2025年世界ラリー選手権(WRC)第7戦アクロポリス・ラリー・ギリシャは、悪夢のような荒れた路面でパンクが続出する一日となり、オイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がリード、わずか3秒差の2位にアドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)が続き、ヒョンデ・モータースポーツが1-2態勢を築いている。
アクロポリス・ラリーは木曜日の夕方にアテネの市街地で行われたスーパーSSで開幕、金曜日からいよいよ本格的な戦いが始まる金曜日は、ルートラキからスペシャルステージを走りながらサービスパークのあるラミアに向かって北上する一日となる。
金曜日のオープニングステージとなるのは、ペロポネソス半島南部のSS2アギイテオドリ(26.76km)、コリント運河の近くを走るSS3ルートラキ(12.96km)のあとアギイテオドリの2回目の走行となるSS4を走り、カジノ・ルートラキに設けられるリモート・サービスが行われる。このあと113kmのロードセクションを移動してSS5テーヴェ(21.60km)、さらに80kmのロードセクションのあとSS6スティリ(24.35km)、57kmのロードセクションのあとSS7エラティア(11.26km)を走ってラミアへと戻る6SS/121.76km、総走行距離も500km近いタフな一日だ。朝7時の気温はすでに29度、日中は39度まで上昇すると天気予報は伝えている。非常に厳しい暑さの一日となりそうだ。
SS2アギイテオドリで素晴らしい速さをみせてスタートしたのはセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)だ。前夜のスーパーSSでタナクとリーダーを分け合った彼は、ダスティな路面にもかかわらず2番手というスタートポジションをものともしない走りで、8番手という後方からスタートしたサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)に0.7秒差をつけてステージウィンを飾ることになった。
オジエは、「グリップの限界で走っていたけど、この後、路面はもっとクリーンになるだろう」と自身のタイムがすぐに破られることになると予想したが、ソフトコンパウンドタイヤを4本装着した彼のタイムを誰も破ることはできなかった。
ティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は右フロントにハード、残り3本はソフトを選び、オジエから2.2秒遅れの2位へとポジションを上げている。木曜日をオジエと並んでトップで終えたタナクは6.7秒遅れの4番手タイムで4位に後退、彼はフロント左右にハード、リヤ左右にソフトを組み合わせておりアンダーステアが厳しかったと訴えていた。ここでは装着したソフトタイヤの本数でステージタイムの違いを生んだように見える。
一気に3位まで浮上したパヤリは「あまり調子良いフィーリングはしなかった。でも誰にとってもトリッキーだ。安全を意識して走っていたので、それで良かった」とふり返る。パヤリのアプローチが正しかったことは、他のドライバーたちが見舞われたトラブルをみればよくわかる。後続になるほどステージは荒れ、むき出しの岩と無数の鋭く尖った石が路面を覆っている。
勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が4.3km地点でタイヤ交換のためストップ、2分12秒あまりも遅れてしまった。シェイクダウンでトップタイムを奪い、この週末のトップ争いが期待されたが、早くも後方に沈んでしまった。後続のフールモーはコースに戻った勝田が巻き上げるダストに視界を邪魔されてしまい10秒あまりをロス、カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)の後方の6位に甘んじている。
トラブルに見舞われたのは勝田だけではない。ジョシュ・マクアリーン(フォード・プーマRally1)も3.4km地点でタイヤ交換、チームメイトのマルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)も終盤で左フロントタイヤのデラミネーションに見舞われ、そのまま走行を続けたが、タイヤが完全に外れてホイールだけでフィニッシュ、1分33秒をロスしてしまった。
SS3ルートラキで速さをみせたのは、前ステージで巻き上げられたダストのなかで視界に苦しんだフールモーだ。彼は7番手という有利な路面状況を最大限に活かし、チームメイトのヌーヴィルに4.9秒差をつけるトップタイムをマークすることになった。「クリーンなステージを走れた。幅の狭いセクションでは慎重に走ったけど、可能な時はプッシュして、楽しむこともできた」
二人は一気にオジエを抜きさり、ヌーヴィルが新しいリーダーとなり、フールモーが4.2秒差の2位となった。「このリズムを維持し、ラインをキープしたい。岩を避けようとした時に、大きくワイドになってしまったからね。でも、ラリーはとても長いので、うまくいくことを願っている」とヌーヴィルは語った。
オジエはトップから5秒遅れの3位、フールモーからは0.8秒遅れだ。ソフトタイヤを3本装着したタナクが3番手タイム、パヤリと並んで4位で続き、二人はオジエの1.6秒後方に迫っている。
ロヴァンペラは、オジエより後方のよりよいポジションながらチームメイトほどペースが上がらず、ここではトップタイムから13.8秒もの遅れをとってしまい、首位から16.7秒差の6位にとどまっている。「すごく滑りやすくて、予想以上にタイムロスが大きかった。今は本当に最悪だ。オーバーステアが強烈だった。もしかしたら自分のせいかもしれないけど、なかなか思い通りに走れないんだ・・・」とロヴァンペラは首を横にふり、フィンランド語で「パスカァ(くそっ)」とつけくわえた。
選手権リーダーのエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)は路面のクリーニングの負担が大きいなかで、土曜日によりよい出走順を得るための試練と戦っているが、わずか2ステージで30.2秒もの遅れを喫してしまった。「まだまだクルマと格闘している、クルマの動きに本当に苦労している状態で、とてもルースで今のところとても難しい」
アギイ・テオドリの2回目の走行となるSS4は路面が激しく壊れ、かき出されたおびただしい数の石や川床を補強したコンクリートの巨大な破片までが道路に転がっている危険なコンディションとなり、Rally1カーのおよそ半数がパンクなどのトラブルに見舞われる悪夢のステージとなった。
トップにつけていたヌーヴィルは終盤で左フロントタイヤをスローパンク、デラミネーションを起こし掛けているタイヤをだましだまし走りきったが、フライングフィニッシュをパスする寸前でタイヤブロー、飛び散ったゴムでフェンダーを壊し、トップから34.5秒遅れの6位までポジションを落とした。「石がたくさんあって、フィニッシュ7km手前でスローパンクが発生した。そのまま走行を続けるという判断は、路面が完全に崩れていたため、少しリスクを伴ったが、その判断は正しかったと思う。最速タイムとの差はわずか39秒だったからね。今週末はまだまだパンクが多発するだろう。このラリーはそういうものだから仕方ないし、まだ先は長いよ」
2位につけていたパヤリもじわじわと遅れてフィニッシュ、左フロントタイヤは空気圧はあるもののデラミネーションを起こしてトレッドがすべて剥がれており、バースト寸前の状態だった。彼も25.9秒を失って4位へと後退している。
ベストタイムを奪ったオジエが首位を奪回するも、彼も左フロントタイヤは空気を失いかけた、あわやパンク寸前の状態だ。「幸運なことに(パンクは)最後の200メートルだった。だからタイムロスはなかったよ」とオジエは涼しい顔で語った。「非常に難しいと分かっているセクションでは、より慎重に走るよう最善を尽くした。しかし、常に浮いている石がたくさんあるので、予測が難しい」
6.1秒差の2位で続くタナクも右フロントタイヤのサイドウォールをカットしてリム落ちしかけている。オジエから15.2秒遅れのタイムにとどまったフールモーは、14.4秒差の3位に後退したが、「マシンを安全にゴールさせるために慎重に走るしかなかった」と、満足そうに語っている。
タイヤトラブルで遅れたパヤリの4.9秒後方の5位には、ここではトラブルを回避したロヴァンペラが続く。「マシンは今にも爆発しそうだった」と、荒れたコンディションに苦笑する。
さらにミュンスターが右フロントタイヤをパンク、マクアリーンも左フロントタイヤをパンクしている。パンクこそしなかったものの、エヴァンスはサスペンションの取り付け部分に問題を抱えていたが、このステージのあとに設けられたルートラキのリモートサービスには3人の優秀なメカニックが待機しており、すべてのダンパーを交換したほか、問題のあったフロントセクションはサスペンションアームやドライブシャフト、ナックルまで全てリフレッシュして午後のステージへと向かって行った。
ここからラミアへと北上しながら走る3ステージはすべてこの日1回ずつの走行となるため、いずれもフロントランナーたちには路面のクリーニングの試練が待っている。SS5テーヴェのステージエンドではスタート前からすでに気温は40度を超えたと報告されており、荒れたグラベルステージと灼熱の暑さがマシンとタイヤを限界まで追い込む。
なんと前ステージでパンクのために6位へと後退したヌーヴィルが序盤で右フロントタイヤをパンク。安全のために4本ともハードタイヤを選んでいたにもかかわらず、まだ10km残されているため今度はすぐにタイヤ交換のためにストップ、2分遅れてしまい、トップ10圏外へと転落してしまった。彼は、何があったのかと問いかけるレポーターに苛立ちを露わにした。「悲惨だ。またパンクした。何かに当たったわけでもない。わかるだろう! ただのパンクだ!パンクしただけだ!」
オジエのリードはわずかに縮まった。2位につけるタナクが首位のオジエに2.9秒差まで迫り、この日2つ目のベストタイムを奪ったフールモーは11秒差の3位につけている。「いいステージだった。思っていたよりもずっと砂が多かった。そこまでラフではなかったけど、路面にはいくつか石があって、それを避けるようにしていた。しかし、本当に難しいのは次のステージだ」と、フールモーは自身に言い聞かせるように付け加えた。
ロヴァンペラはあいかわらずフロントのグリップがまったく感じられないマシンに苦しんでいるようだ。およそ20kmのこのステージで最速タイムを記録したフールモーに6.2秒差をつけられた。1kmあたり0.32秒遅れた計算だ。「朝からマシンがひどくふらついて、まっすぐ走ることすらできない。楽ではない」と、彼は苦悩の表情を浮かべている。それでも彼はこのステージで9番手タイムにとどまったパヤリを抜いて5位に浮上してきた。
パヤリはペースが上がらなかった理由を聞かれ、「滑りやすくて難しかった。驚くようなところも結構あって、リズムも不規則だった」と答えたが、次のステージへと向かうロードセクションで大量のオイル漏れが発覚したためマシンストップ、リタイアとなっている。
SS6スティリでリーダーボードは大きく動くことになった。それまで僅差のタイムで接戦を演じてきたオジエがペースダウン、タナクはライバルを13秒も上回って圧倒し、10.1秒のリードを築いてトップに立つことになった。タナクはオジエより速かったことについて聞かれ、路面がクリーンになったことを理由として上げていた。「ステージはどんどんクリーンになっていって、路面もかなり硬いので、こういうステージではクリーニングの影響が大きい。だから速くなるのは当たり前だ」
オジエは「こういうルースグラベルが覆うステージでは、まったくグリップが無い」と短くコメントしただけでステージを走り去っていたが、ロードセクションでタイヤのローテーション作業をしていたオジエのタイヤは1本がデラミネーションを起こし、一部のブロックごと剥がれ落ちた状態だったことがRally.TVのレポーターによって目撃されている。
また、ここではこの日、3つ目のベストタイムを奪ったフールモーもオジエを抜いて2位へと浮上、トップのタナクにも5秒差に迫ってきた。「今のところ、僕たちにとってはいい一日だ。ペースにも満足しているし、いいフィーリングだよ」
3位に後退したオジエはトップから10.1秒差、フールモーから5.1秒遅れの3位だ。
4位につけていたロヴァンペラは左リヤタイヤをパンク、タイヤ交換をするためにマシンを止めている。「一日中、何度も岩にぶつかったが、タイヤは大丈夫だった。しかし、今回は何もぶつからないのにパンクしてしまった」とロヴァンペラは語った。
また、パヤリもステージ前にリタイアとなったため総合順位は大きく変動、トップから1分7秒遅れながらもエヴァンスが4位へと浮上、アギイテオドリでパンクに見舞われながらも、ここで3番手タイムを奪ったミュンスターが5位につけている。
WRC2をリードする6位のオリヴァー・ソルベルグ(トヨタGRヤリスRally2)をはさんで、パンクで大きく遅れていた勝田も7位へとポジションを戻しているが、彼からわずか10秒差の後方には同じようにパンクで遅れたロヴァンペラ、セスクス、ヌーヴィルの3人が連なっている。
金曜日最後のステージのSS7エラティアでは、タナクが首位をキープも2番手タイムを奪ったフールモーが3秒差に迫っている。タイヤにダメージがあるオジエはここでは10秒も遅れ、トップから16.9秒遅れで金曜日を終えている。
オジエは前のステージでタイヤにデラミネーションが発生したことで、タイヤローテーションの戦略に誤算が生じたことを認めつつも、2番手というハンデにもかかわらず3位で金曜日を終えたことに満足していると述べている。「ギャップが本来あるべきよりもずっと小さいので、今日は満足しなくてはならない。今日はベストを尽くしたと思う。(明日は)失うものは何もない」
多くのライバルたちがパンクに見舞われるなか、タナクは小さなカットはあったものの、金曜日には満足していると述べたが、オジエの「失うものは何もない」との発言を伝えられるや怪訝な表情を浮かべた。「彼からこんな発言をするのは、本当に愚かだ。彼にはやるべき仕事が山ほどあり、チームのサポートもしなければならない。だから、そうするべきではない」
フールモーはトップのタナクとはわずか3秒差で金曜日を終えたが、SS2でタイヤ交換のためにマシンを止めた勝田が巻き上げるダストでタイムロスしたため、タイムが救済されることを願っているようだ。「チームと立てた戦略には本当に満足している。今日はとても良い一日だった。空のどこかで、誰かが僕を見守り、支えてくれている気がする。明日はまた厳しい一日になるだろう」
一番手スタートのエヴァンスは、トップからは1分21秒あまりも遅れたものの、4位という好ポジションで金曜日を終えることになった。「非常に厳しい一日だった。セブは2番手出走にも関わらず、信じられないようなタイムを出していた。僕たちには打つ手がなかった。明日はもっといい一日にしたい」
慎重な走りを続けるミュンスターがエヴァンスから21.8秒遅れの5位で続き、勝田がソルベルグを抜いて6位へとポジションアップするも、3.8秒後方の6位にはロヴァンペラ、さらに0.2秒後方の7位にはヌーヴィルが続いている。パンクによる失望に打ちひしがれながらも波乱の一日を耐えた勝田は、土曜日も粘り強い走りを維持するつもりでいる。「明日もまだいろいろなことが起こるかもしれないので、このまま続けるつもりだ。今のところ、それが自分にできる唯一のことだ」
また、前ステージで燃料の臭いがすると訴えていたセスクスは、SS7のスタート前にリタイアを決めている。彼は「燃料供給システムの問題であり、明日の土曜日はリスタートできるだろう」と語っている。