km)のあとタバンの2回目の走行が最終ステージとなり、ボーナスポイントがかかったパワーステージとして行われる。ノーサービスで連続して3SS/65.86kmを走る一日となる。
最終日は前日の順位のリバースで3分間隔での走行となる。一番手は金曜日の最終ステージのあとのロードセクションでサスペンションと駆動系の問題でリタイアしたオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)となる。なお、土曜日をトップでフィニッシュしたフールモーは夜の最終サービス前のテクニカルゾーンに早着、1分のペナルティを課されたために4位に後退したものの、土曜日をRally1最後方でスタートする。
フールモーの出走順については、「前日の最後のスペシャルステージを終えた時点での順位に基づく」とルールでは規定されており、このステージのあとにペナルティを課されて順位が変動しても、最後のスペシャルステージを終えた時点での順位で出走順が決められるためだ。いずれにしてもフールモーとヒョンデは不可解なペナルティをめぐってスチュワードに調査を依頼したものの、ペナルティに変更はないまま最終日はスタートする。
SS15タバン・ステージは、表面には砂利の乗ったところが多くあるほか、砂地のセクションもあり、滑りやすい路面にラリーカーの走行によってかき出された鋭い石がまき散らされた危険なコンディションだ。
フールモーのペナルティで初のオーバーナイトリーダーとして最終日を迎えたセスクスだが、3.4秒後方にはヌーヴィルが続いており、早くもこのステージでヌーヴィルに逆転されて、トップを譲ることになった。「ここはかなり慎重に走った、問題はない。ちょっと慎重すぎたかもしれないけどね」と、セスクスはトップを失うことを覚悟していたのだろう、さばさばとした明るい声で語った。セスクスにとってこれまでの最上位は昨年のラリー・ラトビアにおける5位であり、WRCでの初ポディウムを持ち帰るだけでも殊勲になる。
ディフェンディングチャンピオンが翌シーズンに未勝利だったのは過去2人しかいないため、ヌーヴィルにとっては思ってもいなかった形でこの不名誉なメンバーの仲間入りを逃れるチャンスが転がりこんできた。それでも彼は、前日にも見舞われたダンパーのトラブルにふたたび発生していると告白、このあとは慎重に走らなければならないと認めている。「頑張ったけど、ダンパーがエアバンプみたいな感触だった。温度が上がるとすぐにそうなるんだ。安定感がまったくなくなったように感じて、とくに最後のセクションは苦労したよ」
このステージでベストタイムを奪ったフールモーは、3位につける勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)に6.2秒差に近づくとともにスーパーサタデーをリードした。彼はペナルティの件を頭から振り払って、なんとかポディウム圏内に戻してフィニッシュすることに集中している。「(昨日)起きたことは本当に残念だけど、仕方ない。今の僕の唯一の目標はとにかく表彰台を取り戻すことだ」
注目されるのは、エルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)とセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)のタイトル争いの行方だ。オジエは最終日を6位、エヴァンスは8位で迎えており、このステージの前の時点でオジエはチャンピオンシップリーダーを1ポイント差でエヴァンスから奪い取った計算となる。しかし、土曜日には最大10ポイントの追加が可能となる。まだまだエヴァンスが初のチャンピオンを獲得するチャンスが残っていそうだが、そのためにはスーパーサタデーの順位とパワーステージの両方でオジエを上回るリスクのある走りをしなければならない。
土曜朝のオープニングステージでは、2人の戦いは非常に接戦からスタート、オジエがエヴァンスよりわずか0.1秒速いだけだったが、暫定ポイントでは2ポイント差でオジエが選手権をリードしている計算となった。
「タイトなステージだった。僕たちにとってはかなりクリーンなステージだった。トラブルなく走れることを願っている。こういう宝くじのようなラリーでは、できる限りの自信をもって行くしかない」とオジエは語った。
もちろんエヴァンスも引き下がるつもりはない。「最後までベストを尽くす。週末を通してペースが悪かったが、今日は違う結果になることを期待している」と彼はコメントした。
SS16アスファンは、33.28kmのこのラリーの最長ステージであり平均速度が127km/hをオーバーする最速ステージとなった。スタートから長く高速な区間をはじめとしてほぼ全域が砂漠の砂地であり、スムースな路面でそれほど大きなドラマは起きないようにも見えた。だが、ハイスピードのコーナーは滑りやすく、コース脇の砂の山に隠れていた岩がスライドしたマシンを待ちぶせる。
まずは5位につけていたカッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)が左フロントタイヤをパンク、交換のためマシンをストップ、3位につける後続の勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)をパスさせるためにマシンを止めたたま待機する。だが、勝田は26.4km地点の高速左コーナーでワイドになって横転、フロントガラスを破損したほかルーフにもダメージを負ってしまい、オジエとともにサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)にも抜かれて3位から5位へと後退してしまった。ロヴァンペラも7位まで後退している。
勝田のマシンの損傷は大きく、FIAがステージエンドでセーフティケージのダメージがないかチェックしたものの、幸いにも安全性に問題がないことが確認されている。彼はバーストした2本のタイヤをフレッシュタイヤに交換、クラックが入ったフロントガラスを外し、ゴーグルを装着して最後のパワーステージに向かっている。
さらに2位につけていたセスクスにも悲運のドラマが待っていた。彼は9.1km地点でタイヤ交換のためマシンストップ、2分50秒あまりを失ってポディウムポジションから脱落しただけでなく、22.7km地点のヘアピンでもイン側に隠れていた岩に乗り上げて2度目のタイヤ交換をすることになり4分あまりもロス、9位まで後退してしまった。
さらに彼はエンジンが3気筒のような症状があると訴え、ロードセクションでマシンを止めて、チームの指示を受けながら応急修理に取り掛かっていたが、残念ながら時間内に問題を解決できずに無念のリタイアとなってしまった。
セスクスがこのステージで遅れた影響を受けたのは彼の後方で走るフールモーだ。巻き上げられたダストのなかを走行したため、42秒あまりをロス、ベストタイムを奪ったオジエに抜かれてしまう。
首位はヌーヴィルがキープ、彼に続いていたフールモー、勝田、ロヴァンペラがそろってトラブルに見舞われたため、なんと1分10秒差の2位にはオジエが続くというサプライズなオーダーとなった。フールモーはさらに19秒差の3位で続くが、ダストの影響で遅れたタイムはしばらくして救済されて2位へと復活することになった。これでヒョンデが1−2。オジエはフールモーから16.2秒遅れの3位で最終ステージに向かう。4位にはパヤリ、5位には勝田、6位にはエヴァンスというオーダーだ。
スーパーサタデーはヌーヴィルがトップ、0.5秒差の2番手でフールモー、3番手にオジエが続く。ここまでの選手権の暫定ポイントではオジエはエヴァンスに5ポイント差をつけた計算であり、オジエにパワーステージで何かトラブルがないかぎり、エヴァンスのタイトルは絶望的となった。
そして迎えた今シーズン最後のステージとなるSS17タバンのパワーステージ。オジエはエヴァンスを抑えきってゴールを迎えた瞬間、後続のマシンの到着を待つことなく、4年ぶり9度目のワールドチャンピオンを決めることになった。また、2022年の最終戦からコンビを組むコドライバーのヴァンサン・ランデにとっては初のタイトルだ。「素晴らしいシーズンだった。エルフィンやスコットとの戦いも素晴らしかった。シーズンの最後まで限界の戦いだった。強いライバルがいるからこそ、真のチャンピオンになれる。チーム全体にとっても成功したシーズンだったし、このチームの一員でいられることを誇りに思う」とオジエは喜びを語った。
エヴァンスは、コーナーに刻まれた深いわだちでフリップして3輪がリフトするひやりとした瞬間に見舞われたが、最後までアグレッシブな走りをみせてフィニッシュ。最終的に4ポイント差でタイトルに届かなかったが、彼はすべてを出し尽くしたと笑顔でふりかえった。
ラリー・サウジアラビアの総合優勝はヌーヴィルだ。ディフェンディングチャンピオンはシーズン最終戦でやっと待望の今季初優勝を飾ることになった。「非常に厳しいシーズンだった。このような形でシーズンを終えられてとても満足している。来季に向けて、より万全の準備をするためにはやるべきことがまだ沢山ある」
悲願の初優勝はならなかったものの、フールモーはキャリアベストとなる2位でフィニッシュ、来シーズンにつなげる素晴らしいポディウムでシーズンをしめくくった。
3位にはオジエ、今季11戦に出場して10回目のポディウムだ。一度はトップ争いを演じて実りある4位でゴールしたパヤリ、フロントガラスのないマシンで走りきった勝田が5位で完走を果たしている。エヴァンスは6位、ロヴァンペラはWRC最後の一戦を7位で終えることになった。
「素晴らしいキャリアだったと思う。何よりもまず、ヨンネに心から感謝したい。共に楽しい時間を過ごしてきた。そして、チームのみんな、そしてこの冒険の初日からずっと応援してくれたファンのみんな、この冒険に関わってくれたすべての人に感謝したい」とロヴァンペラはステージエンドで熱い言葉をほとばしらせて、WRCに別れを告げた。
2025年シーズンの全14戦を終え、ドライバーズ選手権ではオジエが293ポイントでトップ、2位は289ポイントのエヴァンス、3位は256ポイントのロヴァンペラ、4位は217ポイントのタナク、5位は194ポイントのヌーヴィル、6位は122ポイントの勝田が続いている。