2025年世界ラリー選手権(WRC)最終戦のラリー・サウジアラビアは木曜日を終えて、アドリアン・フールモー(ヒョンデi20 N Rally1)がリード、これをサミ・パヤリ(トヨタGRヤリスRally1)が6秒差で追いかけ、さらにマルティンシュ・セスクス(フォード・プーマRally1)が0.9秒差で続くという、これまでWRCでの勝利経験のないドライバーがトップ3を占める異例の展開となっている。
木曜日はアル・ファサイヤ(19.36km)、ムーンステージ(20.12km)、フリース(11.33km)の3ステージのあとジェッダ・コーニッシュ・サーキットでのミッドデイサービスをはさみ、午後も同じ3ステージをループ、最終サービスのあとジャミール・モータースポーツ・スーパースペシャルの2回目の走行が行われる。6SS/106.84kmの一日となる。
水曜日の夜に行われたスーパースペシャルでオイット・タナク(ヒョンデi20 N Rally1)がトップに立ったが、木曜日の朝、ラリーが本格的なグラベルに突入すると、ラリーリーダーボードの上位にはフレッシュな顔ぶれが並ぶことになった。
この日のオープニングステージのSS2アル・ファサイヤは、長いストレートをもつ高速な砂漠の道を舞台としており、路面は柔らかい砂に覆われた高速ステージだ。ここでベストタイムを奪ったのはセスクスだ。ラリー・フィンランド以来4ヶ月ぶりにプーマRally1のコクピットに戻ったにもかかわらず、キャリア3度目のステージウィンを奪って一気にトップに躍り出す。
「ワオ!本当に信じられないよ!どうやら僕たちはラトビア以外でも速く走れるみたいだ」とセスクスは目をむいて笑みをみせた。それでも初めてWRCで首位に立ったにもかかわらず、プレッシャーも驚きもそれほど感じてないようだ。「次の2つのステージはまったく違うタイプのステージになるから様子をみよう」
セスクスの後方1.2秒差の2位にはセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリスRally1)が続き、チャンピオンシップ争いのライバルたちに先制パンチをお見舞いする。「簡単なステージではなく、かなりテクニカルな場所もあった。できるだけクリーンに走ることを心掛けて、無理はしなかった」
オジエから0.1秒差の3位には2番手タイムを奪ったパヤリ、さらに1.7秒差の4位でフールモーが続いている。チームメイトのティエリー・ヌーヴィル(ヒョンデi20 N Rally1)は、ジャンプの着地での強烈な衝撃でフロントガラスを破損してしまい、視界を阻まれている。
カッレ・ロヴァンペラ(トヨタGRヤリスRally1)は6.8秒遅れの7位、8位には勝田貴元(トヨタGRヤリスRally1)が続き、一番手からスタートしたエルフィン・エヴァンス(トヨタGRヤリスRally1)はグリップに苦しみ、14.4秒遅れの9番手タイム、セスクスから14.9秒遅れの9位という苦しいスタートとなった。
サウジアラビアではパンクの危険がどこにでも潜んでいることがすぐに明らかになった。まるで砂漠の路面のようなこのステージではパンクのリスクはゼロであるかにも見えたが、砂を掘り起こせば石が路面にかきだされることになる。ジョシュ・マクアリーン(フォード・プーマRally1)はインターコムのトラブルに見舞われただけでなく、路面にかき出されたヘルメットのような石を避けられずにヒット、スローパンクしたタイヤをジャンクションの轍でリム落ちさせてしまい、タイヤ交換のためにストップすることになり、2分以上もロスを喫してしまった。
SS3ムーンステージは、その名が示すように見渡すかぎり岩だらけのまるで月面のなかを走るような景観をもつ。路面にかきだされた石にひやりとするドライバーも多かったが、前のステージとは異なり、走行によってラインはクリーンになるため、明らかに後方からのスタートが有利となった。
ここでも速さをみせたのはセスクスだ。彼は前ステージに続いて連続ベストタイムを奪ってリードを7.3秒に拡大することになった。「非常に難しかった。遠くの地平線は見えるけど、道は見えず、木のような目印もまったくない。クリーンに走ろうとしたが、プッシュしている時のほうがフィーリングがいいんだ」
4.3秒差の2番手タイムを刻んだフールモーが2位へと浮上してきた。パヤリはフールモーに抜かれたものの、オジエを抜いて3位をキープしている。トップからは8.5秒遅れだ。勝田はヘルメットのベンチレーションのためのホースを未装着のままステージに臨んでしまい、暑さが敵となったが、タナクに続いて5位につけている。ヌーヴィルが終盤で右リヤをパンクするも致命的なタイムロスを避けて6位につけている。
選手権を争うフロントランナーたちはそろって路面掃除のためにペースダウン、エヴァンスは24.6秒をロス、早くもトップからは39.5秒遅れだ。2位につけていたオジエも23.4秒を失って7位へ、ロヴァンペラも18.4秒を失って8位へと後退した。
SS4フリースはアップダウンの多い丘陵地帯のステージであり、前のステージと同様にルースグラベルとルースストーンも多い。ここでドラマに見舞われたのは首位を快走していたセスクスだ。彼はクレストの先のジャンクションでオーバーシュート。このジャンクションではエヴァンスも同じようにミスをしており、セスクスも同様にリバースギヤを使ってコースに戻らなければならなかったため10秒近くをロス、それでもフールモーに1.3秒差をつけてトップを守っている。「エルフィンがミスしたのを知っていたが、コーナーが見えなかった。これは自分のミスだ」
トップに迫ったフールモーは難しい朝のループには満足しているとふり返った。「非常に厳しいステージだ。時には大きい石を超えるためにブレーキをかける必要があった。正直なところ、このループにはかなり満足している」
それでもこのステージでもっとも素晴らしいパフォーマンスをみせたのはフールモーではなく、3位につけるパヤリだ。彼はフールモーに0.8秒差をつけるベストタイムを奪い、0.7秒差に近づいてきた。
タナクはパヤリから13.1秒遅れ、チームメイトのヌーヴィルは3秒差で続いているが、SS3の終盤に右リアタイヤがパンクしていなければ、タナクよりも上のポジションにつけていただろう。「どこでパンクしたのかまったく分からない。スローパンクだったので、交換せずに走り続けることにした。幸運にもタイムを大きく失わずに済んだ。難しい午前中だったが、全体的には満足しているよ」
勝田は朝のループを1.7秒差の6位で終えることになったが、安全のためにペースを落とさざるをえなかったとふり返った。「石だらけだ。パンクを避けるためにスピードを犠牲にしなければならなかった」
朝のループを終えて、トップ3がいずれも優勝未経験のドライバーが占めるという想像もできなかった展開となっているが、フロントランナーたちにもこれほどルースグラベルにペースを阻まれるとは想像もしてなかっただろう。
タイトルを争う3人のなかではオジエが最上位の7位で朝のループを終えている。彼はこの日のオープニングステージを終えて2位につけていたが、SS3の路面クリーニングの作業によって20秒以上もタイムをロス、ここでもグリップのない路面に手こずることになった。それでも彼は、ジャンクションでミスをしたエヴァンスとの差を14.9秒から22.7秒へと広げてみせてライバルにプレッシャーをかける。「本当にひどくて、まったくグリップがない。道掃除の影響が大きいので、後続スタートの選手たちにさらに多くのタイムを奪われそうだ。でも、なんとか大きな問題なく走り切れて良かった」とオジエはふり返っている。
ぎりぎりタイトル争いに踏みとどまっているロヴァンペラはスタート直後に左リヤのエア漏れを示すアラートが表示される。彼はタイヤ交換をしないでステージを走りきることを選び、50秒近くを失い、サイドウォールに鋭い石で開いた小さな裂け目はあるものの、幸いにもバーストすることなくどうにか走りきっている。それでも彼はここでオジエとの差は0.6秒から35.5秒へ広がり、エヴァンスにも抜かれてしまった。
ロヴァンペラは過酷なコンディションはわかっていたが、どうしてこうなったのか困惑していた。「不運だった。ステージ序盤は特に荒れたところはなかっただけに、原因がわからないままのパンクは少し残念だよ」とロヴァンペラは語った。
この遅れによってタイトル獲得の望みはまた薄れてしまった。ロヴァンペラにとって理想的なスタートにはならなかったが、彼は午後のループではさらに路面が荒れるためいちだんと注意が必要だと予告した。「午後は本当に荒れるだろう。とにかく走り続けて、午後の結果を待とう。もちろん、明日はもう少し良いスタート地点がなければ、上位争いに残れないだろう」
ミッドデイサービスでのタイヤ戦略は大きく分かれることになった。最初のステージは砂丘のような路面を走るために、トラクションをかせぐためにはソフトが必要だが、それに続く2つのロングステージは表面のグラベルがかき出されてタイヤの摩耗を進めるハードな路面やかきだされた石が多くなっていることも予想されるためハードもほしいところだ。
午後のループではさらに大きなチャレンジが予想され、優勝争いやタイトル争いの大きな転換点となる可能性もある。ミッドデイサービスを終えてクルーたちが午後のループに向かう頃には気温は33度まで上昇する。ほとんどのドライバーが朝には選ばなかったハードタイヤを4本ミックスさせたが、オジエはハードとソフトを3本ずつ、タナクはソフト4本のチョイスであり、フールモーは6本ともソフトの選択だ。
SS5アル・ファサイヤでもセスクスが好調をキープ、リヤバンパーを失いながらもこの日3つ目のベストタイムでリードを3.9秒へと拡大、2番手タイムで続いたパヤリがフールモーを0.5秒差で抜いて2位へと浮上してきた。「ここまでは接戦だね」とパヤリはうれしそうに笑みをみせた。「このステージはまだかなり良いコンディションだと分かっていたが、次の2つは間違いなくかなりひどいものになるだろう。トラブルに巻き込まれないことが重要になる」
オールソフトにもかかわらず、砂が覆う路面をもつこのステージでタイムを落としたフールモーは、午後の勝負はこのステージではないと語った。「午後はタイヤにも非常に厳しく、非常に摩耗しやすいことはわかっていた。だから、タイヤにとっても非常に厳しい試練になるだろう。このあとのステージでは朝より岩が転がっているのは間違いない。大きな岩が突然現れたらデラミネーション(トレンド剥離)のリスクも高まるだろう。この選択が良かったかどうかは、すべてが終わればわかるだろう」
ハードは石などの衝撃でデラミネーションが起きやすいことは知られているものの、ソフトはタイヤ温度が上がりやすく、ハードより摩耗性能で劣っている。このチョイスの違いがどのような差になって現れるのだろうか。
トップ争いを揺るがしたタイヤのドラマはSS6ムーンステージで起きた。トップのセスクスがベストタイムのペースを刻んでいたものの、右リヤタイヤをパンク、16.8秒を失って3位へと後退することになった。「何が起きたか分からない!何もぶつけてないよ。動画で見てもらった通り、ここにはたくさん石がある。パンクはゆっくり進行している感じだった」
これでパヤリが首位に浮上することになった。セスクスに続き、彼もまた初のラリーリーダーだ。「このステージは本当にクリーンだった。落ち着いてラインをキープするように努めたんだ。とてもゆっくり走っているように感じたが、こういうステージでは実際にどうなっているのか分からないものだ」とパヤリは振り返った。
1戦で初めてラリーをリードしたドライバーが2人誕生したのは、2015年のラリー・イタリア・サルディニア以来となる。このときは、スーパーSSのSS1でリードしたマルティン・プロコップ、そして終盤までトップを走ってオジエに敗れたヘイデン・パッドンの二人だった。
5.3秒差の2位にフールモー、7.6秒差でセスクスが続くというオーダーに変わっている。しかも、セスクスはロードセクションでタイヤをチェックしたところフロント2本にもデラミネーションが見つかっており、1本はダメージのタイヤのまま次のステージへと向かったのと対照的に、フールモーはまるでトム・クルーズのようなサングラスでここまではポジティブだと笑みをみせている。「なんだか『ミッション・インポッシブル』のマーヴェリックといった感じだ。まあ、ポジティブな感じかな。タイヤをできるだけ温存しようと本当に頑張ったし、ステージの出来にはとても満足している。ループ全体でどうなるか見ていこう」
一方、選手権争いはオジエがトラブルのない走りでリードをじわじわと広げている。オジエはここでは路面クリーニングのためにペースが上がらなかったとはいえ、エヴァンスは右フロントタイヤにデラミネーションを起こしており、二人の差は35.5秒へと拡大してしまう。エヴァンスの後方5.6秒差にはロヴァンペラが迫ってきた。
ドラマは続く。この日最後のロングステージとなったSS7フリースで、たったいまトップに立ったばかりのパヤリがステージ終盤に失速、首位をフールモーに譲ることになった。ステージエンドにたどりついたパヤリのマシンは左フロントと右リヤ・タイヤにデラミネーションを起こしている。しかし、パヤリ自身はまだそのことに気づいていなかった。「何か問題が発生しているような感じだ。原因を調べに行く必要がある。しかし、まだ2日間もある」
パヤリに5.3秒差をつけて首位に立ったフールモーは、午後のループでのフルソフトタイヤの戦略を成功させたかに見えたが、彼はこのチョイスはけっして正解ではなく、終盤でスローパンクしたと明かしている。「正直言って、タイヤの選択は全然良くなかった。終盤で少し攻めてみたらゴールまであと2kmのところでパンクしてしまった」。明日のスタート順位はスーパーSSの前での順位のリバースとなる。彼は予定より良いポジションでスタートできることを喜んだ。「でもなんとか状況を乗り切ることができたし、今日はかなり満足しているよ」
このステージには1本ダメージの残るタイヤで臨んだセスクスは、リーダーのフールモーからわずか1.3秒遅れのタイムにとどめ、なんとか8.9秒差の3位で続いている。「パンクは残念だけど、大したことはない。ベストを尽くすよ。ここまではまあまあだね」とさっぱりとしたような笑みをみせた。
このステージでベストタイムを奪ったのは4位につけるタナクだ。SS5を終えた時点でチームメイトのヌーヴィルとはわずか0.3秒だったが、二人はSS6では同タイム、ここでもタナクがわずかに0.5秒上回り、チームメイトに0.8秒差をつけて明日の有利なスタートポジションを確保している。それでもヌーヴィルは朝のムーンステージでのパンクから立ち直り、ペースを掴み始めていることに満足しているようだった。「ゴールまであと4kmのところで大きな音がしたけど、警告は出なかった。路面は少し荒れすぎていて、パンクのリスクも高すぎるが、無事に走り切ることができた。完璧な一日ではなかったけど、良い一日だった」
5位につける勝田はSS6で右リヤにエア漏れを示すアラートが表示されたにもかかわらず2番手タイム、ヌーヴィルに0.7秒差に迫ったが、終盤にペースを上げたヌーヴィルから8秒遅れで木曜日を終えている。
チャンピオン候補3人はそろって午後のループでも路面クリーニングに苦しみながらも、ラリーとは別の息詰まる戦いを繰り広げているようだった。
ロヴァンペラはSS7ではトップタイムのペースを刻んでいたものの、残り数kmで右リヤタイヤのエア漏れに見舞われてしまう。それでも彼は幸いなことに大きなタイムロスはなく、エヴァンスを抜いて8位へと浮上してきた。7位のオジエとロヴァンペラの差は36.3秒、オジエとエヴァンスの差は40秒へと大きく広がっている。オジエは「一日中、路面のクリーニングがひどかった」と不満をみせながらも、ここまでパンクもなく完璧なマネージメントができていることを喜んだ。「でも僕らにとっては素晴らしい日になったよ」
オジエはここまでの順位での暫定ポイントですでにエヴァンスに1ポイント差をつけて選手権をリードしており、このままなら彼が逆転で9度目のワールドチャンピオンに届く計算だ。
オジエは、この日の最終ステージとなるジャミール・モータースポーツ・スーパースペシャルでこの日初のベストタイムを奪って一日を締めくくっている。さらにこのステージではパンクで3位へと遅れたセスクスがオジエと同タイムのこの日4つ目となるベストタイムを奪い、首位のフールモーとの差を8.9秒から6.9秒へと縮めてみせている。
明日の金曜日は、多くのタイヤが起きた今日よりも長くタフな一日になると予想されている。オープニングステージのアルガラーは現地時間8時26分、日本時間14時26分のスタートが予定されている。